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【NPJ通信・連載記事】音楽・女性・ジェンダー ─クラシック音楽界は超男性世界!?/小林 緑

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第74回 : ポリーヌ・ガルシア=ヴィアルド生誕200年企画・ご案内

2021年6月12日


 オリ・パラ狂騒でいよいよ底も抜けてしまいそうな現況ですが、読者の皆さまにはいかがお暮しでしょうか?
 このような折にコンサート関連のお話をするのは、大変気が引けるところではありますが、クラシック馬鹿で生き延びた79歳に免じて、どうかお許しください。
 標記ポリーヌ・ガルシア=ヴィアルド Pauline Garcia-Viardot については、すでに何回も本連載で取り上げましたのに、改めてなぜまた ? といぶかる向きもあるかもしれません。そこでまず、今回のチラシに記した企画の意図を御覧いただこうと思います :

♪ ポリーヌ・ガルシア=ヴィアルド生誕200年記念に際して

 1821年に生まれ、1910年に没するまで、ほぼ19世紀を生き抜いたポリーヌ・ガルシア=ヴィアルド。ショパンのマズルカを歌曲に編み直した曲集を通じて初めてこの名前を知りました。以後折に触れ私が目にした資料では、その名をほとんど “ポリーヌ・ヴィアルド” と記しています。けれど、この婚姓だけでは、19世紀欧米の音楽・文芸に抜きがたい影響を及ぼした女性の実像は、とても伝えきれません。生家ガルシア一族もまた、オペラなどにおいて圧倒的な足跡を残した音楽の名門だったからです。眩いまでのポリーヌの才能と人間性は、何世代にもわたる血縁・地縁のつながりから育まれたものだったのです。煩雑を承知のうえでのダブルネーム使用、まずはご理解くださいますように。

 2010年の祥月命日に合わせた没後100年、次いで 3・11の未曽有の悲劇を悼み 1 年後の2012年と、合わせて 2 回、ポリーヌを主題にコンサートを実施、ともにすばらしい音楽家たちにご出演いただき、所期の成果を上げることが出来ました。30年来続けてきた女性作曲家研究もこれにて区切ろうか、と思う反面、音楽界でも女性軽視・格差は一向に改まらぬままおよそ10年・・・今、かつて経験したことのないコロナ禍に翻弄される世界が広がっています。

 没後100年記念の際、元気でいれば生誕200年もお誕生日を祝って・・・と夢見た記憶がよみがえりました。そういえば拙宅の楽譜棚に埋もれているポリーヌの、それもまさに誰の心にも届くポピュラーな趣の作品を、今こそ聴きたい、世に送りたいと願って企画したのが、この 3 回目のコンサートです。あの 3・11から10年目、大げさな振る舞いは不要との考えも強まりました。歌い手とピアニストのみの、最もミニマムな形に留めたのはそのためです。

 お力添えいただく波多野睦美さん、山田武彦さんに、改めて心よりの謝意を捧げます。
 今回は座席数も限り、ご不自由をおかけしますが、ライヴで演奏に接する幸運に免じて、どうぞご了承ください。

             2021 ・ 3 ・ 8 = 国際女性デーに当たって : 小林 緑

 以上に少しばかり補足コメントを。
 ダブルネーム表記を敢えて使ったのは、言うまでもなく、選択的別姓制度さえいまだ認めないこの国の政治意識に対する積もり積もった憤懣を、読者の皆様にも共有していただきたかったからです。

 また、座席数を半数に限る、と当たり前のお断りをしたのは、やはり正解だった、と思わざるを得ません。というのも、このチラシが完成して 1 か月ほどの先ごろ、文化会館大ホール、そしてオペラシティコンサートホールと、最も権威ある ? この国の 2 つの音楽会場にて、ほぼ満席、座席数を限るといった配慮もなく、普段通りの運営がなされていたことに、心底驚いたからでした。クラシック界の人間には、コロナ禍など及ぶはずがない、との能天気が蔓延しているのでしょうか・・・?

