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【NPJ通信・連載記事】高田健の憲法問題国会ウォッチング/高田 健

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ホントに民主的?! 国民投票法の落とし穴

2016年12月15日

 2007年に国会で強行採決され、2014年6月に修正可決されたこの法律を、マスメディアは「国民投票法」といいますが、実はこの法律の名称は「国民投票法」ではなく、正式には「日本国憲法改正手続きに関する法律(改憲手続き法)」というのです。「国民投票」のためだけの法律ということではなくて、改憲の手続き全般について定めた法律です。
 この法律は極めて危ない法律で、その危険性については、私たちの市民運動は2001年12月に全国の176団体253人の連名でアピールを出したり、その後、何度も声明を出したりしながら、運動をつくってきました(許すな!憲法改悪・市民連絡会のサイトの「声明」というカテゴリーを検索して下さい)。最近では2010年12月に173団体ほどで反対のアピールをしてきました。しかし、この「国民投票」というものに含まれる危険性については必ずしも運動圏でまだ十分には広まっていないように思っております。その意味で、「ホントに民主的?! 国民投票法の落とし穴」という学習会などが開かれることは大変ありがたいことです。
 2000年から国会に憲法調査会が置かれましたが、それ以来、私たちはずっとそれを傍聴・監視してきました。
 憲法96条の話が前置きですが、まず、第96条には「この憲法の改正は、各議院の総議員の3分の2以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行われる投票において、その過半数の賛成を必要とする」とありますね。憲法にはこの改憲の発議や、国民投票の具体的な実行の仕方など細部にわたっては書いてありません。
 自民党は96条がある以上、最初から「国民投票法」があるべきで、それがつくられていないのは法的な瑕疵だとして、法の制定を急ぎましたが、私たちは「そうではない、世論が改憲を求めていないのだから改憲手続き法などいらない」と主張しました。2007年に採決されたときは自公案に附則や、18項目にわたる付帯決議を付けて採決されましたが、これには多くの問題がありました。
 経過をたどりますと、1999年に憲法調査推進議員連盟(市民運動は「改憲議連」と呼称)というものがつくられ、2000年に憲法調査会ができ、2001年秋には改憲議連が国民投票法案というものをつくり、2005年には自公案ができました。これに対して、当時の民主党も対案をつくり、憲法調査特別委員会の中で、自民党と民主党の間でかなりの歩み寄りがおこなわれ、成立しそうになりました。これが壊れたのは安倍晋三首相(第1次安倍政権)のおかげです。彼が行政府の長であるにもかかわらず、改憲手続き法制定を急ぐべきだとか、自分の任期中に憲法9条を改憲する、だとか言ったために、当時の民主党の筆頭理事だった枝野幸男さんが「安倍首相は憲法がわかっていない。彼が首相にいる間は憲法で自民党と協議しない」と怒り、対立しました。やむなく自公は強行採決をしましたが、当時の民主党などが主張していた意見に配慮して、参議院で付帯決議を付けました。たとえば、附則には18歳投票権の検討とか、付帯決議では憲法以外の重要課題での国民投票の検討とか、最低投票率の検討とかです。民主党はこれでも賛成しませんでしたが、これだけの付帯決議を付けたこと自体がこの法律が如何に欠陥立法であったかを示すものです。
 市民運動の側は、もともと改憲が民意でないのだから改憲手続き法はいらないという原則的立場を前提に以下のような多くの問題を指摘しました。この法律が①最低投票率が定められておらず、低投票率でも改憲が成立するおそれがあること(国民投票が成立するためには、100歩ゆずっても、過半数、ねがわくば3分の2が必要です)、②国会で改憲が発議されてから、国民投票までの期間が60日から180日と極めて短期間であり、有権者が熟議する期間が短すぎること(私たちは1年でも2年でも当然と主張)、③有権者を20歳に定めるのは憲法という未来に責任をもつ最高法規の成否に若者を加えないのは間違いであること(私たち市民運動は18歳どころか、義務教育終了年限が過ぎた人びとに付与して当然だと主張しました。