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【NPJ通信・連載記事】高田健の憲法問題国会ウォッチング/高田 健

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まさに現代は「新たな戦前」。しかし、私たちはあきらめない

2014年7月29日

時代はまさに新たな「戦前」

2014年7月1日、安倍内閣は集団的自衛権の行使容認を合憲解釈とする閣議決定を行った。前日、30日の夕刻から夜にかけて首相官邸前には1万人余の民衆が押しかけ、この日も朝から閣議決定反対の監視を始めた人びとは、午後5時過ぎには前日と同様に1万人を超えていた。「集団的自衛権反対」「閣議決定絶対反対」「戦争反対」「9条守れ」「安倍はやめろ」「いますぐやめろ」のコールがドラムの音と共に鳴り渡った。この両日、首相官邸前には自らが戦場に派兵される世代になることに怒りを燃やした若者たちが、とりわけたくさん駆けつけた。それらは多くのメディアが証言するように、まさに「組織動員」ではなく、自立した個人としての参加であり、その叫びであった。官邸内の安倍晋三の耳には確実にこの声が届いた。6月30日の官邸前行動を「反省」してか、11日の機動隊の警備は歩道に新たな鉄柵を設けるなど異常なものだったが、人びとは毅然として抗議しながら、ジリジリと押し返していった。

安倍政権は茶番としか言いようのない「安保法制懇」の討議につづく「与党協議」という密室協議をもって、国会にもはからず、世論にも説明責任をはたさないまま、あたふたとこの憲法違反の「閣議決定」を行った。これによって集団的自衛権の行使は日本国憲法の第9条の下では不可能とされてきた歴代政権の憲法解釈が変えられ、その行使が可能とされた。戦後の安保防衛政策の歴史的転換の瞬間だった。

これだけ急ぎに急いだ「閣議決定」のあと、安倍首相は通常国会を閉じて外遊にでかけ、約半月後に衆参の予算委員会の閉会中審査をわずか1日ずつ開催して、お茶を濁した。1日の記者会見で安倍首相はその罪悪感と後ろめたさを隠すかのように「今回の(武力行使の)新三要件も、今までの三要件と基本的な考え方はほとんど同じと言っていいと思います。……繰り返しになりますが、基本的な考え方はほとんど変わっていない、表現もほとんど変わっていないと言ってもいいと思います」と弁明していたのに、1週間後の7月8日、オーストラリア連邦議会演説では「なるべくたくさんのことを諸外国と共同してできるように、日本は安全保障の法的基盤を一新しようとしている。法の支配を守る秩序や、地域と世界の平和を進んでつくる一助となる国にしたい」と意気込んで語ったのだ。この二つの首相発言の落差に、安倍晋三という人物の政治の本性が表れている。

この安倍内閣の閣議決定強行の結果、先の15年戦争の後、69年にわたってつづけてきた海外で戦争をしない国、海外で戦争が出来ない国としての日本の「戦後」の歴史は終わった。いまや、私たちの前には新しい「戦争の時代」があり、この国は間もなく戦争をすることになろうとしている。時代はまさに「新たな戦前」となった。

「一括法」という暴挙

しかし、私たちは確認しておかなければならない。過日の7月1日をもってこの国は「海外で戦争のできる国」「戦争する国」になったのではない。そのためには従来、憲法9条などの縛りをうけて、海外での戦争が困難にされてきたいくつもの戦争関連法制の「改定・整備」が必要であり、それはまだ終わっていないのだ。

官邸前に象徴される反対運動の高揚を恐れた安倍政権は、この戦争法の法改定を、当初、考えられた今年秋の臨時国会からではなく、2015年の第188(?)通常国会に「一括法」として上程し、国会に特別委員会を設置してで、集中的に審議しようと企てている。

もしもこの「一括法」の成立を許せば、文字通り「戦時」が目前にせまる「戦前」となる。

15本以上必要といわれる関連法制の「一括法」の集中審議は、もともと、それぞれ立法主旨も異なるものであり、安全保障関連法制などとして一本化すること自体が議会制民主主義の立場からも問題が大きい。この結果、民衆にとって恐ろしくわかりにくいものとなると思われる。その悪例が1999年の「分権一括法」(475本の法律の一括改正)で、国会議員さえも法案を読み解くのが困難だったと言われるしろものだった。議会での政権与党の圧倒的多数議席を背景に、集中審議に名を借りた短時間の国会審議で、審議を尽くさないままに強行採決するというのが安倍首相の常套手段だ。こうした「一括法」は国会軽視、主権者無視であり、議会制民主主義と立憲主義を破壊する独裁政治であり、許されない。

前号の「私と憲法」でも指摘したが、その中には、①自衛隊法、②防衛省設置法、国家安全保障会議(NSC)設置関連法、③武力攻撃事態法、国民保護法、特定公共施設利用法、米軍行動円滑化法、外国軍用品海上輸送規制法、捕虜取り扱い法、非人道的行為処罰法、④周辺事態法、船舶検査活動法、⑤国連平和維持活動(PKO)協力法、国際緊急援助隊法、海賊対処法などなどがある。

なかでも、「国際平和協力」を目的とした自衛隊の海外派兵に関する新法(派兵一般法・恒久法「国際平和協力法・仮称」)の策定も含まれると噂されている。これらの戦争法制は、従来は派兵対象も限定した特別措置法で、時限立法でやってきたのであるが、今回の閣議決定をうけて、場所や時間の限定なしの派兵一般法にしようというのだ。すでに安倍首相は自公協議の舌の根も乾かないうちに、ホルムズ海峡での機雷除去など集団的安全保障への参加を口にし始めた。これこそ、そのための保障となる法制である。

