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【NPJ通信・連載記事】ホタルの宿る森からのメッセージ/西原 智昭

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ホタルの宿る森からのメッセージ
第67回「アフリカの野生生物の利用(12)〜野生生物は資源なのか」

2016年11月17日

<この記事は、よこはまの動物園機関誌ZooよこはまNo. 95 P. 16-17(2015年12月)に掲載された拙記事「アフリカの野生生物の利用とその行方3 野生生物利用と人間の文化のあり方」より転載一部加筆修正」>

▼野生生物は「資源」なのか

 われわれ人間が生きていく上で、自然界のものを「利用する」ことは避けて通れない。呼吸に必要な酸素は、人工的にあるものではない。飲料水となる水も、自然界由来である。森も、植物も、植物を食べる動物や家畜も、そして栽培植物も、みな自然界の土壌なしでは存在し得ない。われわれの多くは、そうした恵みを恵みとも気付かず、当り前のように利用しているのである。

 自然界のものの利用には、そうした無機物以外に、生物が対象になることもごく普通なことである。すでに「ブッシュミート」として述べた野生動物だけでなく、樹木、家畜、魚、アブラヤシ、野菜、果物、きのこ…それは、すべて生物である。われわれはどんなに反対を唱えても、それなしには生存していくことはできない。しかし、問題の一つは、そうした生物をあくまで経済的価値のある「生物資源」としてしかみなさない傾向があることだ。

 石油や石炭、鉄などに代表されるいわゆる鉱物もすべて自然界由来のものである。これらは、「鉱物資源」と呼ばれることが多い。人間が利用するだけの対象だからだ。しかし、生物は同じように「生物資源」と呼び、人間が使うだけの対象とみなしてよいのかどうか。

 すでに述べたように、生物界には生物同士の複雑なネットワークがあり、そうした「生態系」があってこそ、バランスがとれて、あらゆる生物がお互い依存しつつ生存できる。生物である人間も、どんなに科学技術を発達させても、生態系に複雑なメカニズム理解の深遠部には到達し得ないであろう。だから、利用の対象である「資源」として使い尽くすまで使うという発想はあってはならない。なぜなら、自然界の生き物のバランスを崩してしまえば、生態系のメカニズムが崩れ人間の生存も永続し得ないと予想されるからだ。伐採の対象である樹木を、資源としてではなく、生態系を担う生物として捉えなければ、森は崩壊し、そこに存する生物多様性や生態系全体も崩れるというのがわかりやすい事例だといえる。

▼「経済」が「文化」ということばですり替えられる

 仮に「資源」とみなさなくても、人間は野生生物由来のものを利用しなければいけないことは繰り返し述べてきた。それは、食の対象などの生存のための必要不可欠なものから、文化的な対象にも利用されてきたことは明らかである。太古の人類の昔から、日用品、道具、装飾品などに、動物の骨や角、牙、皮、樹木、葉、茎など生物の有用な部分は使われてきて、それには、各地域の歴史的背景や文化もあり、それぞれ独自のものが作り出されてきた。人類が産み出した音楽の楽器も例外ではない。

 問題は、必要な分だけ野生生物由来の素材を採取・利用し何かを作っていた過去の時代のことではなく、過剰な需要を生じ、結果的に大きな経済効果を生みだすようになった「物」があることだ。それも、ある程度の年月を経れば、「文化」と称せられることがあるが、その背後にある実態は、ビジネスとしての儲けであり、「文化」ということばにオブラートされたそこにはもはや「利用としての経済的価値」が優先され、元来生物が自然界の中で持つべき、生態系を担う生物としての特性は無視されていく。それが現実である。

 筆者は日本に不在だったが、2015年東京で、環境省主催の「希少な生物の保全のために~野生生物の輸入国、日本の責任」という題名なるシンポジウムが開かれた。出席された方が録音した発表者の講演を聞く限り、あくまで生物は「資源として」利用する対象であり、生物種としての生態学的重要性などは問われていなかったようだ。

 そのシンポジウムでは、象牙も話題の対象であった。日本では、印鑑や装飾品など、長い年月、象牙製品を使用してきたことはすでに述べたが、日本の象牙の需要は90年代までは世界のトップであり、それゆえ野生のゾウが狙われ、多くの頭数が消失していったことは事実として知られている。そこでは、ゾウという生物種の進化史的意義や、生物としての生態学的価値、それが生息する自然環境のバランス等は問われて来なかった。単なる「経済資源」とみなされてきたからである。

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