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【NPJ通信・連載記事】一水四見・歴史曼荼羅/村石恵照

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ビッグデータにみる日本衰亡の原因と日本の未来

2018年9月11日

ときどき冗談めかして座談で言うことがある。
世界の人々を動かしている動因は三つの「セイ」、政と性と聖である、と。
政は政事、性は性事、聖は聖事いわゆる宗教である。

これら三つの「セイ」に共通するのは、それぞれの概念は異なるが、政治も宗教も性欲も、人類史の当初から大衆を動かし歴史を動かしている根本的情念ということだ。

(地球規模の政・性・聖の乱れと日本衰亡の関係は? 
画像は「Sex, Politics, and Religion in Star Wars: An Anthology; Douglas Brode・Leah Dyneka (編集)」のカバー)

                   ***

しかしこれら三つの「セイ」は表現の自由を謳歌している西欧社会においても一般の社交的場では語ってはならないことが伝統となっている。

そして現代は、表向きの政と性と聖が裏では節操なく醜く絡まり合っていて、この醜く絡まり合った三つの政と性と聖の裏側が、インターネットによってウィキリークされて多数の人々の眼前に晒されている。

政治家と宗教家、そして彼らから一定の権力的と精神的影響を受ける一般人のすべてに関わっているのが性である。

そして現在、西欧のエリート層(政治家、マスコミを含んだ経済人、聖職者)のあいだで、これまで隠されてきた政と性と聖の紊乱が大量に露呈されている。

しかし、最近ようやく世界的にマスコミにも公表されるようになってきたが、 もっとも忌まわしいのは、政治に密着し、しかも宗教組織にまもられた聖職者らによる小児たちへの性的虐待だ。 

児童移民と称する福祉政策と小児への性的虐待と教会との関係を見事に描写したイギリス映画「オレンジと太陽(Oranges and Sunshine, 2010)」は、“紳士の国”の現代と自国の偽善性を容赦なく暴くイギリス人の批判精神 を学ぶ格好の教材である。

                   ***

大衆文学の第一人者といわれた吉川英治は、人生は「色・食・闘」であると喝破したように記憶している。

仏教では律蔵文献に煩悩、特に性行動について詳細な記述がある。
煩悩の基本は、個生命の生存欲としての食欲と、種の保存欲としての性欲であるが、それらの負の面を強調して煩悩というのであって、仏教では一概にその善悪を固定的に絶対視して問わない。

食欲は個生命存続の、性欲は種の存続の必要条件であり、両者は相互補完して個と多の生命を維持し、人類史を維持しているのであるから、煩悩を否定しては人類の存在自体を否定することになる。

人間の性は生殖に関わり、社会を構成する基本単位としての家族制度、倫理観、結婚制度、衣装、教育制度、排泄に関わるトイレや浴場の使用場所の区別など、人間生活全般に関わり、とどのつまり国家的には人口問題に突き当たる。

人口は食糧・住宅・エネルギーの問題に関わり、つまり性は国民生活全般にかかわり、国家運営の根幹に通じている。

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いずれにせよ、日本列島の住民が消滅しては元も子もないのであるから、年齢別統計も考慮しなければならないが、とりあえず 日中米三国の2050年までの人口動態を比較してみたい。 

    (2010)   (2020)   (2030)   (2040)   (2050)
中国   1,340    1,402    1,415     1,394    1,348
米国   309     333     355     373      388
日本   128     124     116     107     97
(出所:国連;単位:百万人)

中国は横ばい状態であるが、ともかく13億の人口を維持し、移民国家の米国は確実に上昇傾向にある。ドイツ移民であるトランプ大統領は反移民ではなく、アメリカ・ファーストの主張にもとづいて “選別的” 移民政策をとりたいようで、強引ではあるが国益を考えているのだろう。

ちなみにインドは2010年の12億3000万人から、2050年には17億500万人への増加が予測されている。

そして、ご覧のとおり日本は2050年には、2010年より約25%の人口減少である。

                   ***

世界的な人口動態を概観すれば、つぎのように総括的に推計されるようだ。( フィナンシャルスター世界の人口推計:投稿日:2016年6月24日 更新日:2018年8月6日など参考)

・2050年には世界の人口が約100億人まで拡大
・2010年から2050年までの40年間で人口は30億人増加するが、増加分はほぼ全てが新興国によ
 る
・2050年には人口の85%程度が新興国となる
・先進国では米国の人口増加が大きく米国経済が相対的に堅調な理由としてこの持続的な人口
 増加が大きなポイントとなっている
・英国も安定的に増加
・中国は長く続いた1人っ子政策が2016年1月から2人っ子政策に変更され、さらに人口政策自体
 に政府が関与しない方針をとれば、潜在的人口増加の可能性がある

                   ***

日本の衰亡の可視的兆候は、具体的には人口減であり、人口ピラミッドを見ると日本の現在の人ロピラミッドは「つぼ型」で、少子化、高齢化が進んだ国の典型的な形状である。

日本の知識人や与野党を問わず政治家は、 いったいどのような世界史的展望の下に生産性のある政策をとってきたのか、そして未来に向かってとろうとするのか。

しかし、日本衰亡の原因はビッグデータに示される人口自体ではなく、人口と密接な関係にある政・性・聖にかかわる日本の政治思想と倫理に関わることである。

政については、「国民のため」の国家であるべきところを、国家を先に掲げる悪しき国家観思考の傾向にある現政権の基本姿勢が問題であり、これは明治帝国憲法の発想の根本的瑕疵についての反省の欠如である。

