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問われる政権の体質

寄稿:飯室 勝彦

2019年7月4日

 責任は部下に押しつけ、議論を嫌い、民意は無視し続け、国民の意思を問う選挙を権力延命の道具に使って対抗勢力を揺さぶる。こんな安倍政治のストップへ向け「民主主義の担い手」である国民の自覚が試される。

◎議論を嫌い事実上の改憲
 安倍晋三首相は「憲法の議論すらしない政党を選ぶのか、議論を進めていく政党を選ぶのか」と、2019年7月の参院選の公約に改憲を掲げた。
 しかし安倍政権では、圧倒的多数の憲法学者が違憲という集団的自衛権の行使容認、自衛隊の海外展開も可能にする安保法制の制定、自衛艦の空母化、米国製兵器の爆買いによる軍拡など、事実上の改憲を進めている。そこから考えると、首相が狙うのは国民による既成事実の容認だろう。
 そもそも議論を嫌うのは政府自民党だ。憲法に基づく臨時国会の召集要求を放置し、論戦の主舞台となる予算委を昨秋以来ろくに開かない。森友学園、加計学園、統計不正など不祥事、疑惑が明るみに出ても真摯に対応せず、そっけない説明に終始した。年金だけでは老後が不安で生活維持には2,000万円の蓄えが必要とした、金融庁の審議会報告への批判が高まると「誤解、不安を招いた」と受け取らず、なかったことにしてしまった。
 ごまかし切れなくなると役人に責任を押しつけ自分たちは口をぬぐっているのがこの政権の特徴だ。

◎説明責任を果たさず

 民主主義の基盤は徹底した議論だ。公の立場にある側、特に公権力者には説明責任があり、質問、疑問に誠実に答えなければならない。国民から託された権力を正当に行使していると自負するのなら、納得してもらえるまで情報を提供し説明できるはずである。
 安倍政権はそんな民主主義の原則など念頭にない。国会答弁もすり替えが多く、質問に答えず大声で自説を一方的に主張したり、質問する側を揶揄したりする。国民の代表である野党議員に敬意をもって対するどころか「敵」としか考えていない。「少数意見の尊重」など頭の片隅にもない。

◎民意を無視して既成事実
 自らの政治が民意に反しても無視し、既成事実づくりを進めるのも安倍政権の顕著な体質だ。沖縄・辺野古で進められている新しい米軍飛行場の建設が典型例。県民投票で72%が反対を表明しても工事を止めない。県民投票だけではない。知事選、衆院沖縄3区補選と相次いで建設反対の候補が勝っても無視した。
 安倍首相は建設反対の玉城デニー知事に会っても話を聞き置くだけ。「沖縄慰霊の日」の6月23日、追悼式の挨拶では「沖縄の基地負担軽減に全力を尽くす」と通り一遍のセリフを述べただけで辺野古には一言も触れなかった。辺野古は負担軽減どころか新たな負担の押しつけだけに、参加者から厳しい声が上がったのは当然だろう。

◎「やってる感」演出は得意
 他方、派手な振る舞いで「やっている」という雰囲気を演出するのは得意だ。人気を得られそうなテーマでは「首相指示」を乱発してリーダーシップ発揮を装う。
 河野太郎外相との外遊スタンプラリーの感がある外交も、得意と自認するように見えるが成果はあまり伝わってこない。
 たとえば安倍首相が誇示するトランプ米大統領との”蜜月関係”は本当なのか。報道によると大統領は「アメリカは日本を守るのに日本はテレビで見るだけ」「日本を守るのだから駐留米軍の費用は全額負担すべきだ」「基地返還は土地の収奪だ」など誤った認識に基づいて言いたい放題である。
 嘉手納基地はベトナムやイラクへ向けた米軍爆撃機の出撃基地になった。いまでも沖縄は世界に展開する米軍の拠点として重要な役割を担わされ、日本は毎年2,000億円近い米軍駐留経費を負担している。沖縄の米軍基地は、米軍が住民を排除し銃剣とブルドーザーで築いた。土地を収奪したのはアメリカだ。
 報道が事実なら、そして安倍首相と大統領が率直に話せる関係なら、トランプ氏にこのような誤解、誤認は生じないだろう。首相はG20サミットで大統領の放言をいさめず、無知を正そうともしなかった。菅義偉官房長官は発言がなかったことにして沈静化を図ったが、政権維持のため大統領のご機嫌取りに励む安倍首相の政治姿勢が透けて見える。

◎試される国民の自覚

 容疑者の中国本土への引き渡しを可能にする逃亡犯条例改正案をめぐり、香港の大衆運動は政府側を一定程度押し返したが日本ではどうなっているか。
 私たち国民は、民意に沿って正しい政治が行われるよう監視し注文をつける権利を有し、責任を負っている。だが現実には目先の利害、甘言、パフォーマンスに惑わされがちだ。国政選挙では半数近くの有権者が投票さえしない。多くの国民が民主主義社会における役割の自覚を欠いていることが、安倍政治を許している側面は否定できない。
 いま民主主義について国民が試されていることを自覚したい。

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