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1億5000万円の “闇” に挑め

寄稿:飯室勝彦

2020年6月23日


 前法務大臣の河井克行・衆院議員と妻の案里参院議員の逮捕容疑は94人に計2570万円を配ったという公選法違反 (買収) である。容疑が事実とすれば前例のない悪質さだが、検察の捜査態勢も異例だ。当初、管轄の広島地検に他の地検から応援検事を大勢派遣して捜査していたが、二人の逮捕から捜査主体は政治家の疑惑捜査の経験が豊富な東京地検特捜部に移された。検察は政治権力の不正追及にチャレンジするのを見送ってきたことで傷ついた、国民の信頼を取り戻そうと懸命のように見える。
 しかし公選法違反事件の処理で「一件落着」では国民は納得しないだろう。自民党から河井陣営に 1 億5000万円もの巨額資金が流れた経緯、資金の使途などを解明して国民に明らかにしなければならない。

◎動かなかった検察
 ここ数年、検察は政治権力の “闇” に切り込むチャンスを見逃し、あるいは見送り続けた。森友学園の問題では、国有地が学園に超低価格で売却された背景に安倍晋三首相側と事業主体者の親しい関係が浮かび上がったのに、追及しようとはしなかった。この問題に関して、公文書の書き換えが発覚し、当事者まで明らかになったのに刑事責任を問うことはしなかった。
 加計学園の獣医学部認可をめぐっても安倍首相や首相に近い政治家の関与した疑いが指摘されたが、検察は解明に動かなかった。
 大小さまざまな疑惑が浮かんでもいっこうに腰をあげようとしない検察に、心ある人たちが「政治権力の意向を忖度している」と疑ったのは無理もあるまい。
 そして黒川弘務・前東京高検検事長の定年延長と検察庁法の改正問題…政権に親和的な人物を検事総長に据えるためであることが歴然だっただけに世論が猛反対したことは当然で、忖度どころか「検察の政治に対する屈服、癒着」というレベルまで議論は高まり、国民の検察不信は募った。

◎信頼を回復するには
 そうした中で第一線の捜査陣は証拠を積み重ねてきた。その結果が、数ヶ月前まで法務大臣だった現役衆院議員とその妻である参院議員の同時逮捕である。
 現場の捜査担当者は「証拠の示すところに従っただけ」というかも知れないが、検察首脳が「国民の信頼を取り戻す」ことを意識していただろうことは容易に推察できる。
 だが二人の逮捕、今後に予想される起訴はゴールではない。ゴールであってはいけない。
 案里容疑者の選挙に際し河井陣営に渡された 1 億5000万円は他陣営の10倍だったという。河井陣営がこれほど優遇されたのはなぜか、夫の克行容疑者が安倍首相の側近といわれていたことと関係なかったのか、買収資金に使われたことはないのか・・・など国民が知りたいことはいろいろある。

 自民党から所属議員や選挙の候補者に支出される資金の原資は政党助成金、財界からの寄付金などいろいろだが、政党助成金は税金だし、寄付金もよりよい政治を求めて寄せられるのである。
 どちらにしても違法な目的はもちろん、恣意的に使うことも許されず透明であるべきだ。

◎金丸事件の教訓
 残された課題の解明には厚い壁も予想される。政治資金規正法は必ずしも資金の支出先、使途などを具体的に明らかにすることを義務づけてはいないうえに、政治権力サイドからの捜査への何らかの影響力行使の可能性も否定しきれない。
 検察が抱える課題はジャーナリズムにとっての課題でもあるが、特に検察はかつての金丸事件の苦い経験を教訓として学んだはずだ。1992年、東京地検は自民党副総裁だった故金丸信氏が 5 億円の政治献金を隠した政治資金規正法違反を摘発しながら、事情聴取のための出頭を拒否する金丸氏に屈して上申書提出で妥協し、20万円の罰金ですませてしまった。
 政治権力に妥協した検察の姿勢に世論は燃え上がり、検察庁舎の玄関にペンキが投げつけられる事態も起きた。困難であっても大きな力に挑もうとしない姿勢が批判されたのである。
 検察が今度の事件でも困難に向かって挑まず、事件を単なる公選法違反として矮小化すれば国民の信頼を再び得ることは困難だろう。

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