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「福祉より軍備」の安倍政権

寄稿:飯室 勝彦

2019年9月12日

 政権の性格は予算編成に正直に表れる。安倍晋三政権のそれは「軍備増強には熱心だが社会保障には冷淡」となろう。2020年度の予算概算要求をみると、防衛関連経費は増え続けて事実上の聖域だが、社会保障関連の予算は圧縮方向の議論ばかり。「安全保障環境の厳しさ」の大宣伝のもと、憲法第9条の空洞化がますます進んでいる。

◎聖域となった防衛予算
 各省庁の2020年度予算概算要求が2019年8月30日にまとまり、一般会計の要求総額はざっと105兆円になった。そのうち防衛省の要求額は19年度当初予算より6・3%多い5兆3222億円で史上最高だ。要求の具体的金額が決まっていない米軍再編関係経費を加えれば、さらに数千億円規模で増える。
 日本の防衛費は安倍首相が政権に復帰して編成した13年度予算から増え続けている。厳しい財政事情にもかかわらず防衛費は事実上の聖域扱いで自衛隊の増強が続いている。
 ▽北朝鮮による弾道ミサイルに備えるためとして米国から導入する地上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の発射装置など▽中国の海洋進出に備え空母への発着艦ができる最新鋭ステルス戦闘機F35Bなど数百億円から数千億円の高額な買い物リストが並ぶ。護衛艦「いずも」に空母機能を持たせる改修費も31億円だ。
 F35シリーズは日米で事故がしばしば起き、欠陥の指摘もある。「イージス・アショア」も配備の候補地選定をめぐるデータの誤りなどで配備予定地とした秋田県の反発を招き、同意を得る見通しは立たない。そもそも日本の防衛に必要なのかという議論さえある。それでも既定方針を強行することに政府部内で異論は出ていない。

◎社会保障費は圧縮の文脈で
 概算要求の金額的には医療や介護などの社会保障費が最大で32兆6200余億円、一般会計の3分の1を占める。今後少子高齢化が一段と進み、状況は一層厳しくなる。
しかし防衛費と違ってこちらは充実より圧縮の文脈で語られることが多い。政府は社会の高齢化による社会保障費の自然増を言い募る。「長生きは悪」と言わんばかりである。マスメディアの論調も政権側の思惑とさして違いはない。借金で膨張する予算編成を批判する新聞の見出しも「社会保障費の抑制がカギ」と社会保障関連予算の圧縮を当然視している。防衛費の肥大化を批判する記事にも「だから少しでも削って社会保障費へ」などという視点は皆無だ。
 年末には診療報酬改定に向けた協議が始まる。予算編成と合わせて将来を見据えた抑制=利用者負担増額といった方向での議論に拍車がかかる見通しだ。
政府は高齢者の雇用延長、多様な就労など一見福祉政策にみえる諸施策を打ち出している。しかし、これらの施策は、見方によっては負担の高齢者自身に肩代わりさせる方向ともいえる。

◎米追随で9条空洞化
 聖域となった予算を使って自衛隊は変貌しつつある。
貿易赤字解消を目指すトランプ米大統領の“押し売り”のような要求に応え、高額な兵器を買いそろえている。池田勇人首相を「トランジスタのセールスマン」と揶揄したドゴール仏大統領流に言えばトランプ大統領は「武器商人」のようだが、安倍首相は皮肉るどころか追従笑いするばかり。おまけに米国からの購入の多くは相手の言うままの条件で購入する対外有償軍事援助(FMS)による調達だ。気前のいいことおびただしい。
 米国製兵器で固めた自衛隊は米軍と運用上の一体化が一層進んでゆく。改修により空母機能を備えた「いずも」を最初に使うのは自衛隊ではなく米軍になる見通しだという。これでは運用の一体化、追随どころか米軍への従属だ。

 レーダーに探知されずに敵基地を攻撃できるF35A,Bステルス戦闘機、戦闘機の活動範囲を広げる「いずも」改修の空母、イージス・アショアなどは、日本の安全保障の大原則である「専守防衛」を逸脱する懸念が指摘されている。新安保法制(戦争法)で活動範囲が広がり、他国を守るための軍事力行使もできるようになった自衛隊の増強は、国際社会を刺激し、アジア・太平洋地域で続く緊張を一層悪化させる。
 首相が平和・非軍備憲法の改定に執着し、竹島や北方領土の問題を「戦争で解決するしかない」と公言する国会議員のいる日本の現実は決して楽観できない。
 このような国が右よりの危険な国と、ヨーロッパやアジア各国からみられていることを念頭においた市民の動きが期待される。

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