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番号制の形骸化

寄稿:浦野広明(立正大学法学部客員教授)

2016年8月28日

本稿は燎原の火状態になっている番号制の形骸化運動に役立たせることを目指したものである。

1.「マイナンバー」という偽称

日本の政治は、言葉の魔術を使って、実際は言葉から受ける印象とは全然ちがう内容の、さらには全く相反するものを実行するというならわしがある。マイナンバーと偽称する法律の正式名は「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」である。人(動物分類学上は霊長目ヒト科の哺乳類)という動物の個体を識別し、国家が動物並みにヒトを名前でなく12ケタの番号で管理監視するのである(以下この法については「番号法」あるいは「番号制」という表現を用いる)。

現在、個人や法人は、それぞれの行政機関等の特定目的による管理の必要上、別々の番号が付けられている。個人は、健康保険証、運転免許、パスポート、年金、病院の診察券、銀行口座などいろいろな番号が付けられている。番号法は、これらバラバラになっているものを統一して、国民一人にひとりに、12ケタの番号をつけ、全国共通の個人番号カード(ICカード)を発行し、全国ネットのコンピューターにつないで、一元的に管理しようとするものである。文字どおり「国民総背番号制」である。

市町村長・特別区の区長は、2015年10月から、住民票に記載されている個人宛に、「地方公共団体情報システム機構」から知らされた12ケタの番号を通知するカード(「通知カード」名前、住所、生年月日、性別等を記載)を簡易書留で郵送する。通知カードが届けられる簡易書留には「個人番号カード」の交付申請書と返信用封筒が入っている。個人番号カードは12ケタの番号が記憶されたICチップ入りのプラスチック製のカードである。この番号は、今までの特定目的の番号と違って、特定目的に限定されていない。将来は図表の事柄に適用されることが決定、あるいは検討されている。

行政事務の効率化が強調されているが、政府による個人の監視が進む上、膨大な費用がかかる。税負担でまかなわれる膨大な費用は、IT業界の多大な収益につながる。

東京新聞は次のように報じている、「マイナンバー制度の市場規模は政府の初期投資だけで3千億円、さらにセキュリティー対策などで波及効果が1兆円規模に上るとされる。三菱総研の中村秀治政策・公共副部門長は話す。厚労省だけでも14~16年度の3年間で、自治体への補助金を含め1,200億円のコストがかかり、システム改修費やランニングコストなどに税金がつぎ込まれる。そこに参入するのがIT関連企業。通常の企業にとっては、制度は従業員のマイナンバー情報の管理などで大きな負担がかかるが、IT業界には大きな商機となる。東京商工リサーチが6~7月に行った調査では、情報通信企業の35%が『マイナンバーはビジネスチャンス』と回答した。」(15年10月15日)

番号制導入のために内閣官房は2011年、技術面について検討する「情報連携基盤技術ワーキンググループ」を設けた。委員21人のうち、大手電機企業の幹部ら民間企業関係者が13人加わっている。

NTTコミュニケーションズ、日立製作所、NEC、富士通、NTTデータの5社連合が受注した「情報提供ネットワークシステム等の設計・開発等業務」が入札不調の末に随意契約で受注した金額は123億1,200万円。契約額は予定価格の99.98%と、談合が疑われる。

個人情報の漏洩経路としては「紙」が最も多い。事務機メーカーのサカエが15年4月に発売したオフィス向けシュレッダーで細断した1片の大きさは、0.7×3.5ミリで世界最小クラス。ナンバー制度に関するガイドラインは、個人番号などが記載された書類を破棄する場合、「焼却または溶解などの復元不可能な手段を採用する」と例示している。近年、細断片をコンピューターで拡大し、文書を復元する解析技術が進歩しているが、同シュレッダーは復元できないレベルでの細断ができる。

「しんぶん赤旗」は、「政府のナンバー検討会議で委員を幹部が務めていた企業が発注額862億円の約9割にあたる772億円を会議メンバー9社(法人含む)で独占していることが2日、日本共産党の池内さおり衆院議員と本紙の調べでわかった。プライバシーを食い物にする利権・癒着の構図である」と下図とともに報じた(矢野昌弘記者15年11月3日)。

番号制の形骸化001

番号法は個人の尊厳を侵す憲法違反の法である。個人の尊厳は、個人が生まれながらにして平等で、国家権力をもってしても侵すことの固有の権利と価値を有しているという考えである。

