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【NPJ通信・連載記事】時代の奔流を見据えて─危機の時代の平和学/木村 朗

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特別寄稿 日本は真の独立国家なのか 「『終わらない〈占領〉』 を問う」

2014年5月6日

4年前の本格的な政権交代で登場した鳩山民主党政権は、普天間基地問題で 「国外移転、最低でも県外移転」 という当初の画期的な方針を貫くことができませんでした。昨年末に誕生した第二次安倍自民党政権は、米国の戦争に協力するための改憲、 原発再稼働、消費税増税、TPP参加、オスプレイ配備受け入れ、普天間基地の辺野古 「移設」 案などを推進しようとしています。 このような米国と官僚の言いなりになっている今の日本は、本当に主権国家・民主主義国家と言えるのでしょうか。 今回は、この6月に法律文化社から出版された、孫崎 享氏と私の共同編著 『終わらない〈占領〉: 対米自立と日米安保見直しを提言する! 』 をご紹介させていただきます。

<本書の構成・目次>
序 言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・鳩山由紀夫
はしがき
■第Ⅰ部■戦後史における日米関係の実相
―いまも続く事実上の占領
第1章 日米関係の実相―終わらない「占領」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・孫崎 享
第2章 属国問題 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ガバン・マコーマック
第3章 戦後日本における沖縄の位置 ・・・・・・・・・・・・・・・新崎盛暉
第4章 自衛隊の歴史と米軍との関係史 ・・・・・・・・・・・・・前田哲男

■第Ⅱ部■政権交代と普天間基地問題の変遷
―対米自立の模索と挫折
第5章 日本は本当に民主国家・独立国家なのか
―対米従属から対米自立への転換を ・・・・木村 朗
第6章 民主党政権と米軍再編 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・川内博史
第7章 日米地位協定にみる日米関係―未だ占領下の日本・沖縄
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・前泊博盛

■第Ⅲ部■米軍再編と在日米軍基地から見える本質
―「目下の同盟」と「軍事植民地」
第8章 米国が用意する日本の対中国参戦態勢の口実
―「接近阻止・領域拒否」概念と「エアシー・バトル」を中心に
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・成澤宗男
第9章 沖縄密約と秘密保全法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・西山太吉
第10章 米軍再編と沖縄米軍基地 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・伊波洋一
第11章 岩国から見えるもの ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・井原勝介

■第Ⅳ部■煽られる領土問題の深層
―米国による東アジア分断政策の影
第12章 尖閣諸島にどう対処すべきか ・・・・・・・・・・・・・・・孫崎 享
第13章 日韓領土問題と戦後アジア秩序
―二つのシステムの併走と未決の歴史問題
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・纐纈 厚
第14章 北方領土問題について考える
―問題解決を遠ざけている者どもを一掃せよ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・鈴木宗男
戦後史年表

<序  言  鳩山由起夫>
「良くぞ、この本が生まれたものである。
この本の出版に関わったすべての方々の勇気に感謝を捧げたい。
さらに、この本を手に取ってくださった方々の勇気にも感謝したい。
今まで、日米関係の実相をディープに描くことはなんとなくタブー視されてきた。日米関係を描いた出版物は数限りなくあるが、 日本の戦後史を 「対米従属」 vs 「対米自立」 と言う視点から見つめ直した書物はほとんど無かったと言える。 孫崎享氏が 『戦後史の正体』 の中でその道を拓いた。それは外務・防衛官僚たちが築き上げ、大手メディアたちが無批判的に流してきた 「あらすじ」 とは大きく異なるものだった。外務・防衛官僚も大手メディアも東西冷戦構造の名残を惜しむのか、世界を見る目がどうしても偏りがちになってしまっている。 しかし、日本人はとくに官僚と大手メディアに対する信頼が厚いので、偏った見方に何の違和感も抱かない。と言うよりも、偏っていると思ってもいないのである。
したがって、多くの国民は 「対米依存」、「対米従属」 は当たり前と思っている。日米安全保障条約によって、 万一のときにはアメリカが日本を守ってくれるのだから、アメリカの言うことを聞くことは当然であると思っている。 日本を守るために米軍基地が存在することも当たり前で、地理的な状況から米軍基地は主として沖縄にあることが必然で、 自分の故郷には置いてもらいたくないと考えている。これが平均的日本人の思考である。