 さて、肝心のコンサートの内容は以下の通りです :
 
 ポリーヌ・ガルシア=ヴィアルド Pauline Garcia=Viardot (1821-1910)
 ―生誕200年記念コンサート:その溢れる歌心に希望を託して

 日時 : 2021年 7 月18日 (日) 
    14時開演 (開場13時30分 / 終演予定16時30分)
 会場 : 銀座・王子ホール

 出演 : 波多野睦美 メゾ・ソプラノ
    山田武彦 ピアノ

 企画・構成・お話 : 小林 緑 (国立音楽大学・名誉教授)
 主催 : 知られざる作品を広める会 (代表・谷戸基岩)

♪ プログラム :
  
こんにちは ! わが心 Bonjour, mon Coeur! 詞・ピエール・ロンサール (1895)
セレナード Sérénade 詞・テオフィル・ゴチエ (1884)
セレナード 上記独唱曲をポリーヌ自身がピアノ用に編曲 (1885) ピアノ独奏
マズルカ 嬰ヘ短調 作品 6/1 フレデリック・ショパン (1830) ピアノ独奏
愛の嘆き Plainte d‘amour  詞・ルイ・ポメイ (上記ピアノ曲を独唱用に編曲,1840年代初出?)
母と子 L’enfant et la mère  詞・不詳
ポリーヌがもっとも愛した同時代の作曲家シューベルトの『魔王』の女性版? (1843)
星  Die Sterne 詞・アファナシ・フェート 
ポリーヌを終生愛し称えたツルゲーネフの協力で、ドイツ語出版が実現した歌曲 (1864)。

休憩

バレエのための二つのエール Deux airs de ballet(1904):
 1 . [無題] Moderato 2 .いたずらっぽい女 Malicieuse ピアノ独奏
嘆き苦しんで L’afflitta 詞・不詳 トスカナ地方の民衆歌謡集より (1878)
君の髪 Ta chevelure 詞・ヴァンサン・デ・ロイス ナポリ風歌謡 (1905)
うまいぞ、ペピータ Alza Pepita ! [ホタ : スペインの民俗舞踊] (1906 : 出版された最後のピアノ曲 ?) ピアノ独奏
マズルカ Mazourke ポリーヌ自作として伝えられる唯一のマズルカ (1905) ピアノ独奏
彼女は去ってしまう Elle passe ! 唯一確認されたポリーヌ自作詩による歌曲 (1904)
自由よ ! Liberté お小姓の唄 詞・ステファン・ボルデーズ : 最後の出版歌曲 (1906)
君を愛したい Ti voglio amar 民謡風南方の歌曲 (1905)

しつこく追加のコメントを :
 ポリーヌの煌めく交友関係のなかから、ツルゲーネフ及び露仏の文学サークル、ショパンとサンド、シューベルトやリストに焦点を当てた今回の、しかし一番の目玉は、休憩後の第二部に並べた20世紀に入ってからの作品たちです。いうなれば「巨匠たち」の晩年・後期作品群に当たるのですが、といって私がそうした高尚で難解なスタイルをポリーヌに求めるはずもありません ! そうではなくて逆に、現代音楽と一括りにされる20世紀に入ってなお、19世紀の情念もあからさまな造り方、つまり誰とも心情を共有できるポピュラーな感覚の音楽観をポリーヌがしっかり保ち続けたことに、心より賛意を表したかったからでした。

 そしてそのもっとも典型的な顕れが、軽やかで明るいラテンの血脈に支えられたスペイン風の歌曲であり、器楽曲なのです。言い換えれば、重厚長大の代表格である、ドイツ・ゲルマン的な様式からは最も遠く離れた音楽路線です。ところがこの後者こそが「クラシック」であり、それ以外は取るに足らぬもの、と捨て去る価値観が世界に蔓延しており、グローバル化の潮流がそれに輪をかけています。

