【NPJ通信・連載記事】憲法9条と日本の安全を考える/井上 正信
ガイドライン見直し中間報告を読み解く ―シームレスでグローバルな日米同盟の構築へ向けて―
第1 読み解く視点
ガイドライン見直し中間報告(以下中間報告)を読み解くには、97年ガイドラインとの比較(どこをどのように見直そうとしているのか)、2013年10月3日2+2共同発表文で示されたガイドライン見直しの7項目がどのような形で具体化されようとしているのか、憲法(7・1閣議決定)との関係という三つの視点が必要と考えます。
この視点で読み解くと、見直されるガイドラインが示そうとしている日本の防衛政策、日米同盟の姿が浮かび上がってくるからです。ガイドラインの見直しは7・1閣議決定を反映したものになるので、見直しが示す日本の防衛政策、日米同盟の姿から、逆に7・1閣議決定の意味がよく解ることになります。
第2 中間報告から見える日米同盟
見直されるガイドラインは、さしずめ副題として「シームレスな日米同盟」とでも呼ぶべき内容になるでしょう。中間報告では「切れ目のない(シームレスな)」という単語が7か所使われています。中間報告の中核となる項目(Ⅰ序文~Ⅶ新たな戦略的領域における日米共同の対応)に登場します。この意味は、「シームレスな日米同盟」が見直されるガイドラインを貫く縦糸となっていることを示していると思います。
「切れ目のない」は日米のそれぞれの協力分野で意味が与えられています。Ⅰ序文では、ガイドライン見直しの基礎として描かれています。Ⅱ指針及び日米防衛協力の目的では、将来の(「見直された」の意味)日米防衛協力で強調される事項のトップに挙げられています。Ⅳでは、すべての日米防衛協力の分野での政府全体の調整のキーワードとされています。Ⅴ日本の平和及び安全の切れ目のない確保では、平時からグレーゾーン事態、武力攻撃事態、集団自衛事態を貫く日米防衛協力のキーワードになっています。Ⅶ新たな戦略的領域における日米共同の対応では、宇宙・サイバー空間の利用、アクセスへの脅威に対する日米共同対処のキーワードとされています。
中間報告にはほとんど中身はなく、見直されるガイドラインの項目と見直しの方向性を述べているだけの、いわば目次のようなものですが、97年ガイドラインと比較すれば、見直されたガイドラインの下での日米同盟の姿はおよそ次のようなものになると思われます。
地理的限定がない日本の平和及び安全に影響を及ぼす事態での、平時から緊急事態までの日米の共同軍事行動を行い、集団自衛事態では日米の共同作戦を行う、地域(アジア太平洋地域の意味)及びグローバルな安定を脅かす事態では、日米が限りなく戦場に近いところまで共同軍事行動をとるというものです。この日米の共同軍事行動は、軍レベルから政府機関レベルでの密接な(切れ目のない)共同行動です。
私たちが97年ガイドラインの下での日米同盟として理解していたのは、日本有事の際には日本は個別的自衛権を行使し、米国は安保条約第5条で支援する、周辺事態では日本は米軍に対して軍事的支援を行うが、それは直接米軍の戦闘行為にかかわるものではない、それ以外には国際平和協力として、武力行使が禁止された自衛隊が非戦闘地域に派遣されるというものでした。派遣される部隊も戦闘を目的としない施設部隊が中心でした。しかし見直される日米同盟は、日本やアジア太平洋地域に限定されず、グローバルな軍事同盟として武力紛争やそれ以外の事態に日米が共同して軍事行動を行うものになり、これまでの日米同盟に対する認識を一変させるでしょう。
第3 97年ガイドラインとどこが違うのか
97年ガイドラインの構成は、日米の軍事的協力の分野として、平素から行う協力、日本に対する武力攻撃での協力、周辺事態での協力の三分野でした。
中間報告の構成は、①周辺事態という地理的制約を伴う概念を取り払い、個別的、集団的自衛権行使にかかわる、平時から緊急時、さらに武力攻撃の事態をひとまとめにしています。これに、それ以外の②地域及びグローバルな平和と安全のための協力、③宇宙サイバー空間という新たな戦略的領域での協力という三分野の構成です。
