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相次ぐテロ資金対策立法による処罰範囲の拡大に反対する -次は共謀罪と盗聴法の大幅拡大だ-

寄稿:海渡雄一

2014年10月23日

第1 テロリズムの取り締まりには人権を保障する必要はないのか

1 テロ資金規制立法のラッシュ

テロ資金規制に関する新規立法の提案が続く。政府は、2013年3月15日、「テロ資金提供処罰法の一部を改正する法律案」を閣議決定し、国会に提出した。

引き続いて、2014年10月10日政府は、「国際連合安全保障理事会決議第1267号等を踏まえ我が国が実施する国際テロリストの財産の凍結等に関する特別措置法案」(略称 国際テロリストの財産凍結法案)を国会に上程した。

2 テロリズムと民族自決の闘いとの境界はあいまいである

テロリズムは、暴力によって自らの政治的、社会的意見の実現を図ろうとする企てであり、無関係な市民の生命と安全にも危険を及ぼし、民主主義的な政治とは相容れない憎むべき行為である。

しかし、今日の世界情勢のもとでは、民族的、宗教的、社会的少数派に対して、国家権力の側から苛烈な政治的な弾圧が加えられ、時にはそれは暴力的なものとなっている地域も見られる。

たとえば、パレスチナのガザ地区に対するイスラエルの攻撃によって、多くの一般市民の生命や財産が奪われている。このような状況の場合、パレスチナ地域の政治だけでなく学校や医療などの行政にも大きな影響を持つ、PLOやハマスなどの組織をテロ組織として規定し、これらの組織に対する寄付を犯罪化するような政策をとることが正しい方途であろうか。私には大いに疑問である。

アパルトヘイト闘っていたときのANC、東チモールの独立闘争を闘っていたフレティリンは、当時の政府からはテロリストと規定され、当時の政府やインドネシア占領当局から弾圧されていた。しかし、ネルソンマンデラやラモスの闘いが正当なものであったことは今日では、国際的に広く承認されている。

3 国際紛争について平和的解決の原則を確認すること

国際紛争を平和的に解決する、戦争という手段はとらないという国および国民の固い決意を固めるべきではないか。このような前提に立たない限り、テロや組織犯罪の発生原因にまで遡った対策は不可能である。

国際法を無視したブッシュ政権のイラク侵攻が無惨な失敗に終わり、むしろ世界のテロに対する危険性を増している。いまこそ、あらゆる国際紛争を武力ではなく、平和的な手段で解決するべきであることを、国際的な原則としていかなければならない。

4 国際的な人権保障基準に沿ったテロ対策でなければ効果を上げられない

犯罪の国際化とりわけ「組織犯罪やテロ犯罪の国際化は、経済活動や人間の移動が世界的規模で行われるのに伴い伝統的な国境の概念が失われ、もはや一国の国家主権によっては対処できない「新たな挑戦」ともいうべき国際的現象であるから、一定の国際条約の下、各国の捜査機関や司法機関が協力し連携して犯罪の抑止にあたるという方向性そのものは正当なものとして是認できるであろう。

しかし、他方で、国際的な犯罪防止を強調する余り、国際人権自由権規約を始めとする国際人権法が築いてきた個人の人権保障、とりわけ、刑事上の罪に問われた者に認められる手続的保障が脅かされるようなことがあってはならない。

5 国際人権基準に沿ったテロ対策を求めた国連バンコク宣言

2005年に開催された国連犯罪防止会議において採択された「バンコク宣言」の前文では、「各国は、テロとの闘いにおけるいかなる措置も、国際法上の全ての義務に従ったものであることを確保しなければならず、かつ国連憲章及び国際法、特に国際人権法、難民法及び人道法に従ってそれらの措置をとるべきであることを再確認」するとされている。