毎年アメリカから年次改革要望書が突き付けられると、日本政府は唯々諾々とこの要望の実現を図ってきた。 いわゆる郵政民営化もアメリカは自分の国は民営化しもしないのに、自国の利益のために日本にはこれを突き付けてきた。 小泉内閣はさも郵政民営化が日本のためであるかのように、この実現に力を入れてアメリカを喜ばせた。 年次改革要望書は私の政権の時に一時廃止されたが、その後復活したどころか、TPPにまで尾を振る日本に舞い戻ってしまっている。
彼らから眺めると、偏らない発想こそ偏っているように見えるのである。偏らない世界観は官僚から忌み嫌われ、大手メディアからは徹底的に批判される。 「対米自立」 路線などもっての外ということになる。
それだけに、「対米依存」 から、より 「対米自立」 へと進むことが日本のあるべき姿であるとの思いで書かれた本書は、 既得権の勢力やその感化に浴している方々を中心に、多くの批判を受けることになるであろう。その批判を恐れぬ覚悟を持った執筆者たちに敬意を表したい。

それにしても、この国は不思議な国である。
私の願いは日本を真の意味で独立国に育てたいと言うことである。
この本の根底に流れる共通の願望は、TPP参加交渉に見られるように、何でもアメリカの顔色を見ながら政策判断をしなければならない日本ではなく、 この国の生きざまは尊厳を持って日本人自身が決められる独立国日本を創り上げたい、ということであると信じる。 そしてそれは決して突飛な考えではなく、至極当然の主張である。
ところが、余りにも長くアメリカにお世話になっているからであろうか、 この国ではアメリカに依存して生きることが日本人の遺伝子に組み込まれてしまっていて、「対米依存」 が 「保守」 の思想の中核となってしまっている。 なぜアメリカに守られている日本をそのままにしておいて 「保守」 なのか分からない。昔、「巨人、大鵬、卵焼き」 と言う言葉が流行ったが、 大鵬は鬼籍に入られたが、どうも 「巨人、大鵬、卵焼き、そして自民党、さらにはアメリカ」 が代表的な日本人を形成しているかの如くである。 この国の 「保守」 には、日本をもっと尊厳を持った自立した国にしようという気概は見えない。 そして、その気概を持った人物たちは官僚たちから嫌われ、大手メディアから批判を受け、「変わり者」、さらには 「間違った思想の持ち主」 扱いされるのである。

いや、私は何もアメリカを批判するつもりはない。嫌米でも反米でもない。そのようなスタンスを取るべきではないと思っている。 実際、スタンフォード大学に留学して多くのことを学んだし、アメリカ人は大好きである。 ただ、だからと言って、何をするにもアメリカの意向を忖度しなければならないというのでは、独立国ではないのである。 そして、その根底に、日米安保で日本の安全がアメリカによって守られているから仕方がないと言うのであれば、今すぐには無理であっても、例え50年、 100年かかっても、日本の安全は日本人で守れる国にしようではないかと思うのである。 必要なとき、即ち、緊急事態が発生したときのみアメリカの助けを借りるべきであるという常時駐留なき安全保障という考え方がその中間段階として生まれる。 さらに直近の問題としては、普天間の飛行場の移設先を出来れば国外に、最低でも沖縄県外にすべきではないかとの発想が生まれるのである。 「最低でも県外」 を総理時代に実現できなかったことは誠に慙愧に堪えない。しかし、発想が間違っていたとは今でも思っていない。

領土問題に関しても、「対米従属」 派と 「対米自立」 派とでは重点の置き方が異なっている。 「対米従属」 派は、領土問題があるからアメリカの存在は重要で、抑止力を維持し、むしろ高めるためにも沖縄の米軍基地は必要であるとの論になる。 一方、「対米自立」 派の主張は、領土問題がこじれて戦闘状態になったときに、アメリカが日本を支援するとは限らない、それどころか、 領土問題が今日まで解決しないできているのも、アメリカの存在が影響しているとの論を取る。 どちらがより正解に近いかは読者にこの本を読んでいただくことにしたいが、領土問題の解決のためにも大いに資することになろう。

