NPJ

TWITTER

RSS

トップ  >  NPJ通信  >  ホタルの宿る森からのメッセージ第65回「アフリカの野生生物の利用(10)〜文化遺産か自然遺産か」

【NPJ通信・連載記事】ホタルの宿る森からのメッセージ/西原 智昭

過去の記事へ

ホタルの宿る森からのメッセージ
第65回「アフリカの野生生物の利用(10)〜文化遺産か自然遺産か」

2016年10月12日

何が解決策として可能か?

アフリカ現地でのゾウの密猟や象牙取引などの違法行為を取り締まる現地当局の強化はいうまでもないが、汚職や腐敗が蔓延しており、これをただちに防ぐのは容易ではない。実際、現地での象牙の密売買は最も効率のよい現金獲得手段であり、経済的に不十分である現地の人が、違法行為とわかっていてもゾウの密猟と象牙取引に手を染めるのはこのためである。ここ数年、象牙の末端価格がとみに上昇しているため、現地取引価格の例では、1本20kgの象牙一対(計40kg)は、パトロール隊の給料の1年分にも相当する。

一方で、ゾウの頭数が激減しているのは、急激に進展する熱帯林地域での開発業と人口増加に伴う居住地や畑作地拡大による熱帯林の縮小のためでもある。もともと熱帯林は基本的に、徒歩でしか移動できない場所である。そこに、熱帯材や鉱物資源を目的とした開発業により網目状に道路が作られたために、密猟者のアクセスも、密猟のための武器や象牙など密猟による獲得物の運搬も、容易になってきているのである。

そして、ほとんどの開発業が先進国を主体とした外資系であり、熱帯材や鉱物資源の需要も主に日本を含む先進国由来であることを忘れてはいけない。もっとも、そうした需要をただちに断ち切ることは不可能である。現実的にできることは、そうした開発業を永続可能で、かつ、自然環境へのインパクトが最小限となるような森林保全を確保し、野生生物への違法行為のない環境配慮型の事業となるように方向付けすることである(連載記事第55回参照)。保全と経済活動との適確なバランスがまさに必要とされる。また自然環境に配慮したツーリズム業の推奨も挙げられるが、アクセスを容易にする道路や、宿泊施設などの建設場所の確保には熱帯林の伐採が必要となり、大規模なツーリズムを進行させるのは容易ではない。ツーリズムに関しては詳細は別項で述べる。

内戦も、密猟を激化させる要因の一つである。特にアフリカ中央部の国々は政治的に不安定な国が多く、内戦で通常軍隊が必要とするのは現金と肉であるため、ゾウはその格好の狩猟対象となっているのだ。象牙を売ることで大量の資金源を稼げる上、兵士を養うための大量の肉も一度に確保できるからである。さらに内戦後も、自動小銃などの武器が安価に出回り、ゾウの密猟が助長されている。実際、マルミミゾウ生息国の一つである中央アフリカ共和国では2013年初めから内戦が激化し、武器を持つ反政府勢力はマルミミゾウの殺戮を行なった(写真259)。無論、象牙目的である。そしてこうした事態が起こるのは、日本を始めとするアジアの国々に象牙需要があるからだと推測される。

写真259:中央アフリカ共和国で内戦の煽りで殺害されたマルミミゾウ©WCS Congo

写真259:中央アフリカ共和国で内戦の煽りで殺害されたマルミミゾウ©WCS Congo

日本の和楽器の歴史と象牙の利用

すでに述べたように(連載記事第64回)、邦楽器の一部ではマルミミゾウの象牙利用に根強い需要がある。そこで特に三味線に焦点を当てて、邦楽器の歴史をここで簡単に辿ってみたい。