国際人権自由権規約など締約国に対し法的拘束力を有する国際条約は、普遍的な人権の価値を国際的に承認するとともに、個人がその人権を実際に享受できるよう法的保障措置を締約国に義務付けている。それゆえ、刑事司法に関わる手続的保障(被疑事実につき告知を受ける権利、無料で通訳を受ける権利、弁護人の援助を受ける権利、黙秘権など)は、今日、各国の法制度の違いを超えて、国際的に共通する「刑事手続における国際人権法」としての性格を有するに至っている。犯罪を国際的な枠組みの中でとらえようとするのであれば、「捜査の国際化」や「犯罪人引渡手続の国際化」はコインの一面であり、その裏側には「人権保障の国際化」が常に伴っていなければならない。

人権保障を伴わないテロ対策は無辜の市民を巻き込み、人権侵害が次の世代のテロリズムを生み出すという悪循環に陥る危険性がある。

6 目的と手段の間のバランスが必要である

国際人権規約自由権規約19条、20条は表現の自由を保障している。21条は集会の自由、22条は結社の自由を保障している。この結社の自由に対する制限理由は21条に定める集会の自由と同様である。制限は法律によるものであること、規約の目的に合致するものであることが必要である。また、制限は合法的な目的のために必要なものでなければならず、目的と手段はバランスが図られていることが不可欠である(比例原則)。

7 検証可能なデータに基づく議論をすべき

最近、体感治安等という意味不明の言葉が使われる。実際の犯罪が増加しているかどうかという概念と関係なく、体感治安という主観的な言葉が使われるのは、報道によって増幅された市民の安全感覚を基礎として法執行措置を強要しようとしているからであろう。

今回検討するテロ資金の規制に関しても、日本国内で具体的にどのようなテロ資金の移動が存在したのか、実証的なデータはほとんど公表されていない。

抽象的な危惧感だけを根拠に法制度を構築していけば、ほとんど自由のない、ジョージオーウェル的な社会をもたらしかねない。そのような事態を招かないためにも、できる限り、客観的な事実、データに即した実証的な議論に基づいて様々な法制度の必要性・立法事実の存否を冷静に判断するべきである。日本におけるテロ対策、組織犯罪対策にはこのような視点が大きく欠落している。

第2 秋の臨時国会では二つのテロ資金立法が議論されている

1 現行のテロ資金提供処罰法そのものの処罰範囲も明確とはいえない

現行の「公衆等脅迫目的の犯罪行為のための資金の提供等の処罰に関する法律(略称「テロ資金提供処罰法」)、国連で1999年に採択された「テロリズムに対する資金供与の防止に関する国際条約」の批准のために、2002年に制定された。

政府は、2013年3月15日、この「テロ資金提供処罰法の一部を改正する法律案」を閣議決定し、国会に提出した。

この条約は、テロ行為の定義をまず既存の国連テロ関連諸条約のそれを援用すると共に、新たに、(1)テロ行為のために手段の如何を問わず、直接又は間接を問わず、資金を提供し、受領する行為を犯罪化する、(2)同上の未遂や加担、人を組織すること、指示することの犯罪化、(3)国際的な裁判管轄の設定、(5)資金の没収・凍結のための規定、(6)捜査共助・犯罪者の引き渡し規定、(4)金融機関の確認と報告の義務化などを内容としている。

日弁連は、この法律の制定の際にも、この条約の求める処罰範囲は広範すぎ、これを批准しこれをそのまま国内法化するには基本的な疑問点があり、その批准と国内法化は留保の必要な事項の特定など法制審議会への諮問等を含めて慎重に検討を進めるべきであり、批准を行う場合も、テロリズムの定義やテロ関連団体の認定の手続などを厳格なものとして、人権保障上問題の少ない制度となるよう求めた。しかし、そのような修正は加えられなかった。

2 テロ資金処罰法の改正法案によって資金だけでなくサービス提供全体に処罰範囲が拡大される

今国会に提案されている法案は、第1に、現行法においては資金だけだった提供の対象を、これに限らず、「その実行に供するその他の利益(資金以外の土地、建物、物品、役務その他の利益)」、すなわち、物質的な利益に広く拡大している。

