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透けて見える接待の狙い

寄稿:飯室勝彦

2021年3月4日


 放送関連会社による総務省官僚の接待問題は、菅義偉首相の長男の存在そのもので接待の狙いが透けて見えるのではないか。疑惑の浮上、突然の体調不良、渦中の緊急入院、そして辞任、国会での追及回避・・・・・・既視感漂う展開の中で隠そうとすればするほどその実相は色濃くなるように見える。関係者の釈明を聞いていると、いわゆる “疑惑” をめぐる論議のたびに出てくる言葉の数々が浮かんでくる。

◎下心 = ひそかに考えていること。もくろみ。 (三省堂『新辞林』)
 総務省の調査によると、2016年から20年にかけ、同省幹部ら13人が計39回、60万円超の接待を受けていた。単純に割り算をすれば、一回あたり 1 万5000円余、一人あたりでは 4 万6000円余である。これを高いというか、それほどでもないと考えるかは人にもよろうが、日常の付き合いの中で特別の思惑なく “奢る” 金額ではあるまい。まして辞任した内閣広報官、山田真貴子氏が総務官僚時代に接待された単価、 7 万4000円が「破格の金額」であることには異論がないだろう。

 接待した東北新社は映画の制作、配給で広く知られているが、衛星放送事業も手がけている。菅首相の長男はその会社の部長をしており、接待の席にもいた。
 総務省は放送に関して大きな権限を持っており、放送事業者は自社に有利な放送行政の展開を期待して総務省官僚を丁重に扱うのが一般的で接待もその一環だ。いわば「下心」を隠しての接待であり、長男は下心を実現するための切り札だった。
 菅首相は内閣官房長官を長い間務めたが、かつて大臣をした総務省も権力基盤であり、影響力を保持している。東北新社はその息子が背負う威光に期待を抱いていたに違いない。営利企業である企業が損得抜きでご馳走してくれるはずがない。官僚の側は相手の「下心」を承知していないはずがない。

◎以心伝心 = 考えていることが言葉を使わないでも互いにわかること。 (同)
 接待された官僚たちは「一般的な懇談だった」「相手から特別の働きかけはなかった」などと釈明し、見返りは求められなかったと説明した。国会に呼ばれた山田氏は「一般的な放送業界の話題は出たかもしれないが私にとっては大きな問題ではなかった」という趣旨の答弁だった。
 いまどき接待の席で企業の側が露骨に要求を持ち出す古典的事例は希有だ。官僚は自分の担当業務を把握していれば目の前にいる業界関係者の下心など黙っていても推察できる。「以心伝心」、わざわざ業者側が要求をあからさまに口にするまでもないだろう。

◎忖度 = 他人の気持ちをおしはかること。推察。 (同)
 首相の長男の存在は「忖度」を思い出させる。森友学園に対する国有地の不当な安値売却の背景には、安倍晋三首相 (当時) の夫人、昭恵さんと学園関係者との親しい付き合いがあった。そのことから財務官僚が安倍首相の心中を忖度し、超安値で売却したとの疑いが生じた。財務省幹部は首相に忖度して公文書を書き換えることさえした。
 安倍首相の盟友とされた人物が経営する加計学園の獣医学部新設に異例の認可が出た問題でも、文科官僚が安倍氏の意向を忖度したのではないかと論議された。
 安倍氏による長期政権下では、官房長官の菅氏を中心に政治が過度に官僚を支配し、官僚たちは政治家の気持ちを忖度することがならいになった。東北新社側が、長男を接待役に加えることで官僚に菅氏の気持ちを間接的に忖度させることを狙ったのは確実だろう。

◎お茶を濁す = 表面だけ取りつくろってその場を切り抜ける。 (同)
 政権の側は、山田氏の辞任と、接待を受けた官僚たちの懲戒処分で幕引きにしようとしたが、これは文字通り「お茶を濁す」である。徹底した調査で放送、通信など総務省に関連する行政を全面的に洗い直さなければならない。
 総務省は「放送行政が影響を受けたことはない」と言い、「他の企業からの接待はなかった」としていたが、複数の幹部がNTTグループ側から高額の接待を受けていたという報道もあり、報じられた幹部は会食したことを認めた。放送、通信など利害関係のある企業からの接待がむしろ日常的だったのではないか。
 電波は国民の財産であり、電波、放送、通信行政は透明、公正でなければならない。そのためにはここでお茶を濁すことを許してはならない。

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