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【NPJ通信・連載記事】音楽・女性・ジェンダー ─クラシック音楽界は超男性世界!?/小林 緑

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第67回 クラシックは超男性支配社会!?
目前になってのコンサートお知らせなど・・・

2019年8月5日

 選挙、代替わり、前代未聞の自然災害、頻発する凶悪犯罪、オリ・パラ狂騒…どこから見ても希望が見いだせないまま、77歳を超えてしまった。令和元年とやらの文月もあと2日を残すだけ…実はこの間、およそ半年前から準備を進めてきた『女性作曲家・ピアノ曲マラソン・コンサート』の開催日8月8日が目前に迫り、本連載にはまったく手が回らなかったこと、まずはお詫びいたします。
 なんと、前回連載から半年以上も経ての更新となるが、またしてもコンサート予告とは、なんともお恥ずかしい。けれど、クラシック界からの男女平等・世界平和への訴えとして始めた本連載の狙いが外れではなかった…と思える事態に、このところいくつか遭遇することもできたので、今回も懲りず、上記コンサートの予告から始めさせていただく。諦めず女性作曲家のコンサートを継続してきた意味があったかな、と、珍しく明るい気分にもなったので、それを皆様と共有したい。

 図版Iのチラシにある通り、コンサート開催の8月8日は、セシル・シャミナードの誕生日。本年162歳、区切りは悪いが、12年前の2007年に生誕150年を祝って、『女性作曲家音楽祭』を同じこの日、同じ杉並公会堂にて連続コンサート12回を開催したことにちなみ、企画を立ち上げた。前回同様、谷戸と二人、まさに手造りの昼夜二回コンサートである。残念ながら 12年の間、女性作曲家をめぐる状況はほとんど変わっていないが、ただ無料楽譜ダウンロードのシステム《ペトルッチ》が普及して、女性作品の楽譜も入手がかなり容易になったことはかなり大きい。そこで、そうした楽譜も活用しつつ、この間に実施できたさまざまなコンサートの集大成の意もこめて、プログラミングしてみた。
 取り上げる女性は17人。ただし例外的に有名になっているクララ・シューマンは除いた。今年生誕200年ゆえ、各方面で企画が終了ないし進行中のこのクララを以て、女性もやってるよ!とアリバイにされてはかなわないからだ。さて今回の17人は、すでにご紹介した『女性作曲家ガイドブック2016』に即して、古典派から近代までの女性ばかり。チェンバロやオルガンでなく、楽器の女王よろしく現在の音楽界に君臨するピアノを駆使して、自らの作を弾き、披露した女性達である。
 出演ピアニストは8人、昼と夜の両方に全員が出演する上に、「おそらくピアノ作曲家として男女を問わず最も重要な存在」と私たちが看做すシャミナードの作品を8人全員にしっかり体験していただくよう、一曲づつ弾いていただくこととした。8月8日、8人―末広がりのイメージにふさわしいコンサートの結末を、楽しみながら考えている。

【図版Ⅰ】

 図版IIは、マラソン・コンサートのおよそ一か月後、9月2日に豊洲シビック・センターにて行われるバルバラ・ストロッツィの生誕400年記念のチラシである。行き会った友人に手渡すや、「えっ!生誕400年!?そんな昔にも女性の作曲家なんていたの?」とびっくり仰天の反応に、クララの生誕200年で騒いでいる場合じゃない!とばかり、有史以来6000人以上は実証されている女性作曲家について、即席レクチャーを始めてしまうこともしばしば…
 こちらの企画・主催は佐々木なおみさん。藝大楽理科での卒業論文を基に、今や絶版で入手不可能となってしまった私の編著書『女性作曲家列伝』(1999, 平凡社)の冒頭章で、このストロッツィ論をまとめてくださったご本人である。目下シチリア在住、日本語教育とイタリアバロック音楽研究を重ねつつ、満を持してこの企画を日本に持ち込まれたのだ。イタリアからの思いがけない数十年ぶりの御連絡に欣喜雀躍、一も二もなく協力させていただくことになった。ただしこちらは全く私の専門領域ではないので、ウイメンズプラザにおける8月29日のプレ講演では、女性作曲家がいつまでも無視されたままの問題点を、独断と偏見まじりに言いたい放題させていただき、肝心の講演は佐々木さんにお任せというプランである。とはいえ、私が本格的に女性作曲家に取り組んだきっかけの一つが、ほかでもない、およそ20年前、このストロッツィのカンタータ集のCD解説を担当し、その激情迸る歌唱と、大胆な表現様式に圧倒され、これぞバロックなのだ!同時代のモンテヴェルディやカヴァルリに比べて、どこが劣っているの?なぜ今まで知られていなかったの?など、沸き上がる疑問を抑えきれなかったことだったのである。