提供の対象を物質的な利益にまで拡大させることによって、「公衆等脅迫目的の犯罪行為の実行を容易にする目的」という曖昧な文言と相まって、提供行為についての構成要件はますます曖昧となり、政府や捜査機関による恣意的な運用がなされるおそれを拡大することになる。

3 予備の幇助の幇助まで処罰する

第2に、これまで、テロ企図者に対して直接提供する行為(一次協力者の行為)及び一次協力者に提供させる行為だけを処罰していたが(10年以下の懲役又は1000万円以下の罰金)、改正案は、①一次協力者間の提供行為及び提供を受ける行為(7年以下の懲役又は700万円以下の罰金)、②一次協力者に対する二次協力者の提供行為及び提供を受ける行為(5年以下の懲役又は500万円以下の罰金)、二次協力者に対する協力者(その他協力者)の提供行為及び提供を受ける行為(2年以下の懲役又は200万円以下の罰金)にまで、その処罰範囲を拡大しようとしている。

資金等の提供者について、一次協力者に利益を提供する二次協力者、二次協力者に利益等を提供するその他協力者にまで拡大するものであり、処罰対象者を著しく拡大するものである。

そもそも、テロ資金提供処罰法は、テロ企図者に対して直接に提供行為を行うこと自体を予備行為の幇助として独立に処罰するものであり、構成要件の外延が不明確になるおそれを有するものであったところ、本改正案は、その予備行為の幇助をさらに幇助する行為を新たに独立の犯罪行為として処罰しようとするものであり、現行刑事法の共犯規定と比較しても正犯の行為から遙かに離れた行為を処罰するものであり、その処罰範囲は著しく広汎なものとなっている。

4 日弁連は疑問を提起している

2013年3月末日までに、現行法が適用された例は報じられていない。このことは、この法律を制定する立法事実があったのかどうかについて、深刻な疑問を提起している。

日弁連は、この改正案についても、2013年4月17日、上記のような問題点を指摘し、「両議院の法務委員会においては、十分な審議時間を確保した上で、本声明が指摘する本改正案の問題点に留意し、人権保障上の問題を完全に払拭しない以上本改正案を安易に可決することのないよう、広く国民の意見を聴き徹底的に審議が尽くされることを求める」との会長声明を発している。

5 第2のテロ資金立法=国際テロリストの財産凍結法案

引き続いて、2014年10月10日政府は、「国際連合安全保障理事会決議第1267号等を踏まえ我が国が実施する国際テロリストの財産の凍結等に関する特別措置法案」(略称 国際テロリストの財産凍結法案)を国会に上程した。

この法案は、国際テロリストの指定の要件を定め、国際テロリストとして公告された者に資産凍結の措置を課し、違反した場合の罰則等を定めるもので、国際テロリストの資金を遅滞なく凍結する等の措置を講ずるとの国連安保理決議に関し、FATF(Financial Action Task Force:金融活動作業部会)から国内取引に関する措置が十分でないと勧告を受けていたことに対応するものである。

6 国家公安委員会による国際テロリスト指定が可能になる

この法案は、国際テロリストを定めるに当たって、国連安保理決議第1267号決議及びその後継決議に基づき、安保理制裁委員会が指定する国際テロリストをそのまま公告する方法と、国連安保理決議第1373号決議を受けて、国家公安委員会が独自に指定して公告する方法を認めている。前者の方法に異存はないが、後者の指定制度には、国家公安委員会による恣意的な指定がなされる余地があり、問題が大きい。

すなわち本法案では、国家公安委員長は、外国為替及び外国貿易法16条1項の規定により、閣議決定(同法10条)か主務大臣の判断(同法16条)によって、本邦から外国へ向けた支払等について許可を受ける義務を課せられることとなる者で、この公衆等脅迫目的の犯罪を行った場合や、行おうとしたり助けた場合で、将来更に公衆等脅迫目的の犯罪行為を行ったり助ける明らかなおそれがあると認められる十分な理由がある自然人や法人その他の団体、さらにこれらの者が影響を及ぼす自然人や法人その他の団体等を、国際テロリストとして指定できる。

