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【NPJ通信・連載記事】一水四見・歴史曼荼羅/村石恵照

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一水四見(31)
「米ソ冷戦は終っていない」――ポーランドのディレンマと日本の将来

2016年1月28日

1939年9月1日、ポーランドの港湾都市グダニスクを友好訪問を名目に港内に停泊していたドイツ海軍が、同市の近郊ヴェステルプラッテに駐屯していたポーランド守備隊を急襲した。

開戦直前に、ドイツはソ連と相互不可侵条約を結んでいた。

ヴェステルプラッテを発火点として、その戦火は極東にまで広がっていった。

それが有史以来初めての世界大戦争、第二次世界大戦につながっていった。

民間人の被害者数は一説に、3800万~5500万、軍人の被害者数は2200万~2500万といわれる。

以上は、流動している大きな歴史的場面の一面的かつ断片的化した知識に過ぎない。

なぜドイツはポーランドを急襲したのか。

急襲したナチスドイツが――ポーランドの立場からは――悪いに決まっているが、そのような状況に陥ったポーランドにも、責任ではなく、原因の一旦はある。

一切は縁起的に連動している。

その原因を探れば、当時、イギリスからヨーロッパ大陸とソ連につながる地域に展開する様々な高度に政治的打算の色模様が少しずつ浮かび上がってくる。

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ファシズムの独裁者ヒトラーと共産主義のスターリンに左右から蹂躙された経験をもつポーランドは、東西冷戦の歴史的に過酷な経験を余儀なくされた。

その経験もあってか、イギリスのMI6、イスラエルのモサド、アメリカのCIAに隠れてマスメディアには目立たないが、ポーランドの諜報機関は優秀であるといわれる。

因に、ソ連のレーニンおよびスターリン政権下の秘密警察・ゲーペーウー(GPU)の初代長官ジェルジンスキーは、ロシアの政治に身を投じたポーランド人だ。

***

現在、ポーランドはEU加盟国であり、西欧陣営である。

が、今また東西冷戦の余燼がポーランドにくすぶり始めたように「見える」。

「見える」のであって、実態とその今後はどうなるかわからない。

「見える」理由は、二つある。

一つは、ポーランドに“強権的”保守政権「法と正義の党 (Law and Justice )」が昨年(2015)5月24日に誕生したことである。

ところがロシアのプーチン大統領は、歴史的にロシア嫌いのはずのポーランドの政権の座についた“極右の”新大統領 アンジェイ・ドゥーダを祝福し、ポーランドとの“建設的連携”を呼びかけた。

プーチンのスポークスマンはポーランドを含む近隣諸国と“固定観念によって様々な負担で患わされることの無い (unencumbered by stereotypes)良好な関係をもちたいと常に願っている”とInterfax 通信社に語った。( Putin wants ‘constructive’ Poland ties after Duda presidential win; AFP: May 24, 2015)。 “

新大統領 アンジェイ・ドゥーダ は熱心 (‘devout’) なカトリック教徒であり、約30%の大衆的階層に影響力のあるといわれるポーランド・カトリック教会と密接な関係にある。

彼は、故大統領レフ・カチンスキーの “ 精神的後継者”を名のっている。

***

2010年4月7日、ロシア首相プーチンとポーランド首相トゥスクが、第二次世界大戦中に将校など約22,000名のポーランド人が銃殺された「カチンの森事件」追悼70周年記念のロシア側主宰の式典のためにカチンを訪れていた。

同月10日、日程を違えて大統領 レフ・カチンスキーは同追悼記念に出席するために大統領専用機に搭乗していたが、同機はロシア連邦スモレンスク北飛行場に墜落し、彼と妻および多数の政府高官を含む乗員96名全員が死亡した。

「法と正義の党」党首・ヤロスワフ・カチンスキ元首相は、死亡した大統領レフ・カチンスキーとは一卵性双生児の兄弟だ。

そのような状況の下、ポーランド新大統領に、ロシア正教の国の大統領が祝辞を送ったということの深層にうごめく両者の思惑は、欧米のメディアにおいてさえも、十分に解説されているとはいい難い。

***

「見える」理由の二つ目は、ドイツ首相メルケルに強く支持されて2014年、ポーランド首相の職を辞して現在はEU大統領(理事会議長)であるトゥスク氏とポーランドの新大統領ドゥーダ との間に現状認識と価値観に決定的相違と確執があるからだ。

うがった見方をすれば、ポーランド人トゥスク氏がEU理事会議長に選ばれた段階で、EU は、未だに東西冷戦の干渉地帯であるポーランドの不安定さ、それに関わるEUの脆弱さを感知していたともいえる。

覇権大国は、一度獲得した衛星国を手放さない情念を維持しているだろうから、ましてや手放してしまったかっての衛星国・ポーランドにロシアが “ 政治的愛着” を示すのは予想されることである。

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「法と正義」なる政党が、EUの基本原則である「法の支配」に抵触するがごとくに三権分立であるべき司法権に介入したり、公共放送を支配したりして表現の自由を脅かすとすれば、多大な犠牲を払ってこれまでポーランドが築き上げてきた自由世界の一員としての地位がおびやかされかねない。

歴史的事象の一切は縁起的に連動しているから、ポーランドの政治地図から拡大してEUの政治地図に目を転じれば、ポーランド一国でおこっていることとEUで起こっていることとが連動していて当然だ。

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刺激的な見出しの報道が The Telegraph ( 2016/01/16) にでた。

