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狙いは“翼賛放送”?
 ―危険な「公平原則」撤廃

寄稿:飯室 勝彦

2018年4月12日

 改憲では飽き足りないのか、安倍政権は国民の「知る権利」に重大な影響をもたらす放送制度の抜本的変更を目指している。権力にとって都合のよい翼賛放送を増やそうとしているかのようだ。日本の民主主義はまた新たな危機に直面している。

◎首相の強い意向で
 安倍内閣は今年(2018年)4月3日、テレビ、ラジオの番組に政治的公平性を求めた放送法第4条に関し「削除について政府として具体的な検討を行ってはいない」との答弁書を閣議決定した。立憲民主党の初鹿明博衆院議員の質問主意書に対する答えである。
 なんとも白々しい。「具体的な検討」はしていないというが、政府の規制改革推進会議では放送制度の全面改革の議論を急ピッチで進めている。
 経済を活性化させる規制改革の一環との名目で、議論は公平性原則の撤廃、メディアの集中排除原則の撤廃、放送を第3者の目で検討する番組審議会設置の義務撤廃など多岐にわたる。なかでも公平性原則、集中排除原則については放送業界の内外で強い異論が出ている。
 日本民間放送連盟、野党、主要新聞だけでなく、与党の公明党、放送を所管する肝心の野田聖子総務相までもが疑義を表明しているが、重要なのは規制改革推進会議の議論が安倍晋三首相の強い意向にそって進められているとされることである。

◎自律規定として定着
 放送法第4条は放送に「公安、善良な風俗の維持」「政治的公平性の確保」「事実の正確性」「多角的論点からの報道」などを求めている。表現の自由の観点から疑問とする意見もあり、アメリカではすでに廃止されているが、日本では放送事業者の自律的倫理規定として定着してきた。
 この規定に基づきNH Kと民放連の協力で第3者による放送倫理・番組向上機構(BPO)もつくられ機能している。放送法第4条がある限り、少なくとも放送法で規制される放送事業者は極端に偏った放送はしにくい。

◎権力側も利用
 半面、この規定は権力側にも利用されてきた。政府・自民党は同じ条文を示して放送内容に介入、威迫、牽制などを繰り返している。古くは安倍首相が、首相の座につく前である2001年、従軍慰安婦問題の番組に関し放送前からNHKに介入した番組改変問題がある。他にも選挙報道の公平性確保をわざわざ文書で申し入れたり、公平性を欠く放送をしたと特定の局の取材を拒否したりするなど放送法第4条悪用の例は枚挙に暇がない。
 他方で、首相はメディアを選別し、政権にとって苦い内容にならない番組や公平性を求められないネットテレビなどには積極的に出演し、政権PRに努めている。

 その効果か、自己規制、自粛を疑わせる放送が目立つ。もともと政権寄りスタンスが目立つとされてきたNHKでは、「まるで安倍政権のスポークスマン」と批判されるような記者が番組に登場し、多くの民放のニュースは政府を追及するテーマになると、掘り下げ不足の通り一遍で視聴者の「知る権利」に十分応えていない。ワイドショー、バラエティ番組などでは政治的色彩を帯びる事項の取り扱いを極力避けているように見える。
 それでも放送法第4条がある限り権力に媚びるような露骨な翼賛放送をするのは難しい。

◎権力に好都合な放送への期待
 視聴者、国民の側から見れば守られているとは必ずしも言えない公平性原則だが、権力の不当な介入をぎりぎりのところで防ぐ盾にはなり得る。
 だからこそ安倍政権は撤廃しようとしているのだろう。自主規制、自粛では満足せず、客観的には偏向とみられても政権側に都合のよい番組や局を増やしたいからだろう。

 深く考えさせられる実例がある。沖縄の米軍ヘリコプター離着陸帯建設に反対する運動を扱ったMXテレビの番組「ニュース女子」だ。裏付け取材せず、攻撃する相手方の反論を聞くこともしないまま運動と参加者を侮辱、中傷した。BPOの放送倫理検証委員会が「重大な放送倫理違反」を、同じく放送人権委員会が「名誉毀損の人権侵害」を指摘した結果、MXテレビは謝罪し今後の放送中止を決めたものの、放送法が適用されない番組制作会社は非を認めていない。この会社が制作した番組の放送をこれからも続けるとしている地方局もある。
 放送法第4条の原則が撤廃されれば、放送内容についての制約は原則としてなくなり、公権力に媚びるようなこうした放送が横行しかねない。

◎二極化した活字メディア

 法規制のない活字メディアはすでに二極化している。在京の新聞は政権応援団のような読売、産経と、政権との距離を保つ朝日、毎日、東京の立ち位置が対照的で、日本経済も政権と親和的だ。
 安倍首相はとりわけ読売と蜜月関係にある。2017年の憲法記念日に自らの改憲構想を披露したのは読売紙上だったし、今年(18年)の3月30日には読売新聞グループ本社主筆の渡辺恒雄氏と一緒にプロ野球巨人×阪神の開幕試合を観戦したほどの仲だ。その3日後には読売、産経のほか共同通信、日経、毎日、NHKなどメディア各社の幹部と会食している。報道された参加者の中に首相が敵視する朝日新聞の幹部の名前はない。
 こうしたメディア関係者との懇談、会食はしばしば行われており、味方づくりの戦略の一環とみられる。加えるに公平性原則の撤廃は、法律に縛られず自由に翼賛放送ができる環境を整え、“政権応援団”をつくろうとするものに違いない。
 規制改革推進会議の検討課題には放送局への外資規制撤廃など放送局経営の根幹を揺るがしかねない事項もあり、あれこれ指摘して放送局を揺さぶる牽制、脅しの意味合いもありそうだ。

◎集中排除で多様な表現確保
 特定の事業者が多数のメディアを支配することを禁じた「集中排除原則」は、偏った特定の情報ばかりが流れるのを防いで多様な言論を確保するとともに、メデイアが資本の論理に支配されないようにするために設けられている。
 集中の弊害は去る3月、米国で大きな話題になった。全米各地に200局近くを保有する巨大メディア企業「シンクレア」系のテレビ局が、トランプ大統領に批判的な全国主要メディアの報道を「フェイク(偽)ニュース」と一斉に攻撃した。トランプ政権に近いことで知られるシンクレアが「ニュースの枠で」「原稿を一字一句正確に読み上げる」よう指示した放送だった。
 特定の情報を一斉に流し、事情を知らない視聴者の頭にすり込む。ナチスのプロパガンダ宣伝を想起させるではないか。

◎メディアの使命は権力監視
 改憲に向かって暴走する安倍首相は、憲法第9条を骨抜きにして戦争をしやすい国にし、緊急事態条項の創設で内閣への権力集中を狙っている。そして放送制度の大変革で権力の意に従順な放送をさせようとしている。

 権力を監視し批判するのが報道メディアの重要な役割である。メディアは権力を監視する犬であるべきだ。
 暴走したり腐敗したりしがちな権力を国民目線で、批判的な姿勢でチェックし、国民に考え、議論し、判断する材料を提供するのである。とりわけ安倍政権は厳しく監視、チェックしなければならない。
 その際、常に留意すべきなのはどっちつかずの単純、機械的な客観、公平は権力迎合になりかねないということである。

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