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【NPJ通信・連載記事】一水四見・歴史曼荼羅/村石恵照

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(43)反・嫌中感情と北朝鮮ミサイルに翻弄された「小人島の豆人間」(2)

2017年5月24日

日本の有史以来、中国(漢人)の大軍勢が日本に侵攻してきたことは一度もなかった。

日本本土の民間人に壊滅的爆撃を加えた始めての外国軍は、アメリカである。

しかしアメリカは「ポツダム宣言」を実施したまでだ。

このような日米関係の国際的実体において、日本国内において日本語で文言上の憲法改正をすると、アメリカの軍事思想の言語空間の中では、彼らの利益のために再解釈される可能性はなきにしもあらずである。

一方、アメリカの戦略は明確に文言化されて対外的に明確に公布されるが、これは、そうしないと大きな戦略の実行に当たって内部で意見の統制が混乱してしまうからだ。

もちろん戦略の実施の背後には、様々な謀略や情報操作が行われるのは当然である。

しかし、大統領が公開された言動で示したしたことを恣意的に翻してしまえば、アメリカの行政や司法内部での指示系統に混乱をきたしてしまう。

そういう意味で、トランプ大統領の言動は前代未聞である。

しかし、トランプ大統領を生み出した前提は、彼以前まで続いてきた政権にあることは、縁起の道理だ。

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現在、野党にまったく期待がもてないように思われる状況下で、安倍政権に期待するのは、アジアについての認識を、安全保障の観点を超えて、じっくりと歴史を深く見つめた文明的史的な大局観から考えることである。

自由、議会制民主主義、人権などの“普遍的価値観” を維持しながら、地政学的に東アジアに位置する日本独自の価値観とはなにかを、深く認識した文明的史的な大局観である。

現在、西欧社会の内部を分断して吹き荒れている情念は、各国独自の伝統や安定した国民生活を軽視しがちな、大衆の民情を軽視した観念的思考のエリートや金融操作に主導された利害関係者グループによる “普遍的価値” の乱用、悪用、または “二重思考” である。

しかも、必然的に少数派の利害に集中してしまう傾向をもつ金融主導の自由経済は、大量生産・大量流通・大量消費を前提としていて、結果として「1% vs 99%」の対比に象徴される格差社会を生んで、世界的な人心不安と自然破壊にも連動している。

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大言壮語を承知で現在の世界状況を総括すれば、アングロサクソン的情念に主導されて、地球全体に植民地支配を通じて影響力を行使してきた西欧文明が、最終段階のカオスのような状況をつくりだしていると言う他にはない。

予測不能の世界的政情不安の現在、 三日後になにが起こるかわからないような複雑怪奇な世界状況だ。

目下は、反トランプや反ルペンの様々なグループの情動が欧米に流れている。

いつのまにか、つい最近まで「1% vs 99%」への批判をしていたようなグループが、今は、反トランプや反ルペンで動いているような気がするが、錯覚だろうか。

あまりにめまぐるしく世相が動くので、しばし浮き世を忘れて江戸の自足した文化的風景をイメージしつつ、勝海舟の江戸弁の語り口を味わいながら「氷川清話」を読み返している。

海舟の見識を評価するのは、

彼が、日本独特の伝統的国情と幕政について、それらの良質の部分と瑕疵の部分とを十分に心得た見識と、
当時の西欧人に対してなんらの劣等感もなく、直接交渉の体験的知識を持っていたからだ。

もちろん、軍事と金融が絡んだ欧米の侵略主義が是認されていた当時の状況において、 徳川武士である勝海舟の個々の言動に好戦的な表現がみられるのは事実である。

では、海舟はどんな見識をのべているのか。

「伊藤さん [伊藤博文 ] ばかりじゃない。今の廟堂に立つ政治家と言ふ人たちは、日本とか、朝鮮とか、支那とか、オロシアとかいって、これを別々に見て外交のかけひきをするから、やり損なひが多いばかりではない。
経綸もまた極めて小さくなるのだ。

それだから、百年の長計などといっても、とても駄目だ。
彼の人達のする仕事は、十年はおろか、たった一年先のことさへも、見透しが付かないではないか。

おれは、国々を別に見るといふことはしないで、東洋の二字の上より何事も打算するよ。

それだから、今の外交家のする仕事は、おれの目には、まるで小人島の豆人間が仕事をするやうに見えるのだよ。」(明治29年5月; 勝海舟の談話;『氷川清話』)

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日中関係は、今後、国際政治がいかに変動しようとも、日本が国際的な視野で国益を考える場合、戦略思考の定点の位置を占めている。

そこで、地政学的事実を基礎として、国民国家としての日米両国民の友好関係を維持するのは当然であるが、好悪や善悪を超えて日中関係を正しく厳しく歴史的に整理しないことには、現下の北朝鮮の大騒ぎも、日ロ関係から日米関係も、さらに原発問題さえも、基本的に片付かない。

軍事大国アメリカの前線基地「不沈空母」としての日本列島に居住する米軍人と家族の人数は、約9万4000人である(外務省発表(2008)「米軍人等の居住者の人数について」)。

