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【NPJ通信・連載記事】ホタルの宿る森からのメッセージ/西原 智昭

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ホタルの宿る森からのメッセージ
第64回「アフリカの野生生物の利用(9)〜日本の象牙利用」

2016年9月30日

日本の現行象牙管理制度の課題

すでに述べた(連載記事第63回)が、日本における現行の象牙管理制度には不備が多く、その改善が求められる(文献1)。たとえば、

1) 在庫の生牙から象牙製品に至るまでの各段階で、違法物が紛れ込まないように、すべて登録していく義務があるが、情報がパソコン上でデータベース化されていないため、サプライチェーンにおける透明性への信憑性が高くない。たとえば、ある文房具屋での象牙製印章が本当に合法的な象牙から作られたものがどうかを消費者は知る由がない。また、こうした透明性における欠陥は違法象牙が紛れ込んでいるかもしれないという可能性を残す。

2) 現行制度では、各小売店にて、ワシントン条約認証シール(図1)をそれぞれの象牙製品に付帯するよう、環境省・経済産業省より通達があるが、これはあくまで「推奨」であり「義務化」されていない。シールを付けることで製品の合法性を消費者に知らせるのが目的であるが、1)で述べたようにその合法性の真意を図り知ることはできない。また「推奨」であるためシールが付帯されていない製品があるばかりでなく、小売店によればシールを違法に複製し多くの象牙製品にシールをつけていたという事例もある。

3) 現行制度における生牙の登録制に厳格性はなく、その登録された象牙が違法に入手された可能性があることを否定できない。

4) インターネットにおける象牙製品の販売への規制が不十分であり、そこに違法象牙による製品が紛れ込む可能性は否定できない。

5) 日本にはマルミミゾウ由来の「ハード材」象牙への特殊な需要があるため、本来ならばそれぞれの象牙(たとえば、アジアゾウ、サバンナゾウ、マルミミゾウと分ける)に応じた在庫管理が望まれる。これにより、たとえば「ハード材」の在庫量が明確になれば特に現在でもそれへの需要が強い三味線の撥が必要な関係者(象牙彫り職人、楽器商、演奏家など)が今後の対策を立てやすくなるはずであるが、そうした管理のあり方がなく、象牙在庫全体の重量しか提示されていない。

図1:環境省・経済産業省により発効されたワシントン条約認定シール©環境省・経済産業省

図1:環境省・経済産業省により発効されたワシントン条約認定シール©環境省・経済産業省

こうした不備な点に関しては、これまで何度となく管理制度に責任を持つ環境省・経済産業省と議論を重ねてきたが、いまだ具体性を持った改善の兆しは見られない。したがって、現行制度のもと新たにワシントン条約下で新たな象牙取引を提案することは賢明ではない。明らかに、そこに違法象牙が混入される恐れがあるからである。

無論、現在アフリカでゾウの密猟が多発しているのは、象牙価格が高騰化しているためであると考えることはできる。違法象牙で潤沢なビジネスが成り立つからである。これは、日本などの象牙需要国の在庫が少なくなり、そこへの強い需要があるためだとし、それを防ぐためにも在庫象牙を合法的にアフリカから入手し象牙価格全体の逓減を目指せばゾウの密猟は減るであろうと考えることも不可能ではない。

しかしながら、これまでの日本の国内調査でも、日本の象牙管理制度やワシントン条約を理解している、あるいはそれを十全に履行している象牙関係取引者は多くなかった(文献1)。実際、腐敗や汚職は輸出国側のアフリカ諸国だけでなく、輸入国側のアジア諸国にも横行している。そのためにこそ、現行管理制度の大幅な改善と徹底的な普及、象牙取引における不正・汚職を払拭するための国際社会における強く厳格な監視体制の存在が必要不可欠である。それには、まだ相当数の年月がかかるのは確実である。むしろ、その前に野生ゾウが絶滅する可能性のほうが早いと言わざるを得ないであろう。

中国における象牙管理制度と最近の動向

中国も古くから象牙を利用していた国で、特に近年の経済発展に伴い多くの富裕層が出現し、象牙など高価なものへの需要が高まってきた。その結果、昨今では、世界での象牙需要のトップの座は日本から中国へと移行した。ただし、中国と日本における象牙需要の違いはある。第一に、中国では主に実用品ではなくアクセサリーや装飾品であること(写真256)、第二に「ハード材」など特定の素材の質に対する嗜好性はなく、ヒビが入っていたり割れたりしている象牙でも問題がないばかりか、日本では決して重宝されたことのなかったマンモスの牙の化石でも歓迎されている点である(写真257)。

写真256:中国で売られている装飾品などの象牙製品(文献2より引用)

写真256:中国で売られている装飾品などの象牙製品(文献2より引用)

写真257:中国で売られているマンモスの象牙(文献2より引用)

写真257:中国で売られているマンモスの象牙(文献2より引用)

また、中国の象牙管理制度そのものは日本のそれより優れている点もある。多くの象牙製品に対して、大きな札による説明カードが付帯されており、そこに使用された象牙の起源や登録番号、彫師の名前などすべての情報が記載されている(写真258)。また小売店によってはパソコンが設置されており、消費者は必要に応じて製品の合法性を確認することができるデータベースも完成されている。しかしながら、こうした管理制度を持ちながらいまだに違法象牙の輸入があとを絶たないのは、象牙利用の歴史も古い上、もともと人口が多い広い国土の中で象牙需要人口が多い分、象牙取扱業者も多く、厳格な管理制度が広く浸透するまでにはまだ相当の時間がかかるためであると考えられる。

写真258:中国で売られている象牙製品に付帯する情報カード[写真左下](文献2より引用)

写真258:中国で売られている象牙製品に付帯する情報カード[写真左下](文献2より引用)

しかし、その一方で中国は、ゾウの保全へ向けた国際社会との強い協調性を持った歩みも見られる。たとえば、アフリカの野生ゾウ生息国へのその保全に向けた資金や装備面でのサポートが実施され始めている。また、中国国内での象牙市場も閉鎖していく方向で検討されているばかりでなく、押収された違法象牙の一部も焼却・粉砕などにより処分され始めている。残念ながら、日本では同じ象牙需要国でありながら、こうした積極的な動きは見られていない。

文献1-T. Nishihara : Demand for forest elephant ivory in Japan. Pachyderm. 52, 55-65
文献2—CHINA FACES A CONSERVATION CHALLENGE: THE EXPANDING ELEPHANT AND MAMMOTH IVORY TRADE IN BEIJING AND SHANGHAI, LUCY VIGNE AN D ES MON D MARTIN, PUBLISHE D BY SAVE THE ELEPHANTS & THE ASPINALL FOUNDATION

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