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【NPJ通信・連載記事】時代の奔流を見据えて─危機の時代の平和学/木村 朗

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人質事件がもたらした日本社会・メディアの変容と思考停止状態
~「対テロ戦争」下でのなし崩し的なファシズム・戦争国家化の危うさ~(上)

2015年2月9日

最悪の結果を招いた日本政府の対応を厳しく検証せよ

湯川遥菜さんに続きに二人目の日本人人質となっていた後藤健二さんの殺害が今月(2月)1日未明に明らかとなりました。今回亡くなられた後藤健二氏は、私も知人の紹介で昨年個人的に知り合っていた方で、紛争地の実態を現地の人々、特に子供たちに寄り添ってそのありのままの姿を熱心に伝えられてきた魂のある心優しいジャーナリストであることが初対面でも強い印象に残るようなお人柄でした。それだけに無事の生還が叶えられなかったことは本当に残念です。残されたご家族の皆様のご心情をお察しし、心から哀悼の意を表します。

そして、イスラム国(ISIL)による無辜の民間人虐殺は、たとえ米英主導の有志連合やイスラエルなどによる空爆に対する報復という理由があったとしても決して許されない蛮行であり、ここに強く非難します。拘束した無抵抗な人間を処刑するのは戦時下であっても明確なジュネーブ協定違反・戦争犯罪であり、イスラム国(ISIL)に非があるのは自明であるからです。その一方で、このような最悪の結果を招いた日本政府の対応は今後あらゆる方面から厳しく検証されなければならないと思います。

そこで最初に、今回の人質事件での日本政府の対応で何が問題だったのかを考えてみます。

第一に、そもそもなぜ日本人がイスラム過激派組織による卑劣な攻撃の標的とされることになったのかという問題です。それは2011年の9・11事件を契機にブッシュ米政権が発動させた「テロとの戦い」に当時の小泉政権が直ちに全面的支持を表明したことに起点を求めることができます。日本はその時以来、米国が主導する「テロとの戦い」に協力するために対テロ特措法(2001年)や対イラク特措法(2003年)を制定してアフガニスタン戦争に海上自衛隊、イラク戦争に陸海空すべての自衛隊を派遣して後方支援活動を行ってきました(特に、イラク戦争では航空自衛隊が武装した米兵や武器・弾薬などを輸送していたことがのちに判明し、2008年5月に名古屋高裁で違憲判断も出されています)。

つまり、米国を中核とする対テロ戦争の有志連合の一員として日本が参加しはじめたことが、それまでずっと親日的であったイスラム社会からの反感を生みだし、イスラム過激派組織から彼らの憎むべき敵として攻撃対象とされるようになった根本原因だといえます。すでに、これまでにも何度か人質事件(2004年4月の高遠菜穂子さんら3人と安田純平さんら2人の2件の拉致事件、10月の香田証生さん人質殺害事件)が起こり、特に第一次安倍政権下(当時も安倍晋三首相・菅義偉官房長官の同じコンビ!)の2013年1月にアルジェリアで発生した日本人人質事件では10名もの多くの犠牲者を出すにいたったことをまず記憶に留めておく必要があると思います。その意味で、孫崎享氏(元外務省国際情報局長)がハフィントンポスト日本版の取材に対し、「今回の事件で一番、重要なことは、後藤さんがイスラム国に何か危害を与えて殺されたのではなく、日本人であるが故に殺されたことにある」と指摘しているのは注目に値します(孫崎享のつぶやき2015-02-02 07:16「安倍首相の下、海外の日本企業、邦人はテロが及ぶことを想定しなければならない」を参照)。

第二に、日本政府・安倍政権がイスラム過激派組織であるイスラム国を敵視する姿勢を明確に打ち出したことです。特に重大なのは、今回の人質事件発生に安倍首相のこれまでの言動が深く関わっていると思われる点です。