②の分野はこれまではガイドラインには規定されず、日本の安全保障防衛政策上は、日米同盟とは切り離された国際社会との平和協力(25大綱、22大綱参照)としての位置づけでした。
さらに97年ガイドラインで後方地域支援が中間報告では後方支援となっています。
なぜこれだけの違いが出てきたのでしょうか。7・1閣議決定が、自衛の措置三要件で集団的自衛権行使を容認していること、「2国際社会の平和と安定への一層の貢献」で、武力行使一体化論を事実上廃止して、現に戦闘行為が行われている場所以外のすべての場所で自衛隊が後方支援ができる、国際平和協力活動での武器使用権限を拡大し、前線での危険な任務を行わせることになったことが原因でしょう。
第4 ガイドライン見直しの必要性
中間報告は見直しの必要性をどのように述べているのでしょうか。日本防衛のついては「同盟のゆるぎない役割を再確認し」と述べ、周辺事態に相当する「アジア太平洋地域における平和と安全の維持に対して日米両国が果たす不可欠な役割を再確認し」と述べているだけですから、これらは今回の見直しの中心的な目的ではないはずです。中間報告はこれに続いて次のように述べています。「同盟がアジア太平洋地域及びこれを越えた地域に対して前向きに貢献し続ける国際的な協力の基盤であることを認めた。より広範なパートナーシップのためのこの戦略的な構想は、能力の強化とより大きな責任の共有を必要としており、…指針の見直しを求めた。」
97年ガイドラインを見直す中心の目的は、日米同盟のグローバル化だという意味なのです。2005年10月29日「日米同盟:未来のための変革と再編」で、日米同盟がグローバル化したと評価されたはずです。しかしながら、この「変革と再編」を読んでみても、周辺事態での日米の軍事的協力関係は極めて具体的に述べていることに反し、世界における共通の戦略目標についての自衛隊・米軍の役割・任務・能力に関する記述は項目程度のもので、軍事同盟としては具体的な内容にはなっていないのです。7・1閣議決定は、日米同盟をグローバルな軍事同盟にするガイドライン見直しに「適切に反映」させることができる内容だということなのでしょう。
2013年10月3日2+2共同発表文が7項目の見直しの目的を挙げていますが、2番目に挙げられているのが日米同盟のグローバル化です。中間報告「Ⅱ指針及び日米防衛協力の目的」でもこのことが強調されています。ガイドライン見直しの最大の目的がここにあると思われるのです。
第5 「基本的な前提及び考え方」の同じところと違うところ
中間報告「Ⅲ基本的な前提及び考え方」は、97年ガイドラインと表題が同じなら、中身も97年ガイドラインのほとんどコピペです。異なる個所は、「日米両国のすべての行為は、各々の憲法およびその時々において適用のある国内法令並びに国家安全保障政策の基本的な方針に従って行われる。」の一文が中間報告に追加された点です。この追加の意味は現時点では私にも不明ですが、尖閣を巡る日中の武力紛争に「抱き込み心中」させられないための米国の伏線なのかもしれません。
第6 7・1閣議決定の意味、防衛法制の改正
以上見たように、7・1閣議決定はガイドライン見直しの基盤となっていることが理解されるでしょう。集団的自衛権行使にとどまらず、自衛隊の海外活動での武力行使一体化論の事実上の廃止、武器使用権限の強化と活動の拡大は、いずれも、日米同盟のグローバルな軍事同盟化のためのものです。7・1閣議決定の「自衛の措置の三要件」が限定的な集団的自衛権行使だと説明しても、これを反映させるガイドライン見直しでは地理的限定はないのですから、7・1閣議決定は限定などではないはずです。国際平和協力というきれいごとではないのです。安倍首相が言い出しっぺの「国際協調主義に基づく積極的平和主義」もこのようなものとして理解すべきです。
来年春以降の通常国会へ防衛法制法案が提出されるでしょう。おそらく包括的な対米支援法、国際平和協力法案などが考えられるでしょう。日米同盟をグローバルな軍事同盟に格上げするための法案であり、7・1閣議決定、ガイドライン見直し、防衛法制改正を三位一体として取り組む必要があります。
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