【NPJ通信・連載記事】音楽・女性・ジェンダー ─クラシック音楽界は超男性世界!?/小林 緑
NPJ通信第68回 近況報告と、年末ご挨拶を兼ねて
◎はじめに
前回予告させていただいた8月8日の昼夜二回にわたる『女性作曲家・ピアノ曲マラソン・コンサート』(杉並公会堂-小ホール)、そしてプレ・レクチャー (8月29日、ウイメンズ・プラザ) のみ講演者としてかかわった9月2日のバルバラ・ストロッツィ生誕400年記念コンサート (佐々木なおみさん企画‣構成;豊洲シビック・センターホール)。ふたつともに無事終わってそろそろ4か月…気が付けば、はや年末だ。いまさらご報告というのも、あまりにみっともない。とりあえず、自然災害や、突発的な事故に見舞われることもなく、予定通り終了できたことをお伝えすることでお許しいただきたい。自主企画だった「マラソン・コンサート」が昼夜ともほぼ満席となったのは、ひとえに女性グループを筆頭とするお客さまのおかげである。そして,初めての作品に果敢に挑み、素晴らしい効果を上げてくださった8人のピアニストたちに、改めて心よりの謝意を表したい。
◎平和のためのサロン・コンサート
ここまで遅れたのであれば、いっそのこと11月23日、日本科学者会議のお声がかりで、神楽坂の小さなイヴェント・スペース “香音里 [かおり]” にて、「平和のためのサロン・コンサート―調和を織りなす女性作曲家たち」を実施できたこともお伝えしたい。
プログラムはフルートとピアノの共演。今回の目玉は、初めてオーストリアのレオポルディーネ・ブラエトウカ (Leopoldine Blahetka 1809-1887)[図版1] を紹介できたことだ。
【図版1】
ところが、ショパンが一時滞在したウイーンで出会った彼女の才に強く惹かれたため、彼女にまつわる情報がそのショパンとの関係のみに矮小化されている。すなわち、このブラエトゥカもまた、有名男性の陰でしか知られない女性の悲しむべき証人の一人だったと気付かされ、意味深い学びを得た。
このコンサートでのもう一つの収穫は、フルートの久保順さんと、ピアノのエミー・轟シュワルツさんが、なんと! シャミナードのフルートとピアノためにオリジナルの二重奏曲『星のセレナード』を、想定外のアンコールとして、つまり初見で! 弾きとおすという離れ技をご披露くださったことだ! そのおかげで、美味なデザートがメイン・ディッシュをさらに引き立ててくれ、研究者・学者のお客様たちも大変お喜びの様子が見届けられ、企画者として一安心できた。
◎記念すべき9月19日 !
アベ罪状満載の年末に今年を回顧するなら、何より9月19日こそ、政治の劣状が遠因と思われる環境/ジェンダー/音楽の問題を浮かび上がらせた日付けとして、心に銘記したい。
そこで次に、女性誌「ふぇみん」に投稿、掲載された小文 (2019/10/15号) も踏まえつつ、今なおくすぶる思いを書かせていただく。
なんとも人を不幸にする術は世界一だろう。9月19日、あろうことか、福島第一原発事故を引き起こした東電の最高責任者3人に無罪判決が下されたというのに、いまさらオリンピックとは、“How dare you!? [よくもそんな、厚かましい ! ] ”
その直前に開催されていたニューヨークでの国連気候変動サミットに現れた環境大臣の小泉進次郎が「セクシー」発言で炎上していた。おまけにその問題大臣は、NYに到着早々部下を引き連れ高級ステーキハウスに繰り出していたとか “牧畜、特に牛の環境負荷が今や大問題なのは周知のはず、環境大臣として参加するなら、せめてサミット期間中は “ ヴィーガン完全植物食派” を実施して見せれば、まさに「セクシー」だったろうに。
このサミットに参加していたスウェーデンの16歳、グレタ・トウンベリさんは怒りに燃え、お金のことと永遠の経済発展というおとぎ話に耽る世界の為政者をにらみつけつつ、上記 “How dare you?” を何度も繰り返した。娘の必死の行動に感化され、環境問題に敏感になった母はオペラ歌手としてのキャリア形成に不可欠だった飛行機利用をやめ、父も菜食主義に転じたというトウンベリ家の人々にしたら、いまさらオリンピックだの原発だの、まさに “How dare you” ではないか ! ?