安倍首相は米国がイスラム国空爆を開始し、湯川さんがイスラム国に拘束されたあとの昨年9月26日にニューヨークでの記者会見で、「武装勢力による攻撃を強く非難する。国際社会の戦いを支持し、米国などによるシリアでの空爆はやむを得ない措置であったと理解する。」との見解を示しました。その前日にイラクのマスーム大統領と会談した際に安倍首相は、「日本は,イラク政府も含む国際社会のISILに対する闘いを支持しており,ISILが弱体化され壊滅されることにつながることを期待する」と述べています(外務省HPよりhttp://www.mofa.go.jp/mofaj/me_a/me2/iq/page1_000073.html)。また、オランド仏大統領との会談でも、安倍首相は「イスラム国の存在は国際秩序全体を揺るがす深刻な脅威だ。今回の行動でイスラム国が弱体化、壊滅につながることを期待している」と強調しています。

そして、今年1月に中東諸国(エジプト、ヨルダン、イスラエル、パレスチナ自治区の4カ国・地域)を日本の代表的な軍需産業幹部を引き連れて訪問し、イスラム国と闘う周辺国に2億ドルを提供することをエジプトのカイロで発表するとともに、イスラエルとの緊密な協力関係確立を宣言したのでした。

1月17日にカイロで安倍首相は、「イラク、シリアの難民・避難民支援、トルコ、レバノンへの支援をするのは、ISILがもたらす脅威を少しでも食い止めるためです。地道な人材開発、インフラ整備を含め、ISILと闘う周辺各国に、総額で2億ドル程度、支援をお約束します。」と演説しています。

(外務省HPよりhttp://www.mofa.go.jp/mofaj/me_a/me1/eg/page24_000392.html)

また、1月20日に日本人2人の殺害予告ビデオ公開を受けて、安倍首相はイスラエルでの記者会見で日章旗とイスラエルの六芒星の国旗を背景に、「卑劣なテロはいかなる理由でも許されない。断固として非難する。」と述べています(2013年1月のアルジェリア人質事件でも、当時ASEAN会議に出席していた安倍氏の「断じて許すことはできない」との強硬発言が、武装集団のリーダーらの怒りを煽り、日本人大量殺害の「一つ目の原因」になってしまった可能性があるとの重い問題提起がすでになされていたことが想起されます)。

このような安倍首相の一連の言動、特に中東を訪問したタイミングやエジプトでの演説などが、イスラム国に日本人を攻撃する口実を与えたのではないかと推測できます。そのことは、イスラム国が最初の動画で2人の日本人人質解放の条件として2億ドルを要求していたことからも裏付けられます。イスラム国の立場からみれば、安倍首相が彼らをテロリスト集団とみなして空爆を続けているイスラエルを含む中東の有志連合を訪問して、公然とイスラム国に敵対する示威行動を日本が取ったに等しいと理解されるのではないでしょうか。

第三に、今回のイスラム国による日本人人質拘束事件の対策本部をヨルダンに設置してきたことです。安倍政権は、湯川さん拘束後の昨年8月16日にヨルダンに現地対策本部、翌17日に首相官邸の情報連絡室、外務省の対策室をそれぞれ設置し、11月1日に、後藤さんの行方不明事案も加えたと説明しています(この政府答弁には、川内博史氏が2月2日にツイッターで、「イスラム国による邦人殺害事件。昨年の8月16日、ヨルダンに現地対策本部を設置した、という総理の国会答弁がある。その根拠となる、外務本省から現地大使館に宛てた指示文書(公電)の公表を求めたが“あるとも、無いとも言えない”という回答。知らしむべからず、寄らしむべしということか。」と述べているように、大きな疑問点が残ります)。

