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【NPJ通信・連載記事】音楽・女性・ジェンダー ─クラシック音楽界は超男性世界!?/小林 緑

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クラシック音楽界は超男性世界!? 第44回 国際女性デー・イヴェントのお知らせ

2014年5月6日

政権の恥ずべき暴走、底なし沼のNHK問題…まことに言葉を失う事態のなか弥生三月を迎えようとするこの国。 世界の女性たちにとって大切な記念日、国際女性デーもすぐそこに待っている。 この間、私もかつてNHK経営委員会に身を置いていたことから複雑に思い惑い、生まれてはじめての取材攻勢にも遭った。 これについては近いうちに、しっかり考えをまとめてから改めて書かせて頂きたい…というわけで、 今回は一週間後に迫った3月8日(土)、国際女性デー当日の午後に開催する女性作曲家のコンサートのご案内のみに留める。 いつも宣伝とお願いばかりと、わがパートナーも呆れているが、どうぞお許し下さい。

104歳を迎えるこの 「国際女性デー」 については、これまでもたびたびネタにさせて頂いた。 今回もしつこくこれに便乗するわけは、初めて、私の専門としているフランスの女性作曲家を、 その国の公的機関(日仏会館)との共催で紹介できることになり、大変嬉しく舞い上がっているからだ。まずはチラシ両面をご覧いただきたい。

 

 

主催は日仏女性研究学会。労働や法律、歴史から介護まで、さまざまな日仏の女性問題の情報交換と研究発表を目的とする団体で、 私もほぼ20年前から末席に身を置いてきた。例年特別のイヴェント企画を重ねてきたが、今年初めて、音楽に目を向け、女性作曲家を取上げることとなった。 提案した私の強引さに皆さんが引きずられた形で実現できたのだ。改めて感謝したい。 しかしながらコンサートには先立つモノ、お金がどうしても必要だ。例年のイヴェントは無料が原則であったが、今回はあえて入場料(一般 1500円、 会員・学生 1000円)を頂くこととした。チケット類は一切発行せず、オンラインと電話での申し込みだけ。 折り返し受付け番号が通知されるはずで、当日受け付けでお名前と番号を名乗られた上で、お支払いいただくことになっている。どうぞご了承下さい。

共催にある 「知られざる女性作曲家&小林緑カンパニー」 とは今回の事務処理のためだけに考案した名称で、 企画責任が私個人の名前ではどうにも収まりが悪かろう、との主催学会のお気遣いの賜物である。 実際問題として、学会の予算では賄いきれぬ経費を、 NHK経営委員時代に得た収入で補うことができる・・・私としてはライフ・ワークと定めている女性作曲家のコンサート実施という活動の資金を、 受信料から頂いた金額によって保障されてきたともいえるのだ。 この経済的裏付けの内情を、いつかどこかではっきりさせなければ、とかねがね思ってきたので、NHK問題が前代未聞の関心を集めている今、 それが果せて、正直ほっとしている。

さて今回取上げる二人、ルイーズ・ファランク(1804-75)とポリーヌ・ヴィアルド(1821-1910)は、その生没年を併せると、 ほぼ19世紀全体をカヴァーすることになる。ともにパリで生まれ、没したが、ファランクは器楽中心、対するヴィアルドは声楽だ。 とはいえ、ファランクもいくつか声楽曲を手がけ、ピアニストとして流行のオペラに基づく変奏曲にも巧みな手腕を発揮した。 最高のディヴァと謳われたヴィアルドはまた、ピアニストとしても傑出、今回取上るヴァイオリンとのデュオなど、素晴らしい器楽曲も残している。

二人に共通するのは、ともに夫が、自らの仕事を擲って、作品出版やコンサート・ツァーへの同道など、 マネージャーよろしく全面的に妻の活動を支えたこと。この21世紀になお、女性は家庭に留まり育児に努めよ、が持論の委員を、 最強メディアの最高意思決定機関に頂くどこかの国とはえらい違いだ。

もう一つ、二人の接点がある。1795年創設後のわずかな時期を除き、続く19世紀を通じて女性教員を排除していたパリ音楽院に、 例外的に正規の教授として迎えられたこと。ファランクの場合はさらに、男性教授が男女両性を教えることができたのに引き換え、 彼女は女生徒しか担当できず、報酬も男性より低かったため、学院長に直訴、同額に正されたという。 世界に冠たるあのコンセルヴァトワールにも、 現代顔負けの男女賃金差別が横行していたとは…ヴィアルドはそのルイーズが30年の勤続を終えて辞職して後に就任したので、 二人が同僚として協働することはなかった。そのヴィアルドはしかし5年ほどで自ら申し出て辞任。 その理由は生徒の評価をめぐるトラブルに加え、複数の教師の分担で生徒に関る学校制度に馴染めず、全てを自分ひとりで教えたいと欲したためのようだ。

「演奏<ピアノ>、作曲、教育、研究の4役をこなしたスーパーウーマン」 「19世紀フランサウ音楽文化におけるキーパーソン」 当日お配りするプログラムに掲げたファランクとヴィアルドのキャッチ・コピーである。 演奏者は芸大大学院在学中の若手と、国際的に活躍中の実力者を織り交ぜての顔あわせ。 ファランクの選りすぐりの室内楽二つと、全ての調によるピアノ練習曲集からの4曲、そしてヴィアルドは歌心溢れるヴァイオリン作品と、 さまざまな歌曲とその編曲を組み合わせてある。ヴィアルドのジャポニズムに想を得た珍しい作品―おそらく日本初演―も冒頭のみではあるが、ご紹介する。

フランスはそもそも私が給費留学生としてさまざま恩恵にあずかった国。 今回その国の “凛と輝く” (チラシのコピー)二人の女性作曲家を取り上げることで、いくらかご恩返しができるかも…加えて、 クラシック音楽が一般的に親しまれている19世紀・ロマン派時代にはとりわけ、実力ある女性作曲家を最も豊富に生み出した国でもあり、 もっともっと広くその事実を音楽ファンに知ってもらわなければ…との思いを募るばかりなのだ。

それにしても今回、私の個人プレイに留まらず、日仏女性研究学会の方たちとの共同作業でコンサートを造るという初めての経験から、 実に多くの事柄を考え、学ぶことができた。結論を正直に申せば、どこまでも唯我独尊で全てことを決め、進めるほうがずっとラクだし、効率もいい。 しかしこれを押し通せば、音楽というメディアが備える一番素晴らしい機能であるはずの、人と人との交流が阻害され、 本来の目的に背くことにもなってしまう…国際女性デーのような絶好の機会であればなおのこと、 今後もこうしたコラボレーションの可能性を押し広げなければ、と自らに言い聞かせている次第である。

最後にもう一押し…まだ座席に余裕があるとのこと。どうぞお誘い併せの上、恵比寿の日仏会館にて、 国際女性デーにふさわしいパフォーマンスをお楽しみくださいますように。

 

 

 

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