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【NPJ通信・連載記事】音楽・女性・ジェンダー ─クラシック音楽界は超男性世界!?/小林 緑

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第76回 :『ポリーヌに魅せられて』のこと

2023年6月22日

 大変永い間、ご無沙汰いたしました。読者の皆様には、お障りなくお過ごしのことと、心より祈念いたします。
 さて上記標題は、大げさに言えば女性作曲家に開眼して以来の宿願だった本のタイトルです。去る2021年8月以来〔!〕の更新となった今回 (第76回) の内容は、私の初めての単著となった本書の紹介とさせていただくことにしました。どうぞご了承ください。
 加えて、本2023年2月末の刊行にあわせ、以下の原稿を上記の日付けでNPJ事務局に送付済みでした。ところが「掲載しました」のお返事がなかなか届かず、他事に紛れて放置しておりまたら、なんと、先ごろ6月10日、日隅一雄記念授賞式の会場にて、梓澤和幸弁護士から、拙稿の掲載担当を担ってくださっていた小峰晃さんが4月?に亡くなられた由、聞き及んで、文字通り絶句しました。内容に対する感想、図版の挿入場所などまで、細やかにやりとりできていたことに、いつも心から感謝しておりましたのに…直接対面できたのは、ほんの2,3回でしたが、遅ればせ、心よりご冥福をお祈りするばかりです。長い間、本当にありがとうございました。

 さて、本題に入ります。
 まず、本書の表紙をご覧ください。今回、図版はこれのみです。

 ついで以下、報道に携われる方々、執筆に際して直接的な資料や情報を頂戴し、活用させていただいた方々にご送付した際のご挨拶文です(2023年2月2日)。

 『ポリーヌに魅せられて』をお届けします。
2021年7月18日・生誕200年コンサート以来の企画がようやく実りました。
まさかの世界戦争の悪夢に曝されている今、西洋のクラシック音楽の本なんて・・・と敬遠される方も多いかもしれません。
けれど親から受け継いだ命を無碍にしないために、私には女性の音楽を心の支えとするほかない…この想いがポリーヌに結晶しました。昨年は盲腸周りの緊急手術で1か月入院を余儀なくされ、遅くとも2022年内に刊行の悲願も潰えましたが、編集者の辛抱強い協力をいただき、このようにご披露出来ることになりました。
改めて関わられた各位に謝意を表します。
隙間時間にお読みいただければありがたいです。
寒暖の差が激しい時節、ご自愛専一にお過ごしくださいますよう…

 次に内容説明に代えて、目次の紹介に若干のコメントを加えさせてください:

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はじめに

1章 生誕200年コンサートのプログラムから 

2021/7/18、200歳誕生日記念コンサートの企画趣旨―ポリーヌの主要作品概略―
家系 + 交流人物図 (ポリーヌ自身によるツルゲーネフなどの人物像付) ―略年譜

2章 生涯のあらまし

『女性作曲家列伝』(1999)の「ポリーヌ・ガルシア=ヴィアルド 19世紀オペラ界のスーパースター」の再掲が中心。ただし本書執筆まですでに25年を経ているため、その間に得た新情報から以下を加えて再構成。

    追記1=男性文化人初のフェミニスト?森鷗外の貢献について
    追記2=ユリウス・リーツとの交流

3章 声とジェンダー―コントラルトの声とは?

廃刊となった音楽専門誌『音楽芸術』最終号 (1998,12月) に寄稿した拙論に、NPJ通信第13回と第14回の記事もあわせ、補足修正。授業や講座で視聴・試写した様々な歌・歌手のメモ書きも、新たに付記。

4章 歌唱教師、歌唱教材編者としてのポリーヌ

「古典歌曲集」、「シューベルトの50の歌曲集」、「女声のための練習曲集」、これら3つの曲集の大雑把な紹介に、パリ音楽院声楽教授の辞職願書簡を加えてポリーヌの教育観の大枠を示した。追加のコラム「以外な接点・ポリーヌと柳兼子」では、洋の東西をつなぐ音楽の効能についても、愚考をめぐらせた。

5章 鍵盤楽器奏者・作曲家としてのポリーヌ

女性作曲家研究を牽引するソフィ・ドリンカー研究所の提案に応じて寄稿。
歌のみに特化されがちなポリーヌの、ピアノ・オルガンに拠る実績を、略年譜と作品概観により素描。