しかし、なぜ交渉の窓口を空爆に参加せず人質解放の実績もある中立国のトルコではなく、親米国でありイスラム国空爆を繰り返している米国主導の有志連合にも参加しているヨルダンとしたのでしょうか。これは明らかに日本政府が初動段階で犯した“致命的なミス”であったといえるのではないでしょうか。なぜなら、この選択がイスラム国を刺激・挑発して態度を硬化させる要因の一つとなったと考えられるからです。イスラム国側から見れば、現状で最も敵対している国の一つであるヨルダンに日本政府が対策本部を設置したことで、日本および日本人全体が「敵陣営」に加担したようにとらえられた可能性があります。実際、ヨルダン政府に日本人人質解放の交渉を委ねたことによって、後藤さんの解放の条件とヨルダン人パイロットの安否問題が交錯して、結果的に人質交換に失敗して後藤さん殺害という最悪の事態を招くことになったのではないでしょうか。同志社大大学院教授で中東問題の専門家・内藤正典氏も、1月26日のテレビ朝日『報道ステーション』で、「今となっては遅いのですが、事件発生当初の段階で、(日本政府が協力を)トルコに要請をしていれば、まず、トルコ国民は日本の要請に関していえば、ほぼ100パーセント好意的にみるんですね。日本の為になにかしなければいけないと(トルコは)思う」「しかも人質を49人昨年とられて、3ヶ月におよぶ交渉のすえ、全員無事解放している。なおかつ米軍の対イスラム国の攻撃要請に対しては頑として首を縦に振らない。攻撃のためには基地を貸していない」と語っています。

それでは、なぜ日本政府はトルコではなくヨルダンを選択したのでしょうか。まず、これは米国の顔色を伺ったという判断が濃厚、つまり米国の意向を安倍政権が忖度して行った可能性が高いのではないかということが考えられます。また、この判断には、「今回の人質交渉を担っているのは外務省の中東アフリカ局だが、同局はアラビア語の研修を受けたアラブスクール出身者が主流のため、トルコ系のルートは軽視されがち」という外務省の事情も関係したのではないかともいわれています(「なぜトルコでなくヨルダン…日本政府が対イスラム国交渉で犯した“選択ミス”」 2015.01.29. Literaリテラhttp://lite-ra.com/2015/01/post-826.htmlより)。

日本政府が本当に人質解放に総力を挙げて取り組んできたのかについても詳細な検討が必要です。というのは、過激派組織「イスラム国」を名乗るグループによる日本人人質事件で、日本政府が日本人2人が拘束されている可能性を昨年12月に把握しながら、殺害予告があった1月20日まで、現地対策本部のある在ヨルダン日本大使館の人員を増員していなかったことを明らかになっているからです。

(『東京新聞』2015年2月4日 朝刊http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2015020402000127.htmlより)。

また、日本政府はヨルダンに現地対策本部を設けて中山泰秀副外相を派遣して現地での指揮を取らせていたといわれますが、この人選にも首をかしげざるを得ません。なぜなら、この中山氏は日本・イスラエル友好議員連盟元事務局長であり、イスラム国に対して激しい空爆を昨年夏から繰り返して行っているイスラエルと深い関係のある人物が今回の人質解放交渉にふさわしいとは到底思われないからです。

いずれにしても、この間に日本政府はどれだけ危機感を持って人質問題に対応してきたのかは大いに疑問です。もしこのような経緯・理由によって二人の日本人人質の尊い命が失われたとすれば、安倍政権の犯したのは“致命的なミス”というよりも国民をあえて見殺しにする国家的な“犯罪行為”であったといわねばなりません。日本政府・安倍政権は、「人命尊重」よりも「テロに屈するな」に重きをおいてきたのであり、最初から人質の命を助けることよりも、米国主導の「有志連合」による空爆への間接的支援を優先していたことは明らかです。

そもそも日本は「有志連合」にいつから入っていたのでしょうか。後藤さんが殺害された翌日の2月2日で、菅官房長官は、ブリュッセルで開かれた約60カ国・地域の閣僚級会合に日本が参加した昨年「12月3日」という認識を示しました。ところが、米国務省のHPで確認すると、「昨年10月1日」付で有志連合の参加国リストを公開しており、計61カ国・地域の中に「Japan」の文字がしっかり記されていました。この「食い違い」を民主党の辻元清美議員に指摘されると、岸田文雄外相は「昨年9月19日にケリー米国務長官主催でイラク情勢に関するハイレベル(外相級)安保理会合を開いた。日本からは薗浦健太郎・外務政務官が出席。その直後、(有志連合の)リストが公開された」と答弁しています。