憲法は、家族生活に関する法律が、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されること要求している(24条2項)。また、すべて国民が個人として尊重され、生命、自由および幸福追求の権利は国政の上で最大の尊重を受けるべきであるとして、個人の尊厳を確保する上で必要不可欠な権利を包括的に保障している(13条)。

番号制に悪のりし個人の尊厳を食いものにし、巨額の利益を確保するIT関連企業は、兵器を販売して巨利を得る死の商人と比類すべき悪徳商人といえよう。

番号制の形骸化003

2.番号制の事務負担

番号事務を担当する機関は行政機関や自治体などだが、社会保障や税に関する届出に必要な従業員のナンバー収集や以後の管理は個々の民間企業、ないしその委託先や税理士が担う。税分野では、税務当局へ申告する各企業が番号の収集と管理を行い、給与所得の源泉徴収票などさまざまな証票へ記載する対応が必要だとされる。すべての民間企業や多くの任意団体が当てはまることになる。

社会保障や税に関して次のことをさせられることになる。

①本人確認
本人確認は「番号確認」と「身元確認」が必要である。従業員が「個人番号カード」を持っている場合には、番号確認と身元確認がこのカードのみで可能であるが、持っていない従業員については、番号確認は15年10月以降に郵送される「通知カード」での確認が基本となる。ただし、通知カードには写真がなく身元確認はできないため、写真がある運転免許証やパスポートなどで身元確認を行う。

②扶養親族の確認
扶養親族の本人確認が必要な場合がある。税の扶養控除等申告書の提出については、事業者への提出義務者はあくまで従業員であり、扶養親族の番号の本人確認も従業員が行う。

国民年金の第3号被保険者の届出については、事業者への提出義務者は扶養親族であることから、扶養親族の番号確認が必要となる。ただし、実務上は従業員が代理人などとして扶養親族の本人確認を行うことになり、代理権の確認などが必要になる。

給与の源泉徴収事務の場合、従業員は社会保障及び税に関する手続書類の作成事務実施者として、扶養控除等申告書に扶養親族の番号、自己の番号を記載して、社会保障及び税に関する手続書類の作成事務実施者である事業者に提出する。この場合、扶養親族から従業員へ、従業員から事業者へ、事業者から税務署へ、番号が提供される。

提供を求める時期は、当該事務の発生時点が原則。契約の締結時など、当該事務の発生が予想できた時点で求める。法律で限定的に認められた場合を除き、特定個人情報は収集できない。

このように番号法は企業・団体に大きな負担を与える。従業員とその家族の個人番号や本人確認書類を集めて照合し、書類に記載するなど複雑な作業が必要になる。個人情報を漏洩するなど法に違反した場合の罰則は厳しく、情報管理に耐えられない。企業が作成する書類でナンバーの記載が義務付けられる代表格は源泉徴収票である。16年1月以降の退職者には直ちに番号を記載する必要がある。契約社員やパート・アルバイトなども導入初年度から対応が必要だ。

雇用保険なども16年1月から提出書類にマイナンバーを記載することが求められる。

17年1月からは健康保険と厚生年金保険も同様になる。源泉徴収票などの書類作成に加えて、個人情報保護の観点から従業員のマイナンバーの保管や廃棄への厳格な対応が、罰則を背景に進む。ナンバーを含む情報を故意に漏洩させた人には罰則が科される。企業や管理責任者も重大な過失があった場合、罰則が科される。正当な理由なく業務で取り扱う特定個人情報を提供した場合「4年以下の懲役または200万円以下の罰金」が科される。

3.ナンバーの危険

番号の漏れに伴う危険性は、①民事賠償、②刑事罰、③行政処分、④信用失墜などがある。以下は渡邉雅之弁護士の指摘(『エコノミスト』毎日新聞社15年9月15日)を参考にまとめた。渡邉弁護士ナンバーが漏れた場合1人あたり30,000の慰謝料が認められるだろうと予測する。

①民事賠償
ナンバーにはたくさんの情報(思想・信条、治療歴、出自など)が入っているので、一件あたりの賠償額は高額になる。以下の裁判例がある。

ⅰ大阪高裁判決(2001年12月)
京都府宇治市では1998年、住民基本台帳のデータがシステム開発の再々委託先からもれたとして、市民が市を提訴。1人当たり10,000円(他に弁護士費用5,000円)の慰謝料を認める。

