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【NPJ通信・連載記事】ホタルの宿る森からのメッセージ/西原 智昭

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ホタルの宿る森からのメッセージ第61回
「番外編〜国立公園への高まる脅威とこれからへの節目(その1)」

2016年8月9日

ベンバの森

広いゾウ道はどこまでも続く。ガイド役の現地スタッフ二人(コック役の農耕民一人と先導役の先住民一人)に聞くと、目的地まではほとんどベンバの森で、ゾウ道が続くという。これはありがたい。久々の長距離森歩きのぼくとしては、藪に覆われていない歩きやすい森を歩けるのは望外の喜びだった。

森は見通しがよく気持ちがいい(写真236)。目立った藪や下草はほとんどない。現地語名で“ベンバ”と呼ばれるマメ科の木に覆われている純林には、こうした風景がよく見受けられるが、これほど広々とした森が見られる場所は多くない。まさに、原生林中の原生林という場所といえるかもしれない。

写真236:広々したゾウ道とその脇の見通しのいいベンバの森©西原智昭

写真236:広々したゾウ道とその脇の見通しのいいベンバの森©西原智昭

そして歩いて行くゾウ道も見事に幅が広い。あちこちに、その分岐点もある(写真237)。広大な見通しのよい森と、あまたのきれいなゾウ道と多くのその分岐点。これは、数多くのゾウが恒常的に縦横無尽に森を移動していることを示している。ヌアバレ・ンドキ国立公園の心臓部はまだ健全な森と健全な数の野生生物が存在しているという証拠にほかならない(写真238)。

写真237:二股に分かれていくゾウ道。森を知る先住民のガイドなしではこうした場所で迷う©西原智昭

写真237:二股に分かれていくゾウ道。森を知る先住民のガイドなしではこうした場所で迷う©西原智昭

写真238:人が住んでいない森の中で川の水は鮮やかに透明。森歩きはこうした水場や沼地を何箇所も渡る©西原智昭

写真238:人が住んでいない森の中で川の水は鮮やかに透明。森歩きはこうした水場や沼地を何箇所も渡る©西原智昭

森はちょうど小乾季を迎え、例年のごとく、森は果実の匂いで満ちていた。特に、人間も食べられる“マロンボ”と呼ばれるキョウチクトウ科の実(写真239)や、“モベイ”と呼ばれるパイナップル科の実(写真240)をあちこちで見かける。マルミミゾウは見事にこの二種の果実を大量に食べている。

写真239:マロンボの実の一種。中の赤い果肉がいくつか入っておりその中に種子が一つずつある©西原智昭

写真239:マロンボの実の一種。中の赤い果肉がいくつか入っておりその中に種子が一つずつある©西原智昭

写真240:モベイの実。これはまだ固く熟していない©西原智昭

写真240:モベイの実。これはまだ固く熟していない©西原智昭

マルミミゾウの糞の中にはその種子が多く見かけられた(写真241)し、そこから発芽した新しい芽生えも生き生きとしていた(写真242)。

写真241:ゾウの糞の中に見える大量の種子(大きめがモベイの種子;小さめがマロンボの種子)©西原智昭

写真241:ゾウの糞の中に見える大量の種子(大きめがモベイの種子;小さめがマロンボの種子)©西原智昭

写真242:ゾウの糞の中の種子からの芽生え。ほとんどがマロンボ©西原智昭

写真242:ゾウの糞の中の種子からの芽生え。ほとんどがマロンボ©西原智昭

ベンバの実(写真243)も樹上から音を立てて地上に落ちてくる。それは、落ちる直前、樹上でマメの大きな莢が割れる音だ。そしてマメとともに地上に落下する。

写真243:ベンバの莢(右)とマメ(左)。一つの莢に通常数個のマメが入っている©西原智昭

写真243:ベンバの莢(右)とマメ(左)。一つの莢に通常数個のマメが入っている©西原智昭

迫り来る脅威

今回、久々ではあるが、国立公園中心部に向かったのは、この健全な心臓部の森がすでに密猟者による脅威を受けたことに発する。今から20数年前に設立された国立公園にとって、これは初のしかも重大な危機である。そこで、できれば、公園の中心部のどこかにパトロール隊や研究者が常駐できるキャンプ地の可能性を探るためである。