現政権の維持を下支えしているかのような野党にも、人口衰亡の責任はある。
しかし人口減少については、貧困率が深く関わっているから、これについては自民党が与党であった時に、大企業本位、収益本位の思考に埋没していたことが問題である。
自民党は当時、日本に「貧困はない」との姿勢であった。
民主党が政権をとった際に、日本の貧困率が始めて明かされることになった。

立憲民主党は、ぶれのない国民本位の国政とアジアに位置する日本の外交の基本をしっかりと打ち立てて、国民に開示すべき好機ではないのか。

                   ***

聖については、一神教と異なる仏教と古神道(エコロジーの感性)のそれぞれの意義と両者の関係への総合的理解を欠如した政治家、経営者、知識人、さらにイデオロギー化した神道理解の神職関係者が問題であり、これが日本衰亡の人的元凶である。

天皇を元首化し “天皇制” 化された明治帝国憲法の決定的瑕疵に無頓着で、歴史観を単純化した地政学などを信奉する自称愛国主義の知識人、政治家、企業経営者らが、良質の日本的文化価値を衰亡させている元凶である。

そして先に述べたように、性欲自体は善悪の意味付けが固定化できないものであるが、その在り方は政と聖の双方に関わり、それらの相関的堕落度によって性の意味付けが決定される。

                   ***

「33年後の現実 人口8000万人の日本で起きること」(「週刊現代; 2017年6月3日号」)で「人口が4000万人減ることは、こんなに怖いこと」として、
 ・客も働き手もいない、モノが売れない
 ・団地マンションもガラガラ
 ・下水道、道路などのインフラは壊れたまま
となると予想している。

しかし日本衰亡について、人口減少問題は結果論である。
歴史的に顕著になった日本衰亡の元凶の萌芽は明治維新に始まる。

そこでは、当時の知識人と政治家たちが、
・西欧の一神教的攻勢的植民地勢力の性格を深く見極める余裕がなかった。
・それに対する伝統的日本の文化的価値観との相克を適切に処理できなかった。
・日本史上初めての大規模な海外派兵と、脱亞入欧なる自己満足の情念を主導
 させた。

以上のことについての深い反省と大局観をもった国民本位の政策の欠如、そして官僚の公僕精神の劣化が、日本衰亡の根本的要因である。

                   ***

人口減少問題もさることながら、科学者によって提供される日本の危機に関わる重要度において最たるビッグデータは、地震情報である。

南海トラフ巨大地震が30年以内に70~80%の確率で発生するかもしれないという状況である。
30年以内の地震の発生は三日後かもしれない。

その場合、原発はどうなるのか。
フクシマの原発事故も、まったく実情が明らかにされないままである。
厳しい状況の中で、懸命にしかも明るく郷土の再建にとり組んでいる人々には頭が下がる。
しかし緑ゆたかな平地に置かれた膨大な数の真っ黒い廃棄物の袋の山をみよ。
これが美しい日本であってよいのか。

そして9月6日午前3時8分ころ、北海道胆振(いぶり)地方中東部を震源とするマグニチュード6.7の地震が発生。道内のすべて295万戸で停電とのニュースが飛び込んできた。

                   ***

現在は、憲法改正などの作文の添削をしている場合ではない。
離合集散する政党の党是などは、会社の定款のようなもので、国民の合意とは関係ない。
“作られた戦争”の処理の為に、無関係の善良な日本の自衛隊員を海外派兵する必要はない。

北朝鮮の核ミサイルや、中国の海洋進出に挑発させられて、様々な箱もの武器を高額で買わされ、片思いの愛米姿勢を高度な政権運営であると考えているとしたら、これが日本衰亡の最大の政治的原因ではないのか。

幸いにして、アジアの中でも特に日本は、一神教的重い負の情念を抱えた西欧諸国とは異なる国柄である。
トランプ大統領が、政と聖一体の西欧の情念の好戦性と独善性を鮮やかに展開してくれているが、同時に真摯な批判精神をもって闘っている欧米人たちがいる。
明治維新とは違って、現代の日本人はそれをしっかりとそれを学ぶことができる。

聖の問題を政に介入させず、つねに庶民生活の安寧のために仕える公僕の矜持を謳った聖徳太子「十七条憲法」の根本精神に学びつつ、日本人は古代から始まる日本の歴史から日本の伝統の特質を学んで政道を確立してゆけばよい。

倫理観を含めた政事が健全化すれば性事も健全化して、「性」の源である和国の新たな「生」が育まれてゆくだろう。

偏向した思考のアメリカの政治学者や、ジャパンハンドラーズなどの旧来の人物とは決別しよう。

良識ある米国民と、西欧列強に植民地化されたアジアの国民たちと、それぞれの国の歴史事情を学びつつ、「国民本位」の立場で、 忍耐をもって是々非々の意見交換をし、相互理解を深化させることができる立場にあるのが「和」国の日本である。

今は、明治維新の瑕疵を反省、考察し、文明史的視点に立って、同時に郷土愛の重要性に目覚めて、東アジアに位置する非覇権性の日本の立場をしっかりと確認し、内外へ開示する唯一の好機である。

(2018/09/07 記)

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