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【NPJ通信・連載記事】一水四見・歴史曼荼羅/村石恵照

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一水四見 
「二階訪中団」に参加して、今後の日中関係を思う

2015年6月15日

過去47年間、インドや欧州へたびたび渡航することはあったが、中国には一度もいったことがなかった。

修士論文は、五胡十六国といわれる異民族が入り乱れていた「五濁」の時代に生きた曇鸞(中国浄土教の確立者)であったから、中国へは是非とも行きたいと思っていた。

実際の中国のささやかな印象といえば、記憶は不確かだが、40年ほど前、北京空港に数時間トランジットで立ち寄った時だ。

空港の窓から滑走路を見ると、いかにも手作りのタラップを荷台に取り付けたトラックが飛行機の側に停車しているのが見え、空港内は閑散として、粗末な人民服の女性がショーウィンドウの前に所在無く立っていたことが思い出される。

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現在、中国はGDPで世界第二の大国である。

しかし中国は「西欧近代」の基準からすれば、いまだに巨大な「発展中の途上国」である。

そして西欧の人権思想や法治思想の観点から批判されるような、積年の様々な歴史的国内問題を抱えながら、彼らなりの「近代化」への途上にある中国である。

しかし文明的観点から公平に考えれば、 地球規模の植民地の負の遺産をアフリカや中東などにまき散らしたままで、それらの解決を持て余している西欧が、精神的な価値観からみて「先進国」であるとはいえないだろう。

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さらに西欧の征服的精神が先鋭化したアメリカは、その建国自身が北米大陸の完全植民地化であったから――原住民の殺害、アフリカからの黒人奴隷の移入などなど――かれら自身の植民地の歴史的認識にはイギリスとは違ったコンプレックスを抱えている。

アメリカは、特に政治・軍事的覇権の情念が、自国内で自己充足できない状況になっていて、いまだに世界各地に軍産複合的に介入してゆく。

アメリカが情報開示に先進的な態度をもっているのは結構なことであるが、それは一面、そうしないとアメリカという体制の価値が言説として内部から崩れて行くからである。

もし自由の理念をかかげるアメリカにおいて、一定の条件があるとはいえ情報開示の制度、エイミー・グッドマンや・エドワード・スノーデンのような批判精神が失われたら、組織的な奸智に満ちた巨大な犯罪国家になる可能があると想定するのは、あながち妄想ではないだろう。

国家の諸制度に育成された国民的批判精神とは、国家の品質管理の必須機能である。

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5月初めに知人のジャーナリストから中国訪問の企画を告げられた時、内容の詳細も問わずに二つ返事で申し込んだ。

それが北京と大連を訪問する「日中観光文化交流視察ツアー」、いわゆる「二階訪中団」であった。

昨年4月に参加したエイチ・アイ・エスの4泊5日のカンボジア・ベトナムのツアーの旅行代金は¥154,550だったが、今回の訪中団の企画(5月22日~5月26日)は¥159,800)だったから、まあ、穏当な価格だろう。

出発の数日までに旅行代理店に入金を済ませたが、三千人近くの大グループのツアーに参加することになったことが、やがてわかった。

日本の旅行業界の大企画で、日中双方の業界や関係者は儲かっただろうが、結構なことである。

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北京空港で、同一のホテル、同一のバスで行動する40歳代から70歳代の10名の同行者と合流した。

私を含めて9名が日本人で、他にウズベキスタン人と在日韓国人が各一名のグループであった。

私以外は、親子二代にわたって数十年も日中間を行き来している日本人を含めて、すべて中国事情にくわしい人たちである。

二日間われわれのグループに付き添った中国側の女性ガイド(京都大学に留学)は、政治のせいで冷えきった日中関係のために日本からの旅行者が減って機会がなかったが、日本語を久しぶりに話せてうれしいといっていた。

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5月22日の北京は、高い青空の下、広い道路にそって大きなビルが立ち並んでいた。

