【NPJ通信・連載記事】高田健の憲法問題国会ウォッチング/高田 健
2018年、安倍改憲をめぐる正念場の年~安倍首相の改憲のスケジュール観に沿って
安倍首相「改憲は歴史的使命だ」と
安倍首相は通常国会が召集された22日、自民党両院議員総会で、「わが党は結党以来、憲法改正を党是として掲げ、長い間議論を重ねてきた」「私たちは政治家だから、それを実現していく大きな責任がある。いよいよ実現する時を迎えている。責任を果たしていこう」と強調した。
これに先立つ1月1日付の年頭所感では、「本年は『実行の一年』。昨年の総選挙でお約束した政策を一つひとつ実行に移していく」と表明し、また1日放送のラジオ番組で、改憲について、「(昨年10月の衆院選で)大勝したからには当然、党で議論を進めてもらえるものと期待している」と述べた。
そして、4日の伊勢神宮参拝後の記者会見では、「今年こそ新しい時代への希望を生み出すような憲法のあるべき姿を国民にしっかりと提示し、憲法改正に向けた議論を一層深める。……今後も国民主権、基本的人権の尊重、平和主義の基本理念は変わらないが、時代の変化に応じ、国の形、ありかたを考える。議論するのは当然だ。各党が具体的な案を持ち寄り、衆参両院の憲法審査会で活発な議論が行われる中で、国民的な理解が深まる」と述べ、改憲への決意を示した。
この発言の冒頭では自衛隊に触れ、「北朝鮮の脅威に備える自衛隊の諸君の強い使命感、責任感に敬意を表したい。従来の延長線上ではなく、国民を守るために真に必要な防衛力の強化に取り組む」と、9条への自衛隊明記を内容とする安倍9条改憲論を正当化した。
つづいて、5日の党本部仕事始めの挨拶では、「(1955年の保守合同による自民党結党の意義について触れ)占領時代に作られた憲法をはじめ、さまざまな仕組みを変えていくということだ」「時代に対応した国の姿、理想の形をしっかり考え、議論するのは私たちの歴史的使命だ」と発言した。
こうして、安倍首相は、新年早々から2018年を彼が待望する改憲を実現する歴史的な年とするための固い決意を表明した。
1月12日、自民党の二階俊博幹事長はテレビの番組で、両院の憲法審査会での議論を念頭に「(発議は)1年もあればいいのではないか」と、極めて短い期間に発議に持ち込む決意を述べた。
この1月22日から始まった第196通常国会は、いよいよ安倍首相がいう「9条改憲」を許すかどうかの決戦の年になった。開会日の22日正午には、雪の降る中、総がかり実の呼びかけで600名の市民が国会前に結集し、改憲発議阻止の闘いへの決意を固めあった。
年内改憲発議をめざす安倍首相ら
自民党は、その改憲案を昨年中にまとめ提示する予定だったが、石破元幹事長らの抵抗にあって、当面、両論併記にして形を繕った。これが3月の党大会で決着が付くかどうか、いまなお不明のところがある。
ただ、この両論併記というまとめは、安倍首相の改憲案が、自民党の改憲草案にこだわる石破氏らの案と比べ、リベラルに見える可能性があり、この危険性を軽視できない。公明党も石破案に比べ乗りやすい対立構図になっている。
首相周辺は「(安倍首相は)18年中に発議しなければ間に合わない」との危機感を持っているという。「発議は18年の通常国会終盤か、秋の臨時国会、国民投票は18年末か、19年春までを想定している」といわれる。
2019年は、天皇退位や代替わり(4月30日~5月1日)、3月下旬の統一地方選挙、7月の参議院議員選挙など重要日程が目白押しのため、安倍首相が唱えるオリンピックイヤーの2020年に改定憲法を施行するためには、この日程以外にないということだ。
第196通常国会は3月までは予算審議が優先される。
その最中にも両院の憲法審査会は始動されるだろうが、自民党の改憲原案がまとまっていない状況から、昨年、想定されていた通常国会冒頭からの憲法審査会での自民党案の議論にはならない。
自民党は、3月25日に予定されている自民党大会で、2018年運動方針と合わせて党改憲案を決定することにならざるを得ない。
ここから事実上、本格的な自民党改憲案を軸にした国会論戦が始まることになる。