後に18歳投票権で自民党や民主党が合意しました)、④在日韓国・朝鮮人など、定住外国人に投票権を付与しないのは誤りで、外国にはそうした例があること、⑤TVのCMなど、マスコミなどを使った国民投票の有料コマーシャルを原則、投票日の2週間前まで容認するのも間違いだ(当初案はこの制限すらなかった。年がら年中、有名タレントが私たちの明日のためにも改憲に賛成しましょうとか、あるいはこの2週間の制限期間でも、私は改憲に賛成ですと語りかける事は可能です。)、これでは資金力によって宣伝力が決まってしまい、圧倒的な宣伝力の前に、ゆがんだ国民投票が実施されかねない、テレビ・ラジオ・新聞などの有料コマーシャルは一切禁止すべきだ、⑥公務員や教育者の国民投票運動について、不当な制限が多すぎること、議員を選ぶ公選法と異なり、憲法の将来にわたる選択に際しては、地位利用などの禁止はやむをえないとして、もっと大幅に自由にするべきだ、⑥憲法が定める「この過半数」とは何か、分母は有権者総数なのか、あるいは投票総数なのか、自公案は有権者の意見を最も反映しない「有効投票の過半数」にされ、棄権、白紙、他事記載などは意見の表明と認めないことは正しくないこと、などなど、さまざまに主張しました。
 これら指摘した点が変えられないままに、もし「国民投票」がおこなわれたら、その結果は民意を正しく反映するものとならずに、国民投票の発議者、議会の多数派、政府に極めて有利な結果を招くおそれがあります。
 運動圏のなかには「9条国民投票」論や「原発国民投票」論などもあり、国民投票こそが民意をあらわすものだという国民投票の美化論があります。果たしてそうでしょうか。将来、憲法についての国民投票がおこなわれる場合、その発議は国会の多数派、政府与党によっておこなわれるでしょう。さらに与党の工作で一部野党がこれに加わる場合もあるでしょう。
 しかし、国民投票の発議の内容や発議の時期などは、この与党が最も有利と判断するところでおこなわれます。国会法第68条の3では「憲法改正原案の発議に当たっては、内容において関連する事項ごとに区分して行うものとする」とされ、事項ごとに投票することになっています。そして憲法調査会の議論では、この「事項」は多くても数項目(3~5項目程度)までとされています。「関連する条項ごと」とは曖昧で、なにをもって「関連する」とするのか、わかりませんし、「戦争放棄」の9条が自民党改憲草案のように「安全保障」と一括りにされるかも知れません。またこれら発議する数項目が環境権と知る権利と合区解消と安全保障などとして、複数項目が一挙に個別に投票を求められるかもしれません。要するにこれらの制度設計は国会の多数派によってなされるのです。改憲派はこれらの「制度設計」を主導的にできるわけです。憲法国民投票というと「憲法9条を変えることに賛成か、反対か」という投票になると思う人が多いかも知れません。それなら9条改憲反対派が勝てそうだと思うかも知れません。しかし、そのような国民投票の制度設計で来ることはまずないでしょう。実際、憲法調査会の欧州視察団がEC加盟の国民投票を調査に行って、目の前で政府側が敗北した事実をみて、「国民投票というのは恐いものだ」という感想を述べたことがあります。日本でやる場合には改憲派はこれらの教訓をしっかり踏まえて、改憲派が勝てるやり方で国民投票の設計をしてくるでしょう。
 まして、先に指摘したように、さまざまに民意を反映しにくい改憲手続き法であるわけです。改憲派は負けるとわかっている改憲発議は絶対にやりません。もし、国民投票で敗れれば、内閣の1つや2つは吹っ飛びます(むかし、宮澤義一自民党総裁が言った言葉)し、なによりも再度改憲国民投票を提起することが極めて困難になります。改憲派が勝てるために、もっとも有利な制度設計をして、時期を選んで改憲国民投票をしてくるわけです。
