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【NPJ通信・連載記事】高田健の憲法問題国会ウォッチング/高田 健

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安倍政権の「戦争する国」の具体化
自衛隊海外派兵恒久法はじめ戦争関連法制を阻止しよう

2015年3月9日

戦争関連法法制化のための与党協議はじまる

2月13日から「安全保障法制整備に関する与党協議」が始まった。昨年7月1日、安倍首相は全く同名称の与党協議会の報告をうけて、集団的自衛権行使の政府解釈の変更についての閣議決定を強行した。今回、約7ヶ月ぶりに開かれた与党協議会はこの「閣議決定の内容を踏まえてその具体化を図る」べく法制化することが目的であり、毎週金曜日に会議をひらいて、高村自民党副総裁が3月26日に訪米する前までに全体骨格の合意をとり、4月末に閣議決定し、大型連休後の5月中下旬に法案の国会上程を目指すものだ。

先の閣議決定に際しての与党合意づくりにみられたように、安倍政権と与党がやっていることは、こうした憲法の死命を制するほどの重要問題であるにもかかわらず、民意を無視し、国会審議を軽視して与党の密室協議で合意形成をすすめ、既成事実化をはかるという言語道断の政治手法だ。4月の統一地方選挙を控えた今回もまた、有権者の批判を受け選挙で不利になることを避け、密室協議でことを進めようとしている。

すでにこの与党協議でかいま見えていることは、安倍政権と自民党の強硬な姿勢であり、安倍政権のブレーキ役を任じてきた公明党の姿勢がグズグズの腰砕けになりつつあることだ。「ホルムズ海峡での機雷の掃海」や「派兵恒久法」について、公明党は「厳格手続き」という条件付きではあるが容認の方向に転じたとの報道がある。「首相の方針が揺るがないことを踏まえて」のことだという。これが事実なら、あきれるばかりだ。公明党は昨年の「閣議決定」に際して、安倍政権の暴走に「限定容認」の歯止めをかけたと自画自賛していたし、一部知識人からもそうした声が上がっていたが、最近ではこれが幻想に過ぎなかったことが明らかになりつつある。与党協議の中でまたまた公明党の「下駄の雪」が始まった。

「解釈で憲法9条を壊すな!実行委員会」はこうした姑息な政治手法を批判しながら、2月20日午前、緊急に「戦争関連法制反対!密室協議で勝手に決めるな!緊急国会前行動」を行い、80人を越す市民が社民党、共産党の国会議員と共に抗議の行動を行った。実行委員会は、毎週、与党協議への抗議を続ける決意を固めている。

平和憲法の積み木崩し

このところの安倍政権による平和憲法体制に対する攻撃は異常であり、立憲主義に反するすさまじいばかりの動きが相次いでいる。安倍政権の下で、かつては考えられなかったような政治反動がすすみ、平和憲法体制の構造は積み木崩しのように崩され始めた。与党が圧倒的多数議席を確保した国会の議論は、かなりの程度で形骸化し、安倍首相を先頭に居直りの議論や聞くに堪えないようなヤジまでがくり返されている。

こうして外国の軍隊をも対象に含むODA新大綱がつくられたり、「イスラム国」の人質事件を奇貨として、国会での議論すらないままに「有志国連合」への参加などが進められ、首相の口からは自衛隊を使った邦人救出などの発言が飛び出すようになった。

これらは第2次安倍政権の発足以来進められてきた国家安全保障会議(日本版NSC)の設置(2013年11月)、特定秘密保護法強行採決(同12月)、武器輸出3原則の撤廃(2014年4月)、集団的自衛権行使容認の閣議決定(同7月)などの一連の流れの延長線上にあるもので、日本国憲法の平和主義に敵対する安倍政権の「積極的平和主義」というキャッチフレーズのもとに行われている「戦争する国」の体制づくりだ。

