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前途多難の高市早苗新政権

寄稿:植草一秀(政治経済学者)

2025年11月7日

裏金主導の2年

 日本政治の動揺が続く。背景に金権腐敗がある。2024年初来、裏金問題がクローズアップされた。神戸学院大学教授上脇博之氏の地道な独自調査を22年11月にしんぶん赤旗がスクープ報道した。23年11月になって大手メディアが大きく取り上げたことによって大きな時事問題になった。
 パーティー券販売などで得た収入を収支報告に記載せず、裏金として政治家が懐に入れていた。1000万円を超える裏金を受領した議員は21名に及ぶ。納税の義務を果たしていなければ所得税法違反にもなる。自民党安倍派(のちに解散)では派閥ぐるみで犯罪行為に手を染めていたことが明らかになった。
 問題は拡大の一途を辿り、2024年8月に岸田首相が辞意を表明。自民党は後継党首に石破茂氏を選出した。石破内閣は発足後、直ちに衆院を解散し総選挙を挙行した。この選挙で自公は惨敗。衆議院過半数議席を割り込んだ。
 裏金事件に対して主権者国民が厳しい審判を下したものである。裏金事件の主体が自民党旧安倍派にあったため石破氏は責任追及を免れたが、問題に対する対応を明示することが25年通常国会のテーマになった。
 また、アベノミクス以来のインフレ誘導政策を背景に22年以降、日本でもインフレが亢進した。労働者が実質賃金減少に苦しむなかで物価高対策も最重要の政治課題に浮上した。
 25年通常国会の最大テーマは政治資金規制強化と物価高対策だった。石破内閣による抜本対応が求められたが結果は皆無に近いものになった。物価高対策で消費税減税を含む大型減税が取り沙汰されたが、最終決着は小幅増税に終わった。政治資金規制では企業団体献金全面禁止の提案が存在したが国会は法改正を実現しなかった。

高市党首のゼロ回答

 この「成果」に対する勤務評定が25年7月参院選結果に反映された。自公の与党は参院でも過半数割れに転落。選出議席125に対して石破首相が定めた勝敗ラインは自公で50。政権与党の掲げるべき目標値と言えるものでなかったが結果は47にとどまり、自公は参院でも過半数割れに転落した。
 日本の主権者国民が石破内閣、石破首相に退場通告を明示したと言える。ところが、一部に石破首相の続投を求める声があった。後継の自民党首、首相に高市早苗氏が就任することを警戒する人々が声を挙げたものだが、メディアがこれを大きく取り上げた。
 背景に財務省の画策があったと見られる。石破首相は減税に対して強い消極姿勢を示した。日本財政はギリシャよりも深刻だという見解も肯定した。財務省は財政規律重視を明言する石破氏が首相として続投し、消費税増税に「理解の深い」立憲民主の野田佳彦氏と連携して消費税再増税の布石を敷くことを期待したと見られる。
 通常は反政府勢力の小規模な街頭活動を取り上げることのない主要メディアが「石破やめるなデモ」だけを大きく報道し、石破内閣支持率の引き上げを誘導したようにも見える。消費税の軽減税率適用によって新聞各社は財務省の命令に逆らえない。財務省によるメディアコントロールが依然として効力を有していることへの認識が不可欠だ。
 だが、石破首相が衆院総選挙、参院通常選挙での惨敗に対する責任から逃れることは不可能だった。「政治とカネ」、「物価高対策」という二大課題に対して石破首相は25年通常国会で成果ゼロの結果を残し、これに対して主権者である国民が退場通告を明示した意味は重い。
 自民党内で総裁選前倒し要求が拡大し、外堀を完全に埋められて石破氏は辞意表明に追い込まれた。後継党首を決める党首選が実施され、10月4日に高市早苗氏が後継自民党首に選出された。しかし、自民は衆参両院で過半数議席を保持しない。公明を合わせても自公は過半数議席に届かぬ状況下で、まずは公明との連立を維持できるかが焦点になった。

