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【NPJ通信・連載記事】高田健の憲法問題国会ウォッチング/高田 健

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自衛隊の南スーダン派兵をやめろ、
PKO派兵期間延長と新任務付与に反対

2016年11月18日

トランプ騒ぎの影に隠れて、マスメディアでは戦後初の武力衝突の蓋然性が高い自衛隊派遣(南スーダンの首都ジュバ)が行われようとしている。
マスメディアはほとんど自衛隊への駆け付け警護任務付与の閣議決定や意味について報道、論評をしている。
この時期に高田健さんの原稿は鋭い光を放っていると考えています。
少し前に書かれた原稿ですので、やや日付に前後が生じておりますが、ぜひご高覧下さい。
                              NPJ編集部より

 
 
派遣期間延長と新任務付与
 安倍政権は10月までで期限切れとなる南スーダンの国連平和維持活動(PKO)参加の陸上自衛隊北部方面隊第7師団第11普通科連隊など(第10次隊)の派遣期間の延長を月内に決定し、11月から第11次隊として青森の陸上自衛隊第9師団第5普通科連隊を派兵しようとしている。この部隊に政府は今年3月に施行された「戦争法」による「駆けつけ警護」と「宿営地共同防衛」の新任務を付与する予定だ。その場合、新しい派遣部隊が戦闘に巻き込まれる危険性を最小限に抑えるため、活動範囲は稲田防衛相がいうところの「比較的落ち着いている」首都ジュバ周辺に限定するなどという方針をとるという。
 しかし、当初、政府は派遣期間延長と新任務付与の閣議決定を同時におこなうという考えであったが、このところ、ジュバ周辺の情勢が危うくなって来ているところから、新任務の付与は11月に入ってから改めて判断するという状況になってきた。極めて危うい話だ。
 すでに青森を中心にした交代部隊は8月25日から派遣に向けた訓練を始め、9月中旬から、「至近距離での銃撃戦」の訓練をはじめ、戦争法に基づく新たな任務として付与される予定の「駆け付け警護」と「宿営地の共同防護」の訓練を本格的に実施し、11月中旬以降の南スーダン派遣に備えている。部隊の装備も対空機関砲など重武装化される。私たちはこの第5普通科連隊を南スーダンに送ることを容認できない。

PKO5原則の要件に反する南スーダン
 2011年に新たに独立した南スーダンへの支援として国連の要請を受ける形でPKO(国連平和維持活動)への自衛隊参加が始まり、現在は10次隊で約350名の隊員が派遣されている。
 さまざまな反対を押し切って1992年に成立したPKO協力法には、参加するにあたり満たすべき条件としてPKO5原則がつけられた。(1)紛争当事者間の停戦合意が成立(2)受け入れ国を含む紛争当事者の同意(3)中立的立場の厳守(4)以上の条件が満たされなくなった場合に撤収が可能(5)武器使用は要員防護のための必要最小限に限る――だった。従来は、このもとでの武器使用は「自己や自己の管理下に入った者の防護」に限って認められていたが、昨年9月の戦争法強行採決、3月の戦争法の施行によって離れた場所で襲われたPKO要員やNGOらを助けるための「駆け付け警護」での武器使用、および他国部隊との「宿営地共同防衛」などでの武器使用も認められることになり、「必要最小限」の範囲が拡大した。南スーダンでは独立後もキール大統領派とマシャール副大統領派による武力抗争がつづき、2016年4月に停戦・和平移行政権が発足した。しかし、キール大統領派とマシャール副大統領派との対立と衝突はやまず副大統領は間もなく解任され、戦闘は激化した。7月上旬には大規模な戦闘が起こり、270人以上の死者が出た。8月にはマシャール前第一副大統領が南スーダンから隣国に避難して、和平協定はまったく暗礁に乗り上げてしまった。

