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衆議院における質問時間配分の変更に反対する声明

2017年11月28日

               憲法ネット103有志
 
 2017年10月におこなわれた衆議院解散総選挙の結果、第4次安倍内閣が発足した。こうして召集された特別国会において、政権与党は、国会での野党の質問時間を減らし与党の質問時間を増やせと言い始めている。時間配分はかつて与党4対野党6だったが、民主党政権時の2009年に野党・自民党の要求で、現在の2対8となった経緯がある。与党の要求の結果、11月15日の衆議院文部科学委員会においては、1対2の時間配分で質問がおこなわれた。さらに、27日と28日におこなわれる予定の衆議院予算委員会においては、5対9の時間配分で質問がおこなわれることが決定された。
 しかし、この質問時間配分の見直しは、日本国憲法の要求する議院内閣制の原理に照らしたとき、非常に大きな問題をはらむものである。
 議院内閣制とは、行政権が立法権のコントロールを受けながら国政を担う統治構造である。行政権が法律に基づいて行使されなければならないのは、全国民の代表(43条)たる国会議員によって構成される国会が制定する法律は、国民の利益にかなったものであるとの想定があるからである。その法律を執行するのは行政権たる内閣である。立法権を有する国会は、内閣が適正に行政権を行使しているかどうか、チェックをおこなう権限を有する。国会による行政監督権は、立法権が国会に属し、行政権が法律に拘束される以上、当然の帰結なのである。
 このコントロールの核心が説明責任である。日本国憲法66条3項は、「内閣は、行政権の行使について、国会に対し連帯して責任を負ふ」と規定し、この原理を明文で規定している。
 この原理には、国民主権の実質化という側面がある。法律を作る国会は、選挙を通じて国民に対し説明責任を負う。そして、行政を担う内閣は国民代表機関たる国会に対して説明責任を負うことによって、国民に対し説明責任を負うのである。
 近代に成立したこの憲法構造は、政党が出現した現代国家において変容を蒙る。政党が有権者の直接的な要求を汲み取って政権を握り、福祉国家を実現していく際に、個々の国会議員の独立が失われ、国会の過半数の議席を得た政党に支えられた強力な内閣が成立するからである。ここにおいて、内閣のコントロールという国会の役割は野党が担うことになった。
 20世紀後半の西欧において実現した二大勢力による政権交代は、行政権を担う政権与党と国会を足場に政権与党を批判する野党が、攻守を入れ替えながら、互いの政策を実現するものであった。この憲法構造において、行政権と立法権の二つを支配する政権与党が専制化しないためにも、野党が国会の機能を引き継ぐことが重要であった。すなわち、現代の議院内閣制における政権は、野党議員の質問に真摯に答え、国会に説明責任を果たすことによってこそ、その正当性を獲得するのである。
 特に、日本においては、与党は政府法案提出前の段階において内部で十分に吟味・審議できるのに対し、野党はそこに参加することも情報共有もできない。したがって、野党による批判的吟味を含む適切なチェックにこそ国会論戦の意義があり、そこに時間はしっかりと割かれなければならない。これこそが、行政権力を立法府が適正に監視・チェックするという「議院内閣制」の原理から導かれる帰結である。
 このように考えるならば、政権交代が実現されるようになった日本の国会において、与野党の質問時間の配分が2対8とされたことは、理に適ったことである。与党は行政権を担うことによって、国会に対して説明責任を負っているのである。行政権を担う与党が、国会にしか足場のない野党と同等の質問時間を要求するには、きちんとした理由が必要であろう。
 与党の大義名分は、党の若手議員の活躍の場を広げるためだという。しかし、そうであれば、与党に配分されている時間を使って、若手議員に優先的に質問させればよいだけの話である。それでも足りないというのであれば、国会の会期を十分とればよい。
 そもそも、これまで安倍政権は、国会を軽視してきた。2015年には、新安保法制を制定したのち、憲法53条による国会議員の要求を無視して臨時会を召集しなかった。2017年には同様の要求を3ヶ月間放置したあげく、臨時会召集と同時に衆議院を解散した。その安倍政権が、自党の若手議員の質問のために野党の質問時間を削るというのである。その主張を額面通り受け取ることはできない。野党の質問時間を削減することによって、森友問題、加計問題についての説明責任を回避することに本来の目的があるのではないかと疑わざるを得ない。
 以上のように、野党に十分な質問を確保することは、憲法の要求である。憲法上のルールは、政党の一時的な都合で左右されてはならない。野党の時には2対8の割合で確保されていた質問時間配分を、自分たちが与党になったとたんに改めるということは、与党であるからこそ許されない。
 わたしたちは、憲法を学ぶ専門家として、今回の時間配分の見直しは、日本国憲法の議院内閣制の原理に反すると考える。日本国憲法の議院内閣制は、野党議員の質問に真摯に答え、国会に対して説明責任を十分に果たす、透明性のある行政権の行使を要求している。きちんとした正当化理由が示されない限り、2対8の質問時間の配分は変更すべきではない。
                                        以上

 
憲法ネット103有志50名(2017.11.28現在):
麻生多聞(鳴門教育大学)飯島滋明(名古屋学院大学)井口秀作(愛媛大学)
石川裕一郎(聖学院大学)石村修(専修大学名誉教授)
稲正樹(元国際基督教大学)植野妙実子(中央大学)植松健一(立命館大学)
浦田一郎(一橋大学名誉教授、元明治大学)榎澤幸広(名古屋学院大学)
大内憲昭(関東学院大学)大久保史郎(立命館大学名誉教授)
大藤紀子(獨協大学)岡田健一郎(高知大学)岡田信弘(北海学園大学)
奥野恒久(龍谷大学)柏崎敏義(東京理科大学)上脇博之(神戸学院大学)
河上暁弘(広島市立大学)菊地洋(岩手大学)
北川善英(横浜国立大学名誉教授、愛知淑徳大学)
清末愛砂(室蘭工業大学)倉持孝司(南山大学)小林武(沖縄大学)
小林直樹(姫路獨協大学)近藤敦(名城大学)笹沼弘志(静岡大学)
清水雅彦(日本体育大学)高佐智美(青山学院大学)只野雅人(一橋大学)
多田一路(立命観大学)建石真公子(法政大学)千國亮介(岩手県立大学)
塚田哲之(神戸学院大学)内藤光博(専修大学)中川律(埼玉大学)
長峯信彦(愛知大学)中村安菜(東京女子体育大学)
永山茂樹(東海大学)成澤孝人(信州大学)丹羽徹(龍谷大学)
根森健(新潟大学名誉教授、神奈川大学)藤井正希(群馬大学)
前原清隆(日本福祉大学)松原幸恵(山口大学)
三宅裕一郎(三重短期大学)元山健(龍谷大学名誉教授)
森英樹(名古屋大学名誉教授)横尾日出雄(中京大学)
横田力(都留文科大学)

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