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【NPJ通信・連載記事】緊急事態条項からはじまる改憲

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「緊急事態条項」について

寄稿:北川 和彦(立教大学名誉教授)

2016年11月4日

【「基本的人権」はどうなるのか?】
 
 自民党「日本国憲法改正草案」(以下「自民党草案」)において緊急事態の宣言を発することができる事態として「自然災害」以外に「外部からの攻撃、内乱等における社会秩序の混乱」「その他法律に定める緊急事態」が盛り込まれ(「自民党草案」第98条)緊急事態宣言が発せられた際には「国その他公の機関の指示に従わなければならない。」としていますが、この文言の後に「この場合においても、基本的人権に関する規定は、最大限に尊重されなければならない」(「自民党草案」第99条3)との文言が付け加えられています。この基本的人権に関する付言は、一見するとこの条項が濫用されるのではないかという懸念に対する配慮を示した記述であるように見えますが、ここでの「基本的人権」とは現在の日本国憲法における「基本的人権」とは異なり、「自民党草案」での「基本的人権」を指していることを確認する必要があります。


【「公益及び公の秩序」とは何か?】

 
 現在の日本国憲法第12条の「国民に保障する自由及び権利は・・・常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負う。」に関して「自民党草案」第12条では、「自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚し、常に公益及び公の秩序に反してはならない。」に改めています。「自民党草案」における「公益及び公の秩序」とは何か?この内容については、「自民党草案」では明示されていません。ブラックボックス?いやむしろ(基本的人権を呑みこむ)ブラックホールと言えるかもしれません。この「公益及び公の秩序」の中身が示されていないことこそ、緊急事態条項が設けられた主旨を示唆しています。歴史を振り返ることによってこのことは理解できます。
 

【歴史を振り返ると・・】

 
 関東大震災の際の「緊急勅令によって布告された戒厳令」によって、多くの朝鮮人や労働者の権利を守ろうとする市民が拘束、殺害されました。戦争に突き進む中、戦争遂行の方針に対して批判する者は治安維持法によって、逮捕、投獄されました。またドイツにおいては「国会議事堂放火事件」を機に「緊急命令発布権」が発せられ、ナチスに対する批判勢力が一掃されたことは知られるところです。これらは、≪「公益」「公の秩序」を守る≫を理由に、基本的人権が剥奪されることによって、軍事独裁政権を成立させるに至った歴史的事例です。この軍事独裁政権を支え、可能にさせた法規が日本で言えば、「戒厳令」、「治安維持法」であり、ドイツで言えばワイマール憲法における「国家緊急権」です。いずれも「公益及び公の秩序」の維持という理由によって「基本的人権」を排除することを政権の手に委ねることを可能にしたものと言えます。

 
【「公益及び公の秩序」維持の背景は何か?】
 
 上記の歴史的事例の経済的背景を見ることによって、「公益及び公の秩序」の意味を推し量ることができます。上記の歴史的事例は、各国資本間の世界市場をめぐる競争戦の行き詰まり状況に対応していました。この状況を打開し、自国の資本の世界市場の維持、拡大をはかるために国内における障害要因を取り除くことが要求されましたが、それが≪「公益及び公の秩序」維持のための「基本的人権の剥奪」≫にほかならなかったと言えます。

 
【歴史が示すものは何か?】
 
 「自民党草案」第98条で国が発する「指示」は「国民の生命、身体、及び財産を守るために行われる措置」であるとしていますが、・・・「公益と公の秩序」の解釈を時の政権に委ねることを可能にする法規を設けることにより、歴史はその正反対の結果をもたらしたことを示しています。基本的人権が剥奪され、人々の生命までも脅かされるという事態をもたらした・・・これこそ歴史が示すものです。

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