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将軍トランプと大名安倍

寄稿:飯室 勝彦

2019年5月16日

 国賓扱い、令和天皇との会見第一号などと、最高の権力者に最高のもてなし。トランプ米大統領に対する安倍晋三首相ら日本政府側の処遇には“媚び”や“へつらい”が感じられる。こうして繰り広げられる「日米蜜月劇」の陰で平和憲法の空洞化が進んでいる。

◎「親しい仲」を演出
 江戸時代、将軍を屋敷に迎えた大名は下へも置かぬもてなしで将軍の機嫌をとったという。山海の珍味をとりそろえて宴を張るのはもとより、さまざまな形で敬意を表し忠誠を誓った。おなりが事前に分かれば屋敷を豪華に改築したり新築したりもしたという。
 大名が将軍を最大限のもてなしで迎えるのは、自らの権力の源が将軍の権威であることを分かっているからだ。
 なにやら安倍首相とトランプ大統領の関係に似ていないだろうか。前回、2017年には「公式実務訪問賓客」としての来日だったが、今回は国賓としての訪問である。それも天皇代替わり後の第一号だ。そのためではあるが新天皇との会談、宮中晩餐会など「令和になって初」のオンパレードである。
 トランプ大統領来日の日程は天皇代替わりの日程を睨みながら意図的に仕組まれたのではないかとの疑念が浮かび、一部で「天皇の政治的利用では?」の声が上がったのもあながち的外れとはいえまい。

 安倍首相はトランプ氏をノーベル平和賞に推薦したり、何かにつけ電話会談をしたりして「ドナルド×シンゾーの仲」「日米一体」を演出する。しかし、その実態は将軍たるトランプ大統領に一大名たる安倍首相が媚び、へつらい、将軍を持ち上げているように見える。媚びることで政権の浮力を維持し、延命を図っているように見える。
 独自の外交戦略を展開する知力も実行力もなく、外相ともどもスタンプラリーのような外遊を重ねているが、具体的な成果は伝わってこない。北朝鮮による日本人拉致問題について「前提抜きで北と直接対話する」と見得を切ったものの頼みの綱はアメリカだ。腹心の菅義偉・内閣官房長官が訪米し、要人めぐりで協力を依頼するしかない始末だ。
 頼られたアメリカ側は協力、支援を口にしても実際はそれほど力を入れているようには見えない。通商問題、オバマ前大統領の業績否認、それになによりも自分の再選運動で忙しく、拉致支援どころではない。

◎共通項は「力の誇示」
 そんな二人の共通項は「力に対する信奉」と「その力の誇示」だ。
 トランプ大統領は強大な国力、軍事力を背景に世界各地でごり押しを演じ、イラン核合意からの離脱、エルサレムをイスラエルの首都と認定するなど国際社会を振り回している。通商問題でも関税引き上げの脅しで要求を強引に押し通そうとしている。
 安倍首相は抑止力思想に基づく「軍事力誇示」でトランプ大統領の伴走役を務めているような観がある。自衛のためでも戦争は禁じているはずの日本国憲法の政府解釈を「自衛戦争ならできる」と変え、安全保障法制を成立させて「力による積極的平和」を唱えている。
 トランプ大統領の言うがまま高額の米国製兵器を買いまくり、軍事大国への道をひた走る安倍政権下、防衛費は5年連続で過去最高を更新し、2019年度の当初予算では5兆2,574億円だ。「アメリカファースト」で自国の利益を最優先するトランプ氏の内心では、シンゾーはパートナーというより、自衛隊に米軍の肩代わりをさせてくれる便利な代役にすぎまい。
 こうして増強した軍事力を誇示する最高の演出が、訪日を機にトランプ大統領が海上自衛隊の護衛艦に乗艦、視察するというパフォーマンスだ。舞台として選ばれた、いずも型護衛艦「かが」は姉妹艦「いずも」とともに改修して空母化し、大統領が熱心に売り込んだステルス戦闘機F35Bを搭載できるようにする方針だ。
 日米双方の最高指揮官が護衛艦上に並んで立つことにより、日米同盟の緊密さ、蜜月関係をアピールする狙いがあるとされるが、見方によっては主客転倒、自衛隊の米軍への従属、一体化の象徴とも映る。中国や北朝鮮は「自分にはアメリカという強い味方がついているぞ」という、日本からの脅しと受け取ってますます警戒、反発を強めるだろう。
 
◎進む憲法の空洞化
 安倍政権が誕生するまでは、日米安保条約を正面から「軍事条約」と言い切ることをためらう雰囲気が自民党内にさえあった。いまでは「日米軍事条約」「日米は同盟関係」などとむしろ誇らしげに語られ、自衛隊の存在感は飛躍的に増し、日本国憲法の空洞化が進む。

 憲法第九条第一項 日本国民は正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
 同第二項 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権はこれを認めない。
 安倍政権と自民党はこれに自衛隊の存在を明記した第三項を付け加えて第一、二項を無効化しようと狙っているが、憲法前文にはこうある。
 「日本国民は……政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないやうにすることを決意し」「日本国民は、恒久の平和を念願し……平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。」「われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。」「日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。」

 これを読めば、戦争を放棄し、戦力及び交戦権を否認した第九条は、歴史に深く学んだ先人たちの叡智の結晶とわかる。
 安倍首相らの「自衛隊員に誇りをもってもらうために」などという情緒的な改憲論、武力強化に頼る安全保障論などには、人類が長年にわたって積み重ねてきた知的営為に対する敬意が決定的に欠けている。  

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