【図版II】

 ところで、ストロッツィのチラシを観て、「これって小林先生はお怒りじゃない?」とご心配くださったピアニストの友人がいる。日頃女性演奏家の舞台衣装の露出過剰ぶりを、私が憤懣やるかたなく批判しまくっていたことをご存じだからだ。確かに、胸元も露わな女性の姿を、遠慮なく真正面にデザインしたクラシックのチラシは、実に珍しい。だが小さな弦楽器を片手に、もう片方の肘は小型鍵盤楽器にもたれかけているこの女性こそ、バルバラ・ストロッツィその人!彼女を描いた唯一の肖像画?とされるこの油絵はドレスデン国立美術館に現存、描いた画家はベルナルド・ストロッツィ(1581-1644)。同じ姓だし、時代的にも重なるものの、両者に姻戚関係があるか否かは定かでないらしい。肝心なのは、このチラシはあくまでコンサート資料の一環であり、客寄せ目当ての露出的演出ではないということ。読者の皆様も、そのような意味でご覧いただきたい。

 女性のきわどい絵姿、といえば、話は大きく変わるけれど、目下ポレポレ東中野その他で大評判上映中の『作兵衛さんと日本を掘る』の女炭鉱夫にもぜひ触れておきたい。杉並の仲間として御一緒させていただいている映像作家、熊谷博子さんが、消えゆく炭鉱産業を底辺で支えた名もない一炭鉱夫、山本作兵衛の描き残した記録画をもとに作り上げた衝撃のドキュメント作品である[図像III]。
 この傑作については、とにかく実物の映画を一人でも多くの方に見ていただきたい、との熊谷監督のメッセージを代弁するほかない。本稿で私がこれもぜひ!と考えついた理由は、命がけの荒業というべき炭鉱夫の仕事とは、実は男だけが担ったのではなく、男女一対が心身のリズムを合わせて初めて成し得た重労働だったという事実を、この作兵衛さんの画業を通じて、初めて知ることができたからだ。つまり、飛躍的な物言いではあるが、私がライフワークと定めるほどの衝撃因となった女性作曲家も、この女炭鉱夫も,ともに厳然と実在し、時代にとって不可欠の働きを実践していた人間であったのに、歴史からは隠され、知らされずにきた、ということなのだ。しかもその女炭鉱婦は、灼熱地獄の坑内では上半身裸が当たり前だった…!

【図像III】

 あのストロッツィの魅惑的な画像とこの炭鉱婦の働く姿を引き合わせるという、無理筋を通したわけは、何とも嬉しい偶然の出会いがあったからだ。7月25日にポレポレで3回目の鑑賞をした際、終映後のトークショーで、作兵衛さんのひ孫にあたるという若い女性が紹介されたのだが、その方はなんと、ドイツのオーケストラに在籍するヴァイオリニストという。そこで帰り際に図々しくも自己紹介を兼ねて、上記ふたつのコンサートにご招待しようとチラシをお見せしたら、驚いたことに、8月8日に出演されるピアニストのおひとりと、藝大では同期のお友達だった、と嬉しそうにおっしゃるではないか!この素晴らしい映画とコンサートが何とも不思議な、遠いけれど確かなご縁で結ばれている…当のひ孫の女性は残念ながらご実家の福岡に移動するということで、コンサートにはお出ましいただけないのが実に悔しい。ともかく、貴重な出会いをもたらしてくれたこの映画にかかわられた皆様に、改めて心からの敬意と感謝の念を捧げたい。

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