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連載 石田雄 ― 軍隊体験者が次の世代に遺したいこと
第1部 もう一度戦争を始めないために
第3回 離れて憎むより接して対話を

寄稿:石田雄

2014年12月15日

過去の戦争では、政府や軍部は「暴支膺懲(ぼうしようちょう=乱暴な中国をこらしめる)から「鬼畜米英撃滅」というスローガンで、国民の憎しみを駆り立て、戦争に動員した。挙げ句の果てに、破局を迎え、敗戦に至った。今また、「反中嫌韓」の空気が強くなり、排外的ナショナリズムの傾向が目に余るようになってきた。これは国内での経済的困難に伴う不安や不満を内外の敵への憎しみに誘導しようとする意味において、戦前と共通の動きである。この傾向は戦前の経験から明らかなように、戦争への道を歩む危険性を十分に持っている。ただ今日の特徴は、グローバル化の進行に伴うマイナス面とプラス面の両方があることで、それが戦前とは大きく異なっている。

■グローバル化の消極面

今日、日本における格差の拡大、貧困の増大は、これまでとは比べものにならないほどの世界的な一体化の中で起こっている。「富める1%が99%を支配する」というのはアメリカの現象であると同時に、世界的な現象でもある。それは人と物の移動が国境を越えて、自由になったことの結果でもある。作家の雨宮花凜が一時右翼団体に入ったのは、「韓国から来た人が低賃金で働くから、日本人には働き口がない」といわれたからだと告白している。

世界第2位の経済大国といわれ、経済成長を誇っていた日本ではバブル崩壊後、新自由主義的経済思想によって、弱肉強食を肯定する社会進化論的な考え方が一般化した。これは明治初年に天賦人権説を紹介した思想家で後に東京大学総長になる加藤弘之の社会進化論への転向と似た現象ともいえる。

しかし、家父長制的家族意識と結び付いて、天皇は国民の父であり、国民はその赤子であるという家族国家論と結びついていた戦前と違い、極端にドライなのが今日の社会進化論である。一方では強者の支配を正当化し、他方では弱者・敗者は自己責任論を内面化して、自分から口を閉ざしてしまう。このような中での排外的ナショナリズムは、憎しみの感情で自分の不安を解消すると同時に、非情な形で犠牲者を切り捨てる。それが犠牲にされた者の報復を一層残虐なものとする。それは9・11事件以後各地で見られるテロに示された。

■グローバル化の積極面

一方で、グローバル化には積極面もある。例えば、今日では国際結婚が増えてきて、2012年の全婚姻件数の3.5%を超えるまでになっている。そのため、生活の中で全く外国人と触れる機会がないという人の方が珍しい。問題はそうした接触の機会をどう生かすかにかかっている。よい例のひとつが中国から日本に留学している高校生が日本の高校生とお互いの歴史教科書を見せ合い、その違いを比較して、なぜそうした違いが生まれたかを考える対話をしたことである。

私自身、積極的に対話の機会を増やそうと努力している中国からの留学高校生や日本の高校生たちと対話をしたこともある。彼ら・彼女らは「日中韓の過去・現在・未来を高校生で考えよう」と交流会や勉強会、日中韓高校生未来サミットなどを開いている。今日では主権国家の政府による外交だけでなく、国境を越えた民間の対話のための努力が個人やNGOなどの諸団体を通じても進められていることは、戦前には見られなかった積極面の重要な点である。

■非軍事化への民間の動き

今日の軍事化がグローバルな文脈で進められていることは、日本のようなアメリカへの軍事的従属が明確な場合には特に注意を払うことが必要だ。しかし、非軍事化に向けた民間レベルでの動きについても、軍事化に対抗する要素として等しく注目されるべきである。地雷やクラスター爆弾のような非人道的兵器について、世界のNGOは禁止するための活動をしてきている。その働きかけが大きな力となり、1999年には対人地雷禁止条約、2010年にはクラスター爆弾禁止条約がそれぞれ発効している。

同じ民間交流でも、経済の領域では、しばしばODAと関連するなど政府も関与し、武器輸出や不平等な関係での取引もあり得る。しかし、この領域でもフェアトレードという形で、第三世界の草の根の経済を支えようとする動きも見られる。

先進国では途上国からの労働力流入を利用する面があると同時に、移民労働者に職を奪われるという危惧から排外主義政党が勢力を伸ばしている傾向が見られる。そうした中で、世界的な規模での平和で持続的な発展の実現を目指すためには、次回で検討するように自国内での草の根からの経済の再構築を考えることが求められる。それと同時に、国境を越えた人の移動に伴う憎悪を防ぎ、対話による問題解決を考えなければならない。そのためには、途上国支援の方法を検討すると共に、国内における格差を是正することで、移民労働者に対する憎悪や排斥という形で不安と不満を利用しようとする政治勢力を抑えることが必要である。

政治と外交の領域で考えれば、まず政治の領域では、各主権国家の中で国内の不安や不満を排外的憎悪に誘導させないように、政府に経済格差や貧困に悩む人たちの不満解消のための施策を行わせるために、民間からの圧力をどのような形でかけることができるかがカギである。この点に関しては前回で述べた声を出せない弱者や被差別者の声を政治の世界に反映させるような運動が必要となる。

一方、外交に対しても、武力に依存した対抗ではなく、非軍事化に向けた解決策を模索するように、働きかけを強めていく必要がある。同時にNGOの国際的連帯の強化によって、地球的規模での非軍事化への圧力を大きくしている努力が求められる。具体的には、非核と軍縮に向けた地球的規模での世論の形成が期待される。

筆者近影

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