私はいわゆるジャパンハンドラーたちの手に、いつまでも日米関係を委ねるべきではないと考える。 否、私はジャパンハンドラーたちがアメリカの普遍的な声ではないと確信している。そして、良心的な多くのアメリカの人々にも、 アジアを含めて世界の人々にも、日本人は尊厳を持って生きていると、尊敬の念を持たれる日が来るようになってもらいたいと願っている。 そして、本書がその日を実現させるために大いに役立つと信じる。」

はしがき(共同編者  孫崎 享、 木村 朗)
≪沖縄は、昨年(二〇一二年)五月一五日に本土復帰四〇周年を迎えました。 しかし、沖縄では、本土復帰四〇周年を心からお祝いするという雰囲気はほとんど見られなかったといいます。 それはひとえに、この沖縄の四〇年間は、過重な米軍基地負担が軽減されるどころか、 むしろ基地機能が強化される一方であるというあまりにも不公平な歴史が変わることなく続いてきたからです。 また、鳩山民主党政権が普天間基地問題で 「国外移転、最低でも県外移転」 という当初の方針を貫くことができずに結局は自民党政権時代の辺野古案に回帰してしまったことに多くの沖縄県民が失望・落胆したからに他なりません。
その沖縄の宜野湾市で開かれた本土復帰四〇周年記念式典に出席した鳩山由紀夫元総理に対してある政治家(元内閣官房長官、 元自民党衆議院議員)が 「沖縄県民に泥を塗ったような人」 と批判したと伝えられています。 次の言葉は、それを知った沖縄県民の方(糸満市在住の無職の女性、六二歳)からの反論の声です。

「・・・『最低でも県外』 とした公約が反故にされたことに対して、私たちは心底怒ったし今も変わりません。 しかし、私たちは鳩山氏から泥を塗られたと思っているわけではありません。むしろ1%足らずの県土に、 74%の基地が集中している異常性が誰の目にも見えるように明示されたことは、鳩山氏のおかげだと思っています。 残念なのは、立派な信念を実現するだけの政治的力量が鳩山氏に欠けていたことです。 ・・・県民の怒りは、長年沖縄差別を続け・・・普天間基地の沖縄県内移設を、今なお進めようという政治エリートや官僚たちへの怒りなのです。」 (『東京新聞』 二〇一二年五月二五日付)

この言葉には、当時の鳩山政権が普天間基地問題で 「国外移設、最低でも県外移設」 を掲げながら、 結局は自民党政権時代の辺野古案へと回帰して沖縄県民の大きな期待を裏切るかたちとなったことへの心底からの怒りとともに、 戦後日本の歴代首相のなかで初めて沖縄の米軍基地問題を全国民的課題として提起した鳩山元総理の 「功績」 それ自体は高く評価するという沖縄県民の複雑な心情がよくあらわれていると思います。

また、本土から移住して沖縄滞在八年を越える岡留安則氏(月刊誌 『噂の真相』 元編集発行人)は、ブログ(「癒しの島・沖縄の深層」)で、 そのことを見事に解説してくれています。
「この日の式典に参加した鳩山由紀夫元総理に対するお角違いの報道もひどかった。米国との関係を悪化させ、 沖縄県民の辺野古新基地建設を混乱させた張本人といわんばかりで、犯罪者のような扱いだった。 しかし、沖縄県民は、鳩山総理が普天間基地の県外・国外移設を主張したことに心の中では感謝しているはずだ。 最終的には、民主党内の親米派、防衛・外務官僚、安保マフィアの外交評論家たちが寄ってたかって鳩山ビジョンを潰したことを知っているからだ。 東アジア共同体構想も米国の逆鱗に触れたのだ。」(「本土メディアが伝えなかった沖縄復帰40周年記念式典でのこと」 オカドメノートNo.119、 二〇一二年五月二三日掲載)