(いつから『有志連合』入り?まともに答えられない安倍政権「日刊ゲンダイ」2015年2月6日http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/157003より)。

日本がいつから参加したのかサッパリ分からない、このようなデタラメな答弁を繰り返すようでは、私たち国民は一体何を信じればいいのでしょうか。

第四に、日本政府・安倍政権が人質解放のための身代金支払いに一貫して否定的であったことです。

菅官房長官は、後藤健二氏が殺害されたとみられる動画公開を受けて開かれた緊急記者会見で、当初からイスラム国の要求に対して、日本政府としては「最初から身代金に応じる考えもなく、交渉するつもりは一切なかった」ということを明らかにしています。(2015年2月2日菅義偉官房長官記者会見 http://logmi.jp/36882より)。

しかし、この菅官房長官答弁は、イスラム国がそれに対してどういう対応を取るのかは明らかであったことを考えればあまりにも異常に思われます。過去の例で見ても、交渉を行った国は(おそらく水面下で身代金を払って)人質を無事に解放してもらうことに成功した場合があるからです。その逆に、米国のように相手側の要求を拒否して交渉を一切をしなかった場合は、その人質が殺されるだけでなく、その後も自国民が標的となり続けるという現実があるからです。これまでに米国などの力に任せた人質救出作戦がことごとく失敗して裏目に出たことも知っておく必要があります。そうだとすると、イスラム国が最初から交渉そのものを一切拒否されたらどういう対応を取るのかは明らかであったはずなのに、安倍政権は人質の命が危うくなる可能性を一切考慮しなかったということを意味しています。日本政府は、過去人質事件などでは、福田赳夫首相の「人命は地球よりも重い」という言葉に表れているように、人命救助を最優先して対応してきたはずです。いつから日本はこのような国になったのでしょうか。

この間の経緯を見れば、安倍首相をはじめとする日本政府関係者は、表面的には人質解放のためにあらゆる手段を尽くしているかのように国民に対してふるまってきました。しかし、時には実はそうではないのではと疑わせる言動もありました。その典型は、麻生太郎副総理兼財務相が1月23日の閣議後の記者会見で,「テロリストの要求をのめば、テロリストの要求に屈するのと同じこと」、「(予備費から身代金出す可能性に)今テロに屈する予定がないから、手続きまで考えていない」などと語ったことです。

(麻生副総理「要求のめばテロリストに屈するのと同じ」朝日新聞2015年1月23日12時29分http://www.asahi.com/articles/ASH1R3VHKH1RULFA00B.htmlより)。

このような日本政府の硬直した対応の背後に一体何があったのでしょうか。そのことについて、孫崎享氏は、「米国務省サキ報道官は会見で”身代金の支払いはかえって人々を危険にさらすが米国の考えだ”と述べた上”我々の立場は非公式に日本政府に伝えてある”と明かに」(朝日新聞1月23日)の記事を一つの根拠として挙げて、「この動きは米国の指示と密接に関係している。今回は米国が身代金支払いを行うなと指示してきている。」、「日本の政界は米国の指示は絶対と思っている。菅官房長官の発言は日本国民を意識していない。意識しているのは米国だけだ。」というきわめて重要な指摘をしています(孫崎享のつぶやき2015-02-04 05:55より)。

もしこのような事実があるとすれば、「テロとの戦い」で非妥協的な姿勢を貫く米国との関係を最優先するあまりに2人の日本人人質の生命をみすます見殺しにしたことになり、当然許されることではありません。

第五に、日本政府・安倍政権が人質拘束事件そのものを半ば放置・隠蔽してきた疑いがあることです。湯川さんの拘束が判明したのは昨年8月の時点でした。さらにその湯川さんの安否を気遣ってイスラム国の支配地域に入った後藤さんも昨年11月には消息不明となり、それから間もなくして後藤さんの妻リンコさんへの身代金(10億円)要求もあったとのことです。しかし日本政府は、そうした情報に早い段階から接していたにも関わらず人質解放のための本格的な交渉には動かず、後藤さんの拘束や身代金要求をひた隠しにしていました。そして、こうした深刻な事態が水面下で進行していたにもかかわらず、安倍首相は中東の地で「(イスラム国がもたらす脅威を少しでも食い止めるために…)イスラム国と戦う周辺各国に2億ドル程度の支援をする」という挑発的なカイロ演説を行ったことになります。