安倍首相は今国会の施政方針演説を「戦後以来(!)の大改革」ということから始めた。このフレーズは安倍首相がいかに「戦後レジーム」に敵意と嫌悪感を抱いているかを如実に表すものだ。彼がいう戦後体制の枠組みからは日米安保体制は消し飛んでおり、日本国憲法体制しかない。いますすんでいる政治過程は安倍首相による平和憲法体制の破壊の過程であり、彼は昨年の閣議決定による憲法の骨抜きから、その戦争法の法制化へ、そしてさらに明文改憲へと歩みを進めようとしている。

7・1閣議決定の枠すら突破する安倍政権

与党協議と並行して、国会では首相や閣僚から、従来の憲法解釈を突破する異常な発言が相次いでいる。

2月19日、衆院予算委員会で中谷元・防衛相は政府が提出をめざす戦争関連法制(安保法制)に関して、「集団的自衛権を含む武力行使に地理的な制約はない」と発言、自衛隊の派遣は「中東のホルムズ海峡の機雷掃海も対象に含まれる」などという見解を示した。そして「日本に資源を運ぶ海上交通路(シーレーン)の安全確保は重要だ」として、「地理的制約が憲法上の要件として直接導かれるわけではない」などと、「日本から遠く離れた地域でも武力行使は可能だ」と強調した。

安倍首相も同様な発言をくり返している。ホルムズ海峡の機雷による封鎖は経済的影響が重大だから、自衛隊の派兵はありうるという。かつて「満蒙は日本の生命線だ」といって日中戦争に突入していった歴史を彷彿とさせるものがある。与党協議の座長・高村自民党副総裁は「安倍総理大臣はごく当たり前で常識的なことを言っている」。「損害が『極めて甚大』になると、単なる経済的な損失を超えて国民生活に死活的影響を与える場合がある」、その場合には集団的自衛権の行使の対象になりうるという発言をしている。これらは昨年7月の閣議決定の際に与党幹部が「地球の裏側まで行くと言うことではない」などと取り繕っていた言辞がまったくデタラメであったことを物語っている。

加えて、自衛隊海外派兵恒久法制定の危険な動きがある。

政府・自民党は自衛隊の海外派兵について、現行の周辺事態法と国連平和維持活動(PKO)協力法を改正して存続させたうえで、多国籍軍への後方支援や人道復興支援などを可能にする新たな恒久法の制定を目指す方針を固めたといわれる。

政府・自民党は当初、周辺事態法、PKO協力法の現行2法を廃止し、PKOや他国軍隊への後方支援など幅広い活動を可能にする「海外派遣の恒久法」の策定を目指していた。しかし、公明党の反発に配慮し若干、軌道修正し、現行2法を維持した上で、〈1〉日本の平和と安全に重要な影響を与える「周辺事態」にはあたらないが、国際貢献として行う海外の紛争での後方支援〈2〉PKOとは異なる有志連合などによる人道復興支援を柱とする海外派兵恒久法を作る方向だ。

この派兵恒久法が作られれば、自衛隊は地球的規模において、いつでも、どこでも、米軍などの軍事活動を支援することが可能になり、時には戦闘参加も辞さないという憲法違反の悪法になる。

自衛隊の武力による海外での日本人救出

安倍首相の暴走は海外での日本人救出に自衛隊を投入する発言にまで至っている。安倍首相は17日、「(海外でテロなどに巻き込まれた日本人の救出について)早期救出に対応することは国の責務」とのべ、自衛隊による救出のための法整備に意欲を示した。同時に

「米国など諸外国との協力も重要な課題であり、円滑で効果的な活動のための実施体制も検討していく」と発言した。この発言が安倍首相のトンでもない暴走であることは言うまでもない。

