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【NPJ通信・連載記事】緊急事態条項からはじまる改憲

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安倍改憲と憲法審査会、改憲国民投票について

寄稿:高田 健

2016年9月6日

 安倍首相は2016年夏の参院選の100回に及ぶ街頭演説で「改憲問題」に一言も触れずに、結果として改憲派の議席において両院の3分の2をかすめ取った。にもかかわらず首相は、選挙直後の記者会見で「いかにわが党の案(自民党改憲草案)をベースにしながら3分の2を構築していくか。これがまさに政治の技術」(7月11日)だと言い放ったのである。このような文脈で「政治の技術」という用語を使う安倍晋三のイデオロギーは、民主主義とはほど遠い、まさに独裁者の思想ではないのか。

 つづいて内閣改造後の8月3日の首相記者会見では憲法問題について、次のように発言した。

 「改憲は立党以来のわが党の党是と言っても良い。私は総裁だから実現のために全力を尽くすのは当然で、歴代の自民党がそうだったように、この課題に挑戦をしていく責務を負っている。自分の任期中に果たしていきたい、こう考えるのは当然のことで、歴代の自民党の総裁もそうであったと思う。そう簡単なことではないのは事実で、政治の現実において一歩一歩進んでいくことが求められている。改憲は普通の法律と異なり、3分の2の賛成で発議する。国会は発議することが役割であり、国民投票によって過半数の賛成を得て決まるので、与党が賛成すればできるものではない。その数を選挙で得たからと言って、改憲が成し遂げられるものではなくて、大切なのは国民投票でその過半を得ることができるかということではないか。まずは具体的にどの条文をどのように変えるかは、国民的な議論の末に収斂(れん)していくと思う。まずは憲法審査会の中で、静かな環境において(議論し)、所属政党 にかかわらず、政局のことは考えるべきではないと思う。日本の未来を見据えて議論を深めていって、国民的な議論につながっていくことを期待したい」と。

 安倍首相はまず憲法審査会で「どの条文をどのように変えるか」を議論したいと言った。これは重大な問題が含まれているので後に検討したい。

 安倍首相は2016年年頭からしきりに自分の「任期中の改憲」について触れていた。自民党の総裁は党則で、任期が3年で連続2期までと定められ、現在2期目の安倍総裁の任期は、2018年9月までとなっている。しかし、このところ改憲反対が多数を占める世論の動向からみて、両院で改憲発議に可能な3分の2の議席を保有しているからと言って、明文改憲の条件は極めて厳しくなっており、安倍首相のいう「政治の秘術」を駆使しても、
憲法審査会での議論→憲法審での改憲原案のまとめ→両院での改憲原案の採決→改憲発議と国民投票の周知期間→改憲国民投票
などなど最速の日程を考えても「任期中の改憲」(あと2年の内)は容易なことではない。

 そこに降って湧いた自民党の谷垣前幹事長の交通事故だ。安倍首相はこれを奇貨として、自民党執行部の中心の幹事長に従来から「安倍首相任期延長論」を唱えていた二階俊博氏を据え、党則の変更と総裁任期の延長による中期政権の実現によって明文改憲のための時間稼ぎを可能にする党執行部体制づくりを断行した。もし連続3期まで可能ということになると、2021年9月までとなり、明文改憲の発議のための時間がかせげるということになる。ついでにいえば、安倍首相の祖父・岸信介氏が誘致をしておきながら東京五輪の開会式にでる夢が破れた「悲願」も達成できるとの与太話も存在する。

 二階俊博氏はこう語った。

 「(党内に任期の延長問題を議論する組織を設置したい、そして)「党内の意見をよく聞いて結論を得たいが、政治スケジュールのテンポとしては、ずっと引っ張ってやる問題ではない」と述べ、年内をメドに結論を得たいという考えを述べたのである。これによって、安倍の任期中の改憲の可能性が現実味を帯びてきた。最高権力者の安倍首相の意志で、明文改憲に着手し、すでに手に入れている両院の総議席の3分の2によって改憲を発議し、国民投票にかけるとすれば、これぞ「立憲主義」の禁じ手、プレビシット(いわゆる人民投票=為政者が自らの政策を正当化するために利用する国民投票)そのものに他ならないのではないか。
   
  
 憲法審査会について

 安倍首相は憲法審査会で議論する、決めてもらうというが、現実の憲法審査会はどうなっているだろうか。

 憲法審査会は、「日本国憲法及び日本国憲法に密接に関連する基本法制について広範かつ総合的に調査を行い、憲法改正原案、日本国憲法に係る改正の発議又は国民投票に関する法律案等を審査する機関」とされている。これを要するに2つの任務を持つと考えられる。