ⅱ東京高裁判決(2007年8月)
TBC(東京ビューティセンター、エステサロン大手)が業務委託した会社の過失で、TBCnホームページ上で、エステの無料体験応募者の個人情報が自由に閲覧できた。流出情報で迷惑メールやいたずら電話など2次流出・被害も生じた。1人当たり慰謝料30,000円(2次被害がない場合17,000円)と弁護士費用5,000円を認める。

ⅲ自主的な見舞金
ベネッセコーポレーション…35,000,000件の個人に一人当たり500円の金券を配布(総額175億円)。

②刑事罰
ⅰナンバーを取り扱う企業の担当者
ナンバーの含まれる「特定個人情報ファイル」を第三者に提供したら、4年以下の懲役もしくは200万円以下の罰金、またはこれらの罪が併せて科される。3年以下の懲役は執行猶予が付かない実刑。個人情報保護法は1年以下の懲役もしくは50万円以下の罰金、またはこれらの罪が併せて科される。同じ行為でもナンバーの漏洩は4倍重い罪となる。

ⅱ上記担当者が勤める事業者
監督義務の有無を問わず200万円以下の罰金。

ⅲ業務で知りえたナンバーの売却した者
4年以下の懲役もしくは200万円以下の罰金。その者が所属する企業には150万円以下の罰金が科される。

③行政処分
特定個人情報保護委員会が民間事業者に対して有する行政処分(特定個人情報の取扱いに関する監視・監督〈立入検査、報告徴求、指導、助言、勧告、命令等の権限の行使〉に従わない場合、2年以下の懲役または50万円以下の罰金(所属民間事業者は50万円以下の罰金)。委員会に虚偽の報告、検査拒否・妨害をした場合には1年以下の懲役または50万円以下の罰金。

④信用失墜
厳格な管理を強いられる事業者が漏洩した場合、マスメディアで大きく騒がれ、企業の存亡にかかわる自体をまねく。

また、番号が記載された書類等のうち所管法令によって一定期間保存が義務付けられているものは、その期間保管することとなる。

例えば、雇用契約等の継続的な関係にある場合に、従業員等から提供を受けた番号を給与の源泉徴収事務、健康保険・厚生年金保険届出事務等のために翌年度以降も継続的に利用する必要が認められることから、特定個人情報を継続的に保管できる。

一方、法律で限定的に明記された場合を除き、特定個人情報を収集又は保管することはできないため、社会保障及び税に関する手続書類の作成事務を行う必要がなくなった場合で、所管法令で定められた保存期間を経過した場合、番号をできるだけ速やかに廃棄又は削除しなければならない。

なお、番号の部分を復元できない程度にマスキング又は削除した上で他の情報の保管を継続することは可能。このように、番号の保管(廃棄)は厳しい制限があり、不要となったナンバーを削除するための仕組みを構築することなどが求められる。

4.番号制形骸化への具体的対応

法はあくまでも、目的を達成するための手段である。法はいかなる場合にも自己目的(手段が目的になること)ではない。法は一定の社会的経済的政治的秩序を維持するための手段で、自己目的ではないのである。それにもかかわらず、法が自己目的であるかのように主張が多く見られる。

政府は番号制を強行する理由として「法律で決まっている」という。この場合政府が番号制を強行しようとする理由が、国民を管理支配する政治的理由であることはまったく明らかな事実である。従って番号制の賛否は、その実質的理由に即して争われるべきであって、法律うんぬんを持ち出すのは問題をそらすことになる。法を自己目的とする虚偽性を分析して明るみに出すことが法律学者の仕事であるはずなのに、かえって「法律に書いてある以上それに従うべきである」というようなことをいう法律家がたくさんいる。

対立する階級の間で展開される闘争の歴史は、非合法であるとされるものを合法なものとして勝ち取ってゆく歴史であるから、法律闘争をはじめから、法律で決まっているという合法闘争の枠の中に限定することはできない。もし法律闘争を合法闘争の枠の中に押し込めるなら、憲法の保障する労働権・団結権・団体交渉権・争議権などの労働基本権は出てこなかったであろう。闘争によって非合法とされたものが合法に転化し、また闘争をしなければ、合法であったものが非合法に転化させられる、これが法律闘争の歴史である。法律闘争は法の運用結末を決める要因であるから、初めから、固定的に、合法と非合法(違法)とに線引きして、法律闘争を合法闘争の枠内に限定することは、歴史を動かしてゆくものとしての対立する階級の間で展開される闘争の意義を抹殺する理論である。

