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【NPJ通信・連載記事】選挙へ行こう~自民党改憲草案と参議院選挙@2016

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不思議な日本

寄稿:石川文洋(報道カメラマン)

2016年7月7日

1945年8月15日、天皇が敗戦を告げるラジオ放送を千葉県船橋市で近所の人と聞いていました。小学二年生の時でした。戦争についてはよく分かりませんでしたが、戦争中、敗戦後と食料、衣類ほか超物資不足でお腹を空かせ、破れた服を着て、傘もなく雨に濡れて学校へ行った貧乏生活の記憶が強烈に残っています。

1965年1月から焼け野原になった東京やバラック小屋の並ぶ故郷・沖縄の状況を見て悲惨な戦争の実態を知りました。私たちの年代の者は憲法九条のあるなしに関わらず戦争は絶対に厭だ(いやだ)という気持ちになりました。だから戦争はしない、軍隊は持たないと決めた憲法九条は当然という気持ちで何の抵抗感もありませんでした。その後、自衛隊が組織され現在に至っていますが、戦力を持たないとした憲法九条に違反していると私は思っています。

私はベトナム戦争中4年間サイゴン(現ホーチミン市)に住んで戦場を撮影しました(写真1)。

ベトナム1965年 政府軍の補給部隊が反政府軍の攻撃を受けた

写真1:ベトナム1965年 政府軍の補給部隊が反政府軍の攻撃を受けた

1972年には北ベトナムへ行き米軍爆撃によって徹底的に破壊された市街や農村を見ました。戦争の犠牲者となった多くの民間人の姿を撮影しながら、この人たちを苦しめているのは軍隊だと痛感しました。

1993年、カンボジアで国連平和維持活動(PKO)をしている自衛隊を撮影しました(写真2)。

カンボジア1993年 銃を手にする自衛隊員

写真2:カンボジア1993年 銃を手にする自衛隊員

道路の修理をしていたが護衛している兵士が銃を手にしているのが不思議な光景として目に写りました。銃には実弾が入っています。もし攻撃を受けたときは兵士は反撃するかもしれません。そうすると相手か自分が死傷することになります。

憲法九条で戦力を持たないとした日本がここまできたのかという気持ちになったのです。カンボジアの政府軍と反政府軍が争う状況になったのも、遡るとアメリカの介入によって起こったベトナム戦争が原因です。

自衛隊はこの時のカンボジアも含めイラクほかで活動をしていますが、これまで「殺し殺されていない」という状況は幸運と言えると思います。2002年、アフガニスタンで国際治安支援の活動をしている部隊を撮影しました(写真3)。その活動をするドイツ部隊は、橋の工事をしているところでしたが、活動を通して55人が戦死しています(写真4)。また、カブール市内をパトロールしているイギリス人兵士を撮影しましたが(写真5)、各所で453人が戦死しました。ほかにカナダ158人、フランス86人と各国が戦死者を出しています。

アフガニスタン2002年 橋を修理するドイツ軍

写真3:アフガニスタン2002年 橋を修理するドイツ軍

アフガニスタン2002年 多国籍軍のドイツ兵士

写真4:アフガニスタン2002年 多国籍軍のドイツ兵士

アフガニスタン2002年 カブール市内のイギリス人 政府と敵対勢力との区別は付け難い

写真5:アフガニスタン2002年 カブール市内のイギリス人 政府と敵対勢力との区別は付け難い

直接反政府軍と戦闘をしている米軍の2331人は別として、米軍主導の戦争で行動を共にすることは後方支援であっても敵とみなされるのです。

日本は憲法九条に専守防衛の個別的自衛権があると「解釈」をして自衛隊の存在を認め、さらに「拡大解釈」して海外の戦闘にも参加できる集団的自衛権も認め、安保関連法案を衆参両院で強行採決しました。多くの憲法学者が集団的自衛権の行使は憲法違反と断じているのに、違憲ではないという政府は不思議で珍しいと私には思えます。

沖縄2015年 民意を顧みず辺野古沖の埋め立て工事を進める政府

写真6:沖縄2015年 民意を顧みず辺野古沖の埋め立て工事を進める政府

不思議なことはまだあります。民意を重視しない安倍首相のような人はいつの時代でもいるが、閣僚の中でも反対意見を強く述べる人はいないのかと思いました。太平洋戦争で大きな悲劇に結びつくことになった真珠湾攻撃も海軍軍令部のわずかな人数の高級参謀によって決められたそうです。NHKスペシャル番組を観ていると、当時は他の人は反対できる状況ではなかったそうです。現在の閣議でも反対意見を言うような人は大臣に選ばれないのかもしれません。

戦場取材体験のある私からみれば、安保関連法案によって将来、確実に自衛隊員に死傷者がでると思っています。また不思議なことはそのような法案を決める政府・与党の支持者が多いということです。その原因は日本の戦争が終わって71年、日本人から戦争の記憶が遠くなったからだと思います。もう一つ大きな原因は政府が日本の戦争統括をしてこなかったので、学校教育で戦争の実態が知らされず、戦争がもたらした悲劇を想像できない有権者が増えたからだと考えます。

参院選で政府・与党は改憲を争点にしないようですが、この機会に国民全体で九条改憲について考えていかないと将来大変なことになると私は思っています。

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