「アメリカはプーチンの戦略について重大かつ総括的な検証をおこない、ヨーロッパのさまざまな政党に秘密裏に資金援助をしているとしてロシアを告発」との趣旨だ。

そして、アングロサクソンのイギリスは“新たな冷戦”を警告し、クレムリンがヨーロッパでの分断支配を求めている、と言い出した。

各国の政権に様々な形で影響力を行使しているのは、その規模と質においてアメリアの方が格段に勝っているだろうからロシアは、自分の所業を棚に上げて何を言うか、と考えているかもしれない。

が、世界の大勢における信頼度ということになれば、ロシアよりアメリカの方が圧倒的に信用度が高いのが実情だろう。

ロシアと中国とアメリカと、亡命先を選べといわれれば、百人うちの99人は、いかに二重規範の国家であり、原住民を殺戮し、アフリカ人の奴隷を虐待した歴史をもつとはいえ、つねに文明の明るい面―夢と野心の実現の自由―を表看板にしている議会制民主主義の国アメリカを選ぶだろう。

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イギリスとロシアの外交関係は、ここ10年以上にわたって深く冷え込んでおり、ロシアの工作員であったリトビネンコに対するポロニウム210を使用した殺害事件の公開調査(2015/01/27開始)があきらかになれば、両国の関係はさらに冷え込む可能性があるといわれる。

「それは巧妙なゲームだ。国民国家 (nation states) 間には不文律があるが、これらのルールが明らかにロシア側に侵害されている」、「ロシアのプロパガンダ機動組織は現在 “非常に活発”で、安全保障の専門家が言うところの “混合戦争 (hybrid warfare) ”を配備している。それは通常の軍事力とゲリラ戦術とサイバー戦争をブレンドしたものだ。」

としてロシアに対する不信感がイギリスで生まれている。( Dr Igor Sutyagin; 英国王立防衛安全保障研究所)。

この所論についても、「 国民国家」の価値をないがしろにしているような金融グローバリズムはどうなのか、という意見はアメリカ人でさえも言いたいところだろう。

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アメリカの国家情報長官 (James Clapper) は、アメリカ議会から、過去10年間にわたるロシアによるヨーロッパの様々な政党への秘密裏の資金提供を重点的に調査することを要請された。

アメリカ側の担当者らは、どの政党が調査対象になるかあきらかにしていないが、可能性として考えられるのは、極右グループ (far-right groups) であり、ハンガリーの Jobbik、ギリシャの Golden Dawn, イタリアの the Northern League, フランスの Front National などで、それらのグループは、2014年にロシアの銀行から900万ユーロ(690万ポンド)のローンを受け取ったとしている。

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ポーランドの話題にもどる。

ドナルド・トゥスク 内閣の外務大臣、ヤロスワフ・カチンスキ内閣の国防大臣を勤めたベテランの政治家でありジャーナリストであるシコルスキ氏は「外交問題 」誌の対談で次のように語った:

ポーランドは 「ヨーロッパの諸問題解決の源泉である( a source of Europeansolutions)」…

ドイツとの和解は現在完璧である。…

今は、ロシアとの和解に向かって作業中だが、ドイツの場合より困難なことは、第二次世界大戦で勝利した彼らの誇りをスターリン主義への嫌悪から解き放すことにロシアが困難をおぼえていることだ。…

ポーランドは、数千人のポーランドの捕虜の虐殺現場であるカチンにプーチン大統領が訪問したことを評価している。…

ポーランドはアメリカより、まずロシアと関係の再調整をはじめた。…

(‘The Polish Model’; A conversation With Radek Sikorsky; FOREIGN AFFAIRS; May/June 2013)」

この対談は2013年のものだ。

ロシアを知り抜いているはずのシコルスキ氏の対ロシア外交努力と認識は、現在、はたして報われているのだろうか。

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1989年12月、マルタ島で米大統領ブッシュ(父)とソ連大統領ゴルバチョフが会談し、冷戦の終結を宣言した。

しかし実際には冷戦は終結していなかった。

もし「米ソ冷戦」が「米ロ」冷戦へと進化してゆくとしたら、「米ロ」の二極化から多極化し、しかも重層化した様相を示してくるだろう。

国家規模でアメーバー状に世界的テロ活動を展開するIS、ソビエト連邦から脱皮したロシア連邦、そして共産党支配の経済大国中国の出現がある。

そしてアメリカ自体の指導力の弱体化と、アメリカ国内の様々な問題が顕在化してきている。

西欧とアメリカは今、異質の価値観と行動様式をもつ新たな装いの強力な諸勢力から攻勢を受けている状況である。

さらに無国籍的サイバー金融の地球的活動が――戦争ビジネスを含めたすべてに関わっている。

***

このような世界状況の中で、ロシア連邦ともウクライナとも国境を接するポーランドのディレンマの状況は、直接日本の参考にはならないように見えるが、歴史的事象を縁起的に考えれば、あきらかに日本と連動しているはずである。

世界は、ますます説明のつかないような混沌たる状況を呈してきている。

過去1500年の日本の歴史は、世界の戦争史の中で、異様に単純である。

日本はあらためて自らの守るべき伝統と国益を再吟味して、二極化思考から多極的縁起思考へ意識を変えなくてはならない。

憲法改正の是非は、 明治維新から日本の歩みを総括するというような視野狭窄の思考ではなく、縄文時代から現在に引継がれている、世界における日本の文化価値を深いところで再確認してからのことだ。

(2016/01/25 記)

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