2月12日付の自衛隊の準機関紙『朝雲』のコラムが次のように述べているのは興味深いことだ。

「自衛隊が人質を救出できるようにすべきとの国会質問は現実味に欠けている。人質救出は極めて困難な作戦だ。米軍は昨年、イスラム国に拘束されている二人のジャーナリストを救出するため、精鋭の特殊部隊『デルタフォース』を送り込んだが、居場所を突き止められずに失敗した」「もちろん人質を救出するためであれば、米軍の武力行使に制限はない。それでも失敗した。国会質問を聞いていると、陸上自衛隊の能力を強化し、現行法を改正すれば、人質救出作戦は可能であるかのような内容だ。国民に誤解を与える無責任な質問と言っていい」と。

自衛隊側からみても、国会での安倍首相らの議論は非現実的で、容認しがたいものだという抗議の表明であろう。私たちも、こんな愚かな安倍首相の議論につきあわされるのはかなわないという思いがする。

安倍首相が進める改憲の行程表

安倍首相はしゃにむに改憲に向かって突き進もうとしている。必要なら自民党総裁の任期を3期9年にまで延長してでも明文改憲を成し遂げ、戦後レジーム破壊の風穴を開けたいという思いだろう。

安倍首相は米国の了解が得られれば日米ガイドラインの再改定を手みやげに大型連休中に訪米し、オバマ米大統領との間に「戦後70年日米共同声明」を出したいようだ。これには安倍首相が抱える宿痾のひとつである「歴史認識問題をめぐる日米間の矛盾~安倍晋三の歴史修正主義への米国の不信」を、「戦後70年談話」のまえに払拭しておきたいという狙いがある。安倍首相は今夏に発表する戦後70年談話について検討する有識者会議を西室泰三日本郵政社長、北岡伸一国際大学長、中西輝政京大名誉教授、山内昌之東大名誉教授、白石隆政策研究大学院大学長ら16人で組織した。日米共同声明で、この談話の大筋了解という基礎を作っておきたいわけだ。

その後、5月中下旬に戦争関連法制上程(パッケージとして一括提出と言われる)し、両院に特別委員会を設置する。政府は法案審議入りすれば衆院80時間以上、参院はその半分の審議で強行採決ができると考えている。そのためには6月下旬までの通常国会を1~2ヶ月延長してでも成立をはかりたい意向だ。

9月には自民党総裁選がある。安倍首相はこれをクリアして、2016年夏の参院選で与党の3分の2議席の確保を目指す。その上で、16年秋の臨時国会で衆参両院で改憲原案を採決して、改憲の発議をする。

この場合の改憲原案は安倍にとって肝心の第9条からではなく、国会と有権者の支持が得やすいと思われる、環境権、緊急事態条項の加憲と、財政規律に関する条項などかで最初の改憲原案を作る。一定の周知期間を経て2017春から夏にかけて改憲のための国民投票を実施する、というものだ。安倍首相は2月20日の国会で「(改憲の)条件が整ってきた中で、これからはより幅広く議論が進み、どういう条項で国民投票にかけるか、発議するかという最後の過程にある」との答弁をした。

私たちはいま、改憲の「最後の過程」という戦後政治史最大の曲がり角に来ている。安倍政権が企てる「戦争する国」の道を阻止するかどうかの分岐点にある。

全力をあげてこれとたたかおう。戦後70年で戦後を終わらせてはならない。

この闘いにおいて、私たちは昨年、従来になく広範な「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」という共同闘争組織をつくり出した。そして今年の5・3憲法集会はこれより一層幅広い人々の結集で開催されようとしている。従来の「解釈で憲法9条を壊すな!実行委員会」も、密室での与党協議に抗議する連続行動を配置している。「許すな!憲法改悪・市民連絡会」も2月中旬、全国の仲間と共に、第18回全国交流集会を名古屋市で開催し、国会周辺の「総がかり行動」に呼応して5月からは各地で毎週の木曜行動を配置したたかっていくことを確認している。「九条の会」も近く、全国討論集会を開催し、7500箇所の会を活発化させて「戦争する国」に立ち向かおうとしている。これらが全力で闘えば、反戦平和の大きなうねりと世論をつくり出し、安倍政権の企ての前に立ちはだかることは可能だ。

(許すな!憲法改悪・市民連絡会 高田健)

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