NPJ

TWITTER

RSS

トップ  >  NPJ通信  >  一水四見(23)―「Brave New World」から「1984」へ、そして、世界はどこへ?(1)――

【NPJ通信・連載記事】一水四見・歴史曼荼羅/村石恵照

過去の記事へ

一水四見(23)―「Brave New World」から「1984」へ、そして、世界はどこへ?(1)――

2015年8月30日

西欧文明は15~17世紀前半の大航海時代からさらに、18世紀後半以来の産業革命をへて ――ソフト(さまざまな価値観;自由、民主主義、人権など)とハード(さまざまな物的生産物;武器、工業製品など)の両面で――今日まで世界史を牽引し支配してきた。

今日のIT革命も、人間の四肢による移動と労力の代わりに、機械的動力と電力の使用が深くかかわっていると言う点で、産業革命の質的延長にある。

IT革命によって、従来の三次元の自然空間に、透明なサイバー空間が加わった。

では、その西欧文明を巨視的に俯瞰すれば、それは明るい未来につながってゆくのか、行く末のわからない暗い終末へ向かっているのか。

***

かってオスヴァルト・シュペングラーは、ショーペンハウアーの「生の哲学」の影響のもとに、ドイツ人特有の観念的な著述「西欧の没落」( 原題:Der Untergang des Abendlandes ;英訳:The Decline of the West )を著した(Vol.1,1918; Vol.2,1922)。

人類の歴史を巨大な生命体と考えれば、個生命に誕生と死があるように、歴史にも消長があることは当然だろう。

・・・

しかし最近、小著ではあるが具体的に叙述された著作『こうして、世界は終る――すべてわかっているのに止められないこれだけの理由』(訳・度会圭子)がでた。

二名の斯界の専門家――科学史・地球惑星科学研究者(ハーバード大学大学教授)と歴史学者(カリフォルニア工科大学・NASAジェット推進研究所)――による共著である。

原題は、「世界は終る・・・」のではなく、「西欧文明の崩壊――未来からの展望」(The Collapse of Western Civilization: A View from the Future;2014)であるドイツ人・シュペングラーの観念的な「没落」が、科学的思考のアメリカ人研究者の具体的な「崩壊」に移っていった。

***

そして、従来のさまざまな常識が、どんどんと崩れてゆく。

従来の新聞紙とテレビ画面から得る情報は、パソコンから入手できる。

このところ、私は、新聞紙やテレビをほとんど見ない。

インドや中国は、永遠の低開発国だと思っていたが、この常識が崩れていく。

***

19世紀に構想されたソフト( マルクスの共産主義などの政治思想などを含めた様々なアイデア)とハード(航空機、医薬品、オートメーションの装置、月世界探検の宇宙船など)は、すべて構想され実験され完成され実現された。

わたしが小学生の1950年頃(?)、確か「理科図鑑」という本があって、そこで月世界探検のイラストが掲載されていた。

月世界探検など、想像を絶し、常識を超えて、関心さえわかないほどの世界である。

当時、東京築地の我が家に電話はなく、電気製品はタングステン電球と真空管のラジオがあるだけの時代である。

***

40年以上も前に、はじめてイギリスにいった。

そこで出会ったフランス人の若者は、水を売っている会社に勤務しているといった。

日本でも売りたいといった。

蛇口をひねればいくらでも安全な飲料水が飲める日本で、ただの飲料水に値をつけて売るなどどいう発想自体が、わたしの常識を超えていた。

いまは、どうか。

乳牛に申しわけないくらいの高い価格で「ミネラルウォーター」が販売されている。

ヨーロッパ人は強烈な酢につけた魚は食するものの、まったくの生魚を利用した寿司を欧米人が食べるということも、常識外であった。

それが、どうだ。

世界の主要都市はどこでも寿司が提供されている。

***

人間の常識とは、共同の幻想にすぎない。

ともかく大多数の人々が日常生活で共有している相互是認の情報だから、疑いようがないし、疑うきっかけがつかめない。

つまり、常識とは、いかなる社会体制であれ、当該社会の人心を安定せしめている大衆的に共有された価値観である、といってよい。

しかし、このような常識が社会に幾重にも重なっていないと、民情は不安定となる。

では、西欧の没落と崩壊は、どのような常識にかかわるものなのであろうか。

以前において西欧のなにが「没落」し、現在においてなにが「崩壊」してゆくのか。

***

『こうして、世界は終る』の二名の著者は、新自由主義を批判する。

「 “効率性を高めるための大規模化”は、ひと握りの人間への富の集中、ひいては権力の集中を招きやすい。・・・セオドル・ルーズベルトは1907年に・・・そうした階級の男たちを “巨富の悪人たち”と呼んだ。・・・

世界中でもっとも金が集まるとされている事業は炭素燃焼複合体の一部だが、その関係者が非常にうまく立ち回っているせいで、自由民主主義の大半が気候変動に対して、効率のある措置をとれないでいる。」

***

本書では、西欧文明の時代を――温暖化によって海面が上昇して、具体的に西欧が崩壊してゆく期間である――1540年(『コペルニクスの地動説の概要」刊行)~2093年(海岸付近の住民にとって海面上昇が明らかに深刻な問題となっている時期)に設定されているが、「「大崩壊」の破壊的な影響が現れ始めたころ、民主的国家(議会制も共和制も)は次々と起こる危機への対処を渋っていた・・・食糧不足、病気の流行、海面上昇といった現象が起こっても、これらの国家には市民を隔離したり移動させたりするインフラも、組織的な力もなかった。」

あたりまえだろう、民主的国家に住んでいて、独裁者との手を結ぶような “巨富の悪人たち”に市民の人命を最優先するという発想はないからだ。

「しかし、中国ではやや事情が違った。・・・中国も自由主義への道のりを歩んでいたが、強力な中央集権政府は残っていた。

海面が上昇して海岸地域が危険にさらされたとき、中国はいち早く内陸に都市や市や村をつくり、二億五◯◯◯万人を安全な高地へと移動させた。・・・

中国が気候変動による災害を切り抜けたことは、中央集権政府の必要性の証明となった。

そのことが第二次中華人民共和国(「新共産主義中国」とよばれることもある)の誕生につながった。」

本書の内容は、嫌/反中国でマインドセットされている評論家たち――かれらのかなりの部分は原発推進派と重なっている――の “ 常識”を超えていて受け入れがたいだろう。

ハーバード大学とカリフォルニア工科大学の両人は、中国に洗脳されてしまったのか、と考える人は、著者に堂々とメールをおくって確認してほしい。

因に、本書の二人は、『世界を騙しつづける科学者たち』も発表している。

ここで、炭素燃焼がでてきたが、原発推進を暗に支持していると受け取ってはならない。

炭素燃焼複合体も原子力に関わる軍産複合体も、背後で金でつながっている可能性も否定しがたいからだ。

Follow the money!

では、 “巨富の悪人たち”は、なにをめざしているのか?

(2015/08/30 記)

こんな記事もオススメです!

第77回「野生のヨウムは救われるのか(1)」

国民が緊急事態条項を考えるために必要なこと

森友学園…幕引きは許されない

この時代、私たちに活路はあるか~安倍内閣を倒すしかない