ほとんどの歩行者の身なりは、こざっぱりしていた。

この日は北京の市内見物後、北方佳苑飯店に投宿。

23日(土)、早朝に故宮博物院(紫禁城)にバスで到着して特別見学。

特別という意味は、どのような手配かは知らないが、三千人ではなく、百人(?)くらいの日本人だけがだだっ広い博物院の奥まで見物することができたからである。

超多忙であろう自民党総務会長・二階氏も人垣に囲まれながらやってきた。

その後、中国国家博物館、天安門広場を見物。

 

そして夕刻、人民大会堂の外と堂内の2カ所でボディーチェックの後、会場に入った。

入り口で招待状を見せて手提げ袋をもらうと中には、食事のメニューと中国茶と北京の観光案内の冊子などがあった。

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乏しい記憶をたどりながら当日を思い出せば、記憶違いがあるかもしれないが、ざっと以下のような状況であった。

会場に入ると、テレサ・テンの「時の流れに」や谷村新司の歌、石川さゆりの「津軽海峡」が順次聞こえてきた。

会場には約3000人分を収容する8人掛け程の丸テーブルが一面に並んでいる。

舞台の直前には賓客用らしい、どでかい30人掛けほどの大きな丸テーブルがいくつかある。

舞台中央の前にある大きな丸テーブルに近い席に着席して改めて壇上を見ると、花を生けたテーブルを挟んで椅子が五つ並んでいる。

中国の要人が登壇するという情報は出発前から知らされていたが、もしかすると習近平氏も登場するかも知れないという情報も流れていた。

安倍晋三首相の妻、 安倍昭恵さんが、5月21日に靖国神社を参拝し遊就館にも入場したことを、自らのFacebookに投稿したとの情報が、なんとなく関係者らの間に伝わっていた。

さらに、二階氏の訪中を批判する、いわゆる右翼ら300名近くが二階氏の選挙区に入ったとの情報も聞こえてきた。

二階氏と安倍首相の意志の疎通はいったいどうなっているのか。

二階訪中団にたいする自民党内の意見はどうなのか。

習主席と是非対面する成果をみたい二階氏の心中いかばかりか。

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しかし、ついに黒っぽいネクタイとダークスーツの習近平氏と二階氏、三名の中国側要人らが登壇してきた。

丸テーブルに座っていた会場の三千人が立ち上がって拍手した。

私も拍手した。

ゆっくりと習近平氏が中国語で語りはじめた。通訳の日本語がイヤホンから流れてくる。

記者でもないのに、壇上から近い席にいたので、習主席の顔を中心に身体全体を食い入るように見ながら熱心にメモをとった。

論語の「朋あり遠方より来る、また楽しからずや」をまず引用しながら、習近平氏が、日中間の長い歴史的文化交流を大局的に語ったことが、 個人的に印象深かった。

阿倍仲麻呂と李白との交流、来日して黄檗宗を開いた隠元禅師にも触れた。

二階氏も日中間の民間交流の重要性について、静かな確信をもって語った。

二階氏は安倍首相の親書を習近平主席に手渡していた。

やがて壇上の習近平氏と二階氏、三名の中国側要人らが退場してゆくと、再び拍手が鳴り響いた。

その後、会食がはじまり舞台上での、著名な中国人ピアニストの演奏や仏教的舞踊をふくむさまざまな余興を楽しんだ。

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13億の国民を統率し、失脚すれば投獄の危険さらされる凄まじい権力闘争の頂点に立って腐敗撲滅に辣腕を振るい、チベットや新疆ウイグル問題をかかえ、一帯一路の壮大な構想を描き、アフリカ、南米にも資源を求め、月の裏側の資源調査やサイバー空間にも配慮しなければならない、