戦闘ではなく、衝突だ、と
 こうして南スーダンでは事実上、停戦合意などが前提になったPKO5原則が適用される条件がなくなっているにもかかわらず、安倍政権は昨年9月に決定した戦争法の最初の具体化の地域として、あきらめていない。そのために、安倍首相と稲田防衛相らの国会の議論は白を黒と言いくるめる詭弁に終始している。
 南スーダン・ジュバで7月に起きた大規模な戦闘について、安倍晋三首相は10月11日の参院予算委員会で、「『戦闘行為』ではなかった」と答弁した。安倍首相によれば「武器を使って殺傷、あるいは物を破壊する行為はあったが、戦闘行為ではなかった」。「われわれは、いわば勢力と勢力がぶつかったという表現を使っている」と答弁する。なんと酷い答弁だろうか。
 ジュバでは7月に大規模な戦闘が発生し、市民数百人や中国のPKO隊員が死亡した。稲田朋美防衛相は「法的な意味における戦闘行為ではなく、衝突だ」「戦闘行為とは、国際的な武力紛争の一環として行われる人を殺傷しまたはモノを破壊する行為だ。こういった意味における戦闘行為ではないと思う」などと答弁した。
この戦闘に際しては、7月13日、ジュバからJICA関係者ら47人と日本企業の下請け作業のエジプト人、フィリピン人ら46人、計93人がチャーター機でケニアのナイロビに退避。同日夜、空自のC130輸送機3機がジブチ着。1機をジュバに派遣し、大使館員4人は14日、C130でジブチに退避した。紀谷昌彦大使と大使館員一人が安全確保のため14日から夜間は陸自の宿営地に避難し宿泊している(7月20日共同)。陸自隊は戦闘が再燃してからは国連施設の外に出られず、19日時点で活動を再開できていないという事態になった。
 PKO5原則に基づいて自衛隊はただちに撤退せよという世論が高まることを恐れた中谷防衛相は「武力紛争に該当する事態ではない」と強調(7月21日東京)したが、岡部俊哉陸幕長は21日、陸自の宿営地で流れ弾とみられる弾頭が複数見つかったことを明らかにし、「流れ弾の弾頭が落下した可能性が高い」と述べた。

稲田氏はジュバで何を視察したのか
 安倍首相や稲田防衛相は7月の戦闘のように死者270人に及ぶ大規模な戦争が起きても、単なる「衝突だ」と居直って、PKO5原則による派遣の破綻を言いくるめようとしている。
 稲田防衛相は10月8日、就任後初めて南スーダンのジュバを訪問し、自衛隊の活動内容や現地の治安状況などを確認した。稲田防衛相によれば現地の状況は「比較的安定している」と報告された。そして、稲田防衛相は自衛隊員に対しては宿営地で「部隊の高い能力と厳正な規律は、国連や南スーダン政府、現地住民から高い評価を受けている」と訓示した。
 ところが、南スーダン政府の10月10日の発表では、稲田防衛相の安全宣言の舌の根も乾かない10月8日、南スーダンのジュバ近郊でトラック4台襲撃が武装勢力に襲撃され、市民21人死亡、負傷者も20人に上るという事件が起きていた。
 襲撃は8日、ジュバと、約130キロ・メートル離れた南部の町イエイを結ぶ道路上で起きた。トラックには女性や子供らが乗っており、銃で狙われた。
 同国政府は、マシャール前副大統領を支持する武装勢力の犯行だとして非難した。前副大統領側は関与を否定している。南スーダンではこうした武装襲撃は、反政府軍によるものだけでなく、政府軍兵士によるものも少なくないという。もしもこうした武装勢力と自衛隊が戦闘をするようになったら、国際紛争を解決する手段として、武力の行使を禁じている憲法第9条に反することになる。

ことばのすり替えは常套手段
 このところの政府のことばのすりかえによる答弁、違法行為の正当化は目に余る。「戦闘行為」は単なる「衝突」にされ、「武力行使」は単なる「武器の使用」とされて、「戦争状態」はなく「比較的落ち着いている」とされてしまう。防衛大臣が視察にいった当日でさえも21人の死者が起きるような事態であるのもかかわらず、戦闘はなかったことにされてしまう。国会の論戦では新任務の付与で、派遣されている自衛隊員が交戦するリスクが高まるおそれがあるとの指摘に対して、安倍首相は「南スーダンは永田町にくらべれば遙かに危険だ」などとおちゃらけながら、「任務が増えれば、その分だけリスクが増えるわけではない」などとごまかした。自衛隊員の命が関わり、また自衛隊員が南スーダンの人びとを殺害するかも知れないという事態が迫っているときに、自衛隊の最高責任者が口にする冗談ではない。
 多くの人びとが指摘しているように、かつて「戦争」を「事変」と言い換え、侵略戦争に突入し、敗れて「退却」しても「転戦」といいかえて、民衆をだまして戦争を継続してきた政府と軍部の手法ではないか。
 冒頭に書いたように、いま、安倍政権は世論の動向を恐れ、不安定化する現地情勢を見極める必要があるとの判断で、派兵期間延長と新任務の付与を一挙に実行できないでいる。いま、この安倍政権の暴走を止めることができるのは世論の力だけだ。