この式典には、沖縄選出議員の多くが欠席し、 元沖縄県知事の大田昌秀氏らも欠席したという事実や日米両政府の県民無視の姿勢に苦言を呈した上原康助元衆議院議員の発言が、 翌日の式典報道では地元紙以外は本土メディアではほとんど無視されたという事実もあります(同ブログより)。
それでは、なぜこのような 「(沖縄県内の)基地のたらい回し」 という結果に終わったのでしょうか。 また、なぜ沖縄だけに過重な基地負担・犠牲を一方的に押し付ける「(構造的)沖縄差別」はいつまでたっても無くならないのでしょうか。 そして、こうした理不尽かつ異常な現状をどのようにすれば変えることができるのでしょうか。

本書では、敗戦と占領、朝鮮戦争勃発と自衛隊の発足、「独立」 と引き換えの日米安保条約・地位協定の締結、沖縄の本土復帰、 日米安保 「再定義」 から米軍再編・再々編へという現在までの戦後の日米安保体制を中心にした日米関係の歴史と現状を、 終わらない占領という視点からあらためて検証し直すことを主な課題としています。
そこで、米国の軍事植民地であると同時に日本本土(ヤマト)の国内植民地でもあるという沖縄差別の根源にある基本的な構造と、 米国の属国・植民地であり、いまも米軍による占領支配から逃れられない日本の主権を放棄したかのような姿が少しずつ浮かび上がってきます。 日本外交における主体性の欠如は、日米安保体制が 「自発的(あるいは積極的)従属」 という矛盾した形容で語られる理由と密接につながっています。 日本の戦後史を 「対米従属」 vs 「対米自立」 という基本的対立軸で見る、本書のもう一つの視点もそこから生まれてくるわけです。

こうした視点から浮かび上がってきた重要な問題は、日本国民(とくに沖縄県民)の意思や日本の国益を無視して、 米国政府の意向や米国の利益を 「忖度」 して動くエリート官僚(とくに外交・防衛・財務)やエリート政治家・経済人、 それと結びつくエリートの学者・報道人の存在です。また、この問題に関連して、鳩山由起夫元総理自身が、 「官僚機構というものの壁は厚かった」 とのちに語っているのが注目されます(鳩山 由紀夫・ 高野 孟共著 『民主党の原点―何のための政権交代だったのか』 花伝社、を参照)。
それによってすでに議会制民主主義・三権分立が形骸化し、あたかも官僚独裁国家になっているかのような現代日本の実相が次第に見えてきたことです。 共同通信(石山永一郎記者)のスクープ記事で表面化した 「沖縄の人はゆすりの名人」 などといったケビン・メア前米国務省部長の発言はまさに占領軍意識丸出しで、いまの歪んだ日米関係の現状をよくあらわしています。

二〇〇九年夏の総選挙で民主党が脱官僚政治と対米自立の旗を掲げて勝利した結果、日本で初めての本格的な政権交代が実現しました。 その政権交代を主導した民主党の中核的な存在が鳩山由紀夫氏と小沢一郎氏とのコンビであったことはよく知られています。 その二人がともに政治資金問題で時を同じくして責任を追及されて窮地に追い込まれたことは記憶に新しいと思います。 このこととそのときに民主党政権が選択しようとした日本社会のあり方・方向性(対米自立と東アジア共同体の構築、 官僚主導から政治主導への転換など)とは決して無縁ではありません。

そして、昨年(二〇一二年)末の総選挙で再び登場することになった安倍自民党連立政権は、 原発推進・消費増税・TPP参加など官僚依存と対米従属をさらに拡大・強化する方向へ大きく舵を取ろうとしています。 沖縄の基地問題でも、日米同盟の再強化・再構築を自明の前提に、 圧倒的多数の沖縄県民が反対する辺野古案を何としてでも実現させる姿勢を見せています。
その一方で、安倍新政権は尖閣諸島問題での中国との緊張関係の継続、 集団的自衛権の政府解釈の変更や国防軍創設を含む全面的な改憲路方針の表明などというタカ派的路線を鮮明に打ち出しています。 その背後には、米国の影が見え隠れしています。
しかし、いまの日本に必要なのは、中国・韓国・ロシアとの領土問題や朝鮮半島の核・ミサイル問題などをめぐって 排外主義的でナショナリズムを煽って戦争前夜の危機的状況を自ら進んで生み出すことではなく、 国境問題の凍結や資源・エネルギーの共有という知恵を絞りながら 周辺諸国との関係改善・共存共栄や東アジアにおける平和的国際環境を創り出すことなのではないでしょうか。