連休を挟んで、6月20日の国会会期末まで、実質2か月余りで憲法審査会の議論を打ち切って、自民党案の国会提出、強行採決による発議というシナリオは、あまりにも強引すぎる。
ここで強引に強行すれば、世論の批判は強まり、発議しても国民投票での勝算の見通しはつきにくい。
そこで、2015年の戦争法制(安保法制)の国会のように通常国会を大幅延長することになる。
しかし、3期まで続投が認められた自民党総裁選は、2018年9月8日までに行われなくてはならない。
延長国会が大揺れする中での総裁選は、常識で考えてありえない。
延長国会で改憲原案の強行採決が難しいとなれば、いったん8月中にも国会を閉じて、臨時国会につなぐ必要がある。
憲法審査会の運営について
しかし、憲法審査会の議論をかくも急いだ例は過去にはない。
2000年に憲法調査会が発足して以来、憲法調査会→憲法調査特別委員会→憲法審査会の全議論を通じて、要所要所では多数会派が審議を強行したとはいえ、運営は比較的丁寧であり審議のテンポはゆっくりだった。
一昨年は、衆議院憲法審査会の議論がおこなわれたのは実質2回、昨年は実質8回、参議院では、一昨年は実質2回、昨年は1回にすぎない。
これこそ、国会の改憲論議があまり必要とされていないことの証明だ。
急ぐ必要性に欠けるのだ。
ただし、昨年の終盤の衆参の憲法審査会への委員の出席率の高さは異常なほどで、国会の憲法審査会の議論をほとんど傍聴してきた筆者からみれば全く異様で、噴飯ものだ。
過去には、委員の出席が過半数に満たないこともしばしばで、委員会が開催できず、与党の幹事が駆けずり回って委員を召集することなどもしばしばあった。
議論に臨む委員たちのお行儀もお世辞にもいいとはいえない。見かねた会長が注意を表明するほど、まともな審議があまりなかったということだ。
ところが、このところ自民党が改憲原案を本格的に出すという話になるや否や、ほとんどの委員が出席している。
通常国会でも、同様のことが予想されるだけでなく、改憲派政党は、憲法審査会の開催日数を大幅にふやすなどして、審議を急いでくるだろう。
自民党改憲推進本部の主要なポストに自らの意のままに動くメンバーを配置した安倍首相は、強引な運営を進めてくるに違いない。
しかし、こうした憲法審査会の強引な運営は、公明党や、船田元・自民党幹事など従来からの憲法族には躊躇がある。
この不満は不安定要素の一つである。
国会法によると、衆参の憲法審査会では国会会期をまたいで改憲原案審議を継続できるルールがあり、時間が不足したまま国会が閉じられても、他の法案のように「廃案」とはならず、次期国会に「継続」される特別のルールがある(国会法102条の9)し、国会閉会中でも憲法審査会や地方公聴会を開催することもできる。
今年の通常国会の議論は、会期が終わっても、閉会中も含めて臨時国会に持ち越される。
年内か来春に国民投票をねらう
こうして、秋に召集される(9月か、10月)であろう臨時国会で、改憲発議に持ち込むことが可能になる。
そうすれば、現行改憲手続法で改憲の国民投票運動期間が60日~180日以内と定められているので、最速で12月、遅くとも19年春までには国民投票に持ち込むことができる。
しかし、国の最高法規である憲法の改定発議を臨時国会でやる(官邸周辺からは臨時国会での発議という声が聞こえてくる)というのは何とも無様であるという躊躇が、多方面から出てこざるをえない。
国民投票の告知・運動期間を最低限の60日で強行するというのも、あまりにも熟議期間が短すぎるという反発が、轟々と起こるに違いない。
そこで、2019年通常国会での発議と3月までの国民投票設定ということになる可能性もある。
これが最もありそうなタイムスケジュールだが、2019年7月には参院選がある。
この国政選挙で立憲野党+市民連合が共同してたたかえば、改憲派は現有の3分の2を失う可能性がある。安倍首相らにとって、発議を参院選後に伸ばす選択肢はあり得ない。
また、この過程で、自民党にとっては公明党の反発を招かないような国会運営をすることが大前提だ。
万が一にも、公明党との妥協案の調整に失敗して、同党を反対に回すような危険は絶対に回避しなくてはならない。