 安倍首相はまず「憲法審査会が改憲原案を審議する」というが、これでははじめに改憲ありきの議論になってしまう。いずれの報道機関の世論調査をみても、改憲の必要を主張する人びとは少数派である。にもかかわらず、改憲ありきの議論をするならば、前述したように、「最高権力者の安倍首相の意志で、明文改憲に着手する」ことになってしまう。

 憲法審査会はまず、その任務の第1、「日本国憲法及び日本国憲法に密接に関連する基本法制について広範かつ総合的に調査を行」わなくてはならないのであり、例えば日本国憲法に密接に関連する「安保法制(戦争法)」と、それを正当化した2014年7月1日の閣議決定に関する検証を徹底的におこなう任務があるのは明白だ。

 しかし、憲法審査会は前通常国会では1度開催されたきりで、与党の意志で開店休業になっている。

 2015年6月4日、衆院憲法審査会に出席した3人の参考人、自民、公明、次世代の各党が推薦した長谷部恭男早稲田大教授、民主推薦の小林節慶応大名誉教授、維新推薦の笹田栄司早稲田大教授の3人が、いずれも「安保法制は憲法違反」と指摘したことで、ふるえあがった与党は、勝手に憲法審査会を止めてしまった。この責任が安倍晋三自民党総裁にないとは言わせない。憲法審査会の当然の任務、安保法制について「広範かつ総合的に調査をおこなう」ことを回避しておいて、突然改憲原案の審議にはいることなど認められるものではない。

 さらに重大な問題がある。憲法審査会の構成は衆院憲法審査会50名(会長・保岡興治・自民)、幹事9名(うち自民6、民進2、公明1)、委員40名(うち自民24名、民進8名、公明3名、共産2名、維新2名、社民1名、)、参院憲法審査会45名(会長・柳本卓治・自民)、幹事9名(うち自民4名、民進2名、公明・共産・維新各1名)、委員35名(うち自民19名、民進7名、公明2名、共産2名、維新2名、希望1名、無所属クラブ1名、日本1名)である。両院の会長を自民党が握った上、自民党単独で過半数を大きく上回っている。多少、他党に妥協する案を作るかどうかを含めて、改憲原案は自民党の意志で決まるのだ。一定時間、論議をすれば、国会ではほとんどの対決法案が採決で決められてきたように、安倍首相のいう「どの条文をどのように変えるか」は自民党の意志で決まる。これでは立憲主義など、まるで無視された状態だ。
  
  
 改憲国民投票について

 まず、市民運動の一部にある国民投票への幻想を克服する必要がある。

 「参院選で改憲発議可能な議席3分の2がとられたが、まだ国民投票があるから」という、最後の砦として国民投票に期待する意見がある。

 改憲派は3分の2をとっても、すぐに改憲原案を発議できない。改憲派の中で、憲法の「何から、どう改憲するか」の意見がまとまっていない。ただちに9条からというやり方は改憲派もあきらめたようだが、では緊急事態条項附加の改憲からかというと、その可能性は大きいが、これも必ずしも改憲派の一致がない。改憲論の中にはまず改憲ありきで、「そのていどのことでわざわざ改憲する必要があるのか?」と言われかねない各種のネオリベ改憲論(大阪維新がしきりに主張する「財政規律」「地方分権」の導入のための改憲論など)まである。

 自民党の一部や安倍首相は考えている「総裁任期の延長」してでも改憲発議をと考えているようだが、そうであれば改憲発議前に、総選挙も参院選も考えられる。ここで、今回の参院選の経験をいかした「野党4党+市民」の共同によって3分の2を阻止する闘いを展開することは可能だ。

 そして何より、国会外の市民運動を高揚させ、全国的に改憲反対の世論のを作り上げ、改憲発議と国民投票を阻止する闘いを作り上げることは可能だ。

 なぜ私はただちに改憲国民投票に賛成しないのか。それは現在ある改憲手続き法(国民投票法)が民意をただしく反映できない重大な欠陥立法だからだ。国民投票の有料宣伝は資金・組織力の多寡によって大きな差が生じるし、公務員の憲法に関する国民投票運動に不当な差別・制限があること、国民投票運動期間が極めて短かく、有権者の熟議が保障されていないこと、国民投票の成立の条件としての最低投票率が定められていないことなどなど、多くの点で国民投票を提起する議会多数派(一般的には政府与党)に有利な制度設計なのだ。

 これはプレビシット(為政者のための人民投票)の危険がある。ナポレオンやナチスはこうやって国民投票を利用した。最近では英国のEU離脱の国民投票や、タイの軍事政権がつくった憲法草案の承認の国民投票の経験がある。これを見ないで、単純に国民投票が民意を正しく反映するなどと思ったら、大間違いだ。

 戦争法などに反対し、憲法審査会を監視し、民意を正しく反映しない「国民投票」やプレビシットに反対する運動を通じて、民主主義をいっそう根付かせ、憲法を守り、活かす民意を強化することこそ、焦眉の課題だ。(「私と憲法」8月25日号所収)

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