イラク戦争を無条件に支持した当時の小泉純一郎首相に抗議して解雇処分となった気骨のある元外交官(駐レバノン大使)の天木直人氏は、 著書 『さらば日米同盟!』(講談社)の中で、「日米同盟の本質は軍事同盟」 であり、日本が 「対等な日米関係」 を求めるならば、 「軍事同盟ではない友好協力関係の構築」 を目指さなければならないとしていますが、重要な問題提起だと思います。 そのためにも、今こそ、日本政府は米国と対等な話し合いを持つべきであり、 普天間基地問題での国外・県外移設を仕切り直して再挑戦する覚悟・気構えを持つべきであると私たちは声を大にして訴えていく必要があります。

本書は、まさにそのような問題意識から企画・編集されたものであり、戦後の日米安保体制を中心とする日米関係の実相、 普天間・岩国を中心とする在日米軍基地問題の現状と課題、尖閣諸島、竹島、 北方領土をめぐる領土問題の経緯と本質などを明らかにすることを課題としています。 こうした課題に強い関心を持つ研究者・ジャーナリストだけでなく、日米安保・基地問題や領土問題に直接関わられた政治家の方々(川内博史前衆議院議員、 鈴木宗男・新党大地代表、伊波洋一・元宜野湾市長、井原勝介・元岩国市長)からも貴重な証言を寄せていただいていますが、 この場をお借りして深く感謝いたします。
また本書を発行するにあたって、非常に格調高くまさに歴史に残るような貴重な序言をお寄せいただいた鳩山由起夫元総理にも心から御礼を申し上げます。
最後に、厳しい出版事情の中で本書を世に送り出してくれた法律文化社の田靡淳子社長と編集担当の小西英央さん、そして、 マコーマック先生の原稿を翻訳していただいた東江日出郎さんとその作業に協力していただいた千知岩正継さんのゼミOBお二人と 年表作成を手伝っていただいた鹿児島大学院生の牧瀬大輔君にもあらためて感謝を申し上げます。
2013年5月15日(沖縄の本土復帰四一周年の日を迎えて)

共編者   孫崎 享  木村 朗≫

<書評のご紹介:amazonより>
5つ星のうち 5.0 対米従属から対米自立への転換を! 「占領政策の延長線上で維持されている米軍優位の協定に侵害されている日本の主権の回復」 2013/6/23 By 中西良太 / Ryota Nakanishi