実際に、国立公園中心部に位置する大きなバイの一つ「マバレ・バイ」にて、すでに報告を受けていた二頭分のマルミミゾウの白骨死体を確認した(写真244、245)。密猟者によって、六ヶ月以上前に殺害されたゾウだ。密猟者は中央アフリカ共和国側から侵入した。地図で見れば、国境からバイまでは距離的に遠くない。しかも、国境の西側・中央アフリカ共和国側では昨今伐採業が始まり、コンゴ共和国側への森に入るアクセスも容易になったという背景がある。

そうした固定キャンプ地を作る目的の一つは、そこを拠点に、国立公園中心部周辺でのエコガードによるパトロールが常時可能になること。そして、その地域に存在する幾つかのバイ、特にマバレ・バイとミンギンギ・バイという2つの大きなバイでの研究者への便宜を図ることもできる。キャンプ地およびその周辺部に人が常駐すること自体でまずは密猟者も出入りがしにくくなる。

写真244:マバレ・バイでのマルミミゾウ。その右下に密猟されたゾウの頭骨が見える©西原智昭

写真244:マバレ・バイでのマルミミゾウ。その右下に密猟されたゾウの頭骨が見える©西原智昭

写真245:もう一頭殺害されたマルミミゾウの腰と足の骨の一部。マバレ・バイの脇で見つかった©西原智昭

写真245:もう一頭殺害されたマルミミゾウの腰と足の骨の一部。マバレ・バイの脇で見つかった©西原智昭

アイデアとしては、そのキャンプ地では大きめのテントに常駐者が寝泊まりする一方、食料のストック場として、簡易家屋を建てなければならない。その建築資材や大量の食料を運びこむには、国立公園内を通る川を利用して丸木舟で運びこむことが必須条件となる。いくら歩きやすいゾウ道とはいえ、今回のぼくらの森歩きのような形では、そうした物資を運びこむことはできない。実際、今回ぼくらは候補地となるような場所を幾つか確認したが、そこに徒歩で到達するためには大きな沼地を少なくとも2つ歩いて渡らなければならない。これも実践的には多くの物資を運びこむには障壁となる。特に、大雨季では水かさも増し、場所によっては、背の立たない川や沼地もある。

そうした理由で、川を船外機付きボートで行き来できるようにするのは必要条件となる。通常、川の両側は沼地であり、川が直接入口とつながっているような場所は少ない。もしそうした場所があれば、そこを船着場とし、その近くにキャンプ地を設営することができれば理想的だ。実際に、そうした船着場候補地も、今回いくつかチェックした。

現段階で川は倒木やら水草で、船外機付き丸木舟が通れる状況にない。川を使った運行を可能にするには、「川開き」を実施する必要がある。チェーンソーで倒木を切り、山刀で水草群を切り開いていく必要がある。ぼくの個人的な経験としてはそれは決して不可能なことではない。ぼくのかつての研究地キャンプへ行くアクセスでも、そうした「川開き」をした経験があるからだ。そのときは川を走行する距離も短かったので、船外機付きではなく、オールで丸木舟を漕いだのだった(写真246)。

写真246:国立公園内の川幅の狭い川を渡る丸木舟©西原智昭

写真246:国立公園内の川幅の狭い川を渡る丸木舟©西原智昭

ただし、「川開き」には深刻なリスクを伴う。われわれのためにアクセスをよくすることはすなわち、密猟者にも容易な道を作ることにも繋がる。もしわれわれのチームが不在であったような期間があると、密猟者はいとも簡単に国立公園心臓部に出入りすることが可能となってしまう。それを防ぐためには、まず中心部にキャンプを設営しながら、常駐者を確保し、国立公園中心部における「安全性」を保障しなければならない。その上で、徐々に川開きを実施し、船外機付きボートが行き来できるようになれば、徐々に大量の資材や物資・食料を運びこむことが可能となる。

つまり、相当の慎重さとかなりの時間を要する作業ということになる(続く)。

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