【NPJ通信・連載記事】一水四見・歴史曼荼羅/村石恵照
一水四見 「都市が戦場となった !」ーパリ同時多発テロ、そして「差別化された悲劇」
11月「13日の金曜日」夜(日本時間14日早朝)、フランス・パリ市でIS(「イスラム国」)による6カ所の襲撃があり、120人以上が死亡した。
これは「第二次世界大戦以来、フランスを攻撃した最悪の暴力事態」となった(The Christian Science Monitor; By Lori Hinnant and Greg Keller, Associated Press; NOVEMBER 13, 2015)。
オランド仏大統領は「テロとされる事態」に断固とした態度をとることを誓って、非常事態宣言をだした。
フランス当局は、裁判所の承認がなくても、いつでも任意の家宅捜査ができることになった。
「パリ同時多発テロ」で、これまでの戦争の概念が一変してしまった。第二次世界大戦までにみられたような、敵対する両軍の兵士や戦車が陸上で戦火を交える戦争はなくなってしまった。
パリを攻撃した過激派組織「イスラム国」の戦闘員の撲滅に軍隊も戦車は必要でない。
必要をされるのは特殊部隊の戦闘員である。
これまでの戦争における戦場の観念が変わって、一国の政治・文化の中心である都市生活自体が攻撃対象の戦地となった。
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事件以後、インターネットのサイト上で、「パリ同時多発テロ」をめぐって、多数の錯綜した情報や情念が飛び交っている。
CNN もBBCも、ニュース解説者やジャーナリストは高揚した声で、時々刻々、被害状況を伝えている。
国際的ハッカー・ネットワーク「アノニマス(Anonymous)」は、ISに対して宣戦布告した(Mirror; 16 NOV 2015)。
17日のCNN Liveの字幕に「ISIS は誓う、”我々はアメリカを攻撃するつもりだ。”(「ISIS vows: We will strike America)」が現われた。
「少数の過激派の行動のために、多数のイスラム教徒を過激派として一般化しないように」と訴えた心温まる Facebook の記事の投稿者に対して「死の脅迫」メールが送られてきた。(Mirror; 17 NOV 2015)。
リビアの街頭では、「パリのテロ攻撃」を祝福するために子供たちに 菓子を配っている ISIS の戦士たちの姿が YouTube で流された( Mirror; 17 NOV 2015)。
オランド大統領は、「テロとされる事態」の認識からすすんで、「我々は戦争状態にある」と宣言して、 ISIS に対して新たな報復措置として空爆を実施した(Mirror; 17 NOV 2015; ‘we are at war’)。
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今度のパリを攻撃してきたグループが所属する組織は、日本語の新聞では “ 過激派組織「イスラム国」(IS)」”の名称で呼ばれている。
この組織を一部の識者は「a network of killers」と呼んで、「イスラム国」などという国はないと言う意見もある。
しかし、国際テロ組織・アルカイダの最高指導者ウサマ・ビンラディンと生前二度インタビューした経験のあるベテランのイスラム問題専門家・アトワン氏( Abdel Bari Atwan)によれば、この過激派組織は、事実として「イスラム教の国家である」という (It is Islamic, and it is a state.)。
ただし、アトワン氏によれば、彼らはイスラム教の最悪の解釈であるサウジアラビアに起源をもつ「ワービズム( Wahhabism )を採用している」という。
そして、アトワン氏は非難を覚悟で解説する。
「彼らには軍隊、警察、行政組織、内閣があり、独自の通貨をもち、国旗をもっている。ともかくも9百万~千万人が市民権をもち、彼らの国境をもち、近隣諸国と取引をし、イラク北方のクルド人地域やトルコやヨーロッパにさえ石油を売っている。彼らはイスラム「国」ではない、といっても事実的に国家(a state)である。」
彼の新著「イスラム国=デジタル化したカリフ政体」(The Islamic State: The Digital Caliphate)をだした。
彼の最近の論評は「アメリカが過激派イスラムを実現した;いかにしてCIA、ジョージ・W・ ブッシュ、その他のおおくの人々がISISをつくりだすことを助けたか?」である(Democracy Now; November 17, 2015)。
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パリの同時多発テロで殺害された120人以上の犠牲者と彼らの近親者に対して、だれでも哀悼の気持ちを持つのは当然である。
CNN やBBCのテレビでは、「パリ同時多発テロ」で死亡した一部の被害者の写真を掲載し、今回のテロがいかに非道なものかを高揚した気分で報道している。
しかし、当該被害者たちの悲劇の悲しみとは別に、なにか釈然としないものを感じざるをえない。
それは悲劇に、先進国と発展途上国の区別化、または差別化がなされているかのようにみえるからだ。
先進国の豊かな都市で過激派に銃殺された少数の人々の悲劇に最大の注意が向けられている一方で、強姦され、拷問され、そして家の中で焼き殺されている発展途上国の多数の人々がいる。
過激派組織「イスラム国」によって引き起こされた悲劇は、「1%の富裕層対99%の貧困層」という喩えは適応しない。
