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【NPJ通信・連載記事】一水四見・歴史曼荼羅/村石恵照

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一水四見(21)
――グダニスクからみえる日本の風景・「脆弱なる花盛り」(1)――

2015年8月9日

バルト海に面したグダニスク市に7月末5日間滞在した。

ちょうど聖ドミニク市(いち)のいわゆる縁日の期間が始まったばかりだった。

観光名所の「木造クレーン」の並びにある川岸に面したホテルの窓からながめると、終日観光客の人波が途絶えない。

歴史の深みをたたえた石造りの建物にはさまれた通りの路上には、大道芸人などがあちこちで芸を披露し、綿飴や琥珀の装飾品などを売る様々な出店がにぎわいを見せていた。

しかし、その歴史を懐古すれば、国籍、民族、言語、宗教が複雑に重層し錯綜しているこの都市を貫いている戦争の歴史が浮かび上がってくる。

***

そして、日本の歴史を考えると、その世界史上特異な単純性に愕然とする。

この単純性は、今日の国際的政治感覚においては、ナイーブということで、その英語の原意をみても、いわば騙され易い幼児性ということで、決して誉められたことではない。

戦争の意味を深く理解していた西欧の歴史観がすぐれているといっているのではない。

しかし、国際政治とは、世界というチェスボードにおける最高に熾烈なゲームだ。

指導者間での心理戦であると同時に言語ゲームでもある。

そこに支配しているのは勝負であって、勝者が正邪を決定する。

***

源平合戦、関ヶ原の戦いは、基本的に兵士同士の内戦であって、世界史的な意味における戦争ではない。

小地域での「合戦」を繰り返して、戦国武将が兵站補給の重要性に気づくことはなかった。

徳川幕府下260年余の平和は、まことに僥倖なことで、世界史上異常な歴史状況であった。

世界の戦争を歴史的実体として経験していなかった明治日本が、日清、日露の戦争を行い、「錯覚の勝利」に無自覚のまま、やがては日米戦争へと嵌められていった。

トルコに行って、ロシアを破った日本人は尊敬されているなどど無邪気に喜んではならない。

***

日本は、世界の三大軍事大国と戦争をしてしまった。

なぜ、そんな馬鹿げたことができたのか。

当時の軍部の指導者らは、戦争の意味がわかっていなかったからである。

自国の、自らの家族の住む居住地に敵軍が侵攻してきて、たとえば銀座、新宿で銃撃戦がおこなわれる悲惨を、想定外としてきたからだろう。

戦争は、一度、所与の国際法に一応遵守して始められた後は、すべて謀略である。

欧米の戦略家たちは、ゲーム自身の意味と、そこで使用される言語の二重性の意味を、十分に理解している。

ソフト・パワーは、ハード・パワーに転化する。

二国間の緊密な友好関係は、主従の関係に転用され悪用されうる。

拒絶しようもない正当な理念の背後に、深謀遠慮が潜んでいる。

***

西欧の戦争史の陰惨と残酷は、ヨーロッパの古城をいくつか見学してから日本の城と比較すれば一目瞭然である。

ヨーロッパの教会と日本の神社仏閣を比較すれば明々白々である。

それだからこそ、日本人は、今日まで維持されている宗教・軍事一体のヨーロッパの戦争の実体を自覚的に深く学ぶべきなのである。

それでも日本は、終戦後70年間、平和であった。

***

グダニスクにいると、ドイツ人とポーランド人とは、あざなえる縄のごとくに絡み合っている様相がみえてくる。

グダニスクはポーランド語で、ドイツ名をダンツィヒ(Danzig)という。

当地は、かっては、ヴェルサイユ条約によってドイツから切り離された国際連盟の保護下で独立国的立場の自由市であった。

そこでポーランド人、ドイツ人、カシューブ人などが共存していて、ゆたかな文化も育って行った。

***

グダニスクは、 仏教とインド哲学を西欧思想界に導入したドイツの哲学者ショーペンハウアーの生誕地である。

彼が誕生した四階建ての建物が旧市街にそのまま残っている。

簡単な略歴を記した板が一階の建物の窓の上に張り付けられているが、ドイツ人にも、もちろんポーランド人にもあまり関心を持たれていないようだ。

聖ドミニク市でにぎわる人々で関心をもって立ち止まる人は、皆無といっていい。

ショーペンハウアーは、当時ヘーゲルとならぶ実力の哲学者であった。

主著は『意志と表徴としての世界』(1819年)。

タイトルからのみ判断すれば、一神教的情念と仏教的唯識思想との融合である。

ともかく彼の著作は、ニーチェへ多大な影響を与え、「神は死んだ」と言わしめた。

さらに、リヒャルト・ワーグナー、ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタイン、アルベルト・アインシュタイン,ジグムント・フロイト、C.G. ユング、レフ・トルストイ、トーマス・マンなど様々な思想家や作家らにも影響を与えたと言われる。

ショーペンハウアーは、ギリシャ哲学とユダヤ・キリスト教の融合からなるヨーロッパ思想界に、仏教とインド思想という大きなインパクトを与えた。

キリスト教世界が総じて、ショーペンハウアーに冷淡なのも当然だ。

(続く)

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