 「通販生活」2016年秋号の「ちょっと待って、憲法改正国民投票」という記事は大事な特集だと思います。この記事では「9年前の07年4月に成立した憲法改正国民投票法には重大な欠陥があります。ゆえにこの欠陥が直されないかぎり、通販生活は憲法改正国民投票に反対します。その欠陥とは憲法改正国民投票法であいまいなままに放置されてしまった『民間団体によるテレビ意見広告』問題(です)」と指摘し、この問題に詳しい某国会議員の秘書の南部義典さんに「今の憲法改正国民投票法では、改正賛成ないし反対のテレビCMはお金があれば好きなだけ流せます。これって、とても不公平です」と指摘させています。これは本稿でもすでに指摘したとおり、大事な問題です。通販生活はテレビCMのプロであるだけに、優れた指摘です。この通販生活の記事は支持されていいと思います。ただし、この通販生活の記事では、「通販生活は以前から憲法9条国民投票はやるべきだと主張してきました」と言っているのは問題があります。すでに指摘したように現行改憲手続き法はテレビCMの問題に限らず、重要な問題点がたくさんある欠陥立法で、このままでは民意が正しく反映されにくい法律です。そして、国民投票の制度設計は誰が主導するかの問題を含めて、いま9条改定国民投票をすれば、9条の破壊を企てる改憲派を利するものになることは明らかです。
 ですから、市民運動のほうから9条国民投票をしようと運動するのは間違いです。私たちのなすべきことは、いまの憲法を生かすための運動をすべきで、改憲派の改憲のねらいがどこにあるのかを暴露し、改憲手続き法がどんなに民意を反映しないまやかしのものであるかを暴露してたたかう必要があるわけです。
 このたたかいを通じて、市民のなかで憲法問題の認識を深め、立憲主義についての認識を深め、民主主義的な自覚を高めておくことです。このことこそが、憲法問題の基本です。もとより、改憲派がいまの法律の下で、改憲国民投票をしかけてきたら、私たちはそれを迎え撃って、精一杯、改憲阻止のためにたたかうでしょう。悪法の「小選挙区制」のもとでも、私たちは選挙戦に参加して、そのもとで、全力をあげてたたかうわけですから。
 改憲のスケジュール観の話ですが、今度の臨時国会で10日と17日に衆院憲法審査会(結局TPPがらみで、17日と24日になりました)、参議院は16日ということになっています。次の通常国会からより本格的に憲法審査会が始まり、次第に改憲項目の絞り込みがはかられていくでしょう。安倍首相は各党が改憲原案の対案を出すべきだなどといっていますが、とんでもないことです。今後、自民党を中心に憲法審査会で改憲原案をつくっていくわけですが、2018年中くらいにはどこをどう変えるのか、どことどこを変えるのかについて原案をつくりたいようです。そうすると、最速で2019年前半くらいに国民投票という想定でしょう。安倍首相は2021年まで総裁任期を延長するわけですから、そしてオリンピックの前くらいに最初の改憲をやりたいということでしょう。そして、何回か、改憲国民投票を重ねて、最終的には憲法の全面改定、いまの自民党の憲法改正草案を実現したいということでしょう。
 ですから、最終的には有権者が国民投票で憲法についてきめられるということだから、すでに総がかり実行委員会の戦争法反対の署名は1580万筆あつめた、桜井よしこたちのは750万だから、かなりいけるという人もいるのですが、そう単純ではないということがおわかり頂けたでしょうか。
 いま、安倍政権の壊憲の企てに反対している人びとに最も求められている闘いは、与党と改憲派が獲得した国会で改憲発議可能な議席数を打ち破ることです。安倍政権と与党が改憲に意気込んでいるのは、先の参院選で3分の2の議席をとったからですね。3分の2を割ったら改憲の発議はできません。ですから私たちの運動は、全国の地域や職場で市民運動を大きく盛り上げながら、間近に迫っているかも知れない総選挙で、改憲派に3分の2を獲得させない闘いを全力で進めることです。
 先の参院選挙が示した「4野党と市民」の共同した闘いの威力を、次の総選挙でも再現し、強化することだと思います。単純に参院選や先の総選挙での野党4党の得票数を衆院の小選挙区に当てはめれば、与野党逆転できる選挙区が50も、60もありそうなことは多くのデータが示しています。次の衆院選での立憲野党陣営の1本化は、民進党が新執行部に変わったことなどの要因で、容易ではありませんが、市民連合をはじめ、全国の市民が奮闘すれば可能性は大きくあります。これこそ、いま安倍政権が企てる憲法改悪を阻止するための、もっとも現実的な道ではないかと思います。
 
(注)これは11月6日、東京・杉並区の市民グループ「自由と平和のために行動する議員と市民の会」の主催する「国民投票法」についての学習会に招かれ、弁護士の三浦佑哉さんの質問に答えてお話しした内容を、高田の責任で大幅に要約したものです。

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