年末には日米安保のガイドラインの再々改定が予定されている。今時ガイドラインには今回の閣議決定が反映されることになるのだが、本来、それは日米安保条約の改定を必要とする性質のものだ。日米安保条約第5条には「各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従つて共通の危険に対処するように行動することを宣言する」とあり、集団的自衛権の行使はこの5条の規定の突破になるからだ。それほどの重大問題を両国政府の行政協定にすぎないガイドラインの改定で済ませることなど、許されるものではない。

私たちは主権者として、この憲法破壊に総がかりで立ち向かう必要がある

6月30日、7月1日に頂点に達し、その後も閉会中審査に抗議する7月13日から15日の連続した国会行動としてとりくまれた一連の行動は、この春以来取り組まれてきた「解釈で憲法9条を壊すな!実行委員会」と「戦争をさせない1000人委員会」のよびかけによる共同行動であった。それは4・8の日比谷集会、6・17の日比谷集会などを経て生成・発展してきたあたらしい運動だった。そして同時にこれらの共同の中で、昨年来の秘密保護法の廃止を求める運動や、学者たちを中心に組織された「立憲デモクラシー」、日本弁護士連合会、若者たちを中心に組織されたTOKYOデモクラシー・クルー、ドラム隊などとの連携が努力された結果であった。こうした共同を軸にツイッターやフェイスブックなど、SNSを駆使した広報・拡散の活動が、多くの個人のもとに届けられ、行動への参加を促した。この過程でさらに「明日の自由を守る若手弁護士の会」、「国民安保法制懇」「21世紀の憲法と防衛を考える会」(自衛隊を活かす会)など、新しい運動体も組織され、世論の形成に尽力した。

運動の高揚は7月1日の朝日新聞社説「7・1官邸前―主権者が動き始める」が描写とおりだ。

「『戦争反対 生きたい』。黒いペンで手書きした段ボールを持った男子高校生。『憲法壊すな』。体をくの字に折って、おなかから声を出す女子中学生のグループ。プラカードを掲げる若い女性の爪は、ネオンピンクに白の水玉。赤い鉢巻き、組織旗を持った集団の脇で、父親に抱っこされた幼児はぐったりとして。年配の参加者は、もはや立錐(りっすい)の余地もない前方を避け、下流の壁沿いに静かに腰を下ろす。作業着、ネクタイ、金髪、白髪、リュックサック、高級ブランドバッグ。地下鉄の出入り口からどんどん人が吐き出されてくる。……若い世代が目立つ。「国民なめんな」「戦争させんな」を速いリズムにのせてコールし、年長者を引っ張っているのは大学生のグループ。デモに参加するのは初めて、ツイッターで知った、一人で来た、都外から来たという人も少なくない。主催者側によると「官邸前にはどうやって行けばいいのか」と多くの問い合わせがあったという。……『NO」といわなければ「YES」に加担したことになる。戦場に行かされるのがこわい。「頭数」になるぐらいしか、今できることはないから――。多様な思いを胸に集まった人たちが、官邸に向けて声をあげた。……2日間で最も多く叫ばれたコールのひとつは、『安倍は辞めろ』だ。官邸前で、これだけの規模で、公然と首相退陣を求める声があがるのは極めて異例のことだろう。なるほど。安倍首相はこの国の民主主義を踏みつけにした。しかし、踏まれたら痛いということを主権者は知った。足をどけろと声をあげ始めている」。

改めて確認しておきたい。この闘いの軸になったのは、この間、集団的自衛権の行使に反対する課題を不屈に、持続的に闘ってきた人びとの共同であり、それによる提唱だ。統一行動が、広範な人びとの決起を促した。事実、筆者はこの期間、集会のマイクを握った後、多くの人びとから握手を求められ、「こういう場をつくってくれてありがとう」と熱い言葉をかけられた。この人びとは切実に共同行動を望んでいる、それを実感した瞬間だった。

私たちには責任がある。この自覚が必要だ。もとめられているこの闘い、安倍内閣の戦争する国への道を阻止する闘いと比べれば、あれこれの理由をもって共同行動を妨げることになんらの正当性もない。求められているのは、「同円多心」の運動である。「場をつくること」とはまさに誰もが参加できる広範な共同を組織することだ。安倍政権の暴走を止める、「安倍はやめろ」を実現する、わたしたちはそのために、誠心誠意、奮闘する必要がある。

国政で安倍政権が安定多数を握っているとはいえ、10月の福島県知事選、11月の沖縄県知事選、4月の統一地方選が控えている。さあ機の史が県知事選挙の結果が示したように、その影響は極めて大きい。

そしていま、さまざまな運動が各方面から準備されている。

この間、集団的自衛権の行使に反対する運動の拡大に重要な貢献をしてきた日本弁護士連合会は、7月17日の銀座デモに続いて、来る10月8日夕方から、日比谷野音を確保して集団的自衛権を認める法律改正に反対する大集会と大規模なパレードを企画している。

また、2004年に結成され、全国に7500組織されている九条の会は7月はじめ、全国に呼びかけを発し、10月をこのための統一行動月間に指定し、11月24日に日比谷公会堂を中心に大規模な集会とパレードをw呼びかけた。

さらにこの間、一連の運動を担ってきた「戦争をさせない1000人委員会」と「解釈で憲法9条を壊すな!実行委員会」は共同で、9月4日、日比谷野外音楽堂で集団的自衛権の閣議決定に反対する「総がかり行動」を呼びかけている。

韓国をはじめ東アジアの人びとの運動も高まってきている。

暴走する安倍政権の前に、情勢は決して容易ではないが、私たちはいまこそ、意を決して闘わなければならない。なによりも安倍政権を打ち倒し、閣議決定を撤回させ、この国の戦争する国への道を阻止するために立ち上がらなければならない。

(許すな!憲法改悪・市民連絡会「私と憲法」159号所収)

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