三味線のプロトタイプは15世紀半ばまでに、中国から沖縄に移入された三線であった。これが室町時代の永禄年間(1558-70)に日本本土に渡り、三味線となった。ここでは、三味線の付属品の中で、サイズの大きい撥に注目したい。歴史的な証拠は少ないが、残されている絵画などを見ると、始めは撥は木製であったと考えるのが自然である。歌舞伎などの大衆芸能が流行りだした江戸時代の元禄時代のころに、象牙製の撥が作られていることはすでに紹介した(連載記事第64回)。そして、明治に入ってから、象牙製の撥が少しずつ広まっていったと言われている。

象牙製の撥が使われ始めた当初は、当時の輸送手段の限界から、中国経由で移入されてきたアジアゾウの象牙が使用されたものと考えるのが妥当であろう。そして、日本が1900年代以降アフリカに商船を送り始めた頃から、徐々にアフリカゾウの象牙が日本に入り、その過程の中で、マルミミゾウの象牙が撥にふさわしいと選定されてきたと思われる。特に、1960年以降の高度成長期時代にはそれが大量に日本に入ってくるようになり、広く利用されるようになった。その理由は、音響上の適性(理想的な響き・音色)、道具としての適性(身体に対するやさしさ、強度)、製造上の適性(入手のしやすさ、加工のしやすさ)、そして装飾性(美しさ、高級感)などである。

撥はサイズが大きいため、1本15㎏サイズの象牙でも幅が足りない(図1)。ワシントン条約による象牙取引禁止以前のマルミミゾウの象牙の在庫はあると言われているが、少なくとも日本の環境省の報告書に掲載されている現在の日本の象牙の在庫の重量は、平均すると1本約12㎏であり、撥を作り得るサイズよりも小さい。そんな中、撥の角部が欠けると新たな撥を必要とするといわれる三味線演奏者は、今後そうした素材を手に入れることは困難を極めると予測される。

図1:象牙と三味線の撥©西原恵美子[実際にコンゴ共和国北東部で押収された1本15㎏のマルミミゾウの象牙と、撥(赤色)を重ねて大きさ比較をしている。象牙の体内に挟まっている部分(図の左側半分の白い部分)には筒状の穴があいているため、手で握る柄の部分の厚さと、先端の広がった部分の幅を確保するには、右側の、象牙の髄質が詰まっている部分しか使えない。図の通り、15㎏の象牙からは撥一丁すら作成し得ないことがわかり、恐らく撥の製作には最低でも20㎏相当の象牙が必要であると考えられる]。

図1:象牙と三味線の撥©西原恵美子[実際にコンゴ共和国北東部で押収された1本15㎏のマルミミゾウの象牙と、撥(赤色)を重ねて大きさ比較をしている。象牙の体内に挟まっている部分(図の左側半分の白い部分)には筒状の穴があいているため、手で握る柄の部分の厚さと、先端の広がった部分の幅を確保するには、右側の、象牙の髄質が詰まっている部分しか使えない。図の通り、15㎏の象牙からは撥一丁すら作成し得ないことがわかり、恐らく撥の製作には最低でも20㎏相当の象牙が必要であると考えられる]。

仮に将来、輸出側輸入側双方の管理制度が改善され、マルミミゾウの象牙在庫が日本と取引可能となる時代が来るかもしれない。しかし、マルミミゾウを所有するアフリカ中央部諸国での在庫象牙の平均重量は10kgにも満たない。しかも、今後、自然死したゾウの象牙に期待することがあるにしても、野生のマルミミゾウの象牙で20kg以上の象牙を保有する個体は極めて稀であるため、これまた撥の製作には役に立たない。野生で象牙の小さめの個体が多いのは、これまで象牙のサイズの大きい個体から密猟されてきて、遺伝的に大きな象牙をもつ個体が少なくなってきたものと考えられる。

では、どうするか。それについては次回論じたい。

こんな記事もオススメです!

第77回「野生のヨウムは救われるのか(1)」

国民が緊急事態条項を考えるために必要なこと

森友学園…幕引きは許されない

この時代、私たちに活路はあるか~安倍内閣を倒すしかない