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【NPJ通信・連載記事】憲法9条と日本の安全を考える/井上 正信

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INF条約失効後の日本を取り巻く核兵器の状況
―日本政府へ核兵器禁止条約批准を求め、北東アジア非核地帯を実現させよう②

2019年11月11日

6 西ドイツでは現職の裁判官たちも、米国の核ミサイルが配備されるNATO軍の基地を取り囲んで、核ミサイル撤去を求める運動に参加しています。その中で一人の法律家の名前を記憶しておいてほしいと思います。裁判官にも市民的自由を保障すべきと訴えてきた青年法律家協会という法律家団体も制作に協力した映画「日独裁判官物語」に登場するディータ・ダイゼロース氏です。今年(2019年)亡くなった彼は、この運動に参加し、その後結成された国際反核法律家協会の設立に貢献し、西ドイツ支部の支部長を務めました。

7 新聞報道が紹介する米国のメディア、研究者の見解などから、INF条約が失効したら、早晩米国は東アジアへ中距離ミサイルを配備するであろうと推測していました。ところが私の漠然とした推測をはるかに超える新聞報道に接したのです。この論考をまとめようと考えたきっかけがこの記事でした。

 2019年10月3日付琉球新報の1面トップと2、3面に、「沖縄に新中距離弾配備」「米新戦略で大転換」という見出しで掲載された記事です。琉球新報の独自取材に基づいて書かれた記事で、琉球新報のスクープでした。この記事の目新しい点は、一般的な予測ではないことです。

 2019年8月26日にワシントンで、INF条約失効後のアジアにおける米国の新戦略を協議する会議が開かれ、新型ミサイル(中距離ミサイルの意味)の配備地として、日本、オーストラリア、フィリピン、ベトナムが挙がり、韓国は非核化をめぐり米朝交渉が行われているので当面は除外された、今後2年以内に、沖縄をはじめ北海道を含む日本本土に大量配備する計画があるというものです。

 ロシア大統領府関係者からの取材をもとにした記事で、関係者との詳細な応答内容も掲載してありました。この関係者の話では、日本へ配備されればそれが沖縄であっても、北方領土交渉は無しになるとのこと。
 ロシア大統領府の関係者からの情報である点で、ロシアによる情報戦ではないかとの専門家の批判もあるようです。私も同じ疑問を持ってこの記事を書いた琉球新報記者に電話でお聞きしました。それによると、米国とロシアとの間では、双方の国益が絡んだ問題について、互いに水面下で情報のやり取りをしており、そのような関係から情報が伝わったのではないかとの説明でした。

 私はこの記事の内容の信ぴょう性は高いと考えています。その後の琉球新報10月12日の記事で、ワシントンDCを拠点とするシンクタンク「インスティテュート・フォー・ポリシー・スタディーズ(IPS)のプロジェクト「フォーリン・ポリシー・インフォーカス」の外交問題専門家であるジョン・フェッファー氏のインタビュー記事が掲載されました。

 彼は米国による中距離ミサイルを沖縄など日本へ配備する計画を把握しているとして、日本へ配備される可能性は「残念ながら非常に高い。」と述べています。その理由として、オーストラリアは配備拒否を表明し、韓国・フィリピンも拒否する可能性が高いこと、日本が拒否してもトランプは圧力を強めるとの見方を示しました。
 
 さらに彼は、日本に配備される中距離ミサイルは巡航ミサイルで、米国は核弾道ではないと説明するであろうが、核・非核両用タイプになる、日本に配備される場所は日本政府との交渉で決まると述べています。
 
 加えて、10月22日の朝日新聞に、「日米、新ミサイル配備協議 米のINF条約離脱を受けて」の見出し記事が掲載されました。米国が新たに配備を検討する中距離ミサイルについて日本政府と協議を始めたことが分かったというもの。エスパー国防長官はアジア太平洋地域に配備する意向を示しており、日本配備の可能性を含めて意見交換したと記事は述べています。米軍幹部を取材し、(10月)18日に米政府高官が来日して防衛省、外務省、国家安全保障局の幹部と会い、今後どうなるのかが議題に上がったとの情報も書かれていました。記事は「日本配備」に言及したかは定かではないとしていますが、日本配備の選択肢を含むものとみてよいでしょう。

8 中距離ミサイルの日本配備については、おそらく日米拡大抑止協議の場において具体化されるであろうと推測しています。「拡大抑止」とは、米国の核・通常戦力による抑止力を同盟国にまで拡大して、同盟国を防衛するというものです。「日米拡大抑止協議」は2010年から始まっています。

 オバマ政権下で取り組まれた核軍縮(特に海洋発射核巡航ミサイルを2013年までに退役させるとの決定)に対して、日本政府が強い懸念と反対を表明したことから、米国による拡大抑止の実効性を持たせるため、日本政府の要請を受けて始められたものです。毎年2回、東京と米国内で交互に開かれており、2014年度以降は外務省のHPで、開催場所と主たる出席者までは公表されていますが、何を協議しているかは秘密です。

 専門家の中には、中国のミサイルの射程内にある日本へ米国が中距離ミサイルを配備することは考えられないとの批判もあります。しかし、1980年代のヨーロッパでソ連と米国がそれぞれの中距離核ミサイルの射程内に中距離核ミサイルを配備したことを考えれば、この批判は当たっていないと考えます。

9 トランプ大統領がINF脱退通告を行った理由は、表向きはロシアによる条約違反を挙げています。ロシアの地上発射核巡航ミサイルの射程が500㌔をわずかに超えているというものです。ロシアは否定しています。しかしこれは口実と思われます。

 トランプの本当の動機は、INF条約の当事者ではない中国が、着々と中距離弾道・巡航ミサイル戦力を強化しており、この分野の戦力で米国は圧倒的に中国に劣っている,不公平だというものです。そうすると、米国が開発配備する主要な地域はアジア太平洋地域になるはずです。
 
 真っ先に配備対象となる国が日本になることは、これまでの日米の同盟関係から自然な流れです。米国にとって、日本ほど御しやすい国はありません。米国と密約を結びながら、国民には平気で嘘をつく政府だからです。日本政府との間には、1972年の沖縄返還交渉をめぐり交わされた、有事での核兵器再持ち込みの密約をはじめ、核兵器持ち込み密約があります。
 
 米国の中距離ミサイルが持ち込まれる際には、日本政府は通常弾頭であるから心配はないと国民に嘘をついてごまかすでしょう。あるいは、日本の非核三原則を米国は尊重している、同盟は信頼関係で成り立つものだから、米国から事前協議の申し出がない以上(日米安保条約では、装備の大幅な変更の際には事前協議を行うとし、核兵器の持ち込みは装備の大幅な変更に該当するとの合意があるとされています)、核ミサイルの持ち込みではないなどと、事実をごまかすでしょう。米国は同盟国との関係で、核兵器の存在につき「肯定も否定もしない」(NCND)政策を採用していますから、事態を曖昧にしたまま日本政府はごまかしを押し通します。
 
 しかし核弾頭ミサイルか否かは重要な問題ではありますが、それ以上に重要なことは、米国の中距離ミサイルが日本へ配備されれば、中国、ロシアにとっては、核弾頭ミサイルとして対処することになる点がこのことの深刻さです。その逆も同じことが言えます。敵国から発射された中距離ミサイルが着弾し、核弾頭か通常弾頭かを見極めてから反撃していたのでは手遅れになるからです。

                                        (続く)

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