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【NPJ通信・連載記事】ホタルの宿る森からのメッセージ/西原 智昭

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ホタルの宿る森からのメッセージ
第47回「魂を売り渡した男」

2015年12月30日

ぼくは、2015年12月のある朝、われわれのプロジェクトのスタッフの一人が、川を遡っている最中の船外機付き丸木舟から転落したというメッセージを受けた。夜の出来事だったという。同じくこのボートに同乗していた船頭やほかの数人の乗組員の話によると、彼はボートに乗るときから相当泥酔していて、ボートに乗ってしばらくしてから、ひとりで勝手に立ち上がり、ふらふらしたまま、川に落ちたらしい。もちろんボートはすぐに引き返し、その男を探そうとしたが、すでにあたりは闇一色。見つからないまま、プロジェクト責任者に報告、その責任者ともども、地元の警察にこの事件を即座に報告したのだ。

川を丸木舟で移動する様子©西原恵美子

川を丸木舟で移動する様子©西原恵美子

ボートはプロジェクトの仕事のために出された。午前中だったらしい。その後、一通り任務を終えたその男は、船頭らの助言を無視し続け、その任務地で酒を飲み続けていたという。最終的にすっかりあたりが暗くなってからボートに乗り込むときも、その男はフラフラしながら、ビールを片手に一本ずつ持ち歩いていたのは目撃されているらしい。

多くの人は、酒に泥酔した人間が川に落ちたら、すぐには這い上がれず、そのまま一気に水の奥底に沈んだ可能性は高いだろうという。つまり、生存の可能性は少ない。万が一にも、うまくどこか岸に辿り着いて、助けを待っている可能性もあるため、翌日からほかのボートによる男の捜索は始まる。しかし、通常ならパンパンに膨れ上がった亡骸が浮かび上がるであろう2、3日のときを過ぎても、なにも見つからない日々が続く。

川はそれほど多くのボートの行き来はないが、ところどころに村は散在し、また漁師もいる。どこかに流れ着いていれば、通常はすぐにでも情報は来るはずだ。あるいは、浮草の塊のどこかに身体がひっかかったまま、その植物に隠される形で流されている可能性もあるかもしれない。しかし、ときはいたずらに立ち、事故から1週間のときが過ぎた。

川には至る所に浮き草などが生い茂っている©西原恵美子

川には至る所に浮き草などが生い茂っている©西原恵美子

警察が沈んだ男の家族などを連れて、男が単身赴任で在住していた村に再度やってきた。目的はもう一度、そのときの船頭やボートの乗組員ほか、村長始め、村の関係者に徹底的に情報を聞き出すためであった。地元警察署長の顔にも、疲れが見て取れるのがわかった。証拠はないが、村の中にこの男に恨みを持っている者がいて、その怨恨からわざと男を川に落とした、あるいは船頭やほかの乗組員と口裏合わせをして共言をしているとも言えなくはないのだ。

一方、近くにいたある軍人は、これはプロジェクトの仕事中に起こった事故、プロジェクトにも責任はかかるかもしれないと険しい剣幕で言う。確かに、ボート乗船時に必須の救命具を、プロジェクトはあらかじめ用意していたのか、そして男はそれを身につけていたのかどうか。実際プロジェクトは確かに救命具をボートの中に用意していたが、なぜ男がそれを身につける義務を怠ったのか。あるいは船頭や他の乗組員も救命具着用を彼に促したのかどうか。これもわからないままだ。

疑念は深まるばかりであった。どうやら村長は、この村ではちゃんとした情報は得られまい、別の村へ行くべきだと主張する。そこの村は同じ川沿いにはないので、亡骸を見つけられるわけもないのでずいぶん理不尽な要求だが、その村長が言うには、その村にこうした不可解な事件の真相を語ってくれる邪術師がいるので、彼にお達しを得ようという。自分の村の村人にはこれ以上迷惑をかけたくないという思いから来たのかもしれない。

この村長、川に落ちた男の家族、そして警察などは、車で200km離れた別の村へ急いだ。早速、その邪術師に会ったらしい。事情を聞いた師は、明朝5時に集まってくれ、そのときに真相を明かそう。とみなに伝える。

そして、翌日早朝、師に言われた通り、当事者たちは集まり、邪術師の言葉を待つ。村に隣接する森の中から特別な儀礼などを終えてやってきた師は、真相を語り始める。「この事件で、もう男が生きている可能性はない。なぜなら、こいつが“その男の魂をすでに売った”からだ」と。“こいつ”と名指しされたのは、なんと、この邪術師にお伺いを立てようと皆に勧めた村長だったのである。

村長は一時唖然とした顔をしていた様子だったらしいが、覚悟を決めたらしく、「そうであるのなら仕方がない。俺はこの罪で殺されるに違いない。もうわれわれはこの村には用がないので出発する」と応答したようだ。そして、村長以下一行はその村を去る。

