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【NPJ通信・連載記事】ペルーの今を生きる人々/五十川 大輔

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ペルーの今を生きる人々
第1回 働く子ども・働く理由

2014年5月5日

私の所属するNGOクシ・プンク (Asociación Cussi Punku) は、自らも働きながら家族の生活を支えている子どもたちの声に耳を傾けることによって、 彼らの人間としての自由な表現の妨げとなっている問題を理解し、その解決に向けた取り組みを子どもたちと共に進めていくことを目指して設立された、 ペルーに拠点を置く草の根レベルの団体です。

私たちが活動をはじめたペルーでは、変化に富んだ自然環境や複雑な歴史背景に応じて、実に多様な価値観や生活習慣を伴った文化が生み出されてきました。 しかしその一方で、植民地支配に端を発する不平等な国際関係や社会構造は負の遺産として現代にまで引き継がれ、 欧米社会から発せられる画一的な価値観や経済モデルを無批判に受け入れる国の体制は、互いの文化を尊重し理解を深め合えるような社会、 多文化共生社会の構築とは正反対の方向へと人々の意識を向かわせています。

今日、「南」 の国々における 「児童労働」 の問題が日本でも取り上げられるようになり、その廃絶に協力する動きが徐々に高まりを見せつつあるようですので、 その実態を紹介するような映像や文章などを一度は目にされたことがあるかもしれません。

ペルー国家情報統計院 (INEI) の調査によると、ペルー国内の働く子どもの数は2006年の時点でおよそ217万人に達するとのことです。 これは、6歳から17歳の子ども人口710万人の約30%にあたり、都市部で暮らす子どもの5人に1人、 農村部で暮らす子どもの5人に4人がなんらかの形で働いている計算になります。

しかし、この217万人という数字は 「子どもはなんらかの形で経済活動に参加しているか?」 という設問に対して得られたものであって、 ILO (国際労働機関) が不明瞭かつ西洋主観的に定義している児童労働=「搾取的な状況下で働かされる子どもたち」の数を反映している訳ではありません。

それにも関わらず、政府はこの数字をペルー国内の児童労働者の数としてしばしば発表しており、 他文化が持つ子ども観や労働観、または国内の複雑かつ不公正な社会背景を考慮に入れないままに、 「撲滅」 や 「撤廃」 などの言葉を安易に用いた政策を取り続けています。

このような政府の動きと並行して、子どもが働くことによって教育を受ける機会を失い、社会が要求する能力を身につけることができない結果、 安定した職に就くことができずに「貧困の再生産」を繰り返すといった論理が、都市部を中心に半ば当然なこととして受け入れられるようになってきています。

ペルーでは、毎年30~35%もの学齢期にあたる子どもたちが義務教育を終えることなく中途退学していきます。 学校をやめてしまう理由には、家が貧しいために学用品が買えない、家族のために働かなければならないといった経済的な要因もあげられますが、 その他にも学校での勉強が楽しくない、先生を好きになれない、友達にいじめられる、留年を繰り返して学校へ通うのが嫌になったなど様々な理由があり、 都市部の女の子においては、学齢期に妊娠してしまう (リマだけでも年間5000人以上の女の子が学齢期に出産している) ことによって、 学業を断念してしまうというケースも多く見られます。

また、農村部の子どもたちの多くが学校へ通わなくなる理由には、農繁期には集中して働きに出るため勉学との両立が難しくなることや、 学校が近くにないため通学にたいへんな時間がかかるといったことなども付け加えられます。

家庭の貧しさゆえに働かざるをえないことが、子どもたちを学校から遠ざけるひとつの要因となっていることは事実です。 しかしその一方で、多くの子どもたちのニーズに応えきれていないペルーの公教育が、 学校へ通うことが即貧しさからの脱却に繋がるとは考えにくい状況を生み出しているのも事実です。

私たち日本人が、日頃当然のこととして受け止めている子ども観、労働観は近代資本主義社会の発生と共に生み出された概念であって、 全ての文化が共有できる価値観であるとは言えません。 アンデスにはアンデスの、アマゾンにはアマゾン独自の世界観がペルーにおいては今もなお息づいており、 私たち日本人には違和感なく受け入れられる価値観も、彼らの世界にとっては全く異質でそぐわないものかもしれません。

また、日を追うごとに拡大を続ける大量消費社会が常にたくさんの 「世界」 を破壊し、子どもを含めた圧倒的多数の人々を直接的、 間接的に搾取し排除することを前提として成り立っているという事実にも目を向けない限り、 子どもたちが直面している危機的な状況を本質的に改善していくことはできないように思います。

ペルーの中では 「異国人」 である私たちクシ・プンクの日本人メンバーが、今後この地で活動を続けていくにあたって、 自分たちの 「常識」 や 「正しさ」 といった主観的な尺度だけで目の前の事象を解釈し、日本に向かって情報を発信してしまうことは非常に危険なことだと考えています。 だからといって、一度自分の中に形成された主観性をすっかり入れ替えることなどできないのですが、可能な限り子どもたちの声に耳を傾け、 ペルーという国の文化、社会、政治的背景を的確に把握することによって、より偏りの少ない情報を提供できるよう努めていきたいと思います。

 

 

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