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見逃せない公的行事の私物化

寄稿:飯室 勝彦

2019年11月18日

 森友学園、加計学園の問題に続いて、安倍晋三首相側が自分に近い人たちに特別の便宜をはかった疑惑がまた浮上した。首相サイドは「個人情報」というキーワードを盾に解明資料の公開を拒み疑惑を隠蔽しようとしている。政治に対する国民の信頼を損なう背信行為だ。

◎大勢の地元関係者を招待
 毎年開かれる内閣総理大臣主催の「桜を見る会」の招待客をめぐって国会の論議が活発化している。野党側は、安倍晋三首相側が特別のはからいをして、大勢の地元後援会関係者を招待したのではないかとして徹底追及の構えだ。
 疑惑が真実だとすれば、公的行事の私物化、公私混同であり、有権者は「桜を見る会」に限らず安倍政治全般の公平、公正性に対して重大な疑問を抱かざるを得ない。
 1952年、当時の吉田茂首相が始めたこの会は、各界で功績、功労のあった人たちを慰労し、親睦を深めるのが目的とされる。当初は各国外交官などごく限られた人が招かれただけだったが次第に対象が拡大され、現在は幅広い分野から功績、功労のあった人たちが選ばれる。今年は皇族や各国大使、国会議員らのほか芸能人、スポーツ選手、議員の地元関係者なども招待された。

◎増え続けた招待者
 問題の第一は近年、出席者が増えて実際の費用は予算を大幅に上回っていることだ。今年の費用は五年前の三倍、5500余万円になった。予算を実態に近づけようというのか、来年度予算案ではさらに多い5700万円の概算要求が出ていた。
 問題の第二、そして野党がとりわけ厳しく追及しているのは、2012年の第二次安倍政権発足後、参加者が急増した裏に首相の後援会関係者の急増があるのではないか、という点だ。招待者選びの基準として「各界での功績、功労」のほかに「その他各界の代表者等」もあるが、首相の後援会関係者というだけでは該当しないことは明らかだからである。

◎「個人情報」と非公開に
 疑惑解明には招待者名簿の公開が欠かせないが、内閣府は「保存期間一年未満の文書として会の終了後、遅滞なく速やかに廃棄した」という。
 菅義偉官房長官は「個人情報を含んだ膨大な文書を適切に管理する必要が生じるため」(11月12日の衆院本会議答弁)、安倍首相は「個々の招待者については招待されたかどうかを含めて回答を差し控える」(11月8日の参院予算委での答弁)という。
 名簿廃棄が本当だとしても、天皇皇后主催の園遊会の招待者名簿が宮内庁では30年であることに照らしても、あまりにも早い廃棄処分にうさんくさい思惑の存在を感じざるを得ない。 
 報道によると、この会を日程に組み込んだ観光ツアーの案内文書が安倍首相の事務所名で地元関係者に送られていたという。前日、東京のホテルで首相夫妻同席の後援会前夜祭を開き、当日はホテルから貸し切りバスで会場の新宿御苑へ行ったという。「桜を見る会」が後援会活動の一環に組み込まれた形になっていたわけだ。参加者は850人に達した、との指摘もある。
 安倍首相は「招待客のとりまとめには関与していない」というが、首相が直接関与しなくても大勢の地元関係者が参加できたのは首相の影響力が行使されたからとみて間違いはないだろう。「個人情報」を口実に逃げることは許されない。公の場所で首相が主催し、酒や菓子など飲食物も提供され、その費用は税金でまかなわれる。そんな行事への出席情報を国民に公開しないでいいはずがない。たとえ形式的には「個人に関する情報」であっても「秘すべき個人情報」ではない。

◎根っこは首相の政治姿勢
 政府は、これ以上の追及をかわそうとして来年の「桜を見る会」を中止し、招待基準なども見直すと発表した。しかし、これで一件落着としてはいけない。この問題を単に個人情報の問題と矮小化してはいけない。
 問題は安倍首相の政治姿勢の根っこである恣意的、独善的な振る舞いの表れとみるべきだ。菅長官が認めたように、与党議員など政治家による推薦者を招待する特別枠があったとしても、後援者を組織的に送り込み、公的行事を自らの勢威を誇る後援会活動の場に利用した安倍首相の責任は軽減されない。
 問題は有力なライバルのいない一強態勢下のおごり、たかぶり、節度の喪失が公的行事の私物化となって現出したのだ。その意味でモリカケ疑惑の延長線上にある。前の二件と同質の問題であり、厳しく追及されなければならない。

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