この現代中国の希代の統率者は、毛沢東や鄧小平の時代よりも複雑な歴史的状況におかれている。

***

欧州連合は、さまざまな国に分断されているから、EU加盟国のある国に人権侵害が起きてもEU全体が直接の責任をもつことがない。

しかしEUの二倍以上の国土と人口を有する中国は、自国のどの地域で不祥事が露見しても中国として責任を持たざるを得ず、国際的な非難の対象をなってしまう。

アメリカは、これまで発展途上の国々への軍事介入でことごとく失敗してきた国である。

そうとうに酷い人権侵害をおこなってきたはずだが、すべてアメリカ国外でのことである。

維持するにはあまりに巨大で、混乱すればその世界的影響はあまりに巨大な、いわゆる “too big to fail” の中国だ。

伝統的冊封体制にもとづく漢人を中心に構成されている閉じた中国が、今後も共産党を中心とした中央集権体制を脱することは、ほどんど不可能にみえる。

そのような複雑な大国家を統率する習近平氏は、ハーヴァード大学に匿名で通学して、2014年に帰国したといわれる一人娘をもつ一人の父でもある。

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西欧は、その古代文明以来、あらゆぶ歴史的場面において――思考様式から領土問題の処遇にいたるまで――分断統治と二重思考 ( “Doublethink” ) がゆきわたっている。

西欧は、「自由」というソフトを掲げて世界史を先導している反面、負の面では、アフリカ、イスラム諸国、アジアでの植民地化の過程で、練り上げられた奸智を十分身に付けた攻勢的文明である。

西欧の「自由」の理念の善用と悪用を限りなく追求し、様々な手段で包囲網を仕掛けてくるアメリカに、中国の権力の中枢にいる習近平氏は対処しなければならない。

そして現在、中国は「南シナ海問題」で緊張の状況に陥っているようにみえる。

当事者間に任せて静観してればよいものを、EU諸国までアメリカに合わせて様々な思惑をもって中国を非難する。

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冷戦中のソ連との対峙関係が終結して以来、アメリカは、久方ぶりの世界的戦略的ゲームの目標を得たようにみえる。

日本、韓国、ベトナムなどの駒を中・米間の緊張の中で使うゲームで、アングロ・アメリカンの支配の情念が働いているにちがいない。

TPPも戦略的ソフトパワーとして利用しようとしているかもしれない。

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「二階訪中団」に先立って、アングロ・アメリカンの本家、かってアヘン戦争を中国に仕掛けたアングロ・サクソンのイギリスからウィリアム王子が3月2日、中国を初めて訪問した。

ウィリアム王子は、習近平主席と会談してエリザベス女王からの手紙を渡し、「女王は習主席のイギリス訪問を熱く期待している」と伝えた。

習主席は「私も女王陛下との会談を期待しています」と応え、さらにウィリアム王子は「未来のためにイギリスと中国のつながりが深まることを期待します」と言った。(日テレNEWS24; 2015年3月2日;ウィリアム王子、習近平国家主席と会談)

習近平氏は頭の中で、エリザベス女王からの手紙をたずさえてきた ウィリアム王子と、三千人の民間大使を率いて安倍首相の親書を持参してきた二階氏を、どのように整理して考えているのだろうか。

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一部の評論家たちが期待または想定するような、またはノーベル賞経済学者・クルーグマン(「中国が世界を崩壊させる。そのとき日本は・・・」週刊現代、6/6)が予測するような経済破綻が中国で起きれば、「一帯一路」も砂上の楼閣、海中の藻くずとなってしまう。

しかし無辜の中国人たちの生活を想えば、 中国を仮想敵国とあらかじめ決めつけて、中国社会に大混乱が起きることを願うような不心得をもってはならにない。

「一水四見」の含意では、悪意や嫌悪の思考で見られた状況は、実情の把握から目をそらすことになるからだ。

中国には高度の智慧を発揮して尖閣諸島問題や南シナ海問題を暫定的にでも安定化させ、中国経済は、是非ともアジアの平和のために健全に成長してほしいと願うものである。

人民大会堂の壇上の習近平氏の姿を見つめながら、同時に鑑真和上の尊顔を思い浮かべながら、国際政治の専門家でもない自分は僭越な想像していた。

日中の両国民は、互いの伝統を尊重しつつ、個人間の友好の幅を広めてゆく努力をしなければならないと深く思った。

(2015/06/10 記)

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