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沖縄県民の”意地”が示された

寄稿:飯室 勝彦

2018年10月4日

 8万票の大差、しかも沖縄県知事選としては過去最多の得票。玉城デニー氏が佐喜真淳氏を破った選挙結果は、県民が”意地”を示したといえよう。込められた政権へのメッセージは「沖縄県民を見くびるな」だ。波紋は国政にも及び、安倍晋三首相による改憲ごり押し路線はますます不透明になるだろう。

◎見破られた「争点は辺野古」
 選挙から2日後、2018年10月2日付け朝日新聞朝刊の「声」欄に選挙結果をぴったり言い当てた川柳が載った。
 カネ出せばちょろいもんさと読み違え(千葉県・白井幸男さん)
 政府は経済振興の名目で沖縄に予算をつぎ込む一方で重い基地負担を押しつけている。市街地にあって「世界一危険な飛行場」とされる米軍の普天間基地を廃止し、代わりに名護市辺野古の海を埋め立てて新しい基地を建設する計画はその典型だ。政府は、カネさえ出せば地元は言うことを聞くと甘く見て、県民の強い反対を押し切り強引に着工したが、選挙で明らかに「ノー」を突きつけられた。

 政府、自民、公明党に推されて立候補した佐喜真氏、応援に駆けつけた政府・与党幹部らは選挙戦で辺野古の問題に一切触れなかった。「対立から対話へ」をスローガンに生活支援や経済振興ばかりを前面に出した。
 そんな争点隠しを県民は見破っていた。毎日新聞と琉球放送が投票日に行った出口調査によると、投票の際に有権者がもっとも重視した政策は「辺野古移設の扱い」が48%で最多だった(10月1日付け毎日新聞朝刊)。「経済振興への取り組み」の25%を上回り、最大の争点は辺野古移設だったことを物語っている。その結果としての選択が玉城知事の誕生である。

 政権側は、佐喜真氏の知名度不足や、翁長雄志前知事の弔い選挙だったことを敗因にあげる。だが政権と与党が総力戦を展開しての敗北は、県民意思が「辺野古ノー」であることを明瞭に示している。
 工事は翁長前知事が沿岸部の埋め立て承認を撤回したため中断しているが、政府は裁判に訴えて本格工事にかかり土砂投入を始める構えをみせている。
 しかし2代続けて反対派が知事に選ばれ、しかも前回選挙より3万票も積み増ししている。これだけはっきりしている民意に逆らう大義名分を何に求めるのか。来年春までには辺野古埋め立ての是非を問う県民投票が実施される見通しもある。これ以上のごり押しは許されない。

◎自尊心傷つけた”餌釣り”
 政府は、魚を餌で釣るように、経済的利益で反対の民意を転換させる手段をとってきた。前任の翁長知事が登場するや沖縄振興資金の支出を止めたり、自治体を通さず非公式の住民組織に直接交付したりするなどした。このような利益誘導策は一時的には効果があっても、露骨になると沖縄県民の自尊心を傷つける。
 一人当たりの県民所得は依然として全国最低とはいえ、観光客数がハワイを超えるなど、県民は基地経済からの脱却に自信を持ち始めている。県の統計によると、そもそも県民総所得に占める基地関連収入は6%弱にすぎない。基地を発展の阻害要因と考える県民は多い。
 冒頭に紹介した川柳にあるように、「カネさえ出しておけば」という安倍政権の姿勢が、沖縄県民の怒りを買っていることは間違いない。
 太平洋戦争の最末期、日本国内で唯一の地上戦を経験し、敗戦後は基地に囲まれて暮らし、今なお重い基地負担に苦しむ沖縄県民の切なる願いは「基地のない平和な暮らし」である。知事選の与党敗北は「沖縄の心」を読もうとしなかったつけが回ってきたと言えよう。

◎改憲ごり押しもハードル高く
 安倍首相は自民党の改憲案をこの秋の臨時国会に出すと強弁し続けている。憲法第9条をそのままにして自衛隊の存在を追加明記するという自分の案がベースだ。沖縄知事選後の内閣改造と同時に行われた党役員人事では、改憲論議の加速を狙って憲法改正推進本部長に下村博文氏、党内意見をまとめる総務会長に加藤勝信氏といずれも側近を据えた。
 ただし、野党の反発はもちろん自民党内にも「憲法どころではない」との冷めた空気がある。来年春の統一地方選、夏の参議院選の厳しさを予測し、首相にこれ以上振り回されることを警戒している。
 公明党幹部も悩ましい。もともと「自民党案の国会提出前に自民・公明の協議が必要」という安倍発言に対し公明党側は「自公による事前協議はあり得ない」と消極的だが、沖縄知事選の結果は公明党にとっても自民党に劣らず深刻なはずだ。
 公明党は連立与党であり続けることを最重要視し、自民党にずるずると従ってきた。「平和の党」を標榜しながら安保法制も容認した。
 そのような中で、沖縄知事選ではこれまでどの候補も応援せず自主投票だったのに、新しい基地の建設が最重要争点となった今回の選挙では、新基地推進の自民党とともに佐喜真氏を全面的に支援した。全国から党員や支持団体の創価学会会員を送り込んで、投票を友人知人に働きかける「F作戦」も展開した。
 しかし、これが不満で、学会を象徴する旗を持って玉城氏の街頭演説会に参加した学会員もいるという。このまま安倍政治についていくと公明党内や、党と学会の間に亀裂が生じかねないとの懸念が生まれている。

 各種世論調査では、改憲に理解を示す人でも、理念論議抜きで「とにかく改憲」と改憲自体を目的とする安倍首相の姿勢には疑問を抱き「慎重な議論」を望む人が多い。森友学園、加計学園、財務省の文書改ざんなど相次ぐ疑惑や不祥事にも真摯に向き合おうとせず、国民を欺き続ける安倍政治に対する信頼は失われている。
 いかに周囲を側近で固めてごり押ししようともハードルは高く、当面、改憲の推進力が増すことはないだろう。

◎メディアも読めなかった沖縄の心
 広大な米軍基地が身近にある沖縄県民は、日常的に恐怖と危険にさらされている。いまなお戦争の影がつきまとい、戦後を脱しきれないでいる。それなのに「基地のない平和な暮らし」を求める沖縄の心を読み切れなかったのは、メディアも政府・与党と同じだった。
 名護市長選で政府に近い候補者が当選したことに目を奪われたのか、玉城氏の大勝を予測できたメディアはなかったように見える。もっぱら接戦と報じ、選挙戦術だの組織の動きだのをもっともらしく報じ、論じたが、権力と札束で言うことを聞かせようとしてきた政府側に怒り、反発する有権者の心をつかみ、深層潮流に気づいた報道はなかったように見える。
 なぜか?権力の近くにいて権力と同じ目線でニュースを追っているからではないか。たとえば暗い洞窟の中からは外部世界がよく見えるが、明るいところにいると暗闇の世界は見えない。どういう角度、立ち位置から見るかによって対象はまったく違う像を結ぶのである。
 民意を正確につかんで伝えるために、メディアはまず権力から離れて立ち、権力目線を捨てなければならない。

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