6章 社会参画とポリーヌ:カンタータ《新しい共和国 La jeune république 》をめぐって

女性作曲家コンサートの礎であった津田ホールの消滅のいきさつから始め、ポリーヌ晩年のロシア社会との関係、夫ルイとサンドの発案した愛国カンタータ作曲など、音楽と時代背景が交差する側面を通してポリーヌの社会意識に注目。続く世代に男女平等を目指し果敢に行動したグレンダール、スマイス、アンドレェ、バレーヌ、さらにデンマーク女性との書簡から判明した知的障碍教育の先駆者、石井筆子にも触れた。

7章 パントマイム《日本にて Au Japon》をめぐって

《列伝》では触れ得なかったジャポニスムを題材とした舞台音楽の概要。台本作者サビーヌ・マンセルとのコラボを通じ、夫とツルゲーネフ没後のポリーヌの生きざまも仄聞。小さな室内合奏版の草稿とピアノ独奏用出版譜の説明も挿入。加えて2014年国際女性デーにて、日仏女性研究学会の企画で一部を実演済みの情報も改めて載せた。

結びに代えて―ポリーヌと出会えた至福を想う

200年記念コンサートの感想文から賛否の1例づつ紹介。最終的ポリーヌ像として、言葉の真の意味での“フェミニストでは?”と独断を披露。

あとがき

本文中に敬称抜き取り上げた恩人・知人に捧げる謝辞のリスト。直接交流なしでも多くの教えを頂いた方々までお名前を挙げた。全員を「さん」で統一、ご了承願う。

バーデン=バーデンの有名女性と、その住居地図

短期間(1863-70)移住したヨーロッパ夏の首都バーデン=バーデンにて、充実したサロンを運営したポリーヌほか、当地の名高い女性宅の地図(1999)を略記。

付録①《日本にて》の室内アンサンブル用への改変版より、ポリーヌ自筆のメモについて
付録②ポリーヌの歌曲《こんにちは、わが心》楽譜と対訳
付録③本書で参照したポリーヌの声、生涯、作品に関する主な文献B〔原著出版年代順〕
付録④デイスコグラフィD〔年代順。録音の意義、演奏内容などに共感した事例のみ〕

人名索引

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 以上、本文と付録合わせて250ページ、編集者が頑張ってよい紙質を選んでくれたおかげか、結構分厚い本です。装丁がすてき!との反応が多く、嬉しい半面、肝腎の本文を読んでいただけないかも・・・と勝手に悩んでいます。有難いことに書評・紹介記事のお知らせもいくつか、頂きました。

 ただし発送作業をこなすうち、とんでもない誤植や欠落が見つかり、がっくり!急遽正誤表を造り、在庫分に挟み込んでいます。すでにお届けした方がたには、この場を借りて、お詫びさせてください。

 それにしても、目次の紹介だけではあまりにも漠然として、読む気も起きないのでは…そこで最後、正式出版(2月20日)に合わせ、恥ずかしげもなく売り込みに努めた一文で、本稿の結びとさせてください。

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 「梨の木舎からポリーヌの本を出しました!3年ほど前、“女性文化賞授賞式”の記事を伝手に初見参した梨の木舎。意義深い企画、素敵な参加者たち、アメニティ・カフェの看板通りの内装、供された自然食、企画者の優しい気配り…本業のクラシック女性作曲家の復権もこうした環境で、との夢が叶いました。19世紀最高の音楽人ポリーヌ・ガルシア=ヴィアルド (1821-1910) にとっては”歌こそ命のすべて“。小林の独断によるポリーヌ像をぜひ、お読みください!」

 以上は梨の木舎でのオープン・カフェ (2023・1・26) に記した宣伝文の要約です。実物を手に取って直にご覧いただけないのは、残念至極ですが、梨の木のデザイン担当者による赤ワイン色と紫を配した表紙を、私はとても気に入っています。本体の随所に手持ちの写真や図版も総動員しました。楽曲自体を聴けない音楽書の致命的不利を、目いっぱい補ったつもりです。

 本書最大の売りは、第二のフランス国歌候補となった合唱曲『新しい共和国』(1848)、そして当時全欧を席巻したジャポニスムに拠るパントマイム作品『日本にて』 (1891) を紹介した二つの章です。天国のポリーヌに、二つの作品を日本で実演し、その成果をお贈りしたい ! ―夢を大きく膨らませながら、余生を過ごす覚悟です。

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