維新や希望など、他の改憲政党の賛成を得たとしても、公明党の賛成なくして参議院での3分の2は成立しないからだ。
こうしてみると、自民党の改憲原案採択には、党内の合意、公明党の合意が不可欠であると同時に、日程上、極めてタイトなものがあることが明白だ。
安倍9条改憲の道には、幾多の超えるには容易ではない障害がある。
そして、この障害をさらに大きくする決定的要素は、改憲に反対し、戦争に反対する世論の動向だ。
この要素は、各政党の動向や、国会審議の動向に決定的な影響を与えるものだ。
12月の日本世論調査会の調査で、「9条改憲必要ない」が53%、安倍改憲反対が53.1%、国会の改憲論議を急ぐ必要ないが67.2%だった。
共同通信社が1月13、14両日に実施した全国電話世論調査によると、安倍晋三首相の下での憲法改正に反対は54・8%で、2017年12月の前回調査から6・2ポイント増加した。賛成は33%だ。
読売新聞社が18年1月12~14日に実施した全国世論調査で、自民党が憲法に自衛隊の存在を明記することに関し、戦力不保持を定めた9条2項を維持する案と、削除する案を検討していることについて、「9条2項は削除し、自衛隊の目的や性格を明確にする」は34%、安倍首相のいう「9条2項を維持し、自衛隊の根拠規定を追加する」は32%、「自衛隊の存在を明記する必要はない」は22%で、前述の日本世論調査会、共同通信社の結果との違いがある。
いずれにしても、安倍首相の改憲の企ては世論の大きな支持はない。
冒頭述べたことに戻るが、安倍改憲を成功させるには、2018年中の発議しかありえないのだ。これが失敗すると、戦争と結び付けた9条改憲はしばらくあり得ないことになる。
改憲の企てを阻止し、安倍政権を倒す
以上、自民党などが模索する改憲日程を概観してきたが、これが失敗すれば、安倍9条改憲は破綻するということだ。
私たちは全力を挙げて、3000万署名を推進し、これを軸にした運動で世論を変え、安倍改憲を阻止するために闘わなくてはならない。
この闘いに際して、私たちに必要な立場と観点は、第1に、改憲が全国の市民に求められていないこと、改憲論議の必要性は、改憲派が意図的に作り出してきたにすぎないことを徹底して明らかにすることだ。
4日の記者会見で立憲民主党の枝野代表は「国民の多くが望んでいる改正であれば積極的に対応していきたいが、現時点では安倍さんの趣味ではないかと思う」と述べ、反対の立場を鮮明にしているのは妥当だ。
第2に、いま国会の憲法論議に必要なことは、現行憲法が日本社会でどれだけ実現しているかの検証であり、このことによって、憲法と現実の乖離を埋めるために奮闘することだ。
これこそ立憲主義に基づく立場であり、憲法を守り、実現する努力をしない国会議員たちに改憲を唱える資格はない。
現実と憲法の理想の乖離や、為政者による解釈改憲の横行を指摘することで、憲法を現実に合わせようとする新9条論や「護憲的改憲論」も、理想に対する敗北主義であり、誠実に立憲主義に立つ立場ではありえない。
自民党などの改憲派が提起している改憲論は現行憲法の神髄の破壊であり、歴史の反動にほかならない。安倍首相は「各党が具体的な案を持ち寄り、審議すべきだ」などというが、現行憲法は、いくつもの未完成の部分をはらんでいるとはいえ、この安倍改憲論への現実的な最良の「対案」である。
そして第3に、自民党などが依拠しようとしている現行改憲手続法は、安倍政権の下で彼らの多数に依拠して強行採決された、多くの点で民意を正当に反映しない悪法であり、抜本的な再検討なしに国民投票を実施してはならない。
また、安倍晋三ら改憲派が多数をしめる現国会で、まっとうな市民案国民投票法の採択など、あり得ないことは明白だ。いま必要な闘いは、この改憲手続法の問題点を徹底して全国の市民の前に明らかにすることだ。
だからこそ、安倍政権など立憲主義に反する改憲派政権の打倒の課題と結び付けない「市民案の国民投票法」制定運動は誤りだ。
第4に、したがって、いま安倍政権が進めようとしている9条を壊して海外で戦争する国を実現しようとする改憲策動に対しては、改憲発議阻止を対置してたたかうことこそベストである。
(「私と憲法」1月25日号所収 高田健)
こんな記事もオススメです!