しかもその背景として、総選挙直前に後藤さんの人質拘束質事件が発覚すれば、選挙に不利な影響が出るのではとの政治的思惑があった可能性を示すジャーナリスト・常岡浩介氏の重大な証言「この12月2日という日は、衆議院総選挙の告示日でした。12月14日が投票日ですから、その12日前という状況です。じつはこのとき、外務省が後藤さんの奥さんとシリア人の現地ガイドに、厳重に“口止め”をしていたのです」が報道されています(後藤健二さん 外務省が妻にしていた「総選挙12日前の口止め工作」『女性自身』2月3日(火)0時0分配信http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20150203-00010001-jisin-entを参照)。さらに、それとの関連で見逃せないのが、湯川さんの救出に尽力していた常岡浩介氏とイスラム法学者・中田考氏(元同志社大学客員教員)の動きを日本政府が妨げていたという常岡氏の驚くべき証言「(シリア)出発前日に警視庁公安部の人間が家宅捜索にやってきて、パソコンや携帯電話、パスポートを押収していったんです。結果、イスラム国行きは不可能になり、裁判の仲介役も断念せざるをえませんでした。あの時、政府と協力して再度渡航していれば、湯川さんを救出できた可能性が高い。そうすれば、後藤さんが湯川さんを助けるためにイスラム国入りすることもなかったんです。」です。

(『女性セブン』2015年2月12日号、NEWSポストセブン2015.01.29 07:00配信http://www.news-postseven.com/archives/20150129_300631.html、【全文】「警察の捜査が、湯川さん後藤さんの危機的状況を引き起こした」〜ジャーナリスト・常岡浩介氏が会見:記事 BLOGOS編集部 2015年01月22日 16:59http://blogos.com/article/104020/、を参照)。

もしイスラム国との唯一とも言える貴重なパイプを持つイスラム法学者・中田考氏(元同志社大学客員教員)とジャーナリスト・常岡浩介氏の存在を人質交渉に生かさなかったばかりでなく、同志社大学の中田教授に対して、北海道大学生(26歳、休学中)の「私戦予備・陰謀罪」に絡めて海外渡航の禁止をするなど彼らの動きを制するような対応を日本政府が取っていたとするならば非常に重大な問題であり、安倍首相が国会でイスラム国の人質事件について、中東演説時にイスラム国が後藤健二さんたちを拘束していたことを知らなかったという信じられないような発言をしているだけに、その詳細な経緯と理由が検証される必要があると思います。

こうした一連の流れをあらためて検証すると、衆院選実施前後の時期における安倍政権の人質事件への対応の不自然さは際立っており、そこに何らかの政治的思惑があったとすれば日本政府・安倍政権の責任は大きいといわざるを得ません。後藤さんにシリア入りを資金を出して後押したのは誰なのかという問題も含めてこの人質事件の全容を解明しなくてはなりません(伊勢崎馨「イスラム国事件『自己責任論』噴出の裏で安倍政権が日本人拘束を隠蔽していた!?」LITERA/リテラ、2015年1月22日http://lite-ra.com/2015/01/post-807.html、「安倍、テロ事件に“ついてる”と反応?人質事件を利用して、軍事強化を進めるおそれ」日本がアブナイ!http://mewrun7.exblog.jp/22763310/を参照)。

