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【NPJ通信・連載記事】高田健の憲法問題国会ウォッチング/高田 健

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戦争しない国の歴史にとどめを刺す安倍政権の戦争法案を総力あげて廃案へ

2015年6月7日

(1)   民主主義破壊の強行採決シフト

5月14日、首相官邸前に早朝から結集した人々が反対の声をあげる中で、午後、安倍政権は新法の恒久法「国際平和協力法案」と、自衛隊法改悪など10本の戦争関連法制を一括した「平和安全法制整備法案」という戦争法案を閣議決定し、翌日、国会に上程した。

そして5月19日、衆議院本会議は、民主、維新、共産、社民、生活の各党が反対するなか、与党と次世代の党の賛成だけで、戦争法案を審議するための特別委員会(「平和安全法制」特別委員会)の設置を議決した。これによると、委員数は45人で、与党は委員長に浜田靖一・元防衛相を当てるとしている。会派別の委員の配分は、自民28、民主7、維新4、公明4、共産2とされている。与党によると常時出席の閣僚は防衛相と外相のみで、政府の直接の責任者の官房長官すら含まれていない。

これは強行採決シフトの委員会設置だ。衆院憲法審査会でも50人の委員会だし、これまででも重要法案の委員会は50人でやってきた。この憲法に直接関わる、戦後の安保防衛政策の大転換となる特別委員会が、他の有力野党、社民党や生活の党が参加できないのは民意を正当に反映する上で、重大な欠陥だ。これには批判が噴出したので、小手先の修正はするようだ。また常時出席を2閣僚に絞っていることは、強引に審議時間を重ねるための計算であり、慎重審議する体制づくりがもともと無視されていることだ。

審議入りを急ぐ与党は、与党だけで作成した法案が15日に提出されたばかりであるにもかかわらず、21日の本会議で主旨説明を強行しようとしたが、いまのところ、これは野党の抵抗ではたせず、26日に強行するとしている。

すでに政府は6月24日までの第189通常国会の会期の8月上旬までの延長を視野に入れている。安倍晋三首相は4月29日の米連邦議会上下両院合同会議で、国会に法案も出ていないうちから、この戦争法案を「夏までに成立させる」と言明した。与党がこうした強行採決シフトに執着するのは、この対米公約があるからだ。

すでにメディアからは官邸がリークする「6月末に衆院通過、8月上旬法案成立」などという情報が流されている。まさに官邸と与党は強行採決ありきのシフトを敷いている。戦後史を画するような最悪の戦争法案が、「一括法」などという姑息なやり方で、あらかじめ審議の期限を設定して行われるというようなことを断じて許してはならない。「一括法」にまとめられようとしている戦争関連法制は、その一つひとつが1年以上かけて国会で議論されるべきものであり、その上で民意が問われるべき重要法案だ。このような重大な法案を今国会で強行採決することなど、絶対に認められない。

(2)   無責任な「レッテル貼り」、言葉のすり替えに終始する安倍首相

安倍首相は5月15日の衆院本会議で、「集団的自衛権の行使はあくまで日本国民を守るためだ」「戦争法案というのは無責任なレッテルはりだ」と居直った。

この安倍首相の「レッテル貼り」という暴言には布石がある。社民党の福島瑞穂副党首が4月1日の参院予算委員会で安倍政権のいう「安保関連法案」を「戦争法案」と述べたことにたいして、首相がレッテル貼りで容認できないなどとのべ、岸宏一委員長(自民)が発言を「不適切」として問題視、議事録からの削除、取り消しを要求するという事件があった。福島氏は「これまで同じ言葉を使って一度も問題にされたことはなかった。言葉狩りだ」と自民党の要求に反発、野党各党からも委員長の対応に厳しい批判が出る中、1ヶ月たらずで、議事録は事実通りに発行されることになった。この問題では野党などから「本質が突かれたからではないか」とか、「首相の『わが軍』発言の方が問題だ」などという批判がつづいた。

しかし、安倍首相の用語に関する問題はこれで終わりにはできない。「国際平和支援法」はどう考えても米軍などの国際的な戦争への支援・加担法であり、「平和安全法制整備法」は戦争関連法制の改悪であり、戦争法制そのものだ。特別委員会の名称も「平和安全法制特別委員会」だ。「戦争」を「平和」と「安全」と言い換えている。これこそが姑息なレッテル貼りそのものではないか。安倍首相の政治的な用語法には世論に対する許し難い詐術がある。このような世論操作のための詐術を「霞ヶ関文学」などと揶揄して、溜飲をさげているわけにはいかない。これこそファシズムに似た手口と言わねばならない。

安倍首相はこの法案によって「米国の戦争に巻き込まれることは絶対にありません」と「絶対」を乱発する。これもウソだ。巻き込まれるどころか、率先して戦場に行くのが今回の集団的自衛権の行使だ。民主党の岡田代表が、「絶対ない」と言い切る首相に対して、「議論にならない」とあきれたが、安倍のこうした論法を許してはならない。

こうした安倍首相らの世論操作のための用語法にもかかわらず、世論の多数は安倍首相の戦争法制に疑問を抱いている。

私たちはいまこそ、戦争法案反対、戦争法案を廃案にという声を街中に、国会周辺に響かせなくてはならない。

(3)   「戦後70年談話」問題をめぐる安倍首相の史観

前々号で安倍首相の2月の施政方針演説に出てきた岩倉具視を引き合いに出した明治近代に対する歴史観の問題点を指摘した。安倍首相の歴史観は極めて危うい。

いま、8月に発表するであろう安倍首相の「戦後70年談話」が注目を集めている。ここに安倍晋三の政治姿勢と歴史観が現れるからだ。安倍首相は今回の米国議会での演説で「真珠湾、バターン・コレヒドール、珊瑚海…、メモリアルに刻まれた戦場の名が心をよぎり、私はアメリカの若者の、失われた夢、未来を思いました」などと、わざわざ米国との戦場を列挙したが、アジアについては「戦後の日本は痛切な反省を胸に歩みを刻んだ。アジア諸国民に苦しみを与えた事実から目を背けてはならない」と言及しただけにとどまり、韓国などアジアの人びとが安倍首相談話に求める「侵略」「植民地支配」「お詫び」の文言は使用しなかった。

