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安倍政権の議論嫌い
 民主主義の根幹を否定

寄稿:飯室 勝彦

2018年12月19日

 安倍晋三首相とその政権、与党の自由民主党は、民主主義の根幹である議論と議会による権力チェックを嫌う。他方で用語の言い換えで事実をすり替え、強引に既成事実を積み重ねている。議論軽視は国民軽視である。

◎白紙委任状を強引に
 安倍政権の体質は2018年11、12月の臨時国会でも鮮明だった。テーマは出入国管理法の改正。外国人労働者の受け入れを拡大し、一定の条件で外国人の単純労働を認める改正は、外国人の単純労働を認めていなかった日本にとって大きな政策転換である。移民容認に通じる可能性もあるだけに国会で十分議論して万全な制度を作るのが当然だ。
 ところが政府は制度設計を国会の議決が不要な省令に丸投げし、白紙委任状のような法律を無理やり成立させた。労働力不足の深刻さを強調し、「外国人材活用」と称して新制度への不安緩和を図った。
 低賃金で過酷な労働を強いられている現在の技能実習制度の延長上で機能するのではないか、との懸念に対する手当てもされておらず、外国人労働者の権利保障条項もない。すべて「政府にお任せ」だ。国会審議では改正案が安く使いやすい労働力を求める側の視点でつくられ、働く側の視点が反映されていないことが明らかになった。
 それでも政府・与党側は、野党の疑問提起には言い逃れに終始し、変造と言ってもいいようなデータを提示したりして、真摯に議論しようとしなかった。最後は徹底審議を求める声を数の力で封じ、委員会の強行開会、強行採決で問題の多い法律を誕生させた。

◎民意を“聞く耳”持たず
 沖縄の米海兵隊普天間飛行場のかわりに同県内の名護市辺野古に新しい飛行場を建設して提供する問題では、政府も建設反対の県側と話し合うポーズをみせた。だが県側との「集中協議」は名ばかり、知事選で明確になった県民の声を聴く耳は持たなかった。
 12月3日には集中協議が終わるのを待っていたかのように、新飛行場建設のため海面を埋め立てる土砂の投入計画を発表した。土砂を積み出す港が使えないことが分かると民間の桟橋を使う奇策まで使った。
 なりふり構わず工事を急ぎ、既成事実を作ろうとしている。民意をはねのけ国家権力の意思を押しつけている。実態は「新飛行場の建設、提供」なのに「移設」と称し「沖縄の負担軽減」と宣伝している。

 印象的な報道写真がある。11月30日、ブエノスアイレスにおけるG20サミットの際に行われた日米首脳会談の冒頭、日本が大量の兵器を買うことに謝意を述べたトランプ米大統領の前で、安倍首相はニコニコしていた。
 工事開始に向けた儀式のような集中協議を終え、政府内では土砂投入の準備が進められていた時期である。「安倍首相がどちらを向いて政治を進めているかを示す写真」と脳裏に焼き付けた沖縄県民も多いだろう。

◎サギをカラスと言いくるめ
 安倍政権では首相官邸主導で軍拡が進み、トランプ大統領に感謝されるほど米国からの兵器購入が急増している。検討中のものも含めると、今後もF35ステルス戦闘機、地上配備型迎撃ミサイル「イージス・アショア」、改良型ミサイル「SMブロック2A」、F35に搭載する長距離巡航ミサイル…など巨額の購入計画が目白押しだが、軍事の専門性の陰に隠れて国民の目が届かず国民的議論もない。新しくまとまった「防衛計画の大綱」「中期防衛力整備計画」策定では与党議員さえろくに口出しできなかったという。
 海上自衛隊の「いずも」型護衛艦を空母に改修する計画をめぐっては「多用途運用母艦」と呼ぶか、「多用途運用護衛艦」とするかといった議論もあった。「空母は攻撃的兵器。自衛のための武器しか認めていない憲法に反する」との批判をかわすためだが、ステルス戦闘機を搭載して移動するのだから攻撃型兵器とみられることは避けられない。サギをカラスと言いくるめるように言い換えても近隣諸国の不信を招くこと必定だ。

◎目指すゴールは改憲
 安倍政治の目指すゴールが改憲であることは言うまでもない。2018年秋の臨時国会前には、自分が主導した自民党の改憲4項目の国会提示を狙って国会の憲法審査会や党の改憲推進本部の主要ポストに側近を据えた。功を焦った改憲推進本部長の下村博文氏が「野党は職場放棄」と失言して首相の思惑は外れたが、首相は「2020年に新憲法施行」という旗印を降ろしていない。
 臨時国会では衆院憲法審査会の委員長(自民党)職権による開会を強行し、「各党一致で運営」の慣例は既に破られ、既成事実がまた一つ生まれた。意見の違いを議論で埋めようとせず力の行使を優先する政府・与党だけに、野党の足並みが乱れれば改憲の強行発議に踏み切らないとは限るまい。

◎権力監視は議会の使命
 強行採決などを繰り返す政府・与党は野党を「反対ばかり」「何でも反対」と非難する。安倍首相は「熟議」を口にするもののしばしば質問をはぐらかしたりしてまともな議論に応じない。時間を空費しただけでも「論議はつくされた」と開き直ったりもする。
 メディアもその情況を単純に「与野党対立」と報じたりする。「反対ばかり」論に対する有権者、メディアの一定の理解、共感が政権側を強気にさせている面もある。
 しかし執行権を握る権力を監視し、疑問点・問題点を指摘したり注文をつけたりするのは議会に課せられた使命だ。権力側はそれに誠実に対応しなければならない。議会を軽んじることは国民を軽んじることである。

 十分に議論を闘わせてこそより正しい、望ましい答えにたどり着く。議論が生煮えのままの多数決は大きな過ちを産みかねない。新しい年には辺野古をめぐる沖縄の県民投票、統一地方選、参議院選など主権者の意思表示の機会が多い。「議会・議論の軽視は国民軽視」を念頭に置き、選択を誤らないようにしたい。

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