東電の判決を見届けたその足で、夜はオペラシティ・リサイタル・ホールに向かった。イギリスの女性作曲家レベッカ・クラーク (1886-1979)[図版2] の名作「ヴィオラ・ソナタ」を聴くためである。主役のヴィオラ奏者 (40歳代?の日本人) は、オケで主席も務める最近人気の腕利きの女性、大いに期待したのだが、技巧の誇示に走り、歌心が乏しい今風の演奏スタイルで、なんともがっかり。
【図版2】
ところがそこで、思いもよらぬ出来事が起きた…手足の不具合を感じさせる身ぶりを重ねた彼女、プログラム最後に置かれたクラーク作品のために登場した際の足元を見ると、なんと、長裾ドレスはそのままなのに、ハイヒールを脱ぎ捨てた裸足ではないか ! 「足がつって…」と言い訳したご本人に、今なおブレーク中の、あのフェミニズム運動 “KU TOO” に連なる意識があったかどうか…彼女とは面識もないので確認することも叶わず、残念無念! ともかくこの9月19日、クラシック界に蔓延する男目線の犠牲に晒される女性奏者のホンネが露呈、世界の男支配構造との奇妙な附合に、大ショックを受けた1日となった。
◎秋以降の社会的アクションから
神楽坂の件の前後2か月、音楽の本業から離れた場面でも、様々に忘れがたい出会いやニュースに遭遇した。その中から私自身にかかわる事例を挙げておきたい。
〇11月5日: 元経営委員 (在任2001-07) として、国会内でジャーナリズム専門家とともにNHK経営委員長石原進氏とNHK会長上田良一氏の退任要求の記者会見での発言から:
a. アベ「おともだち人事」の弊害=経営委員の文化畑からの起用も要注意⇒ !
あの愛知トリエンナーレ助成金撤回を決定した文化庁長官・宮田亮平氏は元経営委員にして芸大学長だった。
さらには、アベ応援団を自認・公言した哲学者? 長谷川三千子氏が、二期6年の慣例に反し、異例の3期連続就任が決定 (12/10) ⇒そんな馬鹿な ! 許されないではないか ! ?
b. 放送メディアこそ、女性が重職になってもらいたいし、むしろより適材では ? ⇒
私の在任2期目の経営委員長・石原邦夫氏の本音は「女性副会長 [永井多恵子さん] といってもお飾りだから…⇒当時の女性委員5人もお飾りだった ?
c. 既存権威とは無縁のさわやかな女性をぜひ新会長に!
→ところがまたも新会長に前田晃伸・元りそな銀行会長 (財界人) が決定⇒絶句 !
〇11月29日+12月1日:大阪豊中市の男女共同参画によるシニア女性映画祭に参加:
a. 女性による女性主題の映画・ドキュメンタリー4本を上映・鑑賞。
b. 特に、益永スミコ (1923-2009) の全身アクティヴィストともいうべき実像に驚嘆!
c. ディアナ・アプカー (1859-1937) というアルメニア女性が、自らの民族のために孤軍奮闘、何千人もの同胞の命を救った作品の圧倒的な衝撃⇒私が歴史・社会的にも最重要の女性作曲家と認識しているポリーヌ・ヴィアルドも『アルメニア組曲』を作曲 (1904) …これをピアノ連弾版で紹介 (2012/3/24;津田ホール) したが、成立事情は不明ゆえ言及できず⇒疑問解決の糸口+新たに喫緊の研究課題として浮上 !
〇12月12日:ニュース・オプエドの生放送 (17時~18時) に出演=
元NHKヨーロッパ総局長の大貫康雄さんのお声がかり=初対面ながら共感大:
+ 今や大きな組織は立ち行かない、個人としての取り組みが最も有効との認識
+ 私家版「女性作曲家ガイドブック2016」をnoblesse obligeの実践と評され、感謝 !
※直接引用はしなかったが、私のお粗末な思考を補ってくれた近刊資料:
前田健太郎:女性のいない民主主義 (岩波新書2019/9/20)
北村小夜:画家たちの戦争責任―教科書に書かれなかった戦争 (梨の木社 2019/9/15)
益永スミコ:殺したらいかん―益永スミコの86年 (影書房 2010/5/12)
『グレタ たったひとりのストライキ』(羽根由・訳:海と月社、2019/10/07)
母マレーナが4人家族全員の気候変動にまつわる活動をまとめた記録集
データや資料も信頼できる+グレタの各地での演説も収録;今や世界必読の書‼
♪ みなさま、今年もお世話になりまして、まことにありがとうございました。
引き続きのお付き合いを、なにとぞよろしくお願いいたします。
どうかお元気で、新しい年を迎えられますように !
2020.1.26 更新
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