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【NPJ通信・連載記事】選挙へ行こう~自民党改憲草案と参議院選挙@2016

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参院選を理解するための12のポイント

寄稿:大城聡(弁護士)

2016年7月10日

終盤情勢 改憲勢力3分の2の勢い

2016年7月6日、毎日新聞は「共同通信社は第24回参院選について3〜5日、全国電話世論調査を行い、取材も加味し終盤情勢を探った。安倍晋三首相が目指す憲法改正に賛同する自民、公明両党、おおさか維新の会などの「改憲勢力」は、非改選と合わせ改憲発議に必要な全議席の3分の2(162)に届く見通しが強まった。」と報じました。

すでに衆議院では、「改憲勢力」が3分の2以上の議席を占めています。衆議院475議席中、自民・公明・おおさか維新で合計339議席を占めており、衆議院では改憲の発議が可能です。

参院選の結果が、この終盤情勢のとおりになれば、参議院でも「改憲勢力」が憲法改正の発議ができるようになります。つまり、日本国憲法が制定されて以来、初めて衆参両院で憲法改正が発議される可能性が高くなります。憲法改正には、衆参両院での発議の後、国民投票で過半数の賛成を得ることが必要(憲法96条1項)ですが、すでに国民投票制度について定めた「日本国憲法の改正手続に関する法律」(以下、「憲法改正国民投票法」といいます。)が2014年6月に公布施行されています。実は、今回の参院選から投票年齢が18歳以上に引き下げられたのは、この法律に合わせて(※1)、公職選挙法が改正されたからです。(※2)

※1 憲法改正国民投票法3条
日本国民で年齢満十八年以上の者は、国民投票の投票権を有する。

※2 公職選挙法11条
国は、国民投票(憲法改正国民投票法)の投票権を有する者の年齢及び選挙権を有する者の年齢が満十八年以上とされたことを踏まえ、(略)必要な法制上の措置を講ずるものとする。

今回の参院選は、個別の政策の当否を問う以上に、日本国憲法制定以来、憲法改正の発議が初めて可能になるかどうかという歴史的な意味があります。

<参院選を理解するためのポイント>
①参院選の結果次第で初めて憲法改正が発議される可能性が高い

②「改憲勢力」は安倍首相の目指す憲法改正に賛同する政党
(自民・公明・おおさか維新・日本のこころ)

③憲法改正のための国民投票制度はすでに準備完了

「改憲勢力」が目指す憲法改正

日本国憲法96条には、憲法改正手続きが定められているので、憲法改正それ自体が悪いというわけではありません。問題は、2016年参院選の結果、どのように憲法が改正されるかです。参院選が近くなってから、安倍首相はじめ「改憲勢力」は、具体的にどのように憲法を変えるか、発言しなくなりました。これは、不用意に発言して、憲法改正に対する批判を招くことを防ぐためだと思われます。
しかし、安倍首相が総裁を務める自民党は、「日本国憲法改正草案」(以下、「自民党改憲草案」といいます。)を正式に提案しています。
「改憲勢力」の中心は自民党であり、他の「改憲勢力」の政党も自民党改憲草案を全面否定しているところはありません。
すでに自民党が正式に国民に発表しているものですから、2016年参院選の結果、自民党を中心とした「改憲勢力」が憲法改正をする場合には、その基本的内容は、この自民党改憲草案になると考えるのが素直です。

<参院選を理解するためのポイント>
④憲法改正それ自体が「悪」なのではない

⑤自民党は正式に改憲草案を提案している

⑥「改憲勢力」の目指す憲法改正の基本的内容は、自民党改憲草案

自民党改憲草案の内容

「改憲勢力」の目指す憲法改正の基本的内容は自民党改憲草案ですから、その内容を知った上で、「改憲勢力」が3分の2以上の議席を占めることを是とするか、否とするかを判断しなければなりません。
自民党改憲草案の問題点を詳細に分析検討した文献として『増補改訂版 前夜 日本国憲法と自民党改憲草案を読み解く』(梓澤和幸他 現代書館)がありますのでご参照ください。
ここでは、自民党改憲草案のうち、(1)自衛隊から国防軍への変更、(2)憲法97条(基本的人権の本質)の全面削除、(3)憲法改正の簡易化-立憲主義の放棄、(4)政府への全権委任制度-緊急事態条項の新設について、具体的に指摘します。

(1)自衛隊から国防軍への変更
自民党改憲草案9条の2は、国防軍の保持を明示しています。自衛隊から「軍隊」への明確な変更が規定されています。

(2)憲法97条(基本的人権の本質)の全面削除
憲法97条は、「第10章 最高法規」として、憲法97条(基本的人権の本質)で「この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類が多年にわたる自由獲得の努力の成果であって、これらの権利は、過去幾多の試練に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである」と規定しています。自民党改憲草案では、この条文が全て削除されています。

(3)憲法改正の簡易化-立憲主義の放棄
憲法改正の発議には、衆議院と参議院のそれぞれで全議員の3分の2以上の賛成が必要です。これは、憲法改正の大きなハードルでした。自民党改憲草案では、憲法改正発議を衆議院と参議院のそれぞれの過半数で可能とするように規定されています。憲法が最高法規であり、他の法律と異なり、基本的人権を守るために改正に慎重であるべきという手続きという考え方とは全く異なるものです。