「裏金がどうした内閣」

 公明は「政治とカネ」問題での対応を自民に求めた。ところが、高市新党首は公明にゼロ回答。さらに、党要職の幹事長代行に代表的な裏金議員である萩生田光一氏を起用していた。公明は高市新党首の対応を踏まえて連立からの離脱を決断。国会での新たな政権の枠組みが不透明な情勢に移行した。
 このなかで日本維新の会が自民との連立参画に突き進み、両党は連立政権樹立方針を決定。衆参両院での首相指名選挙を経て高市内閣が発足した。過去2年間の経緯を踏まえれば、新政権が国民に明示するべき最優先の方針は「政治とカネ」問題への対応だったが、驚くべきことに自維新政権は「政治とカネ」問題に文字通りの「ゼロ回答」を掲げた。
 自維新政権を名付けるとすれば「裏金がどうした内閣」である。維新はこれまで「企業団体献金廃止」を公約として掲げてきたが、自民との連立協議ではこれを闇に葬った。代わりに示したのが衆院比例代表選挙の議員定数削減。維新の吉村代表は「我が身を切る改革」と称して比例代表議員定数削減を掲げたが噴飯ものとしか言いようがない。
 維新の衆院議席の多くは大阪府での小選挙区で獲得されている。自民から大阪府小選挙区を割譲されれば議席数に大きな異動が生じない。比例代表議員定数削減は「我が身を切る改革」ではなく、「摘陣営の身を切る改革」に過ぎない。
 選挙制度には一長一短があるが、小選挙区制選挙制度の最大欠陥は死票が多数発生する点にある。二大政党制の下では小選挙区制度が政権交代を生じさせやすいとのメリットを発揮するが、多党分立状況下では圧倒的に弊害が上回る。民意を正確に議会議席数に反映させるには全議席を比例代表で選出することが最適である。
 比例代表では主権者が選出したい特定の候補者が政党の提示する名簿順位によって選出されないとの欠陥が生じるとの指摘がある。この点に関しては比例代表選挙の方式を候補者個人名での投票とし、その得票順位に基いて政党に配分される当選議席を決定すれば問題をクリアできる。

不可避の政局大混乱

 衆院小選挙区の議席定数削減なら理解も可能だが、比例代表議員定数削減は「改革」ではない「党利党略」の悪徳提案でしかない。維新は企業団体献金規制強化を闇に葬り、自民と結託して新たな「金権腐敗連立政権」樹立にまい進した。
 自民は1970年の八幡製鉄政治献金事件最高裁判決を企業献金を正当化する錦の御旗に掲げる。しかし、同判決は「大企業による巨額の寄附は金権政治の弊を産むべく、また、もし有力株主が外国人であるときは外国による政治干渉となる危険もあり、さらに豊富潤沢な政治資金は政治の腐敗を醸成するというのであるが、その指摘するような弊害に対処する方途は、さしあたり、立法政策にまつべきこと」と指摘している。
 また、1993年11月2日の衆院政治改革特別委員会において岡原昌男元最高裁長官は次のように発言している。
 「企業献金の問題につきまして、例の昭和45年の最高裁判決がございますけれども、あの読み方について自民党の中で非常にあれをルーズに読みまして、その一部だけを読んで企業献金差し支えない、何ぼでもいい、こう解釈しておりますが、あれは違います。(中略)私の立場から申しますと、あの企業献金というのは、法人がその定款に基づかずして、しかも株主の相当多数が反対する金の使い方でございまして、これは非常に問題がある。」
 「これだけ企業献金がその当時、あれは昭和35年の事件でございます、行き渡っておったのでは、最高裁があれをやれるわけがないです、違憲であるとか違反であるというふうなことに。全部の候補者がひっかかるような、そういうことは実際上としてやれない。したがって、あれは助けた判決、俗に我々助けた判決というものでございます。」
 1994年に政党助成法が施行される際、これと引き換えに企業団体献金を廃止することとされていたことを当時の自民党党首であった河野洋平氏が明言している。1970年最高裁判決も「立法政策にまつべきこと」と指摘した。金権腐敗政治を断ち切る一丁目一番地は企業団体献金全面禁止。早急な立法政策が必要不可欠だ。「政治とカネ」問題にゼロ回答の高市早苗新政権が無風で今後の政局を乗り切る可能性はゼロである。

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