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不起訴で幕引きは許されない

寄稿:飯室 勝彦

2018年6月4日

 内閣総理大臣とその取り巻きがお友達のためにルールを曲げた国政の私物化、行政文書の意図的な隠蔽、改竄、国会における虚偽答弁とはぐらかし、調査と称する問題引き延ばしと時機を失した公表――嘘とごまかしの連続でこの国の民主主義は音を立てて崩れている。官僚の懲戒処分で幕引きするのは許されない。

◎我が意を得た?不起訴
 麻生太郎・副総理兼財務相の口を借りれば「憲法違反罪というのはないからな」となるのだろうか。あるいは「反民主主義罪はないから当然」か。
いずれにしろ「セクハラ罪はないから」と部下のセクハラ元次官をかばった麻生氏にとって、森友事件などに関する検察の処分はわが意を得たりだったに違いない。

 大阪地検特捜部は、森友学園に対する国有地の安値売却、書類改竄などをめぐり虚偽有印公文書作成や背任などで告発されていた、元財務省理財局長で前国税庁長官の佐川宜寿氏ら当時の財務省幹部、職員ら38人全員を不起訴処分にした。
 検察は詳しい不起訴理由を明らかにしていないが「書類から削られ改竄された箇所は経過説明などの付随的記述に過ぎず、契約金額や日付など根幹部分は変わっていないので嘘の文書をつくったとは認められない」「値引き理由としたごみ撤去費の算定が不適切で裁量を逸脱していたとまではいえない」「交渉した職員には国に被害を与える意図があったとはいえない」などと判断した模様だ。
 検察は「必要かつ十分な捜査をとげて真相を解明したうえでの法律的判断」というが納得する人は少ないだろう。300カ所も改竄されても「根幹部分は変わっていない」とは誰が信用するだろうか。
 極端に大幅な値引きが安倍晋三首相および昭恵夫人と森友学園との特別な関係を背景に実現したことは、次々出てきた証言、書類で否定しようもない。記録の改竄は昭恵氏関与の痕跡を消すためだったことも明らかだ。
 財務省は売却交渉も書類改竄も組織として対応し、国民の財産である国有地を不当な安値で処分したのだ。

 買い手の言い値に合わせて売り値を決めることが、検察の言うように合理的裁量と言えるのか。大量の行政文書を改竄して政治、行政の私物化の痕跡を消したことは違法とされないのか。主権者としての常識的な正義感に照らせば答えはおのずから明らかだ。
 後に釈明、謝罪したものの、麻生財務相は改竄を「どこの組織だってあり得る。個人的な問題だ」「悪質ではない」と言い放った。不起訴処分は、問題と真摯に向き合おうとしない財務相のこのような姿勢を後押しすることになりかねない。

◎憲法原理の根幹を否定
 財務省は改竄した書類を国会に提出し、国民の代表を欺いていた。「悪質ではない」とはとんでもない放言である。
 三権分立の民主主義国家では、行政府を厳しくチェックするのは立法府の権利であり使命である。行政府はそれに誠実に対応しなければならない。
 安倍首相、麻生財務相および関係官僚たちは、森友問題、加計学園の獣医学部新設疑惑でその責任を果たしているとはとても言えない。首相秘書官だった人物も自己の供述を覆す証拠を示されると曖昧な供述に転じて真相を隠そうとした。
 数々の証拠書類、証言は、憲法で「全体の奉仕者」であることを求められている内閣総理大臣が特定の私益に奉仕した疑いを物語っている。
 その一環である書類改竄は「悪質なものではない」どころか、憲法原理の根幹を否定する極めて悪質な行為である。その法的評価が不起訴処分により検察段階で完結してしまうのはいかがなものか。

◎嘘とごまかしの政治
 日本の司法は検察司法と言われることがある。大部分の事案が不起訴あるいは起訴猶予、略式起訴となって検察段階で終了し、捜査で判明した事実が裁判を通じて表に出ることはないからだ。そこに不透明な配慮、判断が混じる余地がある。
 それだけに今度の不起訴をめぐって、強大な権力を握る首相側に対する検察の忖度を疑う人がいても不思議ではない。
 権力者が嘘とごまかしを重ね、責任を取ろうとしないなかで起こった異常な事件であるだけに、捜査で分かった事実を裁判で明らかにし、最終判断を国民に委ねるのがあるべき処理の仕方だろう。
 しかし捜査を指揮した特捜部長は、不起訴処分を発表した記者会見で記者の質問に回答拒否を連発した。誰のため、何のための検察だろうか。検察判断の片隅にでも政治的結果についての配慮があったとすれば、検察への信頼はもちろん存在価値も失われよう。
 財務省は、不起訴処分とは別に、改竄に関与した官僚たちに対し停職などの処分をして一件落着とする構えだ。麻生氏は政治責任をとらず財務相として居座ったままである。安倍首相をはじめ政府与党側も不起訴処分を機に幕引きを狙っている。

 だが真相はいまだに解明されていない。問題の核心である安倍首相は責任を認めようとせず、発言を微妙に修正し始めた。「私や妻が関係していたとなれば、首相も国会議員も辞める」と言っていたのに「贈収賄は全くないという文脈で言った」と引責の範囲を狭め、
「(国会質疑などで)私や妻の問題に持っていこうとするから本質からそれていく」と政治の私物化はカケ・モリ事件の本質ではないと言わんばかりの答弁も出てきた。
 あくまでも責任逃れを続けるつもりだ。幕引きは許されない。

◎若者の勇気と誠実さに学べ

 アメリカンフットボールの重大反則問題では、加害当事者の選手が公開の場で正直に真実を語り謝罪した。それは大学と大学運動部のあり方に対する大きな問題提起となった。安倍首相も麻生財務相も彼に恥ずかしくないのだろうか。
 安倍内閣のもと憲法秩序の瓦解が急速に進んでいる。若者の勇気と誠実さに学び、反則政治からの脱却、憲法のルールを守る政治への転換を早急に実現しなければならない。

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