そのまま村長は警察・軍隊に囚われた身で、別の町の警察署へ行き、あらためて、尋問を受ける。村長のことを知る大勢の野次馬が署の周りを取り囲んでいたという。そのとき、村長は「その通りです。わたしはあの男の魂を、隣国にいる別の邪術師に売ったのです」と自白。男が川に落ちたのは、本人の泥酔による事故だったかのかもしれないが、事実上この村長が「男を殺した」罪に問われる事態に展開していくこととなった。

実はぼくはこの村長を知っている。というか、村長の前任者であった彼の父のことも知っている。父の方は確か10何年前くらいに病気で死亡、その後、その息子である長男があとを引き継いだ。しかし、本当は当時まだ若かったこの現・村長よりもふさわしい経験豊かな老年の男が村長候補にいたと聞く。しかし、息子は地方当局に金をばら撒き、自らの村長の任命を自動成立させたという逸話が残っている。

村長を引き継いだ長男は、一概にも優れた村長とは言えなかった。村に関わる決定事項や委員会は、すべて彼が権力を握ったし、外部から村へのなんらかの支給や贈り物があったときも、彼は自分でその利益を独占してきたらしい。村人は、彼のやり方にずいぶん手を焼いていたし、不平も言っていた。しかし、文句は文句にできなかった。

理由は、「この男は悪霊を持っている」ということに尽きる。本人もそれを公然と人に話していたという。つまり、村長に下手に手を出せば、その「悪霊」で呪い殺されるからだ。村長もそれを盾に、権力を振る舞い、他の村人を縮み上がらせていた。かといって、この男に勝るほど勇気のある別の村人はこれまで出てこなかったのである。

「邪術を使って、桶の中に入った水に映った顔の人間を、その場で呪い殺すことができる」という話は、この現・村長の父の時代から聞いていた。父なる、元村長がもともとそうした「悪霊邪術」を持っていたという。ただ、父の方はそれを何かに悪用したような事例は耳にしたことがなかった。ところが、その「悪霊」を父から引き継いだ息子の方は、それをいわば、自分を権力者に仕立て他者を黙らせるために「間違った風」に使用してきたといえる。

ついに、その悪名高き村長が、「魂を売った」罪に被せられた。気持ちのやりどころを失っていた川に沈んだ男の家族も、今回の村長の留守の間に、その家に放火、家具、衣服だけでなく、バイクや船外機などを含めた村長の持ち物は、すべて灰にしたという。「犯人」が許せないのである。多少は安堵の気持ちになっているのかもしれない。村民はこれまでの彼の圧政・抑圧に対して、その事態を止めることもなかったようだ。

燃えて灰と化した村長の家©西原智昭

燃えて灰と化した村長の家©西原智昭

現在、村長は「殺されるであろう」との覚悟はあるらしい。また、彼を殺したいと思っている人間も多いと聞く。むやみな殺人は回避したい。警察もそこを配慮して、いま村長を大きい地方の町の留置所に確保している。いずれ、首都の留置所に移されるとの情報もある。情報によると、本人は「これまで15人を似たような“手法”で“殺害”した」とも自白したそうだ。その中には、何年か前に死んだぼくの知っている3人も含まれていた。

しかし、このあと、いったいどうなるのであろう?裁判沙汰になるのであろうか?しかし、裁判官も「邪術師」の言い分を根拠に、この村長を殺人罪に決するのであろうか?しかし、どう考えても、そこには証拠も理屈もない。ボートに同乗していたクルーも疑われても仕方ないが、これまた証拠は何もない。確かな証人もいない。この事件がどこに行き着くのか、まだ誰にもわからない。

なぜなら、事故は暗闇に中で起こったから。しかも、川に沈んだ男も見つかっていないから、死因を究明することもできないのだから。

実は、ぼくはその事故の日の朝、このボートに乗らないかと言われていた。ただ、ぼくは他の用事もあったので結局ボートには乗らなかった。偶然の代物である。しかし、もしぼくがこのボートに乗っていたら、事態は変わっていたのだろうか?

生きている間、何が起こるか、まったくわからないものである。だれもが、2015年末に、こうした奇怪な事態が起こったとは予想だにしなかったに違いあるまい。

[御礼]

2015年も拙連載記事をご拝読くださいまして、ありがとうございました。これまでの連載記事での記録は、小生がアフリカに行き始めた初期の約10年(1989年から1999年に至るまで)に渡る経験や事象に基づいたものが多いですが、1999年後半から、ぼくの身の回りでは急展開が起こっていきました。2016年からはその「新たな展開」の記事から始まります。2016年も不可解なことや、理不尽なこと、不愉快なこともあるでしょう。しかし新風豊かな出来事もきっとあるにちがいありません。今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。

川の向こうに沈む夕日©西原恵美子

川の向こうに沈む夕日©西原恵美子

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