問題は安倍首相らが「15年戦争」=アジア・太平洋戦争をどのように見ているかだ。安倍首相の思考の中にはあの戦争の大半が、日本の軍国主義とアジアとの戦いであったという事実認識がない。1931年の「満州事変」に始まった15年戦争において、日本の軍国主義は2000万のアジア民衆を殺戮した。アジアの民衆は全力で日本軍国主義を打ち破るためにたたかった。15年戦争で日本軍を打ち破った主力はアジアの民衆だった。安倍首相らの史観では日本軍国主義は米国に敗れたということになっている。ヒロシマ、ナガサキへの原爆投下と、天皇の「聖断」が戦争を終わらせたかのように見るのは誤りだ。これは、かつて軍事評論家の山川暁夫氏が、その講演のなかで私たちにくり返し強調してきたことだが、すでに1945年2月、ビルマのラングーンは民衆によって解放され、同じ頃、中国戦線では19省で最後の抗日戦争が行われ、日本軍は旅団別、師団別に降伏文書を出し始めていた。3月にはマニラが解放された。これらの戦局をみて、2月24日、天皇側近の近衛文麿が昭和天皇に降伏をすすめる「上奏文」を出したが、天皇はこれを拒否した。太平洋戦争における悲惨な悲劇、3・10東京大空襲にはじまる全国主要都市の空襲や、20万人の犠牲者をだした6月の沖縄戦、広島、長崎への原爆投下はそのあとのことであり、ようやく8月において日本はポツダム宣言を受け入れ、無条件降伏することになった。沖縄戦、ヒロシマ・ナガサキへの原爆投下のときは、すでに日本軍の敗北は決定的だった。この意味で、実に15年戦争はアジア戦争であった。

今国会の5月20日の党首討論で、志位和夫共産党委員長にポツダム宣言について問われて、安倍首相が「(宣言を)つまびらかに読んでいない。論評を差し控えたい」と答えたことは、彼が極めて軽薄な歴史認識しか持っていないことを自ら暴露したものだ。日本がこれを受諾して、敗戦後の日本の出発点となったポツダム宣言について、安倍晋三首相は何も知らないで「戦後レジームからの脱却」などという空疎な議論をしていたことになる。

この15年戦争に関する正確な歴史認識こそが求められている。アジアに対する「侵略」「植民地支配」の反省と「お詫び」なくして、首相の「戦後70年談話」はありえない。必要なことは、そのことによって、日本がふたたびアジアに覇を唱えようとする動きの芽を摘むことだ。安倍首相とそれを支持する基盤である極右ナショナリストの「日本会議」などの動きをつぶすことだ。

(4)   まやかしの「武力による平和」ではなく、非暴力の平和を

5月3日、横浜市の臨港パークで開催された「平和といのちと人権を!5・3憲法集会」は3万人を超す人々の結集で勝ちとられた。集会に先立っては1000人の市民による「集会結集パレード」が行われた。

この成功は憲法の課題を掲げて行われた過去の集会では前例のない規模のものであり、昨年来の「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動」の共同行動の到達点に加え、他のさまざまな憲法的課題でたたかう諸運動を結集して行われたものだ。この集会の特徴は、東京で従来から開かれていた「5・3憲法集会実行委員会」と「平和フォーラム」の主催する二つの憲法集会が合流しただけでなく、安倍政権の憲法破壊に反対してより広範な団体が結集して実現したことだ。

その後、この「5・3」1日共闘の実行委員会は、全体として「総がかり行動実行委員会」に合流して、共に行動することになった。ここに、安倍政権がこの5月からの国会審議で突破しようとしている戦争法案に反対する画期的な共同行動の枠組みが成立した。歴史的なたたかいにたいする、歴史的な共同行動の枠組みが成立した。私たちはこの総がかり行動実行委員会を足場にして、本気で、全国各地の街中から戦争法案廃案の声を巻き起こし、国会へと押し出さなくてはならない。政治を動かす根源的な力は、民衆の中にこそある。この力が世論となり、自公が多数派の国会を、世論の多数派で包囲する。沖縄の人々が辺野古新基地反対の運動の中で、身をもってしめしているように、非暴力であるが、徹底した抵抗闘争を組織する。そのことによって、戦争法案を追いつめ、安倍政権を追いつめなくてはならない。

5月17日、沖縄県那覇市では3万5千人が結集した辺野古新基地建設反対の県民集会が開かれ、安倍政権に対して沖縄県民の民意を示した。同日、大阪市では安倍政権との改憲の合作を企てる橋下徹市長の「大阪都構想」が住民投票の結果、否決された。

これらは安倍政権の前途に立ちふさがった重大な勝利だ。私たちはこの成果を引き継いで、この5月から8月にかけて、戦争法案の成立を阻止するための運動を総力で作り上げなくてはならない。安倍政権が唱える「武力による平和」ではなく、民衆が望む「武力で平和はつくれない」、「武力のない平和」を実現するためにたたかう正念場がきた。

すでに5月21日(木)には総がかり行動実行委員会が主催した木曜連続行動の第1回目、「とめよう!戦争法案、国会前木曜連続行動」が行われ、850名の人びとが結集した。

目下、たたかいは連日のようにつづいている。

高田健(許すな!憲法改悪・市民連絡会)

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