「不測の事態」が起きたら
 10月14日の東京新聞のコラム「デスクメモ」はこう書いた。
 「政府は『不測の事態』への備えもしているはずだ。派遣部隊で『戦死』者がでたとする。国葬級の葬儀で、首相は『世界平和のために尊い命をささげ……』と弔辞を読む。大半のメディアが死者を英雄視する……。死んでも、殺しても、その日で戦後は死語になる」と。
 この臨時国会の冒頭、所信表明演説で「極度の緊張感に耐えながら、強い責任感と誇りを持って任務を全うする海上保安官や、警察官、自衛隊員に今、この場所から、心からの敬意を表そう」(拍手)(水を飲む)と議場の議員に呼びかけた安倍晋三首相である。この首相が呼びかけ、演出するナショナリズムに基づく異常な光景を見るとき、「デスクメモ」氏の警告は極めて現実味を帯びているのがわかる。 私たちは「不測の事態」にならないように闘うが、どのように覚悟し、これに立ち向かうのか。

全力で反戦の世論を
 憲法を無視し、立憲主義を無視した安倍政権のもとで、いま自衛隊には戦後初めて海外での戦闘で人を殺し、殺される事態が迫っている。
 いま必要なことは平和を願い、自衛隊の戦闘参加に反対する人びとが、全国各地で立ち上がって、南スーダンPKO部隊はただちに撤退せよ、安倍政権は南スーダンの自衛隊に駆け付け警護などの新任務を付与するな、の声をあげる必要がある。
すでに全国各地で市民が街頭に出て行動を起こしている。この闘いをさらに強める必要がある。10月30日には陸自第9師団第5普通科連隊の駐屯地・青森で、「自衛隊を南スーダンに送るな!命を守れ!青森集会」が、「戦争法廃止を求める青森県民ネットワーク」と「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」の共催で開催される。この現地集会は総がかり行動実行委員会の歴史の中でも、画期的な提起だ。
 全国の仲間のみなさんが駆け付けてくれるよう呼びかけたい。
 総がかり実行委員会は、これに先立ち、防衛省交渉も実施する。そして、もし安倍政権が第11次派遣部隊に新任務付与の閣議決定をするような場合は、その当日、早朝から官邸前抗議行動もおこなう。
 こうした行動を積み上げ、安倍政権を追いつめようではないか。 
  
<追記>
 この原稿を書き終えた後、10月21日と22日の朝日新聞が20日におこなった南スーダンの反政府勢力のトップ、マシャール前副大統領とのインタビュー記事を載せた。マシャール氏は現在、南アフリカに亡命している。以下、同記事、要旨。

 マシャル前副大統領が、「7月に起きた戦闘で、和平合意と統一政権は崩壊したと考えている」と語った。和平合意の当事者だった反政府勢力のトップが和平合意や統一政権の継続を否定し、南スーダン情勢の先行きが見通せないことが浮き彫りとなった。
 マシャル氏は、キール大統領と昨年8月に締結した和平合意や、キール派と今年4月に樹立した統一政権について「7月の戦闘の後、我々は首都から追い出された。和平合意も統一政権も崩壊したと考えている」と指摘。「もしそれらを復活させるのであれば、新しい政治的な過程が必要になるだろう」と述べた。
 一方、自衛隊がジュバで活動していることや、国連安全保障理事会が8月、より積極的な武力行使の権限を持つ4千人の「地域防護部隊」の追加派遣を決めたことについては、「戦闘が起きたとき、私は国連やアフリカ連合などの第三者勢力の必要性を訴えた。ジュバなどの主要都市の治安を高め、非武装化させるためにも、『地域防護部隊』は必要だ。自衛隊を含めた国連部隊は歓迎する」との見解を示した。
 稲田朋美防衛相は現地情勢について「武力紛争の当事者、紛争当事者となりうる、国家に準ずる組織は存在していない」とし、「PKO参加5原則は維持された状況」との認識。7月の大規模な戦闘についても、「戦闘行為ではなかった」(安倍晋三首相)として、「国際的な武力紛争の一環として行われる、人を殺し、または物を破壊する行為」という、政府が定義する「戦闘行為」には当てはまらないと認定している。
 一方、政府は来月20日ごろに現地へ出発する陸上自衛隊の次期派遣部隊に、安全保障関連法で可能になった任務「駆けつけ警護」などを付与するかどうかも検討。稲田氏は、岩手県の岩手山演習場で「駆けつけ警護」の訓練を行っている部隊を23日に視察すると発表。現地情勢や訓練の習熟度などをギリギリまで見極めた上で判断する方針だ。

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