この点に関連して注目されるのが、安倍首相の中東訪問は、周囲の反対を押し切って行われていたという情報です。このことをスクープした最近の雑誌記事(「安倍首相中東訪問 外務省は時期悪いと指摘も首相の反応は逆」週刊ポスト2015年2月6日号 NEWS ポストセブン 1月26日http://www.news-postseven.com/archives/20150126_299837.html)によれば、安倍首相は「中東訪問のタイミングが悪い」という周囲の声を無視して中東諸国を訪問したとのことです。官邸関係者による「総理は『フランスのテロ事件でイスラム国がクローズアップされている時に、ちょうど中東に行けるのだからオレはツイている』とうれしそうに語っていた。『世界が安倍を頼りにしているということじゃないか』ともいっていた」との重大な暴露証言も紹介されています。もしこの記事の内容が事実であれば、安倍首相がフランスで起きたテロ事件を対岸の火事と捉え、「まさか日本が標的になるという洞察も備えもなかったこと」や今回の中東訪問を自己アピール・外交パフォーマンスが出来る絶好の機会と考えていたことがわかります。これはもはや安倍首相の個人的スタンドプレーや単なる外交上のミスなどの範疇をこえた重大な問題であり、国民への致命的な背信行為であるといわざるを得ません。元経産官僚の古賀茂明氏の「やはり、確信犯なんですよ。今回の中東歴訪は、人道支援のためではなく、欧米と肩を並べたい、という目的のために行われました。イスラエルとの会談は、そのためにこそセットされたのでしょう。」(「古賀茂明氏インタビュー:岩上安身氏」http://sun.ap.teacup.com/souun/16552.html 2015/2/4 晴耕雨読、より)という勇気ある証言に共感するのは私だけではないと思います。

また、安倍首相のカイロ演説の英訳が日本文よりも攻撃的な表現になった理由についても取り上げる必要があります(外務省のHP:

英訳文http://www.mofa.go.jp/me_a/me1/eg/page24e_000067.htm

日本文http://www.mofa.go.jp/mofaj/me_a/me1/eg/page24_000392.html)

この問題ではすでに安倍総理のスピーチの不適切な英語訳がイスラム国を刺激してしまったのではないかという質問が国会で出されています。日本を元気にする会・無所属会の松田公太議員が28日の参議院本会議で、安倍首相のカイロ演説での2億ドルの支援表明について、「地道な人材開発、インフラ整備を含めISILと戦う周辺各国に総額2億ドル程度の支援」としていたスピーチが、英語訳では「ISILと戦っている国が戦闘の基盤を構築するための2億ドルの支援をする(となっている)」、「この訳では日本が本格的に戦争に加担することになったと捉えられ、口実にされてしまった可能性がある」として、「どのような理由で訳が変わってしまったのか」と問いただしています。(「エジプトでの安倍首相のスピーチ、“英訳がおかしい”と指摘」【通常国会】DAILY NOBORDER 1月29日(木)14時44分配信http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150129-00010002-noborder-pol、「イスラム国を挑発したとされる安倍総理のスピーチ」http://blogos.com/article/104501/を参照)。これに対して安倍首相は、「和文に忠実に訳されており、その指摘はあたらない。読んでもらえればわかる」と一言で退けたようですが、日本政府がイスラム国をあえて挑発して日本人が狙われる危険を冒してでも、「テロとの戦い」を主導し有志連合の結束を唱える米国への気配りを優先した可能性も否定できないだけにさらなる理由の解明が求められます。

※  後藤健二さんラストインタビューで安倍首相発言が問題と指摘 /世界に拡げよう

I am not Abe ⑤2015年02月06日 | 世界に拡げようI am not Abe

http://blog.goo.ne.jp/kochi53goo/e/db227b7eee1620f30c6d23142967ff96

「ここで日本がアメリカの『空爆を支持する』って安倍さんが、例えば、これから国連でやる演説の中でそこまで具体的に言ったりなんかしたら、もう日本も同じ同盟国と見られていろんなところに旅行に今日本人の方々行ってますけれどもテロとか誘拐とかそういうのに気をつけなくちゃいけない。それが1つのバロメーターになる。」

この後藤さんの最後のインタビューの言葉に、安倍首相をはじめ日本政府関係者はどのようにこたえることができるのでしょうか。 (続く)

2015年2月8日 木村 朗 (鹿児島大学教員、平和学専攻)

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