読後感想:13人の執筆者、14の小論からなる本書は、一言で言うと、「戦後史の正体」、「本当は憲法より大切な「日米地位協定入門」」、 「鳩山由紀夫 孫崎享 植草一秀 「対米従属」 という宿痾(しゅくあ)」 での対米従属批判論の理論的発展の成果です。
第一論文 「日米関係の実相ー終わらない占領」 で、孫崎氏は米軍による自衛隊統合が、 G2及びオフショアーバランシング(同盟国と敵国を戦争させ自国を防衛)という米国の世界戦略の一環であると鋭く指摘されています。
第二論文 「属国問題」 で、マコーマック氏は対米従属は英国豪州にもみられ敗戦とは別の政治問題であり、 対米や対中従属(属国派=従属派)でもない自主独立を提言しています。
第三論文 「戦後日本における沖縄の位置」 では、新崎氏は戦後日米関係が、沖縄の構造的な二重植民地化(沖縄差別)の上に成立していることを指摘。 評者も沖縄と本土の分断対立は、全土基地方式の同時的解決という全国民の利益に反すると思う。
第四論文 「自衛隊の歴史と米軍との関係史」 で、前田氏は、原子力村という政官業学の対米従属勢力を安保村の一部であると指摘し、 米軍需産業がアジアを最大の売り込みターゲットとしている事を警告している。
第五論文 「日本は本当に民主国家・独立国家なのか─対米従属から対米自立への転換を」 で、 木村氏は昭和天皇が背後にある吉田外交の負の遺産を、1、対米従属による自主性の喪失、2、沖縄の犠牲差別とアジアの忘却  3、法治主義の形骸化として定立している。また、米占領軍によるトモダチ作戦は阪神大震災のときは何もしなかったのに、 これは偽装された有事を想定した日米軍事作戦であった事を暴露されています。
第六論文 「民主党政権と米軍再編」 で、川内氏は有事法制で総理が有事認定すると、米軍が日本の全空港、港を利用できる事を指摘され、 米帝国主義のエアシー・バトル構想(豪州、タイ、日本、韓国、フィリピン同盟国五カ国を利用して、グアム、テニアンをハブに対中戦争を遂行する戦略) を詳細に分析され、グアムへの海兵隊移転は抑止力強化とグアム協定で認識されている矛盾を指摘されている。
第七論文 「日米地位協定にみる日米関係─未だ占領下の日本・沖縄」 で、前泊氏は全日本人の目標と利害を簡潔に定立され、 「占領政策の延長線上で維持されている米軍優位の協定に侵害されている日本の主権の回復」 とされています。 日米地位協定は、独立後も占領軍による駐留をそのまま継続するための協定と正しく定義されています。 属国官僚の欺瞞に反して、友好国でも外国軍のただ乗り的な常時駐留は異常極まる戦後帝国主義そのものです。
第八論文 「米国が用意する日本の対中国参戦態勢の口実」 で成澤氏は、防衛白書が思考停止と米国の分析の受け売りであり、接近阻止・領域拒否が、 敵国の戦略として米が想定し、エアシー・バトルが米側の新戦略である事を解説し、 後者の体制確立と発動により日本全土が中国の攻撃にさらされる危険を警告しています。
第九論文 「沖縄密約と秘密保全法」 で、西山氏は戦後の密約の大半が米軍関係であり、 また自衛隊のイラク派遣での7割の任務が米武装兵の輸送であった真実を指摘され、 日本に限らず中国、ASEAN間の領土問題激化で対中包囲網を構築しつつ漁父の利を狙う米帝国主義のアジア戦略を分析されています。
第十論文 「米軍再編と沖縄米軍」 で、伊波氏は米連邦議会のオスプレイ等の訓練に関する環境基準適用が基地内と米占領軍住宅地に限定され、 日本の周辺住民は適用除外であることを指摘し、辺野古基地は対中国戦争のためである事をも指摘されています。
第十一論文 「岩国から見えるもの」 で、井原氏は住民投票が対米反対運動に有力であること、周辺住民無視の議会制ブルジョア民主主義独裁では、 金権世襲政治屋の対米従属派は属国官僚共々民意を嫌悪し、 基地受け入れを事業利権のために喜々として受け入れる中央と同質の地方政治の実態をも暴露批判しています。 民意を排斥する官僚主義、民意を嫌悪する議会制の弊害が、基地問題という災厄において突出しています。 中央だけでなく地方でも戦後史の呪縛は作用しています。対米従属派及び米占領軍にとり一つや二つの政党や個人の社会的抹殺は容易ですので、 住民投票は最重要の制度的手段です。
第十二論文 「尖閣諸島にどう対処すべきか」 で、孫崎氏は国際司法裁判所では、1970年代以降先占の法理による判例はなく、 現在は紛争当事国間での条約により判定されるので、サンフランシスコ講和条約やカイロ、ポツダム宣言が優先されることを指摘されています。 現在最も先進的な尖閣諸島問題対処の戦略戦術論的な総括です。
第十三論文 「日韓領土問題と戦後アジア秩序」 で、纐纈氏は米帝国主義がヤルタ・システムと冷戦システムを併用し日韓対立を対米従属派を利用し画策し、 漁父の利を得ている現状を批判しています。
第十四論文 「北方領土問題について考える」 で、鈴木氏は北方領土ビジネスに従事する者を野放しにする事の誤りを指摘されています。

対米従属派(属国派)に対する勝利のためには、特定の個人や政党のみに依存する従来の敗北して来た手段のみでなく、 議会や地域を越えた国民的な規模での住民大衆参加型の民主政治でなくては日本自主独立の勝利は達成できない事も理解できました。 対米自主独立派の目標は、「占領政策の延長線上で維持されている米軍優位の協定に侵害されている日本の主権の回復」(本書、P118)です。 本書は全日本国民必読の書です。

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