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【NPJ通信・連載記事】憲法9条と日本の安全を考える/井上 正信

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イージスアショア配備撤回を
憲法 9 条改正の推進力にしてはならない 上

2020年7月2日


1 河野防衛大臣は 6 月15日、突然イージスアショアの配備プロセスを停止すると発表しました。事前に安倍総理大臣の同意を得たうえでの発表でした。しかし、与党自民党とりわけ国防部会へは何らの事前協議もなされず、彼らはマスコミ発表で知ったというドタバタ劇でした。

 その後、 6 月24日の国家安全保障会議は配備計画を断念する決定をし、河野防衛大臣は米国政府と違約金の協議をすると発言していますので、当初停止と発表したのは、国民や地元自治体に対して情報を小出しにしながら、安倍政権の政治的ダメージを緩和しようとしたのでしょう。
 
 撤回した理由は、迎撃ミサイル (SM 3 ブロック 2A) を発射した際にブースターが演習場内ではなく、市街地、民家が所在する場所へ落下することを現時点では防ぐことは出来ないこと、そのためにはさらにシステムとミサイル本体の改修に12年、2000億円が必要になるというものでした。
 
 SM 3 ブロック 2Aは三段式ミサイルですから、新屋演習場のある秋田市民や、むつみ演習場のある阿武町民が、ブースター落下による被害の恐れを訴えていました。防衛省は住民説明会では、ブースターは演習場内か日本海へ落下するよう制御できると一貫して説明していました。防衛省は根拠のない説明をしていたことになります。

2 イージスアショアは安倍首相がトップダウンで導入を決定した「安倍マタ―」です。決して防衛省、陸自が要求したものではありません。2017年11月トランプ大統領との日米首脳会談でトランプ大統領から「バイ・アメリカン」とせがまれて、安倍首相はイージスアショアとF35の爆買いを約束しました。

 さっそく2017年12月に閣議でイージスアショア導入を決定しましたが、この時期は北朝鮮をめぐる軍事的な緊張が最高潮に達しており、米海軍は 3 個空母打撃群を日本海周辺に集めましたし、グアムから戦略爆撃機が朝鮮半島へ飛来し、武力紛争前夜の様相でした。野党からの臨時国会召集要求を98日間無視し続け、臨時国会を召集したら冒頭で「危機突破解散」を仕掛け、総選挙で勝利した後の閣議決定でした。安倍首相は北朝鮮脅威論をイージスアショア導入の口実にしたのです。

3 防衛省が発表しているイージスアショアの 1 基当たりの単価は1224億円ですから、 2 基で2448億円になります。しかしこの単価は、イージスアショアの「箱」とイージスレーダシステムの値段です。ミサイルは別で 1 発40億円、これに配置される自衛隊員 (発射要員や警護部隊) の隊舎、弾薬庫等の基地建設費用、訓練費用などを加えると 1 兆円ともいわれる超高額な装備になります。

4 我が国の現行ミサイル防衛は、海自イージス護衛艦と空自PAC3 による二層防衛ですが、これに陸自イージスアショアを加えた 3 本柱にする計画でした。これだけ高額で重要な位置づけの装備を導入する場合、まず陸自、防衛省が少なくとも数年かけて研究したうえで、導入の可否を決定するはずです。しかし安倍マタ―ですから、官邸のトップダウンで導入を決めました。

 そのためでしょうか、防衛省職員は新屋演習場、むつみ演習場が適地であることを説明するための調査と住民説明会で「大チョンボ」をしました。防衛省職員のモチベーションが低かったのでしょう。

5 これと同じ構図は、護衛艦いずも、かがの空母化です。海上自衛隊としての運用構想も固まっていないにもかかわらず、官邸主導で空母化を決定し、さらに2019年12月、閣議決定でF35Bを42機購入することを決定しました。

 護衛艦いずも、かがにF35B を搭載して空母として運用しようとすれば、対空ミサイルすら搭載しておらず、個艦防衛能力がほとんどない両艦を防護するため、イージス護衛艦やミサイル護衛艦、汎用護衛艦などの艦船を複数随伴させなければなりません。万一武力紛争でいずもやかがが沈められれば、虎の子のF35Bは艦と一緒に海中に沈むか、着艦する艦を失って、作戦終了後海上に不時着する結果になるからです。
 しかし海上自衛隊にはいずもやかがを護衛できるような艦船の余裕はありません。

6 イージスアショアは、弾道ミサイル攻撃に対処できるとしています。
 弾道ミサイル対処では、日本全土をカバーするため、秋田と萩の 2 か所へ配備するというのです。それは高高度の宇宙空間で迎撃できるからというのです。
 ところが現在、中国、ロシアは極超音速滑空ミサイルを配備しています。これは弾道ミサイルを発射機にしたり、爆撃機から発射する高速巡航ミサイルです。

 その特性は、大気圏内で飛行経路を変化させることです。弾道ミサイル防衛は、放物線を描く弾道軌道で飛行する攻撃ミサイルの弾頭の軌道をあらかじめ計算できるから、迎撃ミサイルの弾頭を衝突させて撃ち落とせるのですが、途中で飛行経路を変化させれば対処ができません。しかもマッハ 5 以上の極超音速で飛行します。ですからイージスアショアでは対処不可能です。このことは当初から専門家が指摘していたことです。
 現在そして近未来のミサイル技術を踏まえれば、イージスアショアが配備される頃には、完全に無用の長物となっているはずです。

7 安倍首相をめぐるこれまでの数々の疑惑を通じて見えてきた彼の性格は、自己愛が強くて絶対に自らの過ちを認めない、過ちがあっても他人(官僚や他の閣僚)の責任に転嫁する、執着心が強いというものです。その彼があっさり配備プロセスの停止という事実上の撤回に応じたことは驚きです。
 
 配備計画撤回の理由は、ミサイル発射後切り離されたブースターが市街地、人家の上へ落下することを避けられない、避けるためにはミサイルシステムとミサ入り本体の改修が必要で、そのためには2000億円の費用の追加と12年の歳月が必要だ、限られた防衛予算の中で費用対効果を考えればイージスアショア配備を進めることは合理的ではない、というものでした。

 私にはとって付けた理屈、撤回のための表向けの理由としか映りませんでした。安倍首相が計画停止という事実上の撤回に同意を与えた本当の理由は、後述の 6 月18日の安倍総理記者会見で分かりました。いずれにせよ配備計画撤回に至る経過は、安倍首相、官邸の一強体制が大きく揺らいでいることを示しているようです。

8 しかし油断は禁物です。転んでもタダでは起き上がらないからです。事前に相談すらなかった自民党国防部会は怒り心頭ですが、この機会にミサイル防衛体制を見直そうとする意見も出ています。
 
 私は弾道ミサイル防衛から積極防衛への大きな転換を図るのではないかと想像しています。積極防衛とは敵基地攻撃能力の保有です。 6 月15日防衛大臣による配備計画「停止」表明以降の動きがそのことを物語っています。
 
 まず2020年 6 月18日総理記者会見が重要です。記者会見の速記録は官邸HPに掲載されています。以下のURLでご覧いただけます。 
http://www.kantei.go.jp/jp/98_abe/statement/2020/0618kaiken.html

 この内容については、次回で詳しくのべたいと思います。

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