(4)政府への全権委任制度-緊急事態条項の新設
自民党改憲草案の緊急事態条項は、緊急事態の発動要件は憲法上規定がなく、法律で定めるとされています(自民党改憲草案98条1項)。つまり、国会で過半数を得ている政府与党であれば、政府の意向に沿って、緊急事態の発動要件を決めることができるということです。さらに緊急事態の期間に制限がありません(同草案98条3項)。
緊急事態が宣言された場合、内閣は法律と同じ効力の政令を出すことができるとされています。政令で規定できる対象に制限がありません。
この緊急事態条項は、国会で過半数を得ている政府与党が緊急事態の発動要件を法律で定めると、憲法上は歯止めがなく、政府に全権を委任する制度となっています。
政府への歯止めのない全権委任制度は、三権分立の考え方の対極にあるもので、実質的に憲法を停止することと同じ効果を有するといえます。

これらの内容をみると、自民党改憲草案は、憲法を改正する「改憲」ではなく、憲法を壊す「壊憲」だと言わざるを得ません。憲法は、立憲民主主義に基づくものですが、自民党改憲草案は、立憲民主主義を破壊するものだからです。立憲民主主義については、『ガチで立憲民主主義』(水上貴央他 集英社インターナショナル)の説明が明快ですので、紹介します。

立憲民主主義というのは、基本的には民主主義のプロセスで国を動か していくけれども、憲法に書かれていることはどんな場合においても最も優先されるという考え方です。たとえば憲法の中の『基本的人権』について言えば、もしも多数決の結果として人権を侵害するような結論が出てしまった場合、あくまでも憲法のほうが優先されるというわけです。つまり、憲法に従った範囲で民主主義を行う。これが立憲民主主義です。(同書1頁より引用)

<参院選を理解するためのポイント>
⑦自民党改憲草案の内容は、とくにこの4つに注目
・自衛隊から国防軍への変更
・憲法97条(基本的人権の本質)の全面削除
・憲法改正の簡易化-立憲主義の放棄
・政府への全権委任制度-緊急事態条項の新設

⑧立憲民主主義は、憲法に従った範囲で民主主義を行い、多数決による暴走を防ぐ考え方

⑨自民党改憲草案は、立憲民主主義と異なり、多数決による暴走の危険があること

一票の力

2016年参院選の歴史的な意味は、「改憲勢力」が、衆議院だけではなく、参議院でも、憲法改正の発議に必要な3分の2以上の議席を占めるかどうかにあります。冒頭で紹介した世論調査の結果とおり、「改憲勢力」が参議院でも3分の2以上の議席を獲得すれば、日本国憲法制定以来、初めて憲法改正の発議がされる可能性は極めて高くなります。
そして、「改憲勢力」の目指す憲法改正の基本的内容は、すでに自民党改憲草案として提案されています。その内容は、残念ながら、憲法の存在意義を自己否定し、多数決の暴走を許す危険があるものです。
国民の大多数が自民党改憲草案のように憲法を変えたいと真剣に考えているのであれば、私は意見が違いますが、そのような結果も受け入れざるを得ないと思います。しかし、選挙戦では、憲法改正は争点にもなっていません。歴史的な意味を自覚しないまま、衆議院と参議院の両院で「改憲勢力」が3分の2以上の議席を占める状況をつくるのか、それとも「改憲勢力」の台頭を阻止するのか。
その鍵は、一票の力にあります。
2016年参院選では、1人区を中心に野党共闘が実現しています。
私たち有権者は、「改憲勢力」か、それに反対する「野党共闘」かの選択を迫られているのです。
世論調査の終盤情勢で「改憲勢力」が3分の2以上を占める勢いの状況では、投票に行かずに棄権すること、白票を入れること、当選の可能性が全くない候補者・政党に投票することは、「改憲勢力」が3分の2以上の議席を占めることに加担することと同じです。
憲法改正というテーマではなく、政策で選びたいという人には、「どっちにVOTEキャンペーン」(http://demodeza.com/which-u-vote)がとてもわかりやすく、政策ごとに「改憲勢力」である与党(自民・公明)、それに反対する「野党共闘」という軸で整理しています。ぜひ参考にしていただきたいと思います。
一票の力は、憲法を守ることも、壊すこともできます。歴史的選択をする力があります。私たちは、いま、その選択を迫られています。
「改憲勢力」の台頭を阻止したという歴史的選択が、この参院選の結果になればと思い、一票の力を信じて、本稿を書きました。ぜひ一人でも多くの方に、あなただけが持っている一票の力を生かしてほしいと願っています。

<参院選を理解するためのポイント>
⑩私たち有権者は、「改憲勢力」か、それに反対する「野党共闘」かの選択を迫られている

⑪投票に行かずに棄権すること、白票を入れること、当選の可能性が全くない候補者・政党に投票することは、「改憲勢力」が3分の2以上の議席を占めることに加担することと同じ

⑫一票の力を信じること

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