テロ資金提供処罰法は、国連のテロリズムに対する資金供与の防止に関する国際条約を国内法化するために制定されたものであるにもかかわらず、同条約と比べて処罰範囲が著しく拡大されていることは、前述したとおりであり、これらの条文をそのまま準用する本法案においても、テロ行為とされる対象犯罪は広汎に過ぎる。

したがって、国家公安委員長による国際テロリストの指定は、恣意的になされる危険があり、テロ対策のための人権の制限としても目的と手段のバランスがとれていない。

日弁連は、法案の国会提出の日に、「国会の内閣委員会において、人権保障に留意して十分に審議することを求める。」との会長声明を発している。

第3 次には共謀罪と盗聴法の大幅拡大が待ちかまえている

1 来年には共謀罪の提案も必至の情勢

昨年の秘密保護法の成立直後には、次は共謀罪法案を提案するといわれていた。秘密保護法は秘密漏えいや特定取得行為の共謀や煽動についても処罰の対象としている。秋の臨時国会にも出す方向といわれ、かなりの準備が進められたようであるが、選挙がらみで提出が見送られている。しかし、このテロ資金立法を通せば、論理的な必然性はないとしても、次は共謀罪となることは自然な流れである。

共謀罪の本質的な問題は、どのような行為が可罰的なものとなるか、その境界が余りにも不明確なものとなるからである。合計619もの犯罪、中には未遂処罰すらされていない犯罪について予備段階も乗り越えて、共謀の段階から処罰しなければならないことの根拠が何も説明されていない。国連組織犯罪防止条約がそうなっているからと言う説明は、各国の国内法の状況が明らかになるにつれて、事実とは異なることが明らかになってきた。

規範が規範として意味を持つためには、それが明確なものであり、通常人にとって理解することができ、遵守することが可能なものでなければならない。テロ資金の規制についても、同様である。

2 本当に私は悪いことをしていないから平気か?

近代刑事法は刑事法規、法執行措置が踏み込んではならない領域というものがあるはずであるという前提に立っていた。

人間の内心は、どのような権力的介入からも守られなければならない。内心に非常に近い会話、電話内容、メールの内容、自宅の中の行動なども高度のプライバシーを構成しており、これらに介入する場合は、その目的が明確であり、またそのような手段を執ることが必要不可欠であり、他に手段がなく、これらの事情について司法審査の手続きがあり、裁判所の令状を事前もしくはこれに接着した事後に提示した形で行うべきである。このような形で、権力の恣意的な介入から私的生活領域の不可侵性が明確な形で保障されなければならない。

私は、何も不都合なことは話していないから、盗聴されても平気という人がいる。それでは、メールのパスワードを公開している人がいるだろうか。

3 行政機関の情報共有による検索システムの構築を食い止めなければならない 

いまや、監視社会の最も重大な側面は行政機関の保有する情報データベースが連結され、串刺し検索によって、個人に関する、住民基本台帳の氏名・生年月日・住所データ、戸籍の身分関係情報、所得、不動産の所有、銀行口座の入出金、移動データ(携帯電話の位置情報とNシステム、さらにはスイカカードのデータ)、税金の支払い状況、社会保険データなどの公共データベースを自在に操ることが、可能となりつつある。

このようなデータベース連結の実態は厚いベールに包まれており、その実態の解明は容易ではない。行政機関個人情報保護法(1989年施行の行政機関電算機個人情報保護法の改正法 2003年5月成立)において、民間以上に大量のデータを保有し、そのデータベース化が進んでいる国について、国家による行政の保有や第三者への提供は比較的緩和された条件で可能であることは大きな問題である。