無名の99%の人々の内部で、悲劇の価値が、先進国対後進国・都市対農村の序列の下に、さらに1%対99%の差別がなされているのではないか。
今年1月7日の「シャルリー・エブド」襲撃事件を思い出してほしい。
穏健なイスラム教徒らは、先進国の人々の「二重基準」に対して怒りをぶつけている。
「ガザやシリアで数千人も殺されているのに、17名ほど殺されたことで、なんたる大騒ぎだ!」と。(BBC News; By Hugh Schofield; Paris;11 January 2015 ー’Je suis Kouachi’;Over and again they express their anger at what they see as double standards: Why so much fuss over 17 dead when thousands have died in Gaza and Syria?)(参照:「一水四見(11)――世界は再び、宗教戦争(?)の時代に移行するのか? http://www.news-pj.net/news/14223)。
これも悲劇の差別化ではないのか。
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「シリア危機:シリア難民300万人を超える。シリア国内における戦闘激化の報道が増える中、避難を強いられたシリア難民の数が今日、過去最大の300万人を超える。包囲された町に取り残された市民は食糧不足に苦しみ、無差別に攻撃を受けている。
これまでにシリア全人口の約半数が家を追われた。8人に1人が周辺国に避難し、昨年よりも100万人増えた。さらに650万人がシリア国内で避難を余儀なくされた。家を追われたシリア人の半数以上が子どもだ。
UNHCRとその他の支援団体によると、紛争を逃れ、周辺国へ避難する家族は増え続けており、精神的ショック、疲労、恐怖で疲弊し、所持金もほぼ底をついた状態でたどり着くという・・・」(UNHCR・国連難民高等弁務官事務所; スイス、ジュネーブ発; 2014年8月29日 )
これは昨年の状況で、現在は、さらに複雑に悪化していて周知のとおり、欧米を巻き込んだ大難民が流動している状況だ。
現在、南スーダンで部族間の殺戮が進行しており、 200万人が家を失い、数万人が殺害され、多くの住民は餓死寸前の状況にあり、多くの婦女子が強姦されている。
しかも、ある組織によって両陣営へ武器の売買が行われている(BBC News, by Yalta Hakim)
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現在、世界でおこっている悲劇の大きな絵柄をみれば、キリスト教の西欧先進国ではなく、イスラム教同士が、アフリカの住民同志が、殺戮をしているーーさせられている?ーーことである。
そして、多数の無辜の人々が、焼殺、拷問、強姦、略奪、人身売買などで泣き叫んでいる一方で、 これらの世界的流動的混乱状況において、国境を超えて組織的に利益を得ている様々な規模・行動形態・目的をもった組織があるようだ。
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「パリ同時多発テロ」の二日後の日曜日、トルコでおこなわれたG20のサミットで、オバマ大統領はサウジアラビア国王と会談した。
翌日、ペンタゴンは、イエメン攻撃のために、アメリカ国務省がサウジアラビアに対して12億9千万ドルの武器の売却を承認した、と発表(Democracy Now; NOVEMBER 17, 2015)。
今年、アメリカのSOF(Special Operations Forces;特殊作戦部隊)は、地球上の国家の75%、147カ国へ派遣されいている。
これはジョージ・W.ブッシュの時から145%の増加である。
毎日、アメリカのエリートの作戦部隊が70~90カ国の地上で軍事作戦に従事している。
さらにアフリカの54カ国の内の90%以上にアメリカの軍事的介入がなされているが「気がつかれないような」軍事的戦場を展開しているという。(DEMOCRACY NOW.; NOVEMBER 13, 2015; Nick Tures:”Tomorrow’s Battlefield”;As U.S. Special Ops Enter Syria, Growing Presence in Africa Goes Unnoticed)。
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ユダヤ人国家・イスラエルと厳格なイスラム法を施行するサウジアラビア王家を双翼にして、アメリカは新たな装いの世界の警察として世界に羽ばたいているかのようだ。
アメリア兵は派遣せず、少数精鋭のエリート特殊部隊を海外に派遣し、ドローンという無人攻撃機が世界に徘徊している。
一方、過激派組織「イスラム国」の先兵たちは、先進諸国の中枢都市に人間爆弾となって直接殺害行動を展開して世界中から非難を浴びている。
確かに、従来の戦争概念はかわってしまった。陸海空の三次元にサイバー空間が加わった臨戦態勢になっている。
縁起的にみれば、現在アフリカとイスラム圏を中心に起きている悲劇は、人類にかせられた共通の悲劇であると同時に、その淵源をたどれば、西欧の植民地支配にまで遡る西欧自身がかかえる悲劇である。
(2015/11/17;記)
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