 ポリーヌの出自、ガルシア一族はロマとも噂されるラテン系スペイン、そこで命を授かったポリーヌは、男女両役を演じ分けたとはいえ、性別としては女性です。こうした存在こそ、様々な意味で日本における音楽の「常識」を問い直す格好の対象となり得るのでは、と確信しています。彼女の200歳の誕生日に捧げるコンサートを、どうぞそのようにご理解いただき、お楽しみくださいますように。

 もう一点、やはりポリーヌ生誕200年に合わせた企画のご報告をさせてください。
 流山市男女共同参画室の委託を受けたNPO法人「パートナーシップながれやま」の依頼により実施したものですが、とりあえず、チラシ[図版2]と当日用プログラムに載せた作曲者紹介のページ[図版3]を、載せておきましょう。こちらはポリーヌのみでなく、娘と息子、さらに一時ヴィアルド家が普仏戦争の危険を避けてパリから移り住んだバーデン─バーデンを本拠としていたルイーゼ・アドルファ・ルボーの作品と織り交ぜて構成しました。娘ルイーズのピアノ四重奏曲を最後に置いたのは、その余韻を来る 7 月18日の誕生日コンサートにつなげたく図ったからでしたが、その狙いはピタリはまった・・・自己満足に浸ってもおります。

 コンサート・タイトルと出演者、そして曲目を改めて記しておきましょう :

 「ポリーヌ・ヴィアルド生誕200年をめぐって : ―
 ヴィアルド母子と同郷のルイーゼ・アドルファ・ルボーの室内楽」

佐藤久成 ヴァイオリン : 村田恵子 ヴィオラ : 江口心一 チェロ : 内門卓也 ピアノ

ポリーヌ・ガルシア=ヴィアルド (1821-1910) :  
  ピアノとヴァイオリンのための 6 つの小品
ルイーゼ・アドルファ・ルボー (1850-1927 : ドイツ・ロマン派最強の作曲家の一人) :
  ヴィオラとピアノのための 3 つの小品
ポール・ヴィアルド (1857-1941 : ポリーヌの第 4 子、唯一の息子) :
  チェロ・ソナタ
ルイーゼ・アドルファ・ルボー :
  ピアノ三重奏曲
ルイーズ・ヴィアルド=エリット (1850-1927 : ポリーヌの長女)
  ピアノ四重奏曲『スペイン風』

 実は流山市からは2014年の男女共同参画週間のプロジェクトとして女性作曲家のコンサートをぜひ、との打診があり、喜んで実施に向け準備した日々の記憶が蘇ってきました。 
 その時は結局女性作曲家 4 人、「ヴァイオリンとハープとピアノの競演」と題して若手女性ばかり 3 人に演奏をお願いしましたが、予想以上の大好評をいただき、以後実質代表者であった方々とはさまざまなシーンで交流するご縁が続いています。

 今回は「男女共同参画」にたがわぬよう、女性作曲家は外せないので、出演者は思い切って男性ばかりに、と思わぬでもなかったのですが、そうなれば女性の活躍の機会を奪うことにもなってしまう・・・でも、考え直せば、日本のクラシック・コンサートでは、いつも作曲家は男性ばかりなのに、それを演奏するのは圧倒的に女性の方が多いのは一体なぜ? それはさておき、当日のアンケート結果は、本当に涙が出るほどうれしいものでした。とりわけ、ヴァイオリンをはじめとする出演者 4 人の魂が込められた演奏スタイルに、半分に限られた会場の 100人ほどのお客様が敏感に反応され、最後まで熱気に満ちた雰囲気でした。このコロナ禍にあって、主催者が万全の準備で「何が何でもライヴを ! 」と意気込んでくださった賜物です。7 年越しのお付き合いのありがたみと重みをつくづく噛みしめ、その感覚が消えぬうちにご報告を、と思った次第です。

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