米軍基地は、一体何のために日本に駐留しているのか。

中国の南沙諸島への介入や北朝鮮のミサイル発射で、アジアには不安定化が維持されているが、我が国の政治の中枢に関わる人々は、いったいその根本原因をいかに考えているのだろうか。

アメリカは北朝鮮の「脅威」を借りながら、韓国に空中防衛システム「THAAD(サード)」を配置してしまった。
「THAAD」迎撃ミサイルは、10億ドルにもなるという。

目下の東アジアの軍事的現状とは、ロシアが遠望する中で、
北朝鮮が挑発行為を繰り返し、
韓国にサードが配備され、
米中間に高度な戦略的な緊張状況が醸し出されている大きな絵柄において、
日本は軍備意識を高めさせられて、東アジア全体に軍事的緊張が高められている戦略的構図である。

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ふたたび思う、正直なアメリカ人にも聞きたい。

米軍基地は、一体何のために日本に駐留しているのか。

「マッカーサーは、1948年12月に日本軍隊復活を勧告した統合参謀本部に対し、強い反対を表明した。マッカーサーの反対の裏には、国務省と国防省の間で激しく闘われていた最高機密政策論争があった。
平和条約の中に、日本の再軍備を認める条項を入れるかどうかの論争である。
マッカーサー、国務省、国防省(ペンタゴン)の間で大論争が巻き起こったが、日本政府は完全に蚊帳の外に置かれていた。・・・」

「1948年11月20日、国防省は、日本再軍備の必要について極秘文書の中に理由を挙げた。
⑴ 「日本がソ連圏に落ちるのを防ぐためには、必要なら武力で日本を護らなければならない」
⑵ 「もし、平和条約で日本再軍備を認めないなら、アメリカが日本を防衛するための厖大な軍隊を日本に駐留させなければならない。
しかし、我が国民は平和条約が締結されたら、兵士を帰国させ、日本国民が日本を防衛することを要求するだろう」
⑶ 「日本の軍隊を訓練するには時間を必要とする。日本軍の復活が遅れることは、事態改善の遅れを齎すだけで、アメリカはそのような危険を冒すことはできない」
⑷ 「日本の軍隊を復活させれば、アメリカは太平洋における安全保障に悪影響を与えることなく、日本からアメリカ軍の幾らかを撤退させることができる。
また、この日本軍隊は、全面戦争という事態になれば、我々にとって測り知れない価値を発揮するだろう」( 西鋭夫『国破れてマッカーサー;「帝国軍を復活させよ!」)』より引用)

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少し前まで尖閣問題で騒いでいた一部の評論家たちや運動家たちは、普段は沖縄の人権などに関心もないくせに、中国が沖縄を占領するなどと考えて血相を変え、今では北朝鮮から核ミサイルが飛んでくるかもしれないとヒステリックに叫んでいる。

そのわりには、北方領土については、何の関心も示しているようにはみえない。

日本列島がカリフォルニア州の沖合にあるのならともかく、
日本は極東に位置する日本列島である。

脱亜入欧や脱亜入米を超えて、改めて、

「東洋の二字の上より何事も打算する」

大局観が必要ではないのか。

「東洋の二字の上より何事も打算する」とは、
戦略より上位の立場から、日本列島が位置する東洋を文明史的に俯瞰する大局観、ということだろう。

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エドワード・ルトワック著の『中国4.0』と『戦争にチャンスを与えよ』を読んだ。

そこで、西欧の政治と政治家の実体に精通している戦略専門家独特の興味ある達見を学んだが、そこには、ユダヤ・キリスト教の情念が内在化した西欧戦争史観が基礎にあるようにみえる。
戦略の専門家だから当然のことだが、覇権争いの駆け引きゲームを当然とした思考を前提としているようだ。
彼の上記の著作には、日本が、古代より中国文明の多大な影響を巧みに咀嚼して独自の文化を築いたことや、皇室の伝統と一体になった仏教国であるという観点が欠如している点で、グローバリストの国籍上の日本人は措いて、日本独自の国益を鑑みれば、彼の論旨にうかつに納得してしまうのは要注意だろう。

中国が積年の複雑な問題を抱えた国柄であることは当然のこととして、日本の政治家は、中国の指導者たちとは、改めて文明史観的立場で語りあうことが大切ではないのか。

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日本は明治維新から大東亜戦争/太平洋戦争まで戦争を連続させてきたが、終戦後の復活や数々の自然災害を乗り越えてきた日本人の復元力と伝統温存の民力は、すべて260年余の安定した徳川政権において蓄積された実績の余録で育成されてきたものだ。

海舟は語る。

「今日外交の方針だとか何とかいって、騒いで居るけれども、
全体、何をしとるのか、おれには分からない。

・・・世間の人も人だ。
西洋に行って少しばかり洋書が読め、英語で談判でも出来れば、早今第一の外交家と仰いで居る。

上も下も似たり寄ツたりのものサ。

かういう風では、やはり幕府の末路と同じやうになるかも知れないから
しっかりやって貰いたいものだ。」( 明治28年12月;勝海舟の談話)

「泰平の眠り」は、現代まで続いているのかも知れない。

日本人の「泰平の眠り」とは、世界的な歴史認識の希薄さにもとづいて、西欧の覇権政治に目をくらまされてアジアを忘れていることの無自覚である。

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