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「媚び」や「へつらい」が横行する陰で

寄稿:飯室 勝彦

2018年7月24日

 権力を握る者がより強い権力を握る者に媚び、へつらい、国民の正義感や少数意見の尊重といった民主主義の基本は無視される。安倍晋三首相の治世がもたらした日本社会の実相である。その陰で着々と軍事大国への道を歩み、憲法は形骸化しつつある。

◎政治権力に屈服
 1992年、自民党副総裁で政界の最高実力者と言われた故金丸信氏に対し東京佐川急便から5億円のヤミ献金が行われていたことが発覚した。東京地検は政治資金規正法違反で立件したものの、出頭し、取り調べを受けることを拒否した金丸氏の身勝手を許容し、罰金20万円の略式命令ですませてしまった。
 この特別扱いが「政治権力に屈服した」と厳しく批判されたことは関係者の記憶に深く刻まれているはずだ。
 屈服=相手の勢いに恐れ抵抗する気をなくすこと(新明解国語辞典)。
 検察は金丸氏にまさに屈服したのだ。

◎疑われる二重基準
 森友学園に対する国有地の安値売却、売却交渉に関する書類の改竄などをすべて不起訴にした大阪地検の処分はどのように評すべきだろう。
 問題の背後に最高権力者である安倍首相の存在があることは間違いないが、まさか首相が検察に直接圧力をかけたとは考えにくい。元財務省理財局長で前国税庁長官の佐川宜寿氏ら当時の財務省幹部、職員ら38人全員の不起訴が、検察の主体的な意思決定であることは間違いあるまい。
 「屈服」というよりは「媚び」や「へつらい」という用語がふさわしい。
 媚びる=低姿勢な態度をとったりして相手に気に入られようとする様子(同)。
 へつらう=相手に気に入られようとして自尊心を抑えた言動をあえてする(同)。
 検察は文部省汚職や国際贈賄の仲介など政治的権力と無関係な事件の捜査には積極的だ。文書改竄とは対照的な姿勢に、ダブルスタンダードと感じる人もいるのではないか。

◎責任を取らない政治家
 森友学園への国有地売却問題では「忖度」の用語がしばしば使われた。新明解によると忖度は「自分なりに考えて他人の気持ちをおしはかること」である。官僚が首相、首相夫人の気持ちを忖度して大安売りの理由をあれこれ案出したとされたが、現実は忖度にとどまらず実行したのだから、これも「媚び」あるいは「へつらった」のである。
 安倍政権下では官僚が、屈服や忖度の域を越え、あえて権力者の意にそう意思決定や行動をすることが目立つ。加計学園の獣医学部認可をめぐっても関係者がそのように動いた。責任は下へ下へと押しつけられ、上に立つ政治家はだれも責任を取らない。

◎豪雨をよそに宴会
 官僚だけではない。政治家たちに目を転じよう。
 論議を呼んだ「赤坂自民亭」が象徴的だ。記録的豪雨による水害が心配されている夜に、自民党の国会議員たちが集まって酒盛りをしたというのである。ツイッターに投稿されて拡散した当夜の写真には、安倍首相に気に入られようとするかのように首相を囲み談笑する面々が写っている。
 首相は国会で追及されて「いかなる事態にも対応できる万全な態勢をとっていた」と弁解したが、あの写真からは、出席者が「国民の幸せ・安全」という政治の要諦を心得て、被災者の不安に寄り添おうとしている雰囲気が伝わってこない。むしろ議席やポスト目当てで最高権力者にすり寄ろうとの思惑が見え隠れしている。

 報道によれば、この秋に予定されている総裁選を前に多くの自民党国会議員が安倍氏や“番頭役”の菅義偉官房長官と会食を重ねており、出席者が「安倍3選のために頑張ります」と口々に挨拶する場面もあったという。

◎「数こそ正義」の振る舞い
 安倍首相の強権的政治、それに対する官僚や議員の「媚び」「へつらい」の淵源が、安倍氏の人間性だけではなく、国会における自民党の議席数であることは間違いない。数の優位にあぐらをかき、まともな議論もしないで「数こそ正義」と振る舞っているのが安倍自民党の政治だ。
 参院の定数改定では、「党利党略」との批判に耳をかそうともせず、仲間を救済するための「特別枠」まで設けて定数を六つも増やす公選法改正を無理やり成立させた。ギャンブル依存症などさまざまな問題点が指摘されているカジノ法案も、根幹部分を決めないまま強引に成立させた。

◎ゆがめられる政治・行政
 媚びとへつらいが横行し、首相官邸の主導で政治、行政がゆがめられている。何のための国会なのか、政治とはどうあるべきか、憲法に照らして考えようともしない議員は政治家と呼ぶに値しない。
 公明党も強引な安倍政治に引きずられ、期待された「与党内でのチェック、牽制役」を果たせず、与党でいることが自己目的と化したかのように見える。

◎膨張続く防衛費
 「戦後レジームからの脱却」を掲げ改憲を目指す安倍政治だが、戦後レジームは改憲なしですでに崩れつつある。分かりやすい例が安倍内閣の進める軍備拡張路線だ。
 防衛関係費(米軍再編の関連経費を除く)は第二次安倍政権発足後の2013年度から連続して増え続け、18年度の当初予算は4兆9388億円だった。来年度予算の概算要求は5兆円超になる見通しで、当初予算は過去最大を更新し、5兆円を超えることが確実視されている。
 陸上配備型の迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」、F35ステルス戦闘機の導入など高価な買い物が続く。トランプ米大統領の兵器売り込みも激しい。閣議決定した「骨太の方針2018」には「防衛力を大幅に強化する」と明記されている。安倍政権が続く限り防衛関係費は膨らみ続けるのが必至だ。
 生活保護など福祉を引き締める一方で、中国、北朝鮮の“脅威”をテコに自衛隊を強化し続ける安倍政治は、平和主義・非軍事を柱とする日本国憲法を骨抜きにしている。

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