憲法は、13条(個人の尊重・幸福追求権)、18条(奴隷的拘束および苦役からの自由)・23条(学問の自由)、31条(法定手続の保障)・33条(逮捕に対する保障)・34条(抑留・拘禁に対する保障)36条(拷問および残虐な刑罰の禁止)などで人身の自由の保障について詳細な規定をしている。

番号制は行政が全国民の個人情報を入手して国民の人身の自由を奪うもので、憲法違反、住民の福祉の増進を阻害する地方自治法違反であることはいうまでもない。

憲法98条1項は「この憲法は、国の最高法規であって、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。」と定めている。

番号制は国民にも企業・団体にも利点は全くない。番号制があれば公的年金の申請の際などにおいて、複数の書類をそろえる手間が省けると宣伝するが、そんなことは特定目的の限定された現行番号で十分にできる。個人のあらゆる情報を国が把握することにより「個人の尊厳」が侵されることや、他人による番号の不正利用、個人情報の流出による被害の方がはるかに深刻だ。

「法律に書いてある以上それに従うべきである」などという宣伝に惑わされず、今やるべき課題は番号法を形骸化することである。

そのためには、①個人は「個人番号カード」の交付申請をしない ②労働者や報酬等の受給者は、企業から個人番号の提示を求められても応じない ③企業等は、従業員の給与からの税・社会保険料の天引き手続きなどに個人番号の提示を求めない ④企業等は源泉徴収票などの証票に個人番号を記載しない。そうすれば、企業・団体側はアルバイトを含む従業員の膨大な番号の厳格な管理など不要になる ⑤実務を担う自治体労働者は住民を拘束する番号制をくいとめる運動を行なう ⑥自治体や課税庁などの番号利用機関は、本人が番号提供をしない場合、地方公共団体情報システム機構から番号を聞き出さない ⑦儲けをたくらむ「ナンバービジネス」にのらない、ことである。

番号制にうまく立ち向かう方策などない。番号制は上記対応で骨抜きにすることが重要である。

5.出ている形骸化の方向

すでに形骸化が次のように始まっている。

1. 所得税法施行規則(財務省令)の一部改定が行われた(15年10月2日)。強制の右往左往がうかがえる。
(改定前)本人交付用「給与所得の源泉徴収票」には本人、控除対象配偶者、扶養控除者の番号を記載する。
(改定)本人、控除対象配偶者、扶養控除者の番号を記載不要。税務署提出用は記載必要とした。

2. 「週刊現代」は次の見出しを掲げ実施をさせないように報じた(15年11月7日)。
「何のメリットもないし、いらない」「知ってましたか、マイナンバー~実は『受取り拒否』できます」「会社に提出しなくていい」「無視していればいい」

3. 全国中小業者団体連絡会(全中連)は、15年10月27、28の両日に行った省庁交渉ではマイナンバー(共通番号)制度実施の延期・中止を求めるとともに「共通番号の記載がなくても提出書類を受け取り、不利益を与えないこと」などを要望した。次は各省庁の主な回答である。

【内閣府】
「個人番号カード」の取得は申請によるもので強制ではない。カードを取得しないことで不利益はない。「扶養控除等申告書」「源泉徴収票」などの法定資料や雇用保険、健康保険、厚生年金保険など書類に番号が記載されていなくても書類は受け取る。記載されていないことで従業員、事業者にも不利益はない。

従業員から番号の提出を拒否されたときは、その経過を記録する。しかし、記録がないことによる罰則はない。

【国税庁】
確定申告書などに番号未記載でも受理し、罰則・不利益はない。

事業者が従業員などの番号を扱わないことに対して国税上の罰則や不利益はない。

窓口で番号通知・本人確認ができなくても申告書は受理する。

これらのことは個人でも法人でも同じ。

【厚生労働省】
労働保険に関して共通番号の提示が拒否され、雇用保険取得の届け出で番号の記載がない場合でも、事務組合の過度な負担が生じないよう、ハローワークは届け出を従来通り受理する。罰則や不利益はない。

労働保険事務組合が番号を扱わないことによる罰則や不利益な扱いはない。

番号を記載した書類を提出するとき、提出者本人の番号が確認できない場合でも書類は受理する。(内閣府)

全国商工新聞(2015年11月9日)

全国商工新聞(2015年11月9日)

筆者は番号制を形骸化する以下の格言を作成した。
非番3原則「持たず、使わず、使わせず」
非番3猿則「見ざる、聞かざる、言わざる」

この原稿は、『税経新報』税経新人会全国協議会 2015年12月(639号)に掲載されたものです。

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