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改憲……トリッキーな安倍戦略

寄稿:飯室勝彦

2015年2月5日

首相の安倍晋三が憲法改定にますます前のめりになっている。2015年2月4日、自民党の憲法改正推進本部長・船田元と会い、改憲の国会発議、国民投票の時期について「来年(16年)夏の参議院選後」を目標とすることで一致した。

改憲への具体的スケジュールを明示したのは初めてだが、このような安倍の言動、自民党の動きは国民を欺くものではないか。

安倍自民党は、昨14年暮れの衆議院選では改憲を前面に出さず、棚上げしたかのように装った。かわりに最大の争点に据えたのが消費税再引き上げの延期だった。

ところが選挙で大勝、衆議院の改憲発議に必要な3分の2超を自民・公明で得ると、改憲をまた声高に主張するようになった。

「国民の中で憲法を改正していこうという機運が盛り上がっている情況ではない」――選挙中、そう語った舌の根も乾かぬうちに「公約で約束したことはしっかりと実行していかなければならない」とやる気満々の姿勢を示している。「我が党はすでに改正案を示している」とも語り、12年4月に公表し、厳しい批判を浴びた自民党改正草案に対する反省のそぶりも見せない。

有権者が投票するまで爪を隠しておき、選挙が終わったとたんにその爪をむき出しにしたようなものだが、もともと安倍の改憲戦略はトリッキーである。

はじめに言い出したのは、国会における改憲発議のハードルを下げる現憲法第96条の単独先行改定だった。発議には「衆参各議院で総議員の3分の2以上の賛成が必要」とされているところを「過半数の賛成」で足りることにしようとした。

目指す“本丸”はもちろん第9条だ。「戦争ができる普通の国」にするためにはどうしても変えたい。そこで「96条は単なる手続き規定」と宣伝することで国民の目をくらまし、突破口を開こうとしたが、国民はだまされなかった。学界はじめ広範な国民各層から「立憲主義に反する」などと猛烈な批判を浴び引っ込めざるを得なかった。

9条改訂のハードルを再認識した安倍が選んだ当面の作戦が、集団的自衛権の行使を容認する政府見解の変更だったのである。

ただし、安倍が9条をなくすことに依然として固執しているのは言うまでもない。いわゆる「イスラム国」によるジャーナリストらの殺害事件で多くの人たちが衝撃を受け、自衛隊の海外派遣も議論された2月3日の参議院予算委では「なぜ(9条を)改正するかと言えば、国民の生命と財産を守る、その任務を全うするためである」と述べている。

「国民の生命と財産を守る」とは聞こえがいいが、軍事力では命も財産も守れず逆に大きな被害をもたらした歴史的事実を直視すると、同意に慎重にならざるを得ないだろう。

安倍と船田との会談では当面の改憲テーマの候補として、環境権、緊急事態への対処条項、財政健全化条項などがあがったという。あまり異論が出そうにない事項を中心に国会の憲法審査会や政党間協議で絞りこみ、国会発議に持ち込みたい意向だという。

船田は正直だ。このスケジュールを「1回目の憲法改正は……」という文脈で語り、目指すゴールが9条を柱とする平和主義の否定であることを隠さない。国民が受け入れやすい事項で改憲の実績を重ね、抵抗感を緩和させて本格的改憲に持ち込もうとの戦略だ。

環境権や財政健全化条項は、市販されている風邪薬にたとえれば、苦みを隠す糖衣の役割を担うことになる。国民は甘く飲みやすいので受け入れているうち、糖衣の下の苦い部分、はては毒までもつい、となりかねない。

それだけに一見問題がなさそうな改憲条項でも安易に同意するのは危険だ。本当にその条項がなければ目的を実現できないのか、現行憲法を活用すれば解決できるのではないかなど、現憲法の有効範囲を現実に照らしてじっくり吟味し結論を出したい。

憲法をめぐる環境は決して楽観できない。投票年齢を18歳以下とする国民投票法改正が成立しており、改憲案が国会で発議されれば国民投票を実施できる状態になっている。

それにもかかわらず国民一般の関心は必ずしも高くない。実際の戦争を知っている世代の国会議員はほとんど引退し、安倍のように二項対立式の単純な思考・判断しかできない若い議員が多くなっている。

おまけにその国会議員と有権者との意識の乖離が著しい。2月1日付け朝日新聞朝刊が報じた朝日と東大・谷口将紀研究室の共同調査によると、有権者全体のうち改憲賛成は33%なのに昨14年末の総選挙で当選した衆議院議員の84%は賛成だ。それぞれ思惑が違うとはいえ、野党議員にも改憲派は少なくない。有権者の意識が政治家に正しく反映されず、言葉は悪いが“票泥棒”と言いたくなるような実情である。

安倍政権を監視するだけでは平和憲法は守れない。身近な議員一人ひとりを積極的に監視、チェックして大事な1票を盗まれないようにしたい。

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