4 スノーデン氏が告発した米NSAによるグローバル盗聴システム

NSA(アメリカの「国家安全保障庁」)の契約先の技術者であったエドワード・スノーデン氏は、2013年6月米ワシントンポスト紙と英ガーディアン紙に情報を提供し、NSAがあらたに開発した「プリズム」というシステムを使って、SNSやクラウド・サービス、あるいはインターネットの接続業者など大手のIT企業9社から網羅的にデータを収集していたという事実を暴露した。この9社とは、Microsoft、米Yahoo、Google、Facebook、AOL、Skype、YouTube、Apple、Paltalkであり、NSAはこれらの会社の保有するサーバーなどに自由にアクセスすることができたことを公表した。

また、NSAのメール解読ソフトによって集積されていたデータから、メールの履歴だけでなく内容まで読むことができるとされている。このプログラムによって2012年には30日ごとに410億件以上の情報を収集、保存していたという(2013年7月31日付けガーディアン報道)。

2013年9月6日付の英紙ガーディアンは、スノーデン氏が提供した文書に基づいて、米国家安全保障局(NSA)と英情報機関・政府通信本部(GCHQ)が、電子メールやネットによる商取引で使われる暗号化プロトコルの多くについてハッキングに成功し、情報収集を行っていると報じている。その方法としては、(1)暗号化の国際基準決定へのNSAのひそかな支配力行使(2)スーパーコンピューターを使った解読(3)ハイテク企業やインターネットプロバイダーと協力し、商用暗号ソフトに「バックドア(裏口)」と呼ばれる脆弱(ぜいじゃく)性を仕込む-などがあるとされている。暗号が掛けられている情報にまで、NSAがアクセスできたというニュースは衝撃的である。

5 共謀罪を捜査するには盗聴しかない!

共謀罪に対する捜査では、犯罪の捜査のあり方が一変するだろう。何しろ共謀罪は「被害」のない犯罪であるから、犯罪場面からさかのぼって犯人を特定する従来の捜査手法では、到底対応できない。結局、まだ何の犯罪も犯していない人々を、日常的に監視することになる。

そして、「合意」が犯罪となるのだから、人々の会話や電話・メールの内容そのものが犯罪となり、その録音やデータが証拠となる。と言うことは、日常的な会話やメールそのものの内容を監視することが、共謀罪取り締まりの主要な部分となっていくことは誰でもおわかる理屈だ。

そうなると、共謀罪ができると、それに合わせて盗聴法が改悪されることは明白だ。いまところ、盗聴法では四つの重大犯罪(薬物関連犯罪、銃器関連犯罪、集団密航、組織的に行なわれた殺人)だけを対象とし、盗聴できるのは通信(電話・FAX・メール)に限られている。しかし、いずれは適用範囲が拡大され、通信のみならず、室内会話も盗聴できるように法律が変えられていく可能性があるのだ。

6 盗聴法の拡大が法制審議会から答申された 

えん罪を防ぐための取調の可視化を議論していた法制審議会の場で、窃盗や詐欺のようなありふれた犯罪についてまで盗聴(通信傍受)の対象とし、通信事業者職員の立会も省略して盗聴をやりやすくするための法改正を行う方針が決められた。残念ながら、このような提案に、日弁連は途中までは反対意見を述べていたが、最終報告には可視化などの成果を確実なものとするためとして、全体に賛成する方針をとった。

現行の通信傍受法は、私たち市民の反対が強かったため、対象犯罪が当初の提案よりも絞られ、組織的殺人や薬物犯罪などに限定され、あまり利用されて来なかった。今回のような改正を認めれば、警察は簡単に盗聴令状をとり、第三者の立会のないところで一挙に適用を拡大してくる可能性がある。犯罪と関係のない通話やメールも、傍受の対象とされ、市民のプライバシーを保障する国際人権法にも抵触しかねない。

えん罪防止のための方法を話し合うはずだった法制審が、捜査機関の権限拡大のための場所となっている。このような提案が来年の通常国会には提出される見通しがある。

7 共謀罪の捜査に盗聴法が使われる可能性はある

日本で議論されている盗聴は刑事盗聴の拡大であり、スノーデン氏の暴露したNSAによる盗聴は行政盗聴である。しかし、秘密保護法によって、国のテロ対策、スパイ防止対策に関する法執行に関する情報が特定秘密に指定できることとされた。NSAの収集した情報に日本の捜査当局がアクセスできるようになれば、我々のプライバシーも風前の灯火である。

そして、盗聴範囲が大幅に拡大され、共謀罪法案が成立すれば、その次には、共謀罪が盗聴法の適用対象とされる可能性は十分あると私は考える。

第4 人権侵害立法との闘いに決め手はあるか

1 共謀罪の国会再提出に備えよう

政府は、2013年12月、秘密保護法を成立させた。秘密保護法は、特定秘密の取扱いの業務に従事する公務員等による故意の情報漏洩行為のみならず、市民やジャーナリストを含む第三者による特定取得行為も共謀罪の対象としている(第25条)。秘密保護法、集団的自衛権の行使容認に続いて、政府が目指しているのが「共謀罪」の新設である。

共謀罪法案は対象犯罪を法定刑の長期4年以上のすべての600以上の犯罪(窃盗、収賄、傷害、詐欺、恐喝、有印私文書偽造なども含まれる)に増やそうとしている。日弁連は、過去10年以上の経過の中で共謀罪法案の成立の可能性はかつてなく高まっていると考え、その対策に注力している。

共謀罪法案の制定は、国内に立法事実があるわけではなく、国連越境組織犯罪防止条約を批准するための国内法整備であるとされる。しかし、この条約を批准するために必要なのは、組織犯罪の事前抑制のための法制度の整備であって、広範な犯罪類型に関しての一般的な法形式での共謀罪立法が必須なわけではない。

我が国においては、重大な犯罪については、かなりの数の予備罪、共謀罪が制定されているだけでなく、予備段階を独立犯罪化した銃砲刀剣類の所持やピッキングを取り締まる法律や暴力団対策立法など、組織犯罪の未然予防に関する法制度はかなり整備されている。アメリカでは銃の所持が合法化されていることなどと比較すれば、規制はより厳しい面があると言えるのだ。このような法制度を総合的に観察すれば、条約が求めている組織犯罪に関連する重大犯罪の早期処罰は可能となっていると評価できるだろう。したがって、立法事実もないのに、条約を批准するためだけに、600以上の共謀罪を作るなどと言う極端な立法は必要がない。実際に多くの国々では、日本政府が提案したような包括的共謀罪規定を新設することなくこの条約を批准していることもわかってきた。

2 民主党政権下では共謀罪なしに条約批准が検討された

2011年9月に就任した民主党政権の平岡法務大臣の時代には、法務省と外務省の間で、共謀罪の制定をしないで条約を批准することができるかどうかが具体的に検討されたことがあった。検討途上で大臣が替わられたため頓挫してしまったが、その実現可能性を今後も探るべきだ。

政府が、次の臨時国会に共謀罪法案を提案しないとしても、これに油断することなく、市民にこの法案の危険性を知らせ、ともに反対の声をひろげていかなければ、早晩法案は提出されてくるだろう。

3 テロ資金対策立法に注目を!

本稿で中心的に検討したテロ資金規制立法に対する市民の関心は高くない。しかし、この法律はあいまいな根拠で犯罪の処罰範囲を拡大している。これをそのまま通せば、次は共謀罪と盗聴法の大幅拡大が待っている。秘密保護法から始まった刑事法改悪は明らかに市民活動の自由を制限し、戦争に反対し、原発の再稼働に反対する活動を萎縮させることを目的としている。私は、このような立法に強く反対する。そして、市民活動をあきらめたり、ひるんだりすることなく、